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7月16日の記者会見で規制委の田中委員長は「大きな山を越えた」と語った(撮影:今井康一)
川内原発"初合格"でも置き去りの課題と懸念 これで安全が保証されたわけではない
http://toyokeizai.net/articles/-/43326
2014年07月26日 中村 稔 :東洋経済 編集局記者
“大きな山”を越えた後には、何が待ち受けているのか──。
原子力規制委員会は7月16日、九州電力の川内(せんだい)原子力発電所1、2号機が新規制基準に適合していると認め、事実上の合格証に当たる審査書案を了承した。
規制委は昨年7月に新規制基準が導入されて以来、12原発19基の審査を行ってきたが、審査書案の作成は初めてだ。規制委の田中俊一委員長は会見で、「川内原発にとっても、最初の審査書案がまとまったという意味でも、大きな山を越えた」と語った。
再稼働までになお必要な手続きが残るが、川内原発が新基準導入後、最初の再稼働となるのはほぼ確実。ただ、時期は流動的だ。
■再稼働のタイミング
新基準導入後、最初の再稼働となりそうな川内原発
今後の手続きとしては、7月17日から30日間、一般から科学的・技術的意見(パブリックコメント)が募集され、それを踏まえて正式な審査書が8月中にもまとめられる。
その後、規制委は、審査結果について地元へ説明に行く。説明会は、立地自治体の鹿児島県薩摩川内市をはじめ5カ所程度で開催されるが、日程は未定。別途、安倍晋三内閣も地元に赴き、再稼働に理解を求める。それらを踏まえ、同市と県の首長、議会が審査書に同意するか判断する。両首長は再稼働に前向きだ。
この地元同意手続きと並行して、工事計画どおりに機器が整備されているかを調べる「使用前検査」が行われる。初めて設置される機器もあるため、検査には最低1カ月はかかる見込み。
「不具合が見つかれば、工事をやり直す可能性があり、数カ月以上かかる場合もある」(原子力規制庁の担当者)。早ければ10月ごろの再稼働となるが、年をまたぐ可能性も十分ある。
日程以上に重要なのは、審査合格で原発の安全性がどれだけ高まるかだ。田中委員長は「川内原発で格納容器が破損するような重大事故が発生しても、放射性物質による環境の汚染は福島第一原発事故時の100分の1を下回る」と、審査により安全性が大幅に向上する効果を強調した。
が、規制委の審査は、あくまで新規制基準への適合性審査。田中委員長が念を押すように、「安全を保証するものではない」。菅義偉官房長官は「規制委が安全と認めた原発は再稼働させる」と言うが、規制委の真意とは異なる。
では、これで周辺住民は安心して暮らせるのか。その問いに田中委員長はこう答える。「安心だと言えば、(規制委として)自己否定になる。われわれは最善を尽くしてリスクを低減する基準を作り審査してきた。これをどう受け止めるかは地元の判断だ」。
その地元で特に懸念が強いのが、半径160キロメートル圏内にある五つのカルデラの噴火による火砕流や火山灰の影響だ。規制委は、川内原発に影響を及ぼすような破局的噴火の可能性は低く、監視強化で前兆把握も可能との立場だ。
だが、たとえ予知できても短期での核燃料搬出は困難、という見方もある。地元・鹿児島大学の井村隆介准教授は、「規制委の委員5人の中に火山の専門家が一人もいない。活断層などと比べ、議論も足りない。科学的にきっちり調べる必要がある」と語る。
■地元で反対署名拡大
また、原発30キロメートル圏内の自治体に求められる、重大事故時の住民避難計画にも不安が根強い。全域が同圏内に入る鹿児島県いちき串木野市では、実効性のある避難計画がない中での再稼働に反対する緊急署名が、全人口の半数を超えた。同市議会は、要援護者の避難対策拡充や、風向きを考慮した複数の避難所設置などを、県に求める意見書を可決した。今後、こうした動きが広がる可能性もある。
そもそも防災・避難計画は規制委の審査の対象外。地元自治体に対して策定の助言はするものの、妥当性を判断するのは地元自身である。しかも、その重要性は大きい。
16日の規制委で大島賢三委員は、原発の安全確保を3輪車に例えた。「前輪が規制基準、そして後輪が事業者の安全文化と防災・避難計画。これらがしっかり機能することが必要だ」と強調した。福島事故においては、その三つすべてが欠陥を露呈し、被害を拡大させた。
残された課題はまだある。原発事故のリスクを定量化できておらず、リスク負担の仕組みもあいまいなままだ。
■課題は先送り
原子力損害賠償法では、原発事故の一義的責任は電力会社にあり、無限責任を負う。だが、福島事故では、東京電力の株主や債権者は法的な責任を取っていない。一方で、国が実質的に東電へ過半出資し、賠償資金を立て替えて支援している。廃炉・汚染水処理や除染にも兆円単位の国費が投入されつつある。
もし川内原発で福島のような事故が起きた場合、九州電力に損害を負担する力はない。とどのつまり、負担するのは国民である。
問題は、国民が最終的なリスクの受け皿になることを、了承しているかだ。福島事故を経て、本来ならあらためて民意を問う必要があるが、今も先送りされている。
政府・自民党の原子力政策も玉虫色のままだ。2012年12月の衆議院選で、原発ゼロを掲げた民主党が政権を自民党に譲った。自民党は「原発依存度をできるだけ下げる」としてきたが、どの程度下げるかは今年3月に閣議決定したエネルギー基本計画でも明らかにしていない。先送りという意味では、放射性廃棄物の最終処分場選定も同じだ。
福島事故を受け、ドイツやスイスは脱原発へ舵を切り、イタリアは原発ゼロ堅持を決めた。が、当事国の日本は原発事故責任の所在も原発政策の方向性もうやむやにしたまま、再稼働へと大きく一歩を踏み出そうとしている。
(「週刊東洋経済」2014年7月26日号<7月22日発売>掲載の「核心リポート02」を転載)
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