15. 2014年9月26日 05:41:50
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ロボット掃除機に「萌える」人が増殖中 「弱いロボット」から学べ 2014年09月26日(Fri) 藤 和彦 総務省が敬老の日(9月15日)に合わせて高齢者人口の推計を発表した。 65歳以上の高齢者は前年比111万人増の3296万人で、総人口に占める割合は0.9%増の25.9%。いずれも過去最高を更新した。 年代別では、75歳以上が前年比31万人増の1590万人で、総人口に占める割合は12.5%。初めて8人に1人が75歳以上ということになる。また80歳以上は964万人で、来年には80歳以上の高齢者だけで1000万人の大台を突破すると予想されている。 一方、産業界の人手不足は深刻だ。人材確保に躍起になる企業は非正規社員から正社員への転換を進めるとともに、障害者の採用も拡大している。25歳から44歳までの女性、いわゆる「子育て世代」の労働力率は7月末に74.2%となり、過去最高を記録した。 スウェーデンで話題のロボットドラマ 「労働人口が減る中で、ロボットが活躍する分野は確実に増える」 こう唱えるのは、産業用ロボット大手、安川電機の津田純嗣会長だ。人手不足が広がっている介護や物流、食品製造などの分野でロボット導入の動きが広がると予測する。 ロボットとの共生が現実味を帯びてきている昨今、スウェーデンで人間型ロボットを扱ったテレビドラマが放送され、話題を呼んでいる。 舞台は近未来のスウェーデンだ。人間(human)型ロボット(robot)なので「hubot」と名付けられた自律型ロボットが、人間の生活の様々な場面に浸透している。「倉庫内の物流をひたすらこなす」「家事労働をする」「老人と生活を共にし、介護をしたり趣味を一緒に楽しむ」など、hubotは次第に人間の仕事を代替していく。 ここで特徴的なのは、機械だと分かっていても、表情・動作・話し方が人間を真似て精巧に作られているので、日々の生活で接するうちに、少なからぬ人々がhubotに感情移入してしまうところだ。他方、hubotにより人間が次第に追いやられ、最終的にはhubotと人間との関係が逆転してしまうことに不安を覚える人たちがいる。彼らは「アンチhubot」の政党を立ち上げ、社会運動を展開するようになる。 ドラマが作られたきっかけは、脚本家が、日本で作られた人間そっくりのロボットを見たことだという。このようなロボットが社会の隅々にまで浸透したとき、人間の生活や考え方にどのような変化をもたらすのだろうか。 ロボット掃除機に絆創膏 「人間とロボットが一緒に生活する時代は、まだしばらく来ないだろう」というのが一般的な認識だと思う。だが、ロボット掃除機の国内市場はここ数年、急成長している。 ロボット掃除機の国内販売台数は2010年には26万台だったが、2012年に38万台に増加、2014年は55万台、2018年には90万台に膨らむ見込みだ。火を点けたのは米アイロボットの「ルンバ」。累計販売台数が100万台を超え、約70%のシェアを持つとされる。 ロボット掃除機の需要が高まる中、次のような「珍現象」が起きている。 ・テレビや洗濯機などの一般の家電製品が壊れて修理に出す際、「壊れると困る」「なんで壊れるんだ」など苦情を言われるのに、ロボット掃除機はそういう苦情はなく、「直してあげて」と依頼されることが多い。 ・製品が壊れて直せないとき、他の家電製品では代替の上位機種と交換してあげると喜ばれるのに、ロボット掃除機については「交換しなくてもいい。この機種でいい」と言われることが多い。ロボット掃除機に絆創膏が貼られたりすることもある。 ロボット掃除機にユーザーの“情”が移っている光景が目に浮かぶ。私たちがロボットに感情移入するのは、顔かたちが人間に近い場合だけではないようだ。その謎を解明するため、ロボット掃除機の実際の掃除場面を見てみよう。 ロボット掃除機の真ん中にある電源ボタンを押すと、プー、プーという軽快な電子音とともに、クーンと少し高いモーター音を立てながら動き出し、壁や椅子、テーブルの脚などに何度もぶつかりながら、進行方向を小刻みに変えていく。コツンコツンと部屋の隙間にその「身体」を小さくぶつけているかと思うと、なにを思ってかふと方向転換をして、部屋の反対側に移動してみたりする。そんなたわいもない動きに目を奪われ、しばらくその様子を追いかけてしまう。 この気ままな掃除ぶりは決して効率的なものとは言えない。同じところを行ったり来たりと、無駄な往復も多い。掃除し切れていないところもあるに違いない。小一時間ほど走り回ると、ロボット掃除機はまるで疲れたように自分の充電基地へと舞い戻っていく。このとき少し速度を落として小さく腰を振るのだが、その所作がかわいらしく、健気である。 完璧にこなさないところが魅力? 「目の前で動き回る健気なお掃除ロボットに『してやられた感』を覚える」との感想を語るのは、岡田美智男 豊橋技術科学大学情報・知能工学系教授だ。ロボット掃除機の内部に集められたホコリや塵の量を見て、思わず「よく頑張ったね」と労いの言葉をかけてしまう。ロボット掃除機との同居を始めてみると、部屋の隅のケーブル類を巻き込んでギブアップしないように、もしくは椅子と壁との袋小路に入り込んでしまわないようにと、いろいろと気を使ってしまい、「これでは主客転倒だ」と思いつつも、これはこれで許せてしまうのだという。 ロボット掃除機は、自分ですべてを完璧にこなすのではなく、少し力を抜くようにして、半ば周囲に委ねている。人間もロボット掃除機に手を焼きつつ、それに半ば支えられるように、一緒に部屋をきれいにすることを楽しんでいる(人間には、ロボットを世話したり、関わり合いたい、という欲求があるようだ)。 人間を味方につけながら部屋をきれいにすることを実現してしまうのだが、こうした他力本願とも言える姿勢はなぜか微笑ましく、自分だけで解決することにこだわったやり方に比べるとスマートにも思える。 科学技術の粋を集めて作られた高度なシステムは、便利さを追求するあまり、それと関わる人間を受動的な存在へと落とし込んでしまうことが多い。しかし、ロボット掃除機は人間に参加の余地を与えてくれただけでなく、その不完全さが人間としての能力や優しさを上手に引き出しているように見える。 「ケアされる」ロボットから「ケアさせてあげる」ロボットへ ロボット掃除機を設計した人たちにとって、このような共生的な関係は想定外だったに違いない。だが、これからの人間とロボットとの共生的な関わりを考えていく上で、見逃せない着眼点ではないだろうか。 英ダイソンは9月4日、「2015年春にロボット掃除機を世界に先駆けて日本で発売する」と発表した。同社の掃除機の特徴であるサイクロン式を採用して他のどのロボット掃除機より高い吸収力を実現するとともに、上部のカメラで周囲の状況を把握し、無駄のない軌道で動き回って掃除するという。これにより、独走状態にあるルンバに真っ向勝負を挑む。 果たしてダイソンの新しい掃除機は、思惑通りの成功を収められるだろうか。機能や役割を作り込みすぎると、そのシステムとの関わりは窮屈なものになりやすい。そのため、オリジナルな関係や役割を生み出す余地が少なくなり、その関係は成熟していきにくい。これが、高機能を謳った情報機器の寿命がそれほど長くない理由である。 ロボット掃除機と人間との間に生まれた関係をヒントにして、岡田氏は「弱いロボット(1人では十分に能力が発揮できないロボット)」というコンセプトを打ち出した。 目指すところは「いつも他者を予定しつつ他者から予定されるロボット」であり、他者との間で1つのシステムを作りながら行為を実現していく「関係論的なロボット」である。 ロボット研究は、ロボットのカタチをデザインすることから、ロボットと周囲との関わりから立ち現れる意味や機能に着目するという段階へと移行しつつあるが、なにげない日常を逆照射するロボットが、社会における「相互に支えつつ支えられる関係」の重要性を浮かび上がらせている。 独り暮らしの高齢者にとって、日々面倒を見ている犬や猫などのペットや草花は、自分たちの生きがいを見いだすためにとても大切なものである。「手がかかる子供ほどかわいい」とよく言われるのは、子供の存在により自分の存在が価値づけられるからだ。 「弱さ」の象徴とも言うべき赤ちゃんだが、研究の進展により、生まれて早い時期から他者との積極的なコミュニケーションを行うとともに、助けを求めてきた大人に対する援助行動(指さして場所を教えたりする)が見られることが分かってきている。さらに、2014年9月の九州大学研究チームの発表によれば、赤ちゃんには大人からのアプローチがなくても他者に自分の知っていることを伝えようとする「教える」という行為が存在することが判明したという。これは、「役に立ち、認められたい」という人間の欲求が根源的なものであることの証左と言えよう。 「弱さ」は力になる 私たちは、「自分が意味ある存在として社会の中に位置づけられている」という実感がないと、生きる希望を失ってしまう。一方、他人とともに暮らすことは大きな困難を伴う。 「自己責任」や「自助努力」という価値観に毒されている私たちは、「誰の助けも借りずに1人で動き回れる」自律的なロボット(hubot)のように、自らが課した目的に従い、窮屈な生活を送っている。 「自分自身の弱さを自覚しつつ、いかに他との関係性を志向できるか」という発想の大切さや、何か共通の目的(例えば、部屋をきれいにする)を持つことが人と人の関係を作る上での基本であることをすっかり忘れてしまった感が強い。このことをロボット掃除機(弱いロボット)に教えられるとは何とも皮肉な話である。 超高齢社会を円滑に運営するためには、「弱さを受け入れた上で、これを積極的に生かせば、その弱さを『力』に変えられる」という発想の転換が、成功の鍵を握っているのではないだろうか。 (参考文献) ・『ロボットの悲しみ コミュニケーションをめぐる人とロボットの生態学』(岡田美智男他著、新曜社) ・『弱いロボット』(岡田美智男著、医学書院) 【もっと知りたい】関連記事 ・「老いてはロボットに従え」(藤 和彦) ・「技術の新たな役割:ロボットの台頭」(The Economist) |