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大前研一:東電が全国電力小売りや海外投資、大義が立つのか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140611-00000003-fukkou-bus_all
nikkei BPnet 6月11日(水)8時58分配信
東京電力が全国での電力小売りや海外発電などで攻勢に転じようとている。資本構成上は“国営”企業となった東電にとって、それらのビジネスは適切なものなのだろうか。東電の優先順位は何なのか、ここで問うてみたい。
■全国で電力小売り、海外で発電事業拡大も
東電は5月22日、今年10月から全国で電力の小売りを開始すると発表した。関東に本社があり全国各地に工場や店舗を持つ企業などと一括して法人契約を結び、地元の大手電力より安い価格で電力を販売する計画だという。
その一方で、東電は海外での発電事業も拡大しようとしている。福島第一原発事故以来、東電は海外投資を中断していたが、それが再開されることになった。日本経済新聞5月30日付によると、東電は丸紅と組んで、フィリピンに石炭火力発電所を新設する計画だという。
2006年にも東電は丸紅と組んで、フィリピンの三つの発電所を買収している。今回の新規発電所は、1000億円をかけて2017年の稼働を目指している。
ここで「東京電力の海外発電事業の業績」をご覧いただきたい。
■「こんなことやっていいのか」が素直な感想
東電の海外発電事業はほぼ右肩上がりの成長を続けてきた。2010〜11年は減益となったが、2014年3月期には218億円の純利益を上げている。好調の海外事業について、東電は一日も早く投資を再開したかったというわけだ。
福島第一原発事故以降、東電は原子力損害賠償法(原賠法)で救済されている事実上の“国営”企業だ。そのため、東電はしばらく新規ビジネスなどを自重し、世論を刺激しないようにおとなしく行動してきた。
私は従来から東電を(日本航空と同じく)会社更生法で破綻させ、福島第一原発の処理をやる「償い会社(A会社)」と首都圏に電力を供給するB会社とに分けるべきだと主張してきた。前者を原賠法で存続させ、後者は株式会社として再生する、というものである。
首都圏のユーザーにとっては、この二つをはっきり分けてやってもらわないと、事後処理に引きずられて、電力を安く安定的に供給するという電力会社の本来の使命に支障が出る可能性が高い。現に東日本大震災(3.11)以降、東電の電力料金の値上がり率は9電力(沖縄電力を除く)の中では最高で、首都圏のユーザーが「償い」の一部を負担させられていることが分かる。
■法人にだけ全国規模で「安く売る」のは問題ではないか
しかし今春、JFEホールディングス相談役の数土(すど)文夫氏が東電会長に就任すると、新たな事業を打ち出すようになり、様相が一変した。今回発表された全国での電力小売りも数土路線の一つである。
ただ、この全国での電力小売りについては、「こんなことやっていいのだろうか」というのが私の正直な感想である。首都圏のユーザーに高い価格で電力を売りつけながら、法人には全国規模で「安い電力を供給する」というのは独占企業体として問題があるのではないか、というのがその論点である。
東電は全国で電力小売りを始める一方で、電力調達については、原発停止などで十分な供給力がないため、中部電力や東京ガス、大阪ガスといったところから集めるつもりだという。具体的には全額出資子会社の新電力「テプコカスタマーサービス」を通して、中部電力など他の大手電力から安い電力を買い取り、転売する。
これは柏崎刈羽原発の再開のめどが立たない現状では悪い選択肢ではない。供給側の不安を取り除くのはB会社にとっては責務だからだ。銀行借り入れもままならない東電にとっては、他人の資本で発電してもらい、それを仕入れる、というのは賢明な選択であると言える。
発電は自由化されてきたが、配電の部分については依然として東電など9電力の独占状態が続いている。東電は発電については第三者に任せて、独占状態にある配電で大きく儲けようとしている。
「他人のふんどし」で調達するまでは「賢明」と言えるが、それを特定法人にだけ全国ベースで安い電気を売る、という点が引っかかるのだ。要するに、安い電力を調達できるなら、まず首都圏の顧客に安く売るのが筋だろう、と言いたい。
■賠償・廃炉と電力事業のあり方は別問題だ
依然として全国の3割の発電能力を占める東電が、巨大な配電網を使った事業で攻勢に転じている。いまだに“国営”企業である東電が、安易にそうしたビジネスを始めることに疑問を感じざるを得ない。
5月31日付の日本経済新聞によれば、全国小売り参入の理由について数土会長は、「賠償や廃炉の資金を稼ぐため、全国での販売に打って出る」と述べている。もっともらしい理由だが、賠償・廃炉と電力事業のあり方は、まったく別の問題だ。
これは東電の問題というよりは政府の問題で、賠償・廃炉のためにはA会社を分離して、そちらは国の責任で運営すべきである。B会社のユーザーに負担させたり、副業で海外事業や全国ベースの小売り事業で稼いだカネでA会社の責務である「償いをする」というのは筋違いだ。なんなら海外事業や法人への全国ベースの供給はA会社に移し、原賠法と併用して償い資金を稼いでもらってもいい。
ひたすら国民に頭を下げるのは“謝罪専門”の広瀬直己社長に任せ、数土会長のもと、東電は攻撃姿勢を見せている。数土会長の就任で東電カラーは大きく変わったが、外部から低コストの供給が受けられるなら、首都圏の既存顧客の料金を下げるために使うという原則を確認すべきだ。また、供給不安を取り除くために調達を多様化するという戦略も賢明ではあるが、それを売って儲けたカネで廃炉や賠償をする、というのは筋違いもはなはだしい。
■長期電源喪失の対策を怠ってきた日本
私は福島第一原発事故に関しては詳しい分析を本連載でも、あるいはYouTubeの動画などでも公開してきている。報告を読んでもらえば、事故は「想定外の津波」で起こったのではなく、当然起こりうる交流電源の長期にわたる喪失などは想定しなくてよい、としてきた原子力安全委員会の「原子炉設計に関する指針」の誤りから起こっていることが分かるはずだ。
つまり、経済産業省、原子力安全・保安院、原子力安全委員会など原発の安全性を守るべき国家の指針そのものに誤りがあったために冷却機能を失ってメルトダウンに至ったのだ。
アメリカでは2001年の9.11以降、テロリストの破壊行為を想定してアメリカ原子力規制委員会が「いかなる場合にも電源を喪失しないように」という指針を出して、全ての原子炉はそれに準拠した設備に変更されている。ドイツでも同じ指針で設計が変更されているが、日本ではこのような世界の変化を無視してきた。
2006年にこうした世界的な動きがあったのに日本の役所や電力会社は資金のかかる設備変更をしないでとぼけ通してきた。当然、この時点で長期電源喪失に対処した装置が導入されていれば、福島第一原発は津波に対しても有効であったわけだ。これがテロリストだけではなく航空機の墜落や地震、津波などによる施設の破壊があっても福島第一原発のような大事故にはつながらない貴重な対策になっていたはずなのである。
■経営能力を発揮している場合ではない
それを「想定外の津波」という天災のせいにして、防潮堤を巡らせている現在の再稼働準備はポイントを全く外している。現に同じように津波で破壊された福島第一原発の5、6号機は、高いところに設置した空冷のディーゼル発電機1台が機能したために救われている。つまり全電源喪失の場合でも緊急に何らかの電源が確保できれば炉心溶融は避けられたのである。
日本政府が明らかな指針を欧米の政府と同じ頃に(少なくとも2007〜8年までに)出していれば福島第一原発のメルトスルーは防げたわけで、これは国の責任である。しかし、今日に至るまで責任者は一人も処分されていないし、政府側の責任者(あるいは責任組織)の追及も行われていない。
東京電力は破綻し、資本構成も実質的に“国営”となっているが、依然として経営形態は昔のままであり、上場も維持している。国家が補償するのではなく、電力料金の値上げや副業で稼いだカネで償う、というのは筋違いも甚だしい。これは「独占企業体」の弊害どころの話ではなく、「独裁国家の横暴」である。少なくとも首都圏のユーザーはそう声を上げなくてはいけない。
数土さんは優れた経営者だが、ここは経営能力を発揮する場合ではない。大義が立つのかどうかが問われている、と私は思うのである。
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