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[核心]核燃料再処理を問い直す 核物質の「最小化」に逆行 編集委員 滝順一
政府の文書で時折、解釈次第でどうにでも読めそうな言葉に出くわす。
オランダ・ハーグで3月に開いた核安保サミットで登場した「核物質の最小化」はそのひとつ。4月11日に閣議決定したエネルギー基本計画に出てくる「戦略的柔軟性」も意味深長だ。
まず「最小化」から。
「日本が兵器級の核原料を保有していることに非常に注目している」
中国外務省は2、3月にかけての記者会見で、日本の核物質保有にたびたび言及し、世界の視線を向けさせようと試みた。
「兵器級の核原料」とは、核兵器に使いやすい組成のプルトニウムやウランのことだ。プルトニウムの場合、プルトニウム239の割合が多いと爆弾にしやすく「兵器級」と呼ばれる。239が少ない、原子力発電の燃料用のプルトニウムとは区別される。
中国が言及した核物質は、日本原子力研究開発機構の研究施設(茨城県東海村)にある。厚さ1メートルほどの二重扉で外界から遮断された「高速炉臨界実験装置(FCA)」で、東日本大震災の直前まで「兵器級」を使った実験をしてきた。
FCAは原子炉を横に倒し輪切りにした格好だ。核燃料や制御棒を模擬する材料を様々に配置を替えて並べ、核分裂反応の起き方を実験で確かめる。高速増殖炉の設計に必要な基礎データはここで得られた。
純度の高い「兵器級」を使うのは「組成がはっきりした方が精密なデータが採れるから」と、原研の山根剛・臨界技術第二課長(3月時点)は話す。
稼働開始(初臨界)は1967年。やるべき研究はあらかた終わっている。震災後、3年にわたり装置は休止状態にある。
3月24日、このFCAで使っていた高濃縮ウランやプルトニウムを全量撤去すると、安倍晋三首相とオバマ米大統領はハーグで発表した。元はと言えば、60年代に英国などから購入したものだが、米国が引き取って処分する。
テロリストの手に渡らないよう、世界で核物質の保有を「最小化」する試みの一環だと日米共同声明にはある。計画が漏れて中国政府の宣伝に利用されたのは残念だったが、世界の安全に資する取り組みだ。
ただ「最小化」という言葉はくせものだ。「最小化」の対象は兵器級の核物質に限らず「分離されたプルトニウムすべてを指すと読める」(秋山信将・一橋大学教授)からだ。
日本は核燃料に使うつもりでプルトニウムの在庫を約44トン保有する。これに加え、使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)がフル稼働すれば年間8トンのプルトニウムが新たに抽出される。
再処理工場は現在、安全審査中だが、計画通りなら10月に竣工し3年後にフル稼働に達する。
一方、プルトニウムの利用計画は不明瞭だ。東日本大震災前は16〜18基の原発でプルトニウム入り燃料を燃やす「プルサーマル」を実施する計画だった。今や原発は再稼働にすら難渋する。プルサーマルができるメドはない。
1基で多くのプルトニウムを消費できる設計のJパワーの大間原発(青森県大間町)や、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の先行きにも不透明感がつきまとう。
日本政府は「使い道がないプルトニウムは持たない」と世界に説明してきた。しかし震災後、需要がみえないなか、再処理工場が稼働すれば収支のバランスが崩れる。軍事転用の意志がなくても、余剰プルトニウムの保有は国際的に波紋を呼ぶ。
懸念する声は米国にも多い。例えば1月に来日した米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・ハムレ所長は日本の原発再稼働を強く支持しつつも、「経済性の面からも核燃料サイクルのハードルは高い」としてやんわりと再処理への慎重論を口にした。
再処理は世界が望む「最小化」に逆行するようにみえる。
日本の再処理事業を認めた日米原子力協定が2018年に改定時期を迎える。この微妙な時期にプルトニウムの最小化で両国政府が合意を交わしたのはなぜか。日本の政策を縛る米国側の布石ともとれるし、日本側が誠意を示すアリバイづくりにもみえる。臆測を呼ぶ。
そこで気になるのが「戦略的柔軟性」だ。
エネルギー基本計画は、再処理工場やプルサーマルを「推進する」としつつも「戦略的柔軟性」という言葉を付け足した。
技術動向やエネルギー需給、国際的事情が不確実なので柔軟さが必要だという。言葉はいかめしいが、要は事情が変わったら方針を見直すということだろう。
しかしすでに事情は震災前と変わっているのではないか。プルトニウムの必要性は薄れ、同盟国の理解者からも慎重意見が出始めた。旧来通りの再処理工場の稼働は理屈が通りにくくなった。
国策として再処理を貫徹するなら、説得力をもった論理を再構築し、必要性を国内外に改めて示さねばならないはずだ。
基本計画は逆に課題を先送りし直視を避けているかのようだ。計画が内容空疎だと批判される理由のひとつはここにある。
[日経新聞4月21日朝刊P.4]
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