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原子力協定をめぐる国会論争のナイーブさ 再処理特権は“パワーゲーム” 「井の中の蛙」たちは歴史を学べ(WEDGE)
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投稿者 赤かぶ 日時 2014 年 4 月 11 日 13:21:52: igsppGRN/E9PQ
 

原子力協定をめぐる国会論争のナイーブさ 再処理特権は“パワーゲーム” 「井の中の蛙」たちは歴史を学べ
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140411-00010002-wedge-soci
WEDGE 4月11日(金)12時33分配信


 日本国内で原発再稼働や核燃料サイクル(六ヶ所再処理工場、もんじゅ問題等)をめぐる議論が沸騰している一方、国際社会では、新興国における原発問題、とりわけ再処理や濃縮問題が重要なテーマとして関心を集めている。

 周知のように、使用済み核燃料の再処理(及びそこから出てくるプルトニウム管理)とウラン濃縮は核兵器製造に繋がりやすい機微な技術であるので、二国間原子力協定で特別に厳しく規制されている。さらに、国際原子力機関(IAEA)の査察や「原子力供給国グループ」(NSG)の輸出規制の対象にもなっている。そして、その結果、諸々の複雑な国際・外交問題が生じており、各国とも対応に苦慮している。

 従来日本では、こうした核拡散をめぐる原子力外交上の問題が一般市民の関心を惹くことはなかったが、これからの日本国内の原子力政策や原発輸出、原子力技術協力問題等を考える上で必要な知識であるので、この機会に原子力外交の歴史的背景やその仕組み、問題点などをごく簡単に概説してみたい。

■米国の核不拡散政策の大転換

 原発の世界的普及に伴う核拡散問題に最も神経質なのは核兵器(原爆)を最初に開発した米国である。第二次世界大戦後米国は、アイゼンハワー大統領の「Atoms for Peace(平和のための原子力)」(1953年)構想の下、日本を含む世界各国に原子力平和利用を熱心に勧奨し、積極的に技術支援を行ってきた。

 ところが、20年後の1973年に突発した第一次石油危機をきっかけに、各国で原子力発電所の建設が急増し、また、新しく原子力を導入する国が次々に出現したため、核の拡散、すなわち核物質や技術の軍事転用の危険を懸念し始めた。「核兵器の不拡散に関する条約」(核不拡散条約=NPT)は1970年に発効していたが、当時同条約に加盟しない国も多かったので万全とは言えなかった。

 そのような折も折、NPT非加盟のインドが、1960年代にカナダから輸入した研究用の小型重水炉の使用済燃料からプルトニウムを抽出し、それを使って核実験を行った(1974年)。重水は米国が供与したもので、米加両国は大きな衝撃を受けた。インドはNPT非加盟国であり、しかも核実験は「平和目的」であると主張したので、必ずしも国際法違反を犯したわけではなく、それだけに対応が難しかった。ちょうどそのころ発足したばかりの先進国首脳会議(サミット)参加国は急遽ロンドンに集まって対策を協議した。日本を含む7カ国によるこのロンドン・グループこそ現在の「原子力供給国グループ」(NSG)の前身で、その主目的は機微な原子力機器、資材、技術の輸出規制であった。

 こうした状況の中で、若き日に海軍士官として原子力潜水艦の設計に携わった経験を持つジミー・カーター氏(民主党)が1977年1月に米国大統領に就任した。就任するや否や彼は、従来の原子力政策の大転換を断行した。すなわち、米国内の民生用原発の使用済み燃料の再処理と高速増殖炉の開発の中止を決定すると同時に、返す刀で、世界各国に対し再処理、プルトニウム利用等の禁止を含む厳格な核不拡散政策を適用すると発表したのである。

■日米が激突した再処理交渉と原子力協定改正交渉

 そして、この新政策の適用第1号として槍玉に挙がったのが、当時操業開始直前にあった日本の東海再処理施設(六ヶ所工場の約10分の1の規模)であった。かくして1977年夏、同施設の運転、英仏再処理委託、プルトニウム利用等を含む日本の核燃料サイクル計画をめぐって日米が真正面から激突した。日本国内では「国難来る!」の危機感が溢れ、マスコミも「日米原子力戦争」と一斉に書き立てた。

 東京で行われた日米交渉では、日本側は、宇野宗佑・科学技術庁長官兼原子力委員長(その後外相、首相を歴任)を中心に、官民一体のオールジャパン体制で徹底抗戦した。当時外務省の対米交渉担当者だった筆者らは、米国を説得し再処理権を獲得するために連日連夜、文字通り骨身を削る苦労をした。その結果、東海再処理施設については、なんとか運転開始を認められたものの、「2年間限り99トンまで」という厳しい条件付きであった。期間の制限はその後小刻みに数回にわたって延長されたが、その都度延長交渉は困難を伴った。

 結局日米交渉は断続的に10年の長きに及んだ。途中で1981年に米側の政権交代で、原子力推進派のロナルド・レーガン氏(共和党)が大統領になったため、以後の日米交渉は比較的スムーズに行くようになった。そこで、再処理問題を含む本格的な日米原子力協定の改正交渉に移行し、両国の行政府同士の交渉は事務的に順調に進んだ。しかし、米議会には民主党を中心に強固な核不拡散論者や反原発論者がかなりいて、様々な“難癖”をつけたので、最後まで気を緩めることはできなかった。

 このような様々な紆余曲折を経て、1988年に発効した新日米原子力協定(2018年まで30年間有効)では、日本は再処理、濃縮(20%以下)、第三国移転について「長期包括的承認」を与えられることになった。それ以前の「ケースバイケースでの承認」ではなく、一定の条件下で一括して事前承認するという方式を確立した結果、日本の原子力平和利用活動は安定した法的基盤におかれることとなったわけである。ちなみに、このような形で再処理、プルトニウム利用などを行うことができる権利は、核兵器国(米露英仏中の5カ国)を除くと、日本とユーラトム(欧州原子力共同体)加盟のドイツ、イタリア等だけに認められた非常に貴重な権利である。

 このような歴史的経緯から見ても、日本は1日も早く六ケ所再処理工場を稼働させ、もんじゅ、プルサーマル(MOX燃料)などの核燃料サイクル活動を軌道に乗せる必要がある。さもなければ、現行日米原子力協定が期限満了となる2018年以後に不安定要因を抱えることになるだろう(この問題は別の機会に詳しく論ずる予定)。

■インドの対米粘り腰交渉

 ところで、日本以外でも、米国との間で困難な再処理交渉を経験した、あるいは経験しつつある国が2つある。いずれもアジアのインドと韓国である。

 NPT非加盟のインドは、アジアでは最も早くから原子力研究開発に着手し、現在世界有数の高い原子力技術を有する国であるが、前述のように、1974年の核実験以来各国の制裁措置により、国際原子力市場から締め出された状態が長く続いていた。インドの西海岸にあるタラプール原発には、1960年代末に米国から輸入された軽水炉2基があるが、米国は、NPTに加盟せずに核実験を強行したインドとは原子力関係を断絶。タラプールの取り換え燃料の供給を拒否し、同炉の使用済み燃料の再処理も認めなかった。1998年のインドの第2回核実験で、日本はじめ各国は対印制裁措置を一段と強化した。

 しかし21世紀になって国際政治状況が大きく変わり、ブッシュ(息子)政権時代に劇的に発表された米印原子力合意が難産の後に成立。「原子力供給国グループ」(NSG)の承認を得て、米印原子力協定締結が実現した(2009)。その過程で、インドは、数年に及ぶ実にしぶとい対米交渉の結果、事実上再処理権を米国に認めさせることに成功した。

■行き詰まる韓米再処理交渉 日本を羨む韓国

 他方、世界第5位、アジアで第2位の原発大国である韓国は、現行の韓米原子力協定を改正してぜひ日本のように再処理権を獲得したいと、朴槿恵大統領以下必死に対米交渉を行っているが、北朝鮮との関係もあり、米国政府は頑として応じない。米国としては、もし韓国に認めると他の新興国にも認めなければならなくなり、歯止めが効かなくなることを懸念しているわけだ。ちなみに、現行の韓米原子力協定は旧日米協定と同タイプで、再処理については「ケースバイケースでの承認」を必要としている。

 同協定は本年3月で切れたので、暫定的に2年間延長して交渉を継続しているが、見通しは非常に暗い。韓国側は、同じ同盟国なのに日本だけを優遇し、韓国を「二流国」扱いしていると憤懣やるかたない状況だ。こうした韓国問題については次の拙稿で詳しく解説してあるので、関心のある方は是非参照されたい。「韓国が羨む『再処理特権』 六ヶ所の稼働を急げ」

■イラン核問題をめぐる交渉の行方

 もう一つの問題国は、いうまでもなくイランだ。周知のように、イランの場合は、再処理よりもウラン濃縮が問題となっている。現在遠心分離工場が2カ所で稼働中で、すでに原爆数発分の高濃縮ウランを持っているとされる。イラン側は、「ウラン濃縮は平和目的である。昨年から稼働中のブシェール原発(ロシア製軽水炉)の燃料のほか、今後さらに原発を増設する計画なので大量に必要だ」と主張し、濃縮活動自体をやめる気配はない。軽水炉用なら3〜4%の微濃縮で十分なはず。核兵器開発の疑惑は一向に晴れない。

 とはいえ、現状のままでは西側諸国による経済制裁で苦しいため、昨年夏誕生した穏健派のロウハニ新政権は、交渉による解決に踏み切った。オバマ米政権も、現在の中東情勢下での軍事的解決(つまり米イラン戦争)は危険が大きすぎるので、外交交渉による解決の道を選んだ。もし戦争になれば、イランがホルムズ海峡を封鎖するのは必至で、そうなれば日本も石油輸入が途絶し、大変なことになるだろう。

 かくして昨年秋、スイスのジュネーヴで、イランと6カ国(米英仏露中プラス独)が協議をした結果、問題解決のための「第一段階の措置」について合意が成立。今後6カ月かけて本格合意を目指して交渉が続けられているが、果たして今後どうなるか、予断できない。なお、イランも、韓国同様、日本が米国から再処理、濃縮権を認められていることを不公平だと批判している。

■ベトナムやトルコの再処理問題 日本はどう対応するか?

 韓国やイラン以外にも、新興国の中には、将来自国で(または第3国に委託して)濃縮や再処理をしたい、そのための権利を確保しておきたいという国がある。例えば、日本がすでに締結した日ベトナム原子力協定(2012年に発効済み)や、昨年夏署名済みの日トルコ原子力協定(今国会に提出中)では、将来日本の事前同意が得られれば再処理できるという形になっている。

 実は、まさにこの点が現在日本の国会で問題視されており、自民党・公明党のほか、民主党、日本維新の会など野党でも一部の議員が反対ないし難色を示している。これらの議員たちは、最初から再処理を禁止する条項を協定に入れておくべきだと主張している。このような批判に応えて、岸田外務大臣は「日本は再処理をトルコに認めることは考えてない」との国会答弁を行っている。

 しかし、再処理技術のイノベーションにより将来核拡散に繋がらない方法での再処理が可能となることも考えられ、さらに、日本でも言われているように、再処理によって使用済み燃料を減容し最終処分がしやすくなるという利点もありうるので、現時点でアプリオリに再処理禁止を協定で明記しておくのは得策ではなく、必要でもない。いずれにせよ、ベトナムやトルコが仮に再処理を希望するとしても、それは20、30年先のことで、将来諸々の状況や要因を考慮して合理的に判断するべきものである。

 他方、アラブ首長国連邦(UAE)のように最初から自前の再処理、濃縮を断念している国もある。米国は、UAE方式をゴールド・スタンダード(モデル協定)にしたい意向で、日UAE協定(今国会で審議中)もこの方式を踏襲している。

■再処理をめぐる不平等性

 当然のことながら、新興国にもそれぞれの事情や計画があるから一律に論ずることはできない。UAEのように自発的に再処理・濃縮の権利を放棄する場合は問題ないが、相手国がその権利を熱望するときに、供給国の政策として一方的に再処理禁止を押し付けるのは必ずしも賢明ではないと思われる。現時点であまり厳しい規制をかけると、新興国は日本や米国を避け、もっと規制の「甘い」国(ロシア、中国など)との原子力協力に走る惧れが多分にあるが、それは、単にビジネスチャンスを失うというだけでなく、核不拡散のための国際秩序維持というより高い視点からみて決して望ましいことではない。

 いずれにせよ、このように国によって差別が付き、不公平が生ずる根源的な原因は、核不拡散条約(NPT)で明記されている「原子力平和利用の権利」(第4条)の中身が曖昧なためである。すなわち、「本条約は、全ての締約国の原子力の平和利用のための権利に影響を及ぼすものではなく、全ての締約国は、原子力の平和的利用のため、設備、資材及び情報の交換を容易にすることを約束し、その交換に参加する権利を有する」とあるが、実態としてこの条約ができた1960年代には、各国の関心事は原子炉(主に軽水炉)による発電の技術であった。再処理・濃縮の技術は米露など一握りの先進国しか持っていなかった。しかし、その後原子力発電が進み、現在ではいくつかの先進国(日本を含む)がこの技術を持っており、新興国の中でも、将来大規模な原子力発電を計画している国の場合、再処理の権利を確保しておきたいと考えるのは自然だろう。

 元々NPTには「核兵器を持ってもよい国」(5大国)と「核兵器を持ってはいけない国」(5大国以外のすべての国)の差別があり、本質的に不平等条約と言われる所以であるが、それに加えて、NPT加盟の新興国や開発途上国の間には、「もう一つの差別」を指摘する声が強い。すなわち「再処理をしてもよい国」(5大国のほか日本や一部のユーラトム加盟国)と「再処理をしてはいけない国」の差別で、これに対する不満は年々大きくなってきている。

■日本の原子力外交に求められるもの

 日本は、1970〜80年代に必死に対米交渉をした結果、非核兵器国ながら再処理、濃縮の権利を獲得した、いわば既得権者、特権階級である。それだけに、韓国やイラン、北朝鮮だけでなく、多くの国から羨ましがられ、あるいは問題視されている。だから、自らの既得権に胡坐をかいて、安閑としていると、どこで足を掬われるかわからない。

 これまで長い間日本は、米欧の先進国との原子力関係では、原子力資材・技術の輸入国として、もっぱら「規制される側」の立場で対応してきたが、今後は新興国との関係において、供給国(輸出国)として「規制する側」の立場で判断しなければならなくなっているわけだ。まさに発想の転換が必要になっているのである。

 そうした2つの立場の違いをよく弁えて、適切かつ能動的に対応しなければならないが、そのためには、再処理・濃縮問題や原子力協定問題を単なる技術問題やエネルギー問題としてではなく、より広い外交的、戦略的な観点からしっかり考える姿勢が平素から必要なのである。これを筆者は、外務省の初代原子力課長としての長年の経験から「原子力外交」と呼んでいるのであるが、国会や論壇においても、是非そのような広い視野と高い視点で徹底的に議論してもらいたいと強く願っている。

*関連記事:「日本は原発を輸出すべき 本質を歪める『5つの論点』」

金子熊夫


 

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