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SPEEDI、予算大幅減へ 放射線量の予測に限界
http://www.asahi.com/articles/ASG8S7D4FG8SULBJ005.html
2014年8月25日05時35分 朝日新聞
東京電力福島第一原発事故で初期の住民避難に活用されず問題になった「SPEEDI(スピーディ)」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)について、原子力規制委員会は来年度予算を半額以下に大幅減額する方針を固めた。放射性物質の広がりを即座に予測するには技術的な限界があるため、代わりに放射線量を実測するシステムを強化する。これまでSPEEDIを前提にしてきた自治体の避難計画は見直しを迫られることになる。
単なる「風向計」 福島の原発事故時
福島の事故時、SPEEDIによる予測のもとになる原子炉などのデータが得られず、放射線量を予測できなかった。規制委は事故発生直後の住民避難の指標としてきた位置づけを2013年に改定した原子力災害対策指針で「参考情報」に格下げしており、予算の上でも明確にする。
実測システムの強化は、改定指針が周辺のモニタリングポストなどの値をもとに、原発30キロ圏内の緊急時の避難を判断する方針に転換したのを踏まえた。大量の放射性物質が放出されるおそれが生じた時点で、5キロ圏は放出の有無にかかわらず即避難。5〜30キロ圏は屋内退避を原則とし、実測値をもとに避難の必要性とタイミングを地域ごとに判断する。不確実な予測よりも迅速で的確に対応できるとの考え方が背景にある。
規制委は今年度から、実測値の情報を即時に官邸や道府県と共有するシステムの導入を始めている。避難などの判断根拠となるデータを、関係者がそれぞれの端末の画面でリアルタイムで見られるようにする。集約作業や紙でのやりとりを省き、事故時の混乱を防ぐ狙いで、国側の監視態勢や維持の費用にSPEEDIの予算を振り向ける。
自治体には、定められた避難の区域ごとに少なくとも1カ所のモニタリングポスト整備が求められる。居住地や山地の別や放射性物質の拡散傾向を踏まえ、5キロ間隔を目安にする。
SPEEDIは14年度も保守管理の事業委託費用に約5億円が充てられている。事故発生直後の予測だけでなく、事前の避難計画づくりや訓練にも使われ、福島の事故では実測値をもとに広範囲の汚染状況を推定するのにも使われた。
こうした経緯から自治体には引き続き活用を求める声もある。人件費などを圧縮することで事故時に最低限の計算はできるよう維持するが、参考情報としてどう扱うかはあいまいなままだ。自治体は実測値の扱いなど代わりの手段の詳細な検討が必要になる。(川田俊男)
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〈SPEEDI〉 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム。原発などの事故時に、原発から放出された放射性物質の量や空間放射線量、被曝(ひばく)線量などを気象条件や地形をもとにスーパーコンピューターで予測し、地図上に示す。旧日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)が開発し、原子力安全技術センターが1986年に運用を始めた。震災後、文部科学省から規制委に移管。開発や維持に2010年度までで約120億円の国費が投入された。
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単なる「風向計」 福島の原発事故時のSPEEDI
http://www.asahi.com/articles/ASG8C6F8JG8CULBJ010.html
2014年8月25日05時35分 朝日新聞
予算が大幅縮小される「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)は、原発事故時に住民避難を判断する要になるはずだった。しかし、福島第一原発事故では期待された役割を果たせなかったうえに情報も公開されず、不信や混乱を招いた。自治体にも予測に頼らない避難への備えが求められているが、態勢づくりは道半ばだ。
福島の事故当時、SPEEDIはただの「風向計」になってしまっていた。
もともとは、放射性物質が、いつどこへ、どれだけの濃さで届くかを即座に予測し、住民避難に役立てるはずだった。ところが、予測のもとになる「放出源情報」が得られなくなった。
原発からどれだけの量が出ているかを示す刻々のデータ。これを気象や地形のデータと合わせて計算するはずだったが、地震や津波で電源を失って原子炉の情報が得られず、どの部分から放射性物質が漏れているのかもわからなくなった。
SPEEDIにとって、長時間データが得られないのは想定外だった。この結果、放出源情報を1時間に1ベクレルと仮定した予測(単位量放出)を続けることになった。わかるのは風下の方向のみで、濃度の数値は示せない。こうした情報の扱いも決まっていなかった。
元原子力安全委員長の班目春樹氏は「風向きはぐるっとまわるため、単位量放出では見極めは難しかった」と言う。別の専門家は「放出源情報を把握し、予測できるという考え自体が安全神話だった」と指摘する。
こうした教訓から、原子力規制委員会が昨年改定した指針では、予測に頼らず判断することにした。重大事故が起きた段階で5キロ圏は即避難。5〜30キロ圏は屋内退避し、毎時500マイクロシーベルトになった区域ごとに数時間以内に避難する。
各自治体で進む避難計画づくりもこの指針に基づく。測定に使うモニタリングポストも、よりきめ細かく測れるよう増設する。九州電力川内原発がある鹿児島県は22カ所を67カ所にした。詳細な測定のため移動式の44台やモニタリング車1台も活用する。
ただ、5キロごとという目安はあるものの、詳しい設置基準はいまだ明確になっていない。判断にどれだけのデータがあれば十分かははっきりせず、各地の設置も途上だ。30キロ圏外については、避難や屋内退避の判断基準はなく、9月から規制委が議論を始める段階だ。
自治体にはSPEEDIに期待し、より多く判断材料を持ちたいとする意識が残る。規制委には予測精度への疑問から不要論もあるが、新たな考え方は必ずしも浸透していない。
鹿児島県の担当者は「国の考えに合わせざるをえないが、予測が全く使えないわけではない」と強調。「福島では、使う側に有効という認識がなかった。運用の仕方が悪かっただけだ」とも話す。
自治体は実測データをもとにした避難計画づくりや避難訓練などの対応を迫られる。しかし、参考情報に格下げされたSPEEDIで実測をどう補完し、いつ誰が使うかも決まっていない。北海道の担当者は「参考情報としてどう活用するのか国は早く示して欲しい」と注文する。
SPEEDIは仮の事故の予測も計算でき、自治体の避難計画づくりにも使われてきた。13年度は17道府県が計算を依頼したが、規制委は「一通り終えた」として今年度の依頼は受けていない。今後は独自の予算による計算が必要になる。(川田俊男)
■住民への伝達法が課題
事故当時、SPEEDIを生かす手立てはなかったのか。住民避難の指示にかかわった当事者に聞いた。
「初期の住民避難の設定にSPEEDIのデータは活用できない」。官房副長官として住民避難の責任者だった福山哲郎参院議員は朝日新聞の取材にこう断言した。大事故時に大量被曝(ひばく)を避けるには、SPEEDIの予測による避難区域の設定を考えるよりも、一気に同心円で設定する方が有効という考えだ。
福山氏は事故から約1年後の政府事故調査・検証委員会の聴取でも、活用の難しさをこう説明していた。
《コンピューターのソフトに数字を仮に入れ込んだもので一人ひとりの生活基盤や家や田畑や財産をほったらかして避難しろという指示を(中略)できたと私は到底思えません》
一方で、事故発生直後に設定した同心円状の避難区域から外れた福島県飯舘村などで住民の避難が遅れてしまったことを福山氏は悔やむ。もし実測データに基づいてきめ細かい避難区域を設定する仕組みが整っていれば、より早く汚染の実態に即して避難区域を設定し直せた可能性がある。
この「福山調書」の箇所を班目氏に読んでもらうと「私も同じ考えだ」と同意した。一方で、住民避難計画に生かす意義は認める。
ただ、事故発生4日後の3月15日午前には、桁違いに多い放射性物質が漏れ出した。福島の飯舘村や川俣町などがある北西方向に流れた。住民が無用な被曝をする事態を招いた。
福山氏はたとえ風向きだけの予測でも「『こっちの方向には逃げないで』という避難指示は出せたかもしれない」とも振り返った。
SPEEDIの評価は、政府と国会の両事故調でも分かれる。「SPEEDIの知見が生かされることはなかった」とした政府事故調に対し、国会事故調は「確実性が必ずしも高くない情報を公表した場合、住民の混乱を招く可能性がある」と指摘した。
福島原発事故で問題だったのは、政府の原子力災害対策本部の事務局を担う原子力安全・保安院が、福山氏ら官邸中枢の政治家に、SPEEDIの存在そのものを1週間近く知らせなかったことだ。班目氏も存在は知っていたが、福山氏らには伝えていない。
原発事故直後は渋滞や情報の交錯で避難指示が住民にうまく伝わらなかったことも福山氏らの証言で明らかになっている。SPEEDIから実測値中心にシステムを変更したとしても、情報をどう分析し住民に伝えていくのか、システムを運用する側の課題は解決されていない。(木村英昭、堀内京子)
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