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日本の原発議論に再び忍び寄る「安全神話」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41230
2014.07.15 Financial Times
「安全神話」が再び日本の原発論争に紛れ込もうとしているのだろうか?
福島第一原子力発電所で2011年にメルトダウン(炉心溶融)が起きた後、日本の評論家たちは一斉に原発の安全神話は崩壊したと断言した。この言葉は多くの人にとって、一般的に原発を非難する手段以上の意味を持っていた。大災害を招いた具体的な故障原因を説明し、責任を割り当てようとする試みだったのだ。
リスクを隠して国民に原発を売り込んだ「安全神話」
安全神話という考えは、馬鹿らしいほど単純な謳い文句で原発が日本国民に売り込まれたことと、その結果生まれた原発規制のあり方を象徴するようになった。1960年代に日本の指導者らは、広島や長崎の惨禍をまだ鮮明に覚えていた国民に原子力技術を売り込んだ際、原発のリスクを取り繕った。民生用原子力はただ安全なだけでなく、絶対に安全だと彼らは言った。
もちろん、こうした指導者たちは、もっと分かっていた。だが、絶対的な保証は、エネルギー資源に乏しい国で強力な政治的、経済的インセンティブとなる原発利用に沿うよう国民心理を変える唯一の方法だったのだ。
この戦略は奏功した。日本は商用原子炉を54基建設し、福島の原発事故の前には、さらに多くの原発建設を計画していた。しかし、このアプローチは原子炉の安全強化につながらず、むしろ安全性を損なわせたと言える。安全神話を維持する必要性から、電力会社と政府は安全基準は改善できるとの指摘を一蹴した。結局、何かを改善するということは、以前は完璧ではなかったと認めることを意味するからだ。
原発事故後のある調査報告書が結論付けたように、責任を負う立場にあった人たちは「炉心溶融のようなシビアアクシデント(苛酷事故)は決して起きないという安全神話にとりつかれ、危機が眼前で発生し得るという現実に備えていなかった」。
新旧政府による稼働再開に向けた取り組みにもかかわらず、現在、現存する原発はすべて稼働停止状態が続いている。安倍晋三首相は、福島の事故以来、原発推進に最も熱心な首相であり、最も高い支持率を誇る首相でもある。だが、大半の国民は原発に懐疑的なままだ。
原子力規制委員会は今週、1年前に安全基準が強化されて以降初めて、新基準に適合する原発を認定する見通しだ。これにより、早ければ今秋にも原子力発電が再開される可能性がある。
安倍首相はかつて、福島のような事故は「起こり得ない」と語ったことがある。現在はそれより慎重になり、日本を事故のリスクがない空想的な国ではなく、原発の安全性で世界に冠たる国にすると語っている。だが、原発を巡る議論は一部の人が望んだほどには変わっていない。
原発の安全性に議論が集中することの弊害
近く新基準に適合したと判断される見通しの原発が立地する鹿児島県の知事は、中央政府が「安全を保証する」場合に限って、再稼働を支持すると語っている。今年5月には、福井県の裁判所が、原発を再稼働するリスクがゼロであると証明する手立てがない――これは根本的に不可能なこと――との理由で、別の原発の再稼働を差し止めた(この判決は抗告審で覆された)。
安倍首相は痺れを切らしつつあるようで、原子力規制委員会に名を連ねる慎重な地震学者の島崎邦彦氏を、より原発に前向きとされる別の地震学者に交代させた。この人事は政治の介入のように見え、広報的にはひどいが、島崎氏の見解は決して専門家にあまねく受け入れられているわけではなかった。
確かに、政府と電力会社には、原発のリスクを無視できるほど小さくする責任があるし、福島の原発事故から学ぶ教訓はたくさんある。しかし、その教訓の1つは、絶対に安全だという約束は幻想であり、かつ危険だという教えだったはずだ。
原発の安全性のみに焦点を絞った議論は、日本が今、以前よりはるかに大量に燃やしている化石燃料がもたらす相対的な被害といった他の重要な懸案事項を省略している。そして、もし原発推進派が勝利し、安全神話に基づいて原発が再稼働されれば、潜在的にさらに大きな害が生じる恐れがある。福島事故以前の慢心が再び広がることが、それだ。
By Jonathan Soble in Tokyo
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