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[迫真]被災地、海と生きる
(1) 苦渋の運命共同体
福島県漁業協同組合連合会は3月25日、東京電力福島第1原子力発電所の原子炉建屋に流れ込む前の地下水をくみ上げ、海に放出する東電の計画を受け入れた。風評被害の懸念は拭えない。1日400トンずつ増える汚染水を少しでも減らすため、拒絶できなかった。
「はっきり言って、漁師は東電や国を信頼していない。我々を裏切らないような厳格な運用をお願いしたい」。相馬双葉漁協組合長、佐藤弘行(58)は東電常務執行役、新妻常正(59)に不満をぶつけた。貯蔵タンクからの汚染水漏れ、海への流出と不手際が続く。新妻は「放出の基準は厳格に守ります」と深く頭を下げた。
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東電は今月中旬にも地下水放出を始める予定で、地下水の放射性物質濃度を測るなど準備を続ける。敷地内の約900基のタンクにたまった汚染水は46万トン。原発事故収束のためにも漁師のためにも、汚染水処理の失敗は許されない。「東電と漁師は運命共同体だ」。県漁連会長の野崎哲(59)はうめいた。
東日本大震災の津波、福島原発事故から3年余り。福島沖合で取れた魚介類は「常磐もの」と呼ばれ東京・築地でも高く評価されたが、福島の漁業の苦境は続く。放射性物質の基準値(1キロあたり100ベクレル)に照らして出荷制限される魚種はヒラメ、アイナメなど今も40種にのぼる。
ようやく始まった試験操業も回数や海域が限られる。4月下旬、同県相馬市の松川浦漁港に試験操業を終えた相双漁協の船21隻が次々と戻ってきた。「第三恵永丸」はカレイ、アンコウなど約500キロを水揚げしたが、船長の高橋英智(51)の表情は晴れない。「放射能の影響がこんなに長く続くとは思わなかった」
地下水放出が迫り、漁師たちが何より恐れるのは「福島産」への風評被害の高まりだ。
「消費者は二極化している」。相馬市のスーパーシシド店長、浜名良一(53)は実感する。震災前は新鮮な地元産の魚介類が看板商品で、発泡スチロールの箱ごと買っていく客も多かった。
今、売り場では試験操業で取れた魚の横に放射性物質の検査結果を表示し、安全性をPRする。高齢者は「地元を応援したい」と積極的に地元産を買ってくれる。一方、小さな子供をもつ親は健康への影響を心配して地元産を手に取らない。
漁師の苦悩はほかにもある。福島第1原発の港湾内で取れるアイナメ、ソイといった魚の放射性物質濃度は1キロあたり最高で1万ベクレルを超え、基準値の100倍以上。「港湾内の魚が沖合に出てサンプル検査で数値が跳ね上がり、出荷制限の解除が遠のく」と漁協関係者はこぼす。
東電は原発事故の収束作業に使う大型資機材を船で運び入れており、港湾を閉鎖することはできないという。相双漁協の遠藤和則(59)は「港湾を埋めてしまうのが一番だが、収束作業を止めるわけにはいかない」
「人間は働かねえとダメだ。職を奪われることがどれだけ苦痛か」。同県新地町の漁師、小野春雄(62)は語気を強める。激震に襲われた3年前のあの日、小野は港に駆けつけ船を守るために沖に出た。同じ行動を取った弟(当時56)は津波の犠牲になった。
東電から原発事故前の収入の8割ほどが補償される。「漁師は補償金で酒を飲んでいる」といった心ない陰口もある。だが金銭であがなえない苦しみが被災者にはある。肉親を亡くし、漁もできないストレスで一時体重が20キロ近く増えた。ようやく始まった試験操業で週2回、漁に出た。「漁師は魚が網に掛かるのが喜びなんだ」
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試験操業の底引き網漁の水揚げ量はおおむね30分の1だ。昨年10月に試験操業を始めたいわき市漁協は大半の魚を福島県内の市場に出荷する。
一部は宮城、茨城県の市場に出荷され、宮城産や茨城産と遜色ない値がつく。だが、福島県産は扱わない仲買人もいる。大消費地の築地などに出荷できるだけの漁獲高に回復した時、どう評価されるのか。同漁協の新妻隆(54)は覚悟する。「風評被害との本当の闘いはそれからだ」
(敬称略)
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東日本大震災で沿岸部の被害は甚大だった。それでも海と共に生きる被災者を追った。
[日経新聞5月5日朝刊P.2]
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