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エネルギー基本計画で日本は完全にエネルギー後進国へ 官僚と族議員の「利権の章典」(古賀ブログ)
http://financegreenwatch.org/jp/?p=42952
4月 11th, 2014 古賀茂明 Finance GreenWatch
4月11日にエネルギー基本計画が閣議決定される予定です(決定されました)。まだ、正式な最終バージョンはありませんが、内々に入手した最終案を見て、本当に悲しくなりました。この基本計画の要旨を私なりにまとめると以下のとおりです。官僚と族議員の「利権の章典」です。
・原発はこれまでどおり続けます。何があっても止めません。
・核燃料サイクルもこれまでどおり続けます。
・「もんじゅ」も、いつでも元に戻せるようにしながら続けます。
・核のゴミの処理はめどをつけないままどんどんゴミを貯めこみます。
・地元が反対してもそれは無視して最終処分場の場所を国が決めます。
・原発の事故やゴミ処理のコストは、電力会社の負担にするのは最小限として、
殆どを国民の税金と消費者の負担に付け替えます。
・エネルギー安全保障の名の下に壮大な利権の仕組みを拡大します
・原発事故の最大の責任者である経産省を不問に付します。
・その他、重要でないのにわざわざ書いたことを含め、ここに書いたことは、
全て予算要求の重要な根拠として使います。
●良心のかけらもない「真摯な反省」
「事故発生を防ぐことができなかったことを真摯に反省し」というなら、何をどう反省して、誰がどう責任を取ったのかを書くべきだが、何も反省していなくて、誰も責任を取っていないので、何も書けない。こんなに不真面目な「真摯」という言葉の使い方は初めてだ。
●原発は長所ばかり?の「重要なベースロード電源」
原発の位置づけについては、「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく」「数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる」「低炭素の」「准国産エネルギー源」「優れた安定供給性」「効率性」「運転コストが低廉で変動も少なく」「運転時には温室効果ガスの排出もない」などと、「長所」だけを羅列して、「重要なベースロード電源」と位置づけた。
他方、長所の記述と並んで記載されるべき、安全確保の困難さ、地震の活動期に入った日本ではとりわけ危険性が高まっていること、事故が起きたら取り返しのつかない被害が出ること、十分な避難対策の実施が困難なこと、核のゴミの処理ができないこと、事故処理やゴミ処理のコストを入れれば非常に高いこと、作業被爆やテロの危険性などのリスクについては一切触れていない。
こんなに一方的な原発礼賛は、いまだかつて見たことがない。
●再生可能エネルギーは「高くて不安定」と決め付け
再生可能エネルギーの位置づけでは、「まず、安定供給面、コスト面で様々な課題が存在」と欠点を一方的に指摘している。欧州などでは、安定供給面で重要な役割を果たしていることなど全く無視した議論であるし、後述するとおり、原発は風力はもちろん太陽光よりも高いという欧州の常識も全く無視した記述となっている。日本でしか通用しない、おそろしく「遅れた」認識をさらけ出してしまった。
●原発推進なのに「可能な限り低減」とまやかしの表現
この計画に書いてあるのは、ただひたすら原発を進めますという話ばかりである。しかも、ありとあらゆることを国が前面に出てやるという。その意味は何かというと、全ては国民の税金につけ回ししますよ、という意味でしかない。その他の部分も、よく読むと、要するに電力料金に転嫁して消費者に押し付ければよいという考え方。非常に不真面目としか言いようがない。
それほどなりふり構わず、原発を推進しようとしながら、「原発依存度については」「可能な限り低減させる」と書いてある。しかし、書いてある内容は、可能な限り原発を推進するとしか読めない。いずれにしても、「可能な限り」というのは、官僚の常套句であって、全くできませんでしたと言っても、「可能でなかったので」と一言言えばすむという魔法の言葉である。1%でも下げれば、「殆ど不可能なのによく頑張った」と自己評価するのである。
●原発は安全だという嘘
もちろん、この計画には、原発の規制基準が全く不十分であることは書いてない。「世界で最も厳しい水準の規制基準」と決め付けているが、規制委の基準は、避難対策が入っていない大欠陥基準である。こんなものをよく世界最高の「水準」と言ったものだ。安倍氏との違いは「世界最高」ピリオド、とまでは言えなかったことだ。「水準」と入れたところに恥ずかしいからという気持ちがほんの少し現れたのかもしれない。
とにかく原子力規制委員会が安全だと言ったら、安全だというだけ。規制委を免罪符に使っている。しかし、規制委は、「避難対策は知らない」と言っている。そして、政府も避難対策については責任を負わない。避難対策について、科学的、専門的な審査なしで動かしてしまうという、世界中が驚くような方針になっている。
福島の事故への真摯な反省はどこへ行ったのか。安全神話はなくなったというが、まさに、絶対に事故が起きないと考えているからこそ、避難対策が不完全でも動かしてよいということになっている。安全神話の完全復活と言ってもよいだろう。
●原発は安いという嘘
重要なベースロード電源であるためには、安くて止まらないということが必要だが、実際には、原発は高い。止まらないと言うのも嘘で、単に止めにくいというだけだ。トラブルがあれば、巨大な供給ロスが起きるので、全く当てにしてはいけないことは、東日本大震災の時に経験した。
そもそも、原発が安いと言っている先進国は日本くらいだ。米国は、政府としては原発推進だが、過去38年間原発は新設されていない。それは、ただ単に、経済的にペイしない、つまり高いからに他ならない。米国では、GEなどが原発はペイしないと公式に認めている。
英国は欧州では、フランスと並ぶ原発推進国だが、やはり、民間に任せても一向に原発ができないので、仕方なく、補助金を出すことにした。しかも、その補助金が風力に対するものより高いというのが現状だ。
福島事故のコストが少しずつわかってきたが、それでも、まだまだ際限なく増えることは明らかだ。日経センターの非常に少なめに見積もった試算でも風力発電よりも高くなりそうな水準である。原発の発電コストは、8.9円という政府試算の2倍を超える17円の水準だというのだが、それには核のゴミの費用や、本格的な除染の費用を含んでいない。
特に除染は、何故か、山や川や湖やダムなどの除染をしないことになっているが、それを入れたら、桁が二つくらい違ってくる可能性がある。コストを高くしないために除染の範囲を狭くしてきたというのが実態だ。本来なら、日本中に飛散した放射能の除染コストを入れるべきなのにそれを全く無視して、非常に小さく見せている。本当にひどい話だ。
こうした事実を全て封印して、単純に「運転コストは低廉」とだけ書かれたのでは全く客観的とは言えない。事故コストや建設コストについてはあえて触れないという作戦。日本は、安全基準が不十分なので、建設コストが安くなっている。
とにかく安い、安いというのは、逆に原発動かさなければ値上げだぞという、非常にわかりやすい脅しに使えるという計算がある。しかし、実際には、事故や核のゴミの処理コストなど際限ない負担を全てその時々と将来の世代の国民につけ回しする前提で、「安い」といっているだけで、本来は、そういう費用をしっかり積み立てることにすれば、原発を動かすと、むしろ、電力料金をさらに大幅に値上げしなければならないはずである。
●核のゴミの問題を先送りしないという嘘
使用済み核燃料などの処分問題については、「先送りせず着実に進める」と言っているが、それは、「国が前面に出る」とか、「取り組みを進める」とか「技術開発を進める」とか言うだけで、今まで全くできなかったものが、急にできることになるのか全くわからない。
しかも、一昨年に日本学術会議が原子力委員会の正式の諮問に対して正式に回答した中で、日本では地層処分に適したところを見つけるのは無理だと言っているにもかかわらず、世界では地層処分が主流であるから日本もそれで行くという驚くべきいい加減な方向を出している。日本学術会議の回答については、そもそも言及すらされていない。もちろん、言及した途端に自分たちの論理が崩れるからだろうが、こうした非科学的な姿勢をとる政府の言うことを誰が信用するというのだろうか。
●核燃料サイクルや「もんじゅ」も絶対にやめない頑迷な姿勢
高速増殖炉「もんじゅ」構想がすでに破綻しているのに、それとセットで考えられていた再処理やプルサーマルをこれまでどおり維持することを宣言している。高速増殖炉がなければ、経済的にはとても正当化できないことは誰もが認めているところであり、始めてしまったから止められないという官僚と族議員の利権維持本能がそのまま文章になっているようだ。
もんじゅも、いかにも計画が大幅に変更されたかのような記述も見えるが、実際には、過去に作られた「もんじゅ研究計画」を生かすことを明記して、いつでも復活できるような記述となっている。
要するに、核燃料サイクル事業は、ほんの少し変更を加えただけで続けていくということだ。
●再生可能エネルギー産業で世界に置いて行かれることが必至
原発については、なりふり構わぬ推進ぶりが際立つ計画だが、再生可能エネルギーについては、公明党などが求めた高い数値目標の設定を見送った。これによって、日本は、世界に向けて、再生可能エネルギーに本気で取り組むことはないという意思表示をしてしまうことになる。
今すでに、日本は、風力でも太陽光でも先進国はおろか中国にも大きく遅れを取っている。毎年膨大な新規投資が行われるこの分野で、日本の存在感は殆どない。太陽光パネルも風力発電機も全く国際競争力がないため、輸出はほぼゼロだ。
本計画で、明確な数値目標を示して、政府がなりふり構わずに再生可能エネルギーを推進する姿勢を示さなければ、民間企業は思い切った投資ができない。原発には、ものすごい資金と労力を注ぎ込むのに、再生可能エネルギーにはほとんど力入れないという姿勢は、これまでと何ら変わらない。
昨年の世界の稼働中の原発は3基減った。3基稼働したが6基が閉鎖されたからだ。投資額で見ても微々たる額だが、これに比べて、再生可能エネルギーへの投資額は、毎年2000億ドルを超える。20兆円以上だから、どれだけ大きな市場かがわかる。
世界の製造メーカーは、原発を捨てて、再生可能エネルギーに一気にシフトしている。この分野で覇権を取る国が、21世紀の産業の覇権を取るという意気込みで各国の企業がしのぎを削っているのに、日本のメーカーは蚊帳の外だ。かろうじて、商社などが、海外の企業と組んでこの分野で健闘している。
安倍政権は、こうした状況の中で、原発回帰を叫んでいる。原発輸出にも力を入れるし、原発関連の人材育成にも力を入れるという。
しかし、これから少子化が進んで、ただでさえ若手の技術者が貴重になる中で、再生可能エネルギーよりも原発を優先することの愚かさがわからないのだろうか。
おそらく、安倍総理の頭の中には、タカ派政策の総仕上げとして、核爆弾の保持ということしかないのではないだろうか。この基本計画を見ていると、そんな風に思えてくるのである。
●資源エネルギー庁の責任問題と組織改編に触れていない
この基本計画には、電力システム改革についてはあまり触れられていない。また、経産省という原発政策の失敗を犯した組織の問題やその組織改革についても全く触れていない。
これまで、電力会社と癒着して、途方もない無駄な電力システムを温存し、その利権をむさぼってきた経産省の改革なくして、電力システム改革も原発政策も殆ど改善される見込みはない。
電力料金査定をはじめとした各種の規制権限を経産省から引き離し、独立した第三者委員会に委ねる方向を示すべきだったが、そもそも、この計画は経産省の官僚が作っているため、そんなことはもちろん、検討さえされなかった。
●後は、予算要求の根拠となる作文のオンパレード
この計画のかなりの部分は、経産省の事業計画を書き込んである。かなり細かいことまで出ているが、それは、この計画に書かれた文章が、夏以降の来年度予算要求の根拠となるからである。つまり、この計画は、一言で言えば、「原発永遠不滅推進計画」兼「経産省予算要求登録台帳」ということである。いずれにしても、こんなに重要な計画が殆ど国会でも深められた議論なく決まってしまうことに、何とも言えぬ無力感を抱くのは私だけではないだろう。
mailto:notifier@ismedia.jp
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