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福島で甲状腺がん検診 被災者の「見守り」継続を
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とある原発の溶融貫通(メルトスルー)
福島で甲状腺がん検診 被災者の「見守り」継続を
編集委員 滝順一
福島県が県内の子どもたちを対象に甲状腺の大規模な検診を進めている。2013年末までに、合わせて74人のがん(33人)、ないし悪性の疑いのある子(41人)が見つかった。この数に驚いた人も多いにちがいない。しかし判定にあたった福島県立医科大学の専門家は「放射線の影響は考えにくい」と説明する。なぜそう判断するのか。検診制度を立ち上げた長崎大学理事・福島県立医科大副学長(非常勤)の山下俊一氏に聞いた。
■「チェルノブイリとは違う」
長崎大学理事・福島県立医科大副学長(非常勤)の山下俊一氏
――11年秋からおよそ2年半の調査で甲状腺がんが33人。たいへんなことが現地で起きているのではと受け止められている。
「甲状腺がんの頻度は長らく、実際にがんと診断され手術を受けた人の数から推定されてきた。大人では10万人に数人、子どもは100万人に1人弱というのが定説だった。ところがここ5〜10年で高性能の超音波診断装置を使った検査が導入され、症状がない人でも甲状腺に結節などがよく見つかるようになった。検診を受ける年齢層や性別、検査方法によって頻度は変わる」
「その結果、各国で甲状腺がんの頻度上昇が報告されている。例えば韓国では、40歳以上の成人で甲状腺がんの数が胃がんや肺がんを上回るほどだ。10人に1人ほどで見つかるが、手術を受けるのは10万人に1人くらい。手術を受けなくてもほとんどの人が寿命を全うできる。急速に悪くなる例もあるが、数のうえでは極めて少ない」
「福島での調査は、事故当時に0〜18歳の若い人たち約36万人を対象にした前例が少ない大規模な調査だ。どれほどの頻度で見つかるか、調査前から懸案事項だった。11年10月から開始し、最初の1、2年は病気の頻度を知るベースラインの調査と位置付けた。それで33人にがんが見つかった」
「チェルノブイリ原発事故後、数年たって子どもの甲状腺がんが増えたことがよく知られているため、世の中は福島でもチェルノブイリと同じことが起きるに違いないとみている。甲状腺がんイコール原発事故による放射線の影響という目でみる」
――事故の影響ではないとみる根拠は何か。
「被曝(ひばく)量が違う。チェルノブイリでは子どもたちが甲状腺に受けた線量(等価線量)は平均500ミリシーベルトとされる。これは事故後、放射性ヨウ素を含む牛乳などを摂取した子が多かったためだ。福島では1080人の子どもたちの甲状腺を直接測った結果、被曝量は最大35ミリシーベルトが1人いたが、大半の子は1ミリシーベルト以下だと推定されている。この被曝量で影響は出にくいと私たちはみている」
「また甲状腺がんでは、がん細胞が増殖して大きさ1センチほどのがんになるのに大人なら10年、子どもなら4、5年かかると考えられる。事故後1〜2年以内、現在の検査で見つかったがんは、平均の大きさが14.3ミリメートルということから事故の前からあったと推測できる。この点からもこれまでに見つかった例は事故の放射線によるものとは考えにくい」
「11年度に約4万1000人を対象に調べ、14例(当初発表の数字)のがん、もしくはがんの疑いのある子が見つかった。約0.03%の頻度だ。同様に2年目は約14万人から50例で0.036%、3年目はまだ検査結果がすべて出ていない中間集計で約8万8千人から10人で0.01%。つまり1万人に2、3人というのが0〜18歳の甲状腺がんの頻度であり、今後本格調査に取り組む上でのベースラインだと考えられる」
「これまでの調査でがんが見つかった子たちの平均年齢は約17歳(事故当時は約15歳)だ。チェルノブイリでは事故当時0〜5歳の子どもたちが5年後くらいに5〜10歳になって甲状腺がんが見つかり始めた。がんの表れる年齢層が福島とチェルノブイリでは違っている」
■他県でもがんになる確率はほぼ同じ
――そもそも甲状腺がんは何が原因で発症するのか。
「放射線が原因になりうることははっきりしている。自然放射線への遺伝的な感受性(影響の受けやすさ)が人によって違うので、(普通に暮らしていても)発症する人もいればそうでない人もいるかもしれない。ほかにも(放射性でない)ヨウ素の摂取量や生活環境などたくさんのリスク因子がありどれかとは言えない」
「環境省が青森、山梨、長崎の3県で4365人の子どもを対象に福島と同じやり方で甲状腺の検査をしたところ、精密検査が必要と判断された子は約1%(44人)。福島県は約0.7%(約1800人)だ。3県調査ではこれまでに1例のがんが見つかった。頻度は0.023%で、予測された水準だった。これからみても子どもたちの甲状腺がんの頻度は1万人に2、3人とみてよいだろう」
――福島から離れた地域の子どもたちは、放射性ヨウ素による内部被曝がもともとない子たち。福島と比較できるのか。
「むしろ条件が違うからいい。(内部被曝がない)他の地域と同じ頻度ということは、福島のベースライン調査結果では放射線の影響はみられないということを意味する。3県の方で精密検査が必要な結節や嚢胞(のうほう)が多かったのは、対象者の平均年齢が高くその分だけ高く出た結果だろう。これから福島でも頻度が上がる。加齢もあるし、今後も注意深いフォローが要る。これまで得たベースラインのデータと比較していく」
――加齢に伴い頻度が増すなら、福島での頻度がこれから高まる。それが放射線の影響かどうか見分けられるのか。
「福島県内の浜通り(太平洋岸)、中通り(福島市、郡山市など)、会津地方で年齢が上がるとともに同じように頻度が増すなら、放射線による差がないとみていいだろう」
――放射性ヨウ素による内部被曝はどこまで正確にわかっているのか。1080人の検査結果では実態を知るのに十分とは言えないのでは。
「初期にヨウ素が飛来したいわき市や川俣町、飯舘村の子どもの人口に比べた場合、1080人が全体を推し量るうえで適切なサンプルかどうかは別にして、数は少ないとは言えない。国内外の研究機関などが様々な仮定をおいて内部被曝を推定しているが、それらの結果からみても妥当だと言える」
「これから難しいのは、大規模な検診を続けていけば『スクリーニング効果』で本来は見つけなくても問題ないようながんまで見つかる。その検診結果を、検診を受けた子や親にどう説明していくかだ。米国などの研究者からは(被曝量が少ないことがわかったから)もう検診はやらなくてもいいという意見を耳にする。私たちはこの事業を見守りだと考えている。事故の被災者の健康を守り、むしろ増進が可能なようきちんとケアをする責任があると思っている」
■取材を終えて
甲状腺検診の1年目の結果で、がんが見つかったことを聞いて驚いた記憶がある。「こんなに早く」と思うと同時に、放射線の影響を疑った。後にこれまで取り組んできたのはベースラインの調査でスクリーニング効果が出ているとの説明を知ったのだが、釈然としないものが今も残る。
小児甲状腺がんは100万人に1人くらいだと長らく専門家から聞かされてきた。それが調査結果が出てから、最近は検査機器の高性能化でもっと多いのだと言われても、後付けの説明に聞こえてしまう。
また最初の1、2年で見つかったがんは事故前に芽生えていたものだとの説明にある程度はうなずけたとしても、それだけでは放射線の影響がまったくないという証明にはならない。まして今年度からの本格調査でがんの頻度が上がった時、そのうちどこまでが自然発生的で放射線の影響ではないと言えるのか。とても難しい説明になると思う。
さらに言えば、放射線の影響であろうとなかろうとがんと診断された子と親のショックは変わらないだろう。結果的に見つけてしまった事実を早期診断ととらえてプラスに転化することができるだろうか。
山下さんは「見守り」が大事だと強調するのはその通りだ。ただ福島県や県立医大はこれまで説明がていねいで上手だったとの評判とは遠いところにいる。医学の専門家がきちんと説明して理解をしてもらえる態勢をつくっていくことが大きな課題だ。
2014/5/12 7:00 日本経済新聞 電子版 ※全文転載しました。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK08031_Y4A500C1000000/
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絶妙なタイミングで山下俊一教授インタビュー。福島で甲状腺がん検診 被災者の「見守り」継続を http://t.co/V46NXj1lfl
— 白石草 (@hamemen) 2014, 5月 12
山下俊一氏インタビュー「福島で甲状腺がん検診 被災者の「見守り」継続を」。滝順一編集委員の感想→「これまで取り組んできたのはベースラインの調査でスクリーニング効果が出ているとの説明を知ったのだが、釈然としないものが今も残る」http://t.co/sdsWYHYTTs日経5/12
— 島薗進 (@Shimazono) 2014, 5月 12
★「見守り」という名の人体実験。まるで自分たちが神であるかのような振る舞い。本気で後世に何かを伝える気なら結論ありきの調査を即刻中止すべき★福島で甲状腺がん検診 被災者の「見守... http://t.co/wnPFv2WcQR pic.twitter.com/Kk9NQIioMr
— 脱原発の日実行委員会 (@datugennohi) 2014, 5月 12
最近は人体実験のことを「見守り」と言うらしい。
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