04. 2014年4月23日 09:57:00
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/40483 JBpress>海外>欧州 [欧州] 脱原発は「高価なアイスクリーム」だった 再生可能エネルギーのバラ色の夢から覚めつつあるドイツ 2014年04月23日(Wed) 川口マーン 惠美 ドイツの電気代が高騰している。現在進められている脱原発を主軸としたエネルギー政策が主因であるのは自明の理だが、脱原発を推進していた人たちは、つい最近まで、エネルギーの転換にはお金が掛からないと主張していたのだ。 太陽も風も無料で、しかも無尽蔵にある。それを利用すれば、安くてクリーンな電気が手に入りますよと言われれば、誰でも喜んで飛びつく。しかし、現実としては、電気はどんどん高くなり、脱原発の決定以来、毎年CO2の排出量が増えている。 持てる者は助成金で儲かり、持たざる者は高い電気代を払う なぜ、電気代が高騰しているかというと、庶民の電気代の中に、再生可能エネルギー(以下再エネ)の助成金が乗せられており、その助成金がうなぎのぼりで増えているからだ。 今では電気代の5分の1が助成金の分で、つまり、私たちはそれを、電気代と共に自動的に負担させられているということになる。しかも、助成金の割合は近い将来、減るどころか、まだまだ確実に増えていく。 すでにドイツ人の払っている電気代は、EUでデンマークに次いで2番目に高い。1位になるのも時間の問題かもしれない。つい最近まで、緑の党は、「脱原発は、ドイツ国民にとって、アイスクリーム1個分ぐらいの負担にしかなりません」と言っていたのだから、高いアイスクリームだ。騙されたと思っている人は多いだろう。 ドイツの太陽光発電、新記録を達成 一時2200万キロワット超える ドイツ南部プッフハイムにある太陽光発電所の太陽光パネル〔AFPBB News〕 何がこの助成金を吊り上げているかというと、再エネで作られた電気の買い取りにかかるお金だ。ドイツには再生可能エネルギー法というのがあり、そこには、再エネで生産された電気は、全量を20年間にわたって買い取ってもらえるということが明記されている。 そのため、再エネ産業への参入を確実な投資と見て、大規模なソーラーパークやウインドパークが急増し、あるいは、持ち家のある人は屋根にソーラーパネルを取り付けた。 そこで作った電気はすべて、市場価格よりも高い値段で買い取ってもらえる。その結果、当然のことながら、買い取り値段と市場への卸売価格には差ができてしまい、その差額を助成金で補っている。しかも困ったことに、供給量が増えると、市場での電気の価格が下がるため、再エネの電気が多くなると、電気代は上がる仕組みだ。 再エネを発電している人は、それでも助成金で儲かるのでよいが、負担しているのは、再エネ産業に投資するお金も、パネルを取り付ける持ち家も持たない庶民がほとんどなのだから、不公平な話ではある。 大企業の助成金負担免除が論議の的に 助成金で賄われているものは、他にもある。大きなものとしては、送電線の建設費。風の強い北ドイツで大量に作られる風力の電気を、工業地帯である南ドイツに運ばなくてはいけないため、ドイツを縦断する大規模な超高圧の送電線が必要だ。 それらの建設はまださまざまな事情で軌道には乗っていないが、しかし、進めていかなくてはならないことは自明の理。送電線なしに再エネの開発をしても何の意味もない。 ただ、コストは、主要な3本の送電線だけでも100億ユーロ(1.4兆円)。その他、電圧の変動の大きい再エネの電気に対応できるよう、既存の高圧電線もリフォームしなければならない。それらの経費もすべて、助成金として電気代に乗せられることになる。 さて、その厄介な助成金が、今、違った意味でも論議の的になっている。というのも、実はドイツでは、電気を大量に消費する大企業は、助成金の負担を免除、あるいは、大幅に軽減されているからだ。 国際競争力を落とさないため、そして、雇用を守るためというのがその理由だが、この特別措置により、大企業の支払うべき助成金までも負担させられている庶民は不満を隠せない。助成金分を庶民に肩代わりさせて荒稼ぎをした大企業は、利潤が伸びれば自分たちの配当を増やすに違いないと、疑心暗鬼に陥っている。 また、この大企業のための特別措置は、EU内でも取り沙汰されている。これは自国の企業の競争力を保持するための不当な保護政策であり、平等な競争の原理に違反するというわけだ。 ドイツ政府は、しかし、この特別措置を外してしまうと、化学、金属工業はもちろん、製紙や製陶など、電気を多く使う産業が海外移転に走ると危惧しており、去年より、EU委員会との熾烈な交渉が続いていた。 そして、4月9日、EU委員会とドイツ政府は、特別措置を認めるという方針で合意に達した。この交渉のために奔走したのが、SPD(社会民主党)の党首でもあるガブリエル産業・エネルギー大臣だ。 これに対し、緑の党はドイツ政府を声高に非難。政府が企業のロビー活動に取り込まれ、大気汚染の片棒を担いでいると批判している。緑の党は元々、ドイツの産業のことなど考えない傾向はあったが、それにしても、今まで仲間だと思っていたSPDの変容に唖然としていることは間違いない。 「脱原発の決定は大きな誤りだった」 ドイツ、与党と社会民主党が連立合意 最低賃金制導入へ SPDのジグマル・ガブリエル党首(左)とCSUのホルスト・ゼーホーファー党首(右)との間に立つ、CDU党首のアンゲラ・メルケ首相(中央)〔AFPBB News〕 しかし、現在のドイツ政府はCDU(キリスト教民主同盟)+ CSU(キリスト教社会同盟)とSPDの大連立のため、緑の党が何を言おうが気に掛ける様子はない。 だいたい緑の党は、脱原発についてのバラ色の構想を唱えすぎたこともあり、今や政治的に孤立しているだけではなく、支持率も落ちている。環境省もエネルギー政策においては完全に蚊帳の外に放り出された感あり、ドイツは今、経済に重点を置いた政策に専念している。 電気を多く消費する大企業の特別措置に関してもう少し詳しく言うなら、このたびEU委員会とドイツ政府は一応の合意を見たものの、EU裁判所ではこの件はまだ審議中だ。裁判所の判決によって、今回の合意が不当であると見做されたら、また振り出しに戻る可能性もある。 しかも、ガブリエル大臣がせっかく練り上げ、現在、この夏、国会を通そうとしている再生可能エネルギー法の改訂案も、そのままでは進められなくなる。EUというのは、まったくもって複雑な機構なのだ。 さらにドイツでは、脱原発の厖大なコストだけではなく、脱原発の決定自体に対する非難も出始めている。 例えば、2月にミュンヘンの有名な経済研究機関、ifo研究所のハンス=ヴェルナー・ジン所長が、『マネージャー・マガジン』のインタビューで述べているところによれば、脱原発の決定は大きな誤りで、それは「将来の世代に迷惑をかけ、他国に間違った例を示している」のだそうだ。 太陽と風力の電気は「偶然に頼った電気」であり、産業国を支えるエネルギーとして、主要な位置を占めることはできない。つまり、これらの発電施設が「ほとんど無益であることがようやく明らかになってきた」と辛辣だ。 今まで、こういう意見は、あたかも箝口令が敷かれているかのごとく、聞こえてくることはなかったが、今年になって、次々とメディアが取り上げ始めた。ドイツ政府の顧問役であるベルリンのEFI(研究・革新専門家委員会)や、シュレーダー前首相が、脱原発に疑問を投げかけたことは、すでにこの項でも書いた。 再エネの一番のネックは、ジン氏の言うとおり、お天気任せだということだ。だから、発電施設がどれほど増えようが、それらが一切稼働しない時のため、バックアップの発電所が欠かせない。 ドイツの冬場には、日も照らず、風も吹かない日は結構多い。そして、冬場こそ電気の消費量はピークになるのだ。そのため、現在、ドイツの発電施設の総容量は、ピーク需要の2倍以上(1億8000万kW)と、完全な過剰施設になっている。再エネと既存のエネルギーの発電容量がダブっている結果だ。経済効率は極めて悪い。つまり、これがジン氏の言う「偶然に頼った電気」の問題点である。 環境主義者たちが目をつぶる再生エネルギーの欠陥 4月16日、電力会社RWEの株主総会が開かれた。ドイツには大手電力会社が4つある。RWEはそのうちの1社で、エッセン市に本社がある。 総会での報告は壊滅的なものだった。RWEは昨年28億ユーロの赤字を記録、60年来、初めてのことだそうだ。配当金はこの3年で3分の1に落ち、大型株主であるエッセン市にとっては、1900万ユーロの減収となる。 かつてのルール工業地帯のエッセンは、今ではそうでなくても多大な借金を抱えている貧しい州なので、途方に暮れていることだろう。RWEのスポークスマンはインタビューで、発電ができない電力会社がどうやって収入を上げればいいのかと述べていた。 再エネは、小規模な電力需要には向いていても、これで産業国の電気のすべてを賄うことは不可能だというのは、今では素人にでも分かる。 前述のジン氏によれば、例えば、2011年に太陽と風で発電された電気の半分強を、必要な時に使えるものにするためには、400カ所の揚水発電所が必要だそうだ(現在35カ所が完成)。そして、そのためには1000億ユーロ(14兆円)が必要になる。 しかし、それができたとしても、そんな高い電気を使って、いったい何を生産すれば採算が合うのだろう。 環境主義者や反原発派の人たちは、「偶然に頼った電気」という太陽光と風力の、エネルギーとしての致命的欠陥に一切触れないが、なぜそれを無視したまま話を進められるのかが分からない。ときどき停電になっても、それは別に構わないと思っているのだろうか。 再エネの成功は、蓄電をも含めた技術の革新と、助成金なしでも市場に参入できるだけの経済性を養うことなしにはあり得ない。今のドイツの再エネ電気は、市場の原則を無視して作られている。計画経済の支配している国ならそれもアリだろうが、ドイツはその電気を自由市場で売買しているから矛盾が起きるのだ。 再エネ構想は夢があって楽しいが、少なくとも日本の政治家は、ドイツで起こっていることをちゃんと見た方がよい。 |