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原子力規制委の決定を受けて国会周辺で「川内原発再稼働反対」の声が飛び交った photo Getty Images
原発再稼働は止めたほうがよいーー福井地裁の大飯原発運転差し止め判決文に原発問題の核心はすべて書いてある
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39901
2014年07月18日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
原子力規制委員会が九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県)について「新たな規制基準を満たしている」と認めた。これで再稼働に向けた前提条件が整った形になり、安倍晋三政権は秋以降にも再稼働させる見通しだ。この問題をどう考えるか。
■「再稼働決定」に関する新聞報道は隔靴掻痒である
各紙の報道をみると、脱原発派の朝日新聞は「責任あいまいなまま」「避難計画 審査の対象外」との見出しで批判的に報じ、同じく東京新聞も「『厳格審査』に穴」があるとして「作業員拠点、ベント、第2制御室」の3つが「未完成」と見出しで問題点を指摘した。
一方、原発賛成派の読売新聞は「秋に再稼働 準備本格化」「安全『世界最高レベル』規制委委員長」と安全性を強調し、産経新聞も「川内原発 秋にも再稼働」「規制委 安全新基準に『合格』」と旗を振っている(いずれも7月17日付朝刊1面)。
私は原発を止めたほうがいいと思っている。だから朝日や東京にシンパシーを抱くが、それでも報道ぶりには隔靴掻痒の感を拭えなかった。集団的自衛権の問題でも指摘したが(6月27日付け公開コラム)、今回も記事は基本的に原子力規制委が展開した議論の枠組みにとらわれていて、原発がもつ本質的な恐ろしさや矛盾に迫っていなかったように感じるのだ。
こう書くと、朝日も東京も「いや、たとえば規制委が視野に入れていない住民避難の問題だって、ちゃんと指摘している」と反論するだろう。それはその通りだ。万が一の場合、住民をどう避難させるかが重要課題だが、規制委は「それは自分たちの仕事ではない」といって手を付けていない。
政府はどうかといえば、政府もそれは「自治体の仕事」といって知らん顔している。だから、そういう抜け落ちた問題を指摘するのは、大事なマスコミの仕事である。それでも、あえて言おう。では、住民避難の問題がクリアできれば、原発再稼働を認めるのか。私は「そうではない」と考える。
■大飯原発運転差し止めの福井地裁判決こそ原発問題の核心
原発の根本的な矛盾や恐ろしさは、住民避難の難しさのような派生的ポイントにあるのではない。もっと別な次元だ。
それはつい2ヵ月前、福井地裁で下された福井県の大飯原発運転差し止め請求事件判決によく述べられている。
・判決文の読みやすい要旨 http://www.news-pj.net/diary/1001
・判決文原本の前半部分 http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/e3ebefe20517ee37fc0628ed32be1df5.pdf
・判決文原本の後半部分 http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/8d7265da36628587548e25d7db234b7d.pdf
この判決について、新聞は大々的に報じていたはずだ。だが今回は朝日と東京が社説でごく短く触れたくらいで、報道記事ではほとんど紹介されなかった。今回はニュースの焦点が規制委の判断にあったから、2ヵ月前の地裁判決に触れる必要はない、と考えたかもしれない。
それは記者の習い性のようなものだ。とにかく一番新しい出来事にワーッと集中して報じてしまうのである。だが、読者のほうは2ヵ月前であっても、再稼働に関わる物事の本質を知りたいと思っているのではないか。少なくとも一読者である、私はそうだ。
そこで、あらためて福井判決の中身を紹介したい。判決は本文だけで68ページ、加えて参考の別紙が付いている。私は2ヵ月前は新聞記事を読んだだけで、判決文までは目を通していなかった。今回、全文をあらためて読んでみて、頭の中がスッキリした。
あれこれ論評するより、とにかく現物を読んでいただくのが手っ取り早いだろう。ここに原発問題の核心がある。以下はごく短い要約にすぎないが、関心がある読者はぜひ、上に挙げた判決本文を読んでいただきたい。これさえ読めば、あとは何も読む必要がない、と思えるほど核心を突いた判決である。
■原発問題の核心ーー大飯原発差し止め福井判決より@
「主文:被告(関西電力)は原告(周辺住民166人)に対する関係で、大飯原発3、4号機を動かしてはならない」
「人格権は憲法上の権利(13条、25条)であり、人格権の根幹部分に具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差し止めを請求できる。侵害形態が多数の人格権を同時に侵害するとき、差し止めの要請が強く働くのは当然である」
「福島原発事故で原子力委員会委員長は原発から250キロ圏内の住民避難の可能性を検討した。チェルノブイリ事故も同様で、この数字を過大と判断することはできない」
「原発稼働は電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するもので、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれる」「原発の危険性の本質、もたらす被害の大きさは福島事故で十分に明らかになった。本件訴訟はかような事態を招く具体的危険性が万が一にもあるのか、が判断の対象」
「原発の安全性をめぐる問題のいくつかを電力会社の自主的判断に委ねたとしても裁判所の判断が及ぶ。新規制基準の対象になる事項も審査の適否の観点からではなく、(人格権の理に基づく)裁判所の判断が及ぶ」
「止める、冷やす、閉じ込めるの3つがそろって初めて原発の安全が保たれるが、本件原発は冷やすと閉じ込めるに欠陥がある」
「1260ガルを超える地震が起きた場合には、打つべき有効な手段がほとんどないと被告が自認している」「地震学会はこのような地震を一度も予知できていない」「大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの想定は不可能。到来する危険がある」
「被告は700ガルを超える(だが1260ガルに至らない)地震が来た場合、事象と対応策のイベントツリーを想定しているが、事象が重なって起きるから想定事態が困難。夜間も昼間も同じ確率で起きる。所長が不在か否かが大きな意味をもつ」
「福島事故でも地震がいかなる箇所にどのような損傷をもたらしたか、確定できていない。事故のときに確定できたとしても、電源喪失から炉心損傷開始まで5時間余、それからメルトダウン開始まで2時間もない。たとえば、非常用発電装置で実際に原子炉を冷却できるかどうかをテストするというようなことは、危険すぎてできようはずがない」
「複数の設備が同時に使えなくなったり故障するのは、機械の性質上、当然考えられる。設備が複数あることは、地震の際の安全性を高めるものではない。大飯原発に通じる道路は限られていて、外部からの支援も期待できない」
■原発問題の核心ーー大飯原発差し止め福井判決よりA
「被告は700ガルを超える地震はまず考えられないというが、現に想定以上の地震が10年足らずの間に4つの原発で5回も起きた。安全余裕があるから危険はないというが、不確定要素が比較的安定していた場合を意味するにすぎない」
「被告は主給水ポンプは安全上重要な設備でないから耐震安全性を確認していないというが、主給水ポンプは主給水を供給するのが役割。それを安全上重要な設備でないというのは理解に苦しむ主張だ」
「地震大国日本で基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは、あまりにも楽観的と言わざるをえない」
「使用済み核燃料は1000本以上プールにあるが(プールを守る)原子炉格納容器のような堅固な設備はない。福島事故では、4号機の使用済み核燃料プールからの放射線汚染が東京都のほぼ全域や横浜市の一部まで250キロ以遠に及ぶ可能性があった」
「福島事故で核燃料プールが破断を免れ、がれきがなだれ込むなどによって使用済み核燃料が大きく損傷しなかったのは誠に幸運と言うしかない。使用済み核燃料を閉じ込める設備は膨大な費用を要するのに加え、深刻な事故はめったに起きないだろう、という見通しの下に対応が成り立っている」
「本件原発の安全技術や設備は万全ではないのではないか、という疑いが残るというのにとどまらず、むしろ確たる根拠のない楽観的見通しのもとに初めて成り立つ脆弱なものと言わざるをえない」
「被告は原発稼働で電力供給の安定性、コストの低減につながるというが、きわめて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題を並べて議論したり、議論の当否を判断すること自体、法的には許されない」
「コスト問題に関して国富の流出や喪失の議論があるが、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることこそが国富の喪失であると、当裁判所は考える」
「被告は原発稼働がCO2の削減に資するもので環境面で優れていると主張するが、福島事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であり、環境問題を原発運転継続の根拠にするのは、はなはだしい筋違いである」
「以上、250キロ圏内に居住する原告は原発の運転によって直接、人格権が侵害される具体的な危険があると認められるから、原告の請求を認容すべきである」
以上である。
いずれ川内原発が再稼働されれば、大飯原発と同じように司法の場でも判断が下されることになるのではないか。原発問題を考えるときは、この判決の論理と結論に遡って考えてみるべきだ。
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