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東電、原発に「凍土壁」 寿命わずか7年に疑問の声[日経新聞]
編集委員 滝順一
2014/6/9 7:00
東京電力は福島第1原子力発電所の汚染水対策の一環として、「凍土遮水壁」の工事を2日から開始した。1〜4号機を囲むように地中に凍結管を埋め、冷却剤を循環させて土壌を凍らせる。氷の壁をつくって地下水が建屋に流れ込むのを抑えるのが狙いだ。ただ早い段階から有効性などに疑問を投げかける声が出ていた。着工にあたって課題や問題点を改めて指摘したい。
■土壌を凍らせて汚染水の流れを止める
「もともと私は、凍土壁は反対です」。嘉門雅史・京都大学名誉教授(地盤工学)は、5月26日に開いた原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討部会でこう述べた。「特定原子力施設」とは福島第1原発を指す。「いまさら変えるわけにもいかないと思うが、凍結工法に限定したのは疑問だ」とした。
こうした意見はあったものの規制委は同日、建屋の山側での凍土壁の着工を受け入れた。トレンチ(地下坑)などが多い海側については、工事でトレンチが損傷を受ける恐れがあるとして承諾していない。このため2日の着工は、1号機山側の場所からスタートした。来年3月末までに完工し凍結させる計画だ。
凍土壁は総延長約1.5キロメートル。合計1550本の縦穴を1メートル間隔で掘り、そこに深さ30メートルまで凍結管を埋めてマイナス30度の冷却剤(塩化カルシウム水溶液)を循環させ、地下の土壌を凍らせる計画だ。
隙間のない凍土壁が本当にでき水の浸入を防げるのかといった技術的な問題だけでない。そもそもなぜ凍土壁でなくてはならないのか、という根本的な問題が提示されていながら、十分に検討されないまま着工に至った。
凍土壁の計画が浮上したのは、昨年春に貯水槽などから汚染水が漏れて大きな問題になったのが契機だ。経済産業省が汚染水処理対策委員会(委員長:大西有三・京都大学名誉教授)を設置し、汚染水への対処策を検討した。このとき委員会傘下のタスクフォースから上がってきた提案のひとつが凍土壁だった。委員会は昨年5月末に「前例のないチャレンジングな取り組み」としながらも、対策の目玉として凍土壁を取り上げ、その実現を国は支援すべきだとした。
これを受ける形で安倍晋三首相は、9月3日の原子力災害対策本部の会議で「政府が一丸となって解決にあたる」と述べた。政府は汚染水対策に財政出動を決め、約320億円を支出することにした。ちなみに2020年の東京オリンピック開催決定は昨年9月8日。汚染水対策で「国が前面に出る」ことが国際的にも宣伝された時期だった。
この間、凍土壁設置を提言した委員会の内部からも効果を疑問視する声があったほか、河川や地下水を研究する日本陸水学会も9月20日付で意見書を公表。「長期間にわたって地層を凍らせるのは正しい選択ではない」とした。
専門家があげたのは、地下水に流れがある場所で凍結と遮水は可能か、凍結や融解によりタンクなど地上施設が傾く恐れはないかといった技術的な課題だ。また凍結の維持にはコスト(電気代)がかかるという金銭面の指摘もあった。技術的な課題については、今年4〜5月にかけて原子力規制委が入念にチェックする態勢を敷いた。
ただ議論から見落とされがちなのは、凍土壁があくまで仮設の施設である点だ。計画では2020年度まで約7年間は凍結を維持するが、それまでに建屋に地下水が流れ込む場所を探し出して止水工事を施し、後に解凍するとしている。凍土壁は止水工事までの間、地下水流入を抑制するつなぎの対策なのだ。
■7年後までに止水できない可能性が指摘
そうなると、問題は止水だ。「7年間で高レベルの汚染水がたまる4つの建屋を止水できるだろうか」と嘉門名誉教授は話す。
仮に汚染水が抜けたとしても、建屋内部には放射能で汚染された泥がたまっており、容易に人が立ち入ることはできないだろう。福島第1は廃炉に30〜40年以上かかるとされる。壊れた原子炉本体と変わらぬほど汚れた建屋地下の除染には、廃炉にも相当するような長い年月がかかる可能性がある。
元米ゼネラル・エレクトリック(GE)の技術者、佐藤暁氏は「水という遮蔽物がなくなると、建屋内は(透過力の強いガンマ線だけでなく)アルファ線を出す粉じんの飛散による被曝も心配する必要が生ずる」と話す。
7年後までに止水ができなければどうするか。仮設施設のままで凍結を続けるか。あるいは「比較的高い遮水能力を持ち、維持・管理が容易な粘土による遮水壁への入れ替えを行うことも検討すべきである」と汚染水処理対策委員会の報告書にある。
逆に、何らかの原因で凍土壁がうまく機能しなかったらどうするか。この場合も同報告書は「粘土による遮水壁の設置を検討すべきである」とする。
つまり凍土壁がうまくいってもいかなくても、「賞味期限」は7年ほどしか見込まれていない。7年を超えて使うには、腐食が予想される凍結管の交換などが必要になる。そもそも維持コストなどからも半永久的に使える性格の設備ではない。さらに凍土壁を設置してからでは、施行スペースが狭くなり、恒久的な施設の建設が難しくなる恐れもある。
東電は規制委への説明で、「現場の作業環境、放射線を含めて施行性をかなり重視した選択」(松本純・原子力・立地本部担当部長)とする。被曝や汚染を考えると、今すぐ施工するには粘土やコンクリートの恒久的な壁ではなく、ボーリングで穴をあけて管を埋め込むだけで済む凍土壁の方がよいとの立場だ。確かに作業員の安全対策は重要だ。
ただそうした点を考慮しても、凍土壁でよかったのかとの疑問は残る。いずれは恒久的な壁をつくらざるをえないからだ。
「凍土壁は結果的に汚染水問題の解決を先送りするもので、無駄なお金を投じることになる」と浅岡顕・元地盤工学会長(名古屋大学名誉教授)は指摘する。
福島事故対策に深く関わってきた馬淵澄夫衆院議員(民主党)も昨秋の国会質疑の中で「第2壁の構築」を提言している。7年と言わず早い時期に恒久的な壁をつくり、凍土壁が失敗した場合の「次善の策」とせよという。恒久的な壁の構築は次善の策というより、「本命」というべきだろう。
■オリンピック招致対策だったのでは?
こうしたことを、東電や建設を請け負う鹿島の技術者らが考えていないはずはない。
凍土壁については、その決定時期や20年度までという耐用年数から、背景にオリンピックという要因をみるのはうがち過ぎだろうか。また政府の財政出動が東電の直接支援ではなく技術開発を名目にしており、あえて「チャレンジングな」対策でなくてはならなかったからとみる向きもある。
7年後に恒久的施設への入れ替えが必要になった時、東電や政府の関係者はどう説明するのだろう。凍土壁がうまくいかないから恒久的な壁をつくるのか、うまくいってもつくらざるを得ないと説明するのか。
凍土壁への期待が高いだけに、政府や東電は地域住民や国民に対し正確な情報を伝え、ていねいに説明すべきだろう。東電や政府は福島事故でこれまでもコミュニケーションの失敗を繰り返してきた。汚染水対策の切り札として期待が高い凍土壁だが、限界のある対策としてみておく必要がある。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0300W_U4A600C1000000/?dg=1
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