01. 2014年5月26日 09:22:05
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ドイツや日本のような経済大国でも厳しい状況に追い込まれるのに、愚かなことだhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140523/265208/?ST=print エネルギーで考える「風が吹けば桶屋が儲かる」 高井裕之・住友商事グローバルリサーチ社長に聞く 2014年5月26日(月) 大竹 剛 米国発の「シェールガス革命」を発端に、世界のエネルギー地図が大きく変化している。「アラブの春」や東京電力福島第1原子力発電所の事故、さらにウクライナ危機などが、状況をさらに複雑にしている。それぞれの出来事が相互に影響を及ぼし合い、その様子はまさに「風が吹けば桶屋が儲かる」状態だ。 今、世界ではどのような変化が起きているのか。コモディティーやエネルギー情勢に詳しい、住友商事グローバルリサーチの高井裕之社長に聞いた。 (聞き手は大竹 剛) 世界のエネルギーを巡る環境が目まぐるしく動いています。米国のシェール革命や、日本の福島第1原子力発電所の事故、そして、ウクライナ危機。今、世界で何が起きているのでしょうか。 高井 裕之(たかい・ひろゆき)氏 1980年住友商事入社。2003年コモディティビジネス部長。2008年金融事業本部長。2011年エネルギー本部長。2013年住友商事総合研究所社長。2014年4月から執行役員兼住友商事グローバルリサーチ社長(写真:的野 弘路、以下同) 高井:まずは、米国のシェール革命を起点に考えると分かりやすいと思います。
そもそも、シェールガスを開発する「フラッキング(水圧破砕)」と呼ばれる技術は、ジョージ・ミッチェル氏(「シェール革命の父」と言われる人物)が1980年代に発明したもので、実は目新しくはありません。しかし、その技術は、米国で金融危機が発生する直前の2007年頃から本格的に使われるようになり、2011年頃には世界中から注目されるようになりました。 その理由は、シェールガスによって、米国が2018〜19年頃には天然ガスを完全に自給自足できるようになるからです。さらに、その先は輸出国に変わります。これまで米国は、液化天然ガス(LNG)の輸入国でしたから、劇的な変化です。 そして、ちょうどそのシェール革命が米国で盛り上がっている時に、日本で「3.11」が起きたのです。 福島第1原子力発電所で事故が起きた後、電力不足を補うためにカタールから多くのLNGが日本に輸入されました。あの時、どうしてカタールは日本に供給できるだけの余剰のLNGを持っていたのでしょうか。 実はカタールは、米国がLNGの有力な輸入国になるとの思惑で、米国向けにLNGの供給能力を増やしていました。しかし、米国でシェール革命が起きたことで、その思惑が外れてしまった。カタールは、想定していたガスの売り先を失い、困っていたのです。 そこに、東日本震災が起きたことで、カタールは余ったガスを日本に売ることができたわけです。その一方で、日本はそのガスを使って急場をしのぐことができた。両者にとっては不幸中の幸いでした。 「3.11」、日本は米国のシェール革命に救われた 逆に言えば、もし、あの時、米国でシェール革命が起きていなかったら、日本はかなり厳しい状況に追い込まれていたというわけですか。 高井:カタールのLNGは予定通り米国に輸出されていたでしょう。日本が原発事故で失った電力供給を賄うだけのLNGを調達できなかったかもしれません。そして、LNGの価格は相当、高騰していたはずです。 3.11が起きる前は、世界的にLNGは余っていました。そのため、日本のLNG輸入価格と、米国や欧州の天然ガス価格は、それほど大きな差はありませんでした。 しかし、3.11以降、日本がLNGを大量に輸入するようになったことで、日本のLNG輸入価格は約10ドル(単位はMMBtu=100万英熱量当たり、以下同)から一時、20ドル程度まで上昇しました。その間の欧州の天然ガス価格は約10ドルで3.11前とあまり変わりませんでした。米国の天然ガス価格は逆にシェール革命の恩恵を受けて、約6ドルから2012年4月までには1.8ドルまで下がっていきました。 つまり、米国と日本では、ガス価格に約10倍の差ができるほどの異常な現象が起きました。 米国のシェールガス革命で、中東ではガスが余り、日本はその恩恵にあずかることができた。まさに、いくつもの偶然が重なったわけですね。ほかの地域には、どのような影響を及ぼしていますか。 高井:例えば、米国のシェール革命の影響で、欧州では石炭火力発電が増えています。 米国内では、シェール革命によって火力発電の多くが石炭ではなくガスを使うようになってきました。その結果、石炭が余るようになりました。その余った米国産の石炭が、欧州に輸出されています。 米国産の石炭は欧州の天然ガスよりも安価なために、ドイツなどで火力発電に米国産の石炭を使う動きが広がりました。欧州は、二酸化炭素削減のために石炭火力からガス火力への移行を推進してきたわけですが、米国産の安い石炭の魅力を前に、背に腹は代えられなかった。 中国はウクライナ危機で「漁夫の利」を得た 欧州では今、ロシアへのガス依存度を引き下げることが、エネルギー政策の焦点となっていますね。 高井:そうですね。米国産の石炭のおかげでガスの需要が減っているとはいえ、依然として欧州はガスの約3分の1をロシアから輸入しています。ロシアからガスを輸入する際に経由する重要なパイプラインの1つは、ウクライナを経由しています。そのため、政情不安でウクライナ経由でガスを輸入できなくなると、欧州はガス不足に陥る可能性があります。 一方、ロシア側も、ガスの輸出先を欧州ばかりに頼ってはいられません。そこで、ロシアは今、中国に接近しています。先日、ロシアのプーチン大統領は中国を訪れ、習近平国家主席と会談しましたが、重要議題の1つがエネルギー分野での協力でした。 ロシア産ガスの中国への輸出は、以前から交渉が続いていました。これまでは価格で折り合いがつきませんでしたが、今回、合意に至りました。 中国にとっては、ロシアは「飛んで火にいる夏の虫」でしょう。今回、ウクライナ危機が起きたことで、欧州はロシアへの依存度を引き下げようと本気で動き始め、それによってロシアは新たなガスの売り先として中国と何としてでも手を結びたかったはずです。今回のウクライナ騒動で、一番の漁夫の利を得ているのは中国であると言えるでしょう。 ロシアは中国だけではなく、極東地域にもガスを供給したいという野心をずっと持っています。例えば、韓国にガスを輸出するためには北朝鮮にパイプラインを通す必要があるため、ロシアは北朝鮮に何かと譲歩しているという見方もあります。 当然、ロシアは韓国の先に日本を見ています。日本とロシアの間には北方領土問題がありますが、安倍晋三政権にもロシアから安いLNGを輸入したいという思惑はあったと思います。 しかし、今回のウクライナ危機で、日本の立場は難しくなってしまった。ロシアへの制裁が第3段階に移行し、貿易や金融にまで影響が及ぶようになると、日本だけがロシアとエネルギー分野で協力関係を深めるというわけにはいかないでしょう。 ドイツ、再生可能エネルギーの賦課金が約30倍に 再生可能エネルギーが普及することによる影響については、どう考えたらいいでしょうか。ドイツなど欧州諸国は再生可能エネルギーを積極的に推進してきたわけですが、国民は普及の代償としての負担増に苦しんでいますね。 高井:ドイツは、再生可能エネルギーの比率が20%を超えています。一方、日本はわずか1.6%に過ぎません。ドイツ人は、当然、普及のためのコストを支払っています。再生可能エネルギーを普及させるために電力料金に上乗せされている賦課金は、標準的な家庭で2000年は日本円で月間約80円でした。それが、2014年は約2400円にまで膨れ上がっています。実に約30倍です。 日本の場合、同様の賦課金はまだ120円です。しかし、これから日本が再生可能エネルギーを増やしていこうとすると、ドイツのように国民負担が急増するでしょう。賦課金総額は2012年度には2600億円でしたが、2013年度には4700億円となり、2014年度は8000億〜9000億円になるとみられています。 再生可能エネルギーもやらざるを得ないと思いますが、当然、それにはコストがかかります。原発再稼働も念頭に入れて、総合的なエネルギーミックスを考えなければなりません。 原発事故以降、日本は化石燃料の輸入量が増えたことで、中東産油国への依存度が高まっています。現在、どの程度依存しているのでしょうか。 高井:日本の中東依存度は8割程度です。日本はある意味、米国の軍事力を背景に中東への依存度を高めてきましたが、今、それがアキレス腱になっている。 その一方で、実は中国のエネルギー政策はなかなか上手くやっていると思います。中国は昔から、エネルギーの調達先の分散化を進めてきました。例えば、中東への依存度は約5割で、日本よりずっと少ない。 中国は中東以外に、石油をアンゴラやベネズエラ、カザフスタン、ロシアから輸入しているほか、ガスはミャンマーやトルクメニスタンからパイプラインを引いているほか、今後はロシアからの輸入も視野に入れています。 中国は現在、火力発電の約8割を石炭に頼っていますが、大気汚染の問題もあり、今後はガスに移行していくでしょう。その際、安いガスをパイプラインで輸入してくるほか、安いLNGを調達してくることも、中国の戦略には入っています。そのため、中国も北米からシェール由来のLNGを輸入すべく、既に動いています。 「分散」がエネルギー戦略のキーワードに こうしたエネルギーの世界情勢の中で、日本は何をすべきでしょうか。 高井:キーワードは「分散」です。具体的には、エネルギー源の分散と、調達地域の分散です。 エネルギー源の分散については、欠かせないのが原発の再稼働です。そしてもう1つが、LNGの輸入先を多様化することです。既に、日本勢が参加している北米のシェールガスのプロジェクトでは、3つの計画が米当局から承認を受けています。2017〜18年くらいには、シェール由来のLNGの輸出が始まるでしょう。 この輸出が始めると、LNGの調達コストは下がります。直接的に、貿易収支の改善や電力価格の抑制に効いてきます。 あまり注目されていませんが、高効率の石炭火力の活用も重要です。そして最後に来るのが、再生可能エネルギーです。ただし、再生可能エネルギーはコストがかかるので、どんどん推進するということにはならないでしょう。
調達地域の分散については、中東依存度が8割という状況を改めることが重要です。例えば、イランと西側諸国の暫定合意は7月までですし、シリア問題も片付いていません。イラクも、ようやく石油の生産量が戻ってきていますが、まだ揉めています。イスラエルの問題もくすぶっていますし、エジプトもまだ不安定です。こうした状況を考えると、中東は当分、リスクが高い状況が続くでしょう。 では、どこから買うべきか。まずは、米国とカナダです。北米にはシェールガスが大量にありますから。次が、豪州やアフリカです。今、日本政府は、LNGの輸入価格を何とか下げようとしています。 しかし、これにはコインの裏側もあって、下がれば下がるほど、供給側にとっては事業の採算が悪くなり、プロジェクトが頓挫するリスクも出てきます。最終的にいくらに落ち着くかが、カギとなります。 「ガスの世紀」は300年続く 中国やインド、欧州などがLNGの輸入量を増やすために、価格は期待するほど下がらないという見方もあります。 高井:シェールガスのプロジェクトには、多様な国籍の会社が参画しています。彼らは、自国にガスを持っていくということよりも、多様な取引を展開するでしょう。つまり、スポットで販売される機会が増え、LNGの需給だけで価格が決まるようになります。 現在は、LNG価格は原油価格に連動していますが、こうした体制が崩れていくはずです。それによって、原油に引きずられて高止まりしていたLNG価格は、徐々に下がっていくと思います。 米国のシェールガスの影響を侮ってはいけません。米国は、豊富なガスの埋蔵力を生かして、LNGを安全保障政策に活用するかもしれない。つまり、軍隊ではなくガスを送ることで、国際的に影響力を及ぼそうという戦略に転じる可能性もあります。 しかも、シェールガスは米国以外にもあります。石油の可採埋蔵量は60〜70年分ですが、天然ガスは300〜400年分はあると見られています。「ガスの世紀」は既に始まっていて、これから2〜3世紀は続くと思いますよ。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 |