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九州電力・川内原発(鹿児島県)は全国で初めて、規制委の新規制基準に合格した。立地自治体の薩摩川内市長はどう考えるか。
川内原発「避難計画は十分でない」 立地自治体の岩切秀雄・薩摩川内市長に聞く
http://toyokeizai.net/articles/-/44307
2014年08月02日 中村 稔 :東洋経済 編集局記者
九州電力の川内原子力発電所1、2号機が7月16日、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査に、全国の原発で初めて“合格“の内定を受けた。正式な合格は8月15日までのパブリックコメント(意見公募)の結果を反映した後で、規制委の審査合格はあくまで再稼働のための必要条件の一つにすぎない。
今後の最大の焦点は、地元による再稼働への同意だ。地元の範囲については、原発から30q圏内の地域を含む自治体すべてを対象にすべき、との意見もあるが、鹿児島県知事は、川内原発が立地する鹿児島県薩摩川内市の市議会と市長、そして鹿児島県の県議会と知事という、4者の承認が必要との見解を示している。
東洋経済では、立地自治体である薩摩川内市の岩切秀雄市長に川内原発再稼働に関して取材を申し込んだところ、書面での回答となった。かねてより再稼働「容認」派である岩切市長は、再稼働の必要性について、「安全性の確保を大前提としたうえで、当面の間は必要」との考えを示した。
また再稼働に対する市民の考え方について、「賛成・反対どちらの意見もあることは重々認識している」と前置きしつつも、「一昨年の市長選挙では、安全確保を前提として再稼働を容認するという私と、再稼働に反対するという候補との一騎打ちであったが、投票いただいた市民の方々の8割以上の方が私に投票していただいており、市民から付託を受けたものと考えている」とした。
一方、同市が昨年11月に策定した、原子力防災・避難計画については、「詳細な内容まで見ると、十分ではない」とし、今後の見直しが必要との考えを明らかにした。「十分ではない」という内容の中身について、改めて確認したところ、緊急避難時における要援護者(寝たきりの高齢者や障害者など)のための寝台車の確保、在宅の要援護者の避難先での対応(病院などの確保)、避難する住民や車両のスクリーニング(放射線汚染検査)の場所の設定、緊急時に使うバスの手配など、との回答が市の防災安全課長を通じてあった。
放射性物質が大量に原発外部へ放出された緊急事態時の避難計画については、同市議会や市民から、それ以外にも多くの問題点や懸念が指摘されている。
たとえば、市内各地区単位の避難経路は、有事の風向きが不明な点を考え、2ルートを設定している。が、鹿児島市を中心とした避難先の施設は、現状で地区ごとに1カ所であり、最低2カ所は必要との意見が多い。また、有事における道路の渋滞状況の想定が実効性を欠くとの指摘や、より詳細な避難時間のシミュレーションを求める意見、さらに駅やショッピングセンターなど人が多く集まる施設や企業での避難指示のあり方を見直すべき、といった要求もあった。
こうした懸念に対する解決策を含め、市民の不安を解消し、避難計画を市民に周知徹底するまでには、まだ課題が多い。岩切市長はかねて「安全性の確保が再稼働の大前提」と強調しており、地元住民の安全対策の要といえる避難計画の課題を十分に解決しないまま、再稼働の同意判断を行うことは難しいと見られる。
岩切市長に対する質問と回答は以下のとおり。
――他の原発に先駆けて、川内原子力発電所の審査書案が了承されたことを、市長としてどう受け止めているか。
審査書案に対して、外部から科学的・技術的意見を広く募集され審査書が確定するものと認識しているが、今後においても原子力規制委員会においては、厳正かつ慎重な審査・確認を行っていただき、併せて、九州電力においては、適切な対応をお願いしたい。
――川内原発ないし全国の原発の再稼働の必要性に対する考え方は。
4月11日に策定されたエネルギー基本計画に、原子力発電は「重要なベースロード電源」と位置付けられた。が、大量かつ安定的な電力供給を行える原発は、経済活動および国民生活への影響、またCO2(二酸化炭素)などの地球温暖化問題などを総合的に考慮したとき、あくまでも安全性の確保を大前提としたうえで、当面の間は必要であると考えている。
――防災・避難計画については万全と考えているか。要援護者への対応や避難経路、避難場所などについて、県内周辺住民から懸念も上がっているが、今後の対応は。
詳細な内容まで見ると、十分ではない。できるものから、順次解決していく。
――地震や津波、火山など自然災害リスクを、どう考えているか。また、原子力規制委員会に、火山の専門家が入っていないことについてはどうか。
今回策定された規制基準および各評価ガイドは、福島原発事故の教訓およびIAEA(国際原子力機関)などの国際的な基準を踏まえ、特に地震や津波、火山などの自然現象に関しては、従来の基準を強化または新設されるなど、重点が置かれたものと考えている。
なお、火山に関する影響評価ガイドに関しても、2012年にIAEAが策定した、火山に関する安全基準(SSG-21)などを基に策定されており、慎重かつ厳正な審査・評価が行われているものと考えている。
■メリットは雇用増や市財政への安定収入
――川内原発誘致以来のメリットとデメリットは。
地元経済へのメリットは、大きく、建設段階と運転開始後の2つに区分されると考えている。
建設段階では、地元事業者の建設受注に伴う雇用増などの波及効果があるほか、運転開始後は関連企業による雇用増や、原発関係者の常駐、さらに定期点検時における作業員の宿泊などに伴う経済効果がある。
また、立地自治体の財政面では、運転開始後、固定資産税を徴しているほか、建設時点から電源交付金(電源立地地域対策交付金)を受けており、これらを活用して、不十分だった公共施設などの整備を推進できたこと、また安定的な収入として、市の財政運営にも寄与しているなどのメリットはあると考えている。
一方、原発立地に伴う地域経済面でのデメリットは、それほど大きなものではないと考えている。
なお、立地自治体としての行政対応の面では、原発事故に対する不安やその危険性に関する市民などの意見に対し、適切に対応しており、ていねいな取り扱いは今後とも必要なことと考えている。
(編集部注:川内原発は1号機が1979年1月に建設開始、1984年7月に運転開始。2号機が1981年5月に建設開始、1985年11月に運転開始した。建設費は2基合計で約5000億円。2013年3月末現在の社員は288人で、協力会社が約1070人。また、薩摩川内市の2013年度予算では、国と県からの電源交付金を約12.3億円、使用済み核燃料税を3.9億円計上している。電源交付金の累計額は250億円を上回り、九州電力が同市に納めた固定資産税は、累計500億円を超す)
――地元住民の再稼働に対する考え方をどう見ているか。
市民の中には、再稼働について、賛成・反対、どちらの意見もあることは重々認識している。
しかし、一昨年の市長選挙は、安全確保を前提として再稼働を容認するという私と、再稼働に反対するという候補との一騎打ちであったが、その結果、投票いただいた市民の方々の8割以上の方が私に投票していただいており、市民から付託を受けたものと考えている。
(編集部注:2012年11月の市長選では、無所属現職で民主・自民・公明・国民新の各党が推薦する岩切秀雄氏と、原発即時廃止を唱える無所属新人で共産党が推薦する山口陽規氏との一騎打ちとなった。結果は岩切氏が4万4816票を獲得、9978票だった山口氏を大差で下して再選を果たした。投票率は70.31%だった)
■国や規制は市民に対して説明を
――住民説明会など、地元同意までの今後の課題と規制委、国に対する要望は。
再稼働の判断については、規制委から市民に対し、福島原発事故の教訓などを踏まえ、どのような基準を策定され、その基準に対し、川内原発はどうであったかを説明いただいたうえで、議会の意見などを踏まえ判断したいと考えている。
したがって、規制委に対しては、市民に対し、わかりやすい説明を行っていただくこと、および国に対しては、4月に閣議決定されたエネルギー基本計画に関し、国民に対する十分な説明など、国民理解を得る取り組みをお願いする。とともに、同計画で再稼働に関し示された「立地自治体等関係者の協力と理解を得るよう、取り組む」とは、具体的にどのようなアクションを起こされるのか、示していただきたい。
――川内原発には3号機の増設計画があり、市長として同意することを2010年に議会で表明したが、計画がストップしている現在の状況をどう考えているか。引き続き、増設を推進する立場か。
4月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、「原子力は安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源と位置付け、政策的には既存原発の徹底した安全性の確保を目指し、規制基準に適合すると認められた場合は再稼働を認めること」、また「原発依存度については、可能な限り低減させるとの方針の下、安定供給等の観点から確保していく規模を見極める」としており、新増設に関する国の考えは明確に示されていない、と認識している。
このような現状において、原子力政策は国の責任において進められるものと考えている。
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