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中国とインド、米が中止した新型原子炉に挑戦[日経新聞:エコノミスト]
2014/4/25 7:00
「始まりが良ければ半分うまくいったも同然」ということわざがある。このことわざ、というよりもその逆が、原子力発電が誕生して以来、常に付きまとってきた問題を端的に表している。原子力エネルギーを、世界の核爆弾開発プログラムが生み出した出来損ないの副産物と見る向きは多いし、それには一理ある。要するに「不幸な始まりをしたものは、うまくいかない」のだ。
だが、一からやり直すことができるなら、素晴らしいことだ。躍進目覚ましい2大新興国、インドと中国によって、それが間もなく実現するかもしれない。両国は膨大なエネルギー需要を賄うために、トリウムを燃料とする原子炉の建設という構想に取り組み始めている。トリウムという名前は、古代スカンジナビアの雷神にちなんで名付けられた。
既存の原子炉はウランかプルトニウムを使う。これらは核爆弾に用いられる物質だ。ウランを燃料とする原子炉は、核爆弾を製造するのと同じ燃料濃縮技術を必要とする。このため、この原子炉は秘密裏に進められる武器製造プログラムのカバーとして利用されることがある。プルトニウムは原子炉の中で非濃縮ウランから作られる。こちらも、核爆弾の製造に簡単に転用できる。これに対してトリウムは、核爆弾に転用することが難しい。不可能ではないが、あまり魅力的なプログラムではないため、米国は1970年代にトリウム核爆弾の研究を打ち切った。
■埋蔵量誇るインド、政治的に着手した中国
トリウムに関してもう1つ注目されるのは、ウランの3〜4倍の埋蔵量があることだ。そもそもの研究目的が原子力発電にあったなら、トリウム原発は研究に値すると見なされていただろう。そして今、実際に研究が始められている。
インドはトリウムの豊富な埋蔵量を誇る。同国は最終的に電力の4分の1を原子力発電で賄う意向で(現在は3%)、その燃料としてトリウムを使用する計画だ。実用化はまだ先のことだが、インディラ・ガンジー原子力研究センターは、既にタミル・ナーデゥ州のカルパッカムで小規模な実験炉を運転している。ムンバイのバーバ原子力研究センターも、トリウムを燃料とする重水炉の実用化を目指しており、2020年代初めにも運転開始に漕ぎ着けたい考えだ。
中国はさらに大規模なトリウム・プログラムに着手した模様だ。中国科学院は430人の科学者とエンジニアを擁する「世界最大のトリウム原発の国家プロジェクト」を開始したと発表した。2015年までに陣容を750人にまで拡大する。
このチームの責任者を務めるのは、米ドレクセル大学卒のエンジニアで、江沢民元国家主席の息子である江綿恒氏だ(ちなみに江沢民氏自身もエンジニアだった)。江綿恒氏が自分の実力だけで現在の職務に就いたのか、疑問視する向きもある。同氏の任命は、このプロジェクトが政治的な性格を持つことを物語っている。
同チームは2015年にトリウム原発のプロトタイプの運転を開始する計画だ。当初はインドと同様に固形燃料を使用する予定だが、2017年までに、溶融フッ化トリウムを使用するプロトタイプ炉の運転を開始する。これは中国科学院上海応用物理研究所が明らかにしたもの。溶融フッ化トリウムは複雑だが燃料としてより望ましい。
■1960年代に米が実験
トリウム自体は核分裂を起こす物質ではない。だが、中性子を当てると、核分裂するウラン233というウラン同位体に変化する。トリウムを在来型原子炉の中で濃縮ウランもしくはプルトニウムと一緒に燃やせば、必要な中性子が供給されて、ウラン233が生成できる。
だがもっと良い方法がある。まずトリウムをフッ化物(フッ化トリウム)に転換する。それをフッ化ベリリウムやフッ化リチウムと混合する。溶融点をセ氏360度に下げて混合液を溶融しやすくするためだ(通常の溶融点はセ氏1110度)。
このようにして生成した液体を特殊な設計の炉心に注入すると核分裂が起こり、温度が700度前後に上昇する。この熱を熱交換器に通してガス(通常は二酸化炭素もしくはヘリウム)に移し、このガスの力でタービンを回して発電する。熱交換により冷却されたフッ化物の混合液を炉心に戻せば、核分裂によって熱を獲得するプロセスを繰り返すことができる。
米オークリッジ国立研究所のトリウム実験炉は1960年代に、ほぼこうした仕組みで動作をしていた。この現代版が、トリウム溶融塩炉(LFTR) として知られる原子炉である。
■原子力発電の経済性が大幅に向上
LFTRが持つ最大の長所の1つは、通常の気圧において稼働することである。このため、原子力発電の経済性が格段に向上する。
現時点で最も普及している軽水炉は、冷却水に極めて高い圧力がかかる。このため、冷却システムが損傷し、放射能を含んだ気体が放出された場合に備えて、鋼鉄製の耐圧容器で軽水炉を覆い、さらに、要塞のような建物に格納する必要がある。LFTRはこのような対処が全く必要ない。
またトリウムは、ウランやプルトニウムより入手しやすい。核分裂するウラン235は、天然ウラン中にわずか0.7%しか含まれていない。残りはウラン238だ。ウラン238は、ウラン235に比べて3つ多くの中性子を持っているため重い。中性子が多いことは安定をもたらすため核分裂が起きない。複雑な遠心分離プロセスによって、ウランを濃縮する必要があるのはこのためだ。
トリウムをウラン233に変換するのと同様の方法で、ウラン238に中性子を当てることで、プルトニウムを生成することができる。しかしこの処理は、プルトニウムを最終的に燃やす原子炉とは別の原子炉で行う必要がある。対照的にトリウムの場合は、トリウム鉱から抽出すれば、すぐに原子炉で処理を始められる。
確かに、核分裂サイクルを開始するには、中性子を供給する種火としてウランやプルトニウムが必要だ。しかしながら、トリウムが十分なウラン233に変換された後は、プロセスは自律的なものとなる。ウラン233の核分裂でできた中性子が、トリウムを十分なウラン233に変換するため、種火としてのウランやプルトニウムは不要になる。
こうした過程を経て、フッ化トリウムは増殖する。この燃料は液体なので、ウラン233の原子が分裂する際に生成される核分裂物質とともに、原子炉から排出される。同様に、必要に応じて、フッ化トリウムを加えることもできる。この結果、トリウム原子炉は長期にわたって停止することなく稼働し続けることが可能だ。燃料棒を交換するために18カ月ごとに停止する必要がある軽水炉とはこの点で異なる。
■兵器転用には不向き
トリウムには別の長所もある。LFTRの廃棄物は軽水炉のそれと比べて有害性が低いのだ。放射性廃棄物の量が軽水炉の100分の1弱にとどまる。そのうえ、放射能が安全な水準に低下するまでの期間が数百年と短い。軽水炉の放射性廃棄物の場合は何万年もかかる。
兵器に転用することが困難だという理由から、トリウムを燃料とする民生用原子力発電所の開発が進展すると見る向きは多い。核爆弾にすることが困難なため実験が打ち切られたトリウムの歴史を振り返ると、逆説的だと言える。米国が1950年代にネバダ砂漠でウラン233爆弾の試験を1、2度行った後、1990年代末にインドがウラン233爆弾を含む核実験を実施し、不吉な影で世界を覆った。しかし米国の経験が多少なりとも参考になるなら、ウラン233を利用した核爆弾は不安定だ。ウラン233が生み出す強烈なガンマ線が早期爆発を誘発しやすいため、兵器としては危険で扱いが難しい。ネバダでの実験後、米国はトリウム爆弾の実験を中止した。
ガンマ線の問題は、トリウムをウラン233に変化させるプロセスの中で起きる。少量のトリウムが異なる道筋をたどり、放射性を有する放射性タリウムとなる。そのガンマ線は極めて強力なため、1メートルの厚さのコンクリートさえ透過してしまう。ごく微量の放射性タリウムを含む物質を抽出、精錬、加工することさえ、一握りの国家的な兵器研究所にしかできない。
したがって、核爆弾に関心を抱いているならず者国家は、トリウム原子炉などに手を出そうとは思わないだろう。現状は、管理の甘いプルトニウムが世界中に散らばっているのだから。要するに、兵器に転用できないという理由が、改めて浮上し始めている。
(c)2014 The Economist Newspaper Limited. Apr. 12, 2014 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2400I_U4A420C1000000/
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