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前代未聞「凍土遮水壁」の成算
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20140325/656430/?P=1
2014/04/01 日経BPケンプラッツ
東京電力福島第一原子力発電所の汚染水対策工事のうち、とりわけ注目を集めるのが、凍結工法による巨大な遮水壁の建設だ。2013年秋から進めてきた実証実験が、大詰めを迎えている。
接合部から300tの汚染水が漏れたフランジ型タンクのエリアを視察するIAEA(国際原子力機関)の視察団。東京電力はタンクを溶接型に置き換える方針を決定。製作や設置を安藤ハザマなどに発注した。同社土木事業本部の相田尚人土木事業企画部長は、「曲げ加工した鉄板を運び込み、現地で溶接して組み立てている」と話す。写真は2013年11月27日に撮影(写真:東京電力)
四つの原子炉建屋周辺を延長約1500m、深さ約30m、厚さ1〜2mの凍土壁でぐるりと取り囲み、建屋内への地下水の流入を抑制する──。東京電力福島第一原子力発電所の敷地内で、凍結工法による陸側遮水壁(凍土遮水壁)の建設に向けた試験施工が、3月から始まった。
試験施工が終われば2014年度上期にも本体工事に着手し、15年度上期内に凍土の造成を完了。建屋内の汚染水処理を終える20年度まで維持する。建設費319億円は国の予算で賄う。維持費は東京電力が負担する。工事は鹿島とグループ企業のケミカルグラウトが担う。
凍結工法は、都市部のシールドトンネル工事などにおける土留めや止水に活用されてきた。日本で手掛けているのは精研とケミカルグラウトの2社だけだ。凍土壁を造成するには、二重構造になっている鋼製の凍結管を約1m間隔で地盤に打ち込み、管の内部に冷凍機でマイナス30℃に冷やしたブライン(冷却液)を送り込んで循環させて、1カ月ほど掛けて周囲の地盤の間隙水を凍らせる。ブラインには塩化カルシウム水溶液を使うのが一般的だ。
凍結工法の国内での施工実績は588件。凍土の造成量が最も多かったのは、地下鉄の都営新宿線と東京メトロ半蔵門線のトンネル工事だ。日本橋川の直下を3万7700m3も凍らせて凍土ごと掘削する難工事で、1980年に竣工した。福島第一原発では、この時の造成量をはるかに超える約7万m3を見込んでいる。
なぜ、このように特殊な工法で遮水壁を設置することにしたのか。その理由をひも解くために、まずは汚染水問題の構図を振り返ろう。
陸側遮水壁(凍土遮水壁)の平面図。1〜4号機の建屋を囲う(資料:資源エネルギー庁)
■敷地に降る雨が地下水の供給源に
福島第一原発の建屋の周辺では、敷地の西側(山側)から東側(海側)に向かって1日に800tの地下水が流れている。このうち400tが建屋に流入し、内部に滞留している高濃度の汚染水と混ざり合って、新たな汚染水と化している。
東京電力の資料をもとに日経コンストラクションが作成。OPは小名浜港工事基準面
■福島第一原発の東西方向の地質断面図(2号機と3号機の間)
政府の汚染水処理対策委員会の資料をもとに日経コンストラクションが作成。横と縦の比率は1対10。青色の破線で2号機の建屋の断面を参考として示した。建屋の支持基盤は泥質部と互層部だ
建屋に大量の地下水が流れ込むようになったのは、1〜4号機の周辺に57カ所ある「サブドレン」と呼ばれる井戸が津波で損傷して機能しなくなり、地下水位が上昇したからだ。事故前はサブドレンから1日に約850tもの水をくみ上げて水位を下げ、建屋に働く浮力を抑制していた。
政府の汚染水処理対策委員会で委員長を務める関西大学の大西有三特任教授は「建屋に流入する400tの地下水の多くは、雨水が起源だ」と説明する。敷地内の土壌に浸透した雨水が透水層である中粒砂岩層と互層部を流れ、建屋地下の貫通部や外周部などから流入しているとみられる。
建屋内の汚染水はポンプで移送し、処理しきれなかった分をタンクに貯蔵しているが、タンクの容量と貯蔵量は逼迫している。2月25日時点で貯蔵量約43万tに対して容量は約47万t。東京電力は15年度末までに容量を約80万tに増やす計画を立てているが、結局はいたちごっこにすぎない。建屋に流入する地下水自体を減らしていくのが本筋だ。
■「遮水」と「くみ上げ」で汚染水の流入と流出を抑制
東京電力は当初、サブドレンを復旧させることなどで地下水位を下げようとしていた。しかし、仮に十分に機能しなければ、貯蔵計画が破綻する恐れがある。そこで、汚染水処理対策委員会が陸側遮水壁の建設をサブドレンの復旧などと並ぶ各種の対策の柱として位置付け、多額の国費を投入することが決まった。
■1号機から4号機の周辺で実施する対策の位置関係
取材をもとに日経コンストラクションが作成
■実施が決まっている汚染水対策による効果の推計
政府の汚染水処理対策委員会の資料をもとに日経コンストラクションが作成。地下水バイパスについては、複数の条件での解析結果のうち最も効果の高い値を示した
■シナリオどおりなら理想的な工法
陸側遮水壁の工法は、鹿島、大成建設、清水建設、安藤ハザマの4社がそれぞれ提案。粘土壁や砕石壁を退けて、鹿島の凍結工法が選ばれた。福島第一原発に特有の厳しい施工条件を、クリアできると考えられたからだ。
■陸側遮水壁(凍土遮水壁)
政府の汚染水処理対策委員会の資料をもとに日経コンストラクションが作成。ブラインを冷却する凍結プラントはOP(小名浜港工事基準面)35mの位置に設置する。ブラインの温度はマイナス30℃
例えば、建屋周辺の地下には配管用のトンネルなど様々な埋設物がある。しかも、図面には残っていない物も存在する。資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の和仁一紘課長補佐は、「実は、試験施工の予定地でも、想定していなかったU字溝が出てきた」と話す。凍結工法であれば、埋設物があっても連続した壁を構築しやすい。
大型の重機を持ち込む必要がないのも強みだ。凍結管を地表から鉛直に施工する際には、小型のボーリングマシンでケーシングを建て込み、凍結管をつなぎながら差し込む。作業エリアが小さくて済むので、がれき撤去など他の作業との競合が少ない。囲う範囲も最小化できる。
設置後、陸側遮水壁の内側への地下水の流入はほとんどなくなり、地下水位は均一になる。その後、計画に合わせて建屋内の水位を低下させると、それに伴って遮水壁内の地下水位も低下する。
■陸側遮水壁設置後の地下水位の変化
東京電力と鹿島の資料をもとに日経コンストラクションが作成
こうしたシナリオどおりに事が運べば、凍結工法による陸側遮水壁はまさに理想的な対策と言える。だが、実際の工事やその後の運用に当たっては、技術的な課題も少なくない。
■流れが速いと凍らない
課題の一例は、地下水の流れが速過ぎて凍土が閉合しないリスクだ。流れが速いと、いくら地盤を冷やしても地下水が次々に熱を運んでくるので壁を形成できない。
凍土壁のイメージ(写真:鹿島)
鹿島が実施したモックアップ試験では、1日に10cmの速さだと問題なく凍土の壁を形成できたが、1日に70cmだと壁ができなかった。
福島第一原発の敷地では1日に10cm程度のスピードで地下水が流れているとみられており、一見すると問題なく凍りそうだ。しかし、凍土を造成していく過程で地下水の流れがせき止められて、凍土の上流側の地下水位が上昇すると、下流側との水位差が大きくなって流速が増す「ダムアップ現象」が生じる。地形の影響などで、局所的に流速が大きい箇所もある。
ブラインの温度を下げるほか、凍結管を追加したり、上流側に薬液を注入して流速を小さくしたりする対策があるので克服できそうだが、現場は建屋に近く放射線量が高いので、作業時間が限られる。対策を打つ箇所が増えるほど工程を圧迫する。
東京電力と鹿島は実証実験や解析をもとに流速が大きいとみられる箇所や埋設物を横断する箇所を先行して凍結させる方針だ。
■凍結工法による陸側遮水壁の建設・維持に向けた課題と対策例
東京電力と鹿島の資料をもとに日経コンストラクションが作成
■効果が薄い場合の備えが不可欠
考えられる課題を事前につぶして工事に臨むことはもちろん、仮に失敗しても挽回できるように、次善策をそろえておくことも欠かせない。
汚染水対策を取り仕切る経済産業省の糟谷敏秀廃炉・汚染水特別対策監は「凍土遮水壁だけに頼らない」と話す。追加策として効果が期待できるのが敷地内のフェーシング(表面遮水)だ。地表に舗装や吹き付けを施し、土壌への雨水の浸透を防ぐ。約2km2の広い範囲で実施する方法や、範囲を約1km2に絞って周囲を遮水壁で囲う方法がある。
発電所の構内には配管などの様々な構造物が交錯していて施工が難しく、ちょっとした草地も見逃さずに、こまめに表層を削り取って遮水しなければならない。関西大学の大西特任教授は、「フェーシングは手軽に見えるが、非常に手間が掛かる作業でもある」と指摘する。実際に工事ができるか、労力に見合った効果を得られるか、現地の状況から見極める必要がある。
より多くの専門家の目で対策を検証することも欠かせない。土木学会は13年9月に立ち上げた汚染水問題を扱うタスクフォースを通じて東京電力などと情報交換を開始。メンバーが2月末に現地を視察した。委員長を務める長岡技術科学大学の丸山久一教授は「技術的な観点で設計や解析の妥当性をチェックしたり、対策がうまくいかない時の次善策を提示したりして、政府や東京電力を支援していく」と意気込む。
■鹿島が進める凍土壁の試験施工の平面図
鹿島は現地でロの字形の小規模な凍土遮水壁を構築している(資料:政府の汚染水処理対策委員会)
■土木はどう関わった?汚染水処理対策委員会の大西委員長に聞く
汚染水処理対策委員会委員長を務める関西大学の大西有三特任教授(写真:日経コンストラクション)
──汚染水対策の方向性は、どのようにして決めたのか。
対策に国が乗り出すことになり、それまで東京電力が実施していた地下水流動の解析モデルを構築し直しました。この解析モデルでは、1〜4号機の建屋を中心とする限られた範囲を対象にしていた。様々な対策の効果を分析するには、建屋周辺だけでなく、敷地を流れる地下水の全体像をより確実につかむ必要があったのです。
実は、「これでは不十分だから、自分たちにやらせてほしい」と大使館を通じて申し入れてきた国があった。汚染水問題には世界が注目していますから、海外にも対策の根拠をきちんと説明できるようにしておかなければならないと考えました。
そこで、地下水や雨水の挙動を扱うサブグループを委員会に設け、解析モデルを構築し直したのです。地質構造を整理し、水文学的な観点から範囲を大幅に拡大した。東京電力のモデルでは評価できなかった南北方向の地下水の流れも考慮しています。サブグループでは、土木研究所などのメンバーが手弁当で約2カ月間、会合を毎週のように開いて議論してくれました。今後も新たなデータに基づく精度の向上は必要ですが、土木の知見を存分に生かし、根拠のあるものに仕上がりました。
■地下水流動の解析範囲を大幅に拡張
政府の汚染水処理対策委員会の資料をもとに日経コンストラクションが作成
──解析によって分かったことは。
透水層を流れて建屋内に流入している地下水の大部分が、敷地内の雨水の浸透によるものだと分かったことが大きい。当初は、阿武隈山地から流れてくる地下水の影響が大きいのではないかと推察していましたが、対策を打つうえであまり関係がないと考えられます。
従って、発電所の敷地境界付近に遮水壁を設置しても、地下水の流入抑制には効果が薄いでしょう。現時点では、建屋の周りを陸側遮水壁(凍土遮水壁)で囲む対策が効果的だと裏付けることができました。
解析では、敷地内の地表をフェーシング(表面遮水)して、その周囲を追加の遮水壁で囲うと流入抑制効果が高いことなども分かっています。
ただし、全域に施工するのは大変ですから、どの領域を対象とすれば最も効果が高いのかを現地調査を踏まえて検討しています。遮水壁を追加して建設する場合、陸側遮水壁に付け足すか、あるいは海側遮水壁に取り付けてより広い範囲を囲う方法も考えられます。
汚染水処理対策委員会委員長
大西有三(おおにし・ゆうぞう)
関西大学環境都市工学部特任教授、京都大学名誉教授。岩盤工学、地盤工学が専門。2013年4月から、政府の汚染水処理対策委員会で委員長を務める
日経コンストラクション3月24日号特集「土木が挑む『原発事故』」では、汚染水処理対策のほか、原子炉建屋のがれき撤去に活用されているがれきの自動搬送システムや、全国の原発で進む安全対策についてもリポートしている。併せてお読み頂きたい。
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