http://www.asyura2.com/14/genpatu37/msg/362.html
Tweet |
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140328/261942/?P=1
世界的には、再生エネルギーのコストは急速に下がってきており、再エネは高いという常識は過去のものになりつつある。今回は、大規模ウィンドファームやメガソーラーが相次いで運開している米国の最新情勢を取り上げる。その低コストは衝撃的である。
日本では「コスト高」扱いだが……
日本では、いまだに再エネはコストが高いという前提で議論が進んでいる。公式に発電コストが見直されたのが2011年に開催されたコスト等検証委員会においてであり、同年12月に発表されている。
そのコスト水準が概ね固定価格買取制度(FIT)のコストの前提となっている。買取り価格は発電原価に事業収益率(IRR)、系統への接続費用を乗せたものである。コスト委員会の結果によると(2010年モデル)、kWh当たりで原子力8.9円(下限)、石炭9.5円、LNG10.7円、陸上風力9.9〜17.3円、メガソーラ30.1〜45.8円となっている。FIT条件は、太陽光が40円から32円へ低下したが、それ以外は基本的に同一水準であり、コスト委員会の試算が生きている。
ところが、海外では条件のいいところでは、驚くべき低水準の長期売買契約(PPA:Power Purchase Agreement)が実現している。米国を例にkWh当たりの契約価格を見てみる。風力発電は、2.5セントを最低価格として、3セント程度の契約が続々と登場している。太陽光も、25年間で7セントを切る契約が現れた。この水準だと、火力、原子力の大規模発電よりも低いか、少なくとも伍するのである。減税措置を織り込んでいるため、実際は少し高くなるが、それでも低い。
風力大国テキサス州は3セントが一般的
米国最大の風力開発量を誇るテキサスでは、kWh当たり3セント前後でのPPAが一般化しており、2.5セントを記録する事例もある。連邦政府の発電量に応じた減税措置であるPTC(Product Tax Credit)の10年間2.2セントを考慮に入れても、当初10年で5セント前後の水準である。契約全期間を勘案するとさらに低くなる。
大規模事業のスケールメリットに加えて、風況に恵まれていることがある。設備利用率(キャパシティ・ファクター)は4〜5割にも達する。このコスト水準だと火力発電に対して十分競争力がある。天然ガス火力の変動費は、シェールガス革命で歴史的低水準にあるなかで3セント程度、これに設備関連コストの3セントを加えると、少なくとも新規投資ベースでは競争力がある。逆に、テキサスや中西部では、火力発電建設を決断するのは勇気が要る。
風車の技術革新は続いており、天然ガス価格の上昇や炭素価格付与を予想するとなおさらである。最近風力に導入されたテクノロジーとしては、従来と同じ風速でも、より多くの発電量が得られるものが多い。風車毎に蓄電池を設置し風況に応じて速やかに羽の角度(ピッチ)を調整する、羽を長くすることでより遅い風速でも発電する、天候予想や混雑状況を勘案して出力を最適に制御するソフト技術等である。
米国は、総出力6100万kWを誇る風力大国であるが(2013年12月末)、テキサス州は1240万kWが立地する全米NO1の地位にある(資料1)。
同州での計画は2200万kW、建設中は700万kWにものぼる。昨年末に6年間、68億ドルをかけて建設した送電線が全線開通し、1850万kWまでの設置が可能となった。州内の風力発電比率は約10%に達している。2008年の4.9%から5年間で2倍になった。
バフェット氏の判断「風力は最も安い」
この驚異的な低コストはテキサスだけではない。広大な平地を擁する中西部に相次いで大型ウィンドファームが建設されている。風況がよく、また巨大な電力市場である東海岸と系統が繋がっているからだ。オバマ政権のグリーンニューディール政策は、この「ウインド・ルート」が念頭にあった。ルート上にリストラや閉鎖が予想される自動車産業や石炭火力が多く立地し、この雇用受け皿としても期待された。風車製造は回転式の機械産業であり、その設備は発電会社に供給される。
稀代の投資家であるウォーレン・バフェット氏は、「風力発電が最も安い」と判断している。2013年12月に、バフェット氏が率いるエネルギ−開発会社「ミッドアメリカン・エナジー」は、シーメンスとの間で10億ドルの風力発電設備調達契約を結んだ。バフェット氏は、かねてよりアイオワ州で20億ドルの風力開発を行うと明言していたが、その2分の1について具体化した。同州のブランスタッド知事は、風力事業を「アイオワ州有史以来最大の経済活動」と評価している。シーメンスの風車工場は同州に立地しており、雇用効果も見込める。
バフェット氏は、風力のコスト競争力を高く評価しており、老朽化した石炭火力の代替電源として最適との見解を示している。一方、風力に投資しているモルガンスタンレーは、2013年11月のシンポジウムにて、ミッドウエスト地区の風力発電のコスト競争力を高く評価した。設備利用率が5割を超えるケースも多く、その場合の長期契約単価は2.5セントが見込めるとしている。
オースチン市の太陽光発電が新ステージを開く
テキサス州都であるオースチン市は、市民で経営する電力会社「オースチン・エナジー」を有している。これが太陽光発電史上に輝く金字塔を打ち立てた。
同社は、15万kWもの太陽光発電をサンエジソン社から25年間でkWh当たり5セントを切る価格で購入する。この取引については、3月7日付けのオースチン・アメリカンステーツマン、およびそれを受けた3月10付けのグリーンテックメディアが取り上げた。以下、両紙の記事を基に、一部筆者の感想を入れて、紹介する。
オースチン市は、温暖化対策とともに低コスト電源安定調達の視点から、再エネの調達を大幅に増やす目標を持っている。発電量に占める再エネ比率を2016年までに35%まで上げる。既に風力を主に25%まで到達している。同市は85万kWの風力発電購入契約を締結している。
また、2020年までに太陽光発電の使用量を20万kWとする目標もあり、今後は太陽光の出番が増えることになる。風力は石炭火力代替の狙いがあるが、太陽光はピーク電源確保の意味合いが強くなる。同市の電力需要は増えてきている一方で、ピーク時の系統制約が強まっている。
この5セントを少し下回る価格水準は、一過性ではない。オースチン市の募集に応じた事業者は30社程度あり、その多くはサンエジソンと遜色のない水準だった。サンエジソンが赤字覚悟で突出した条件を提示した訳ではないのだ。
これには連邦政府の免税措置が含まれている。太陽光発電に関する代表的な支援策として、3割の投資減税(ITC:Investment Tax Credit)があるが、通常はこれが利用される。また、10年間2.2セント/kWhのPTCを選択することもできる。ITCは、その対象となる事業費が限定されており、事業により対象範囲が異なる。総事業費の8割が対象とすると、補助金抜きのコストは6.6セントとなる。PTCを選択する場合は、5.6セント程度となる。
低コストが実現できる理由
どうしてこのように安いのか。ソーラーシステム自体のコスト低下はもちろんあるが、購入者であるオースチン・エナジーの存在が大きい。同社の財務内容がしっかりとしており、挌付けも高い。大規模契約によるスケールメリットを享受できる。当初は5万kWを予定していたが、10万kWを追加し15万kWの契約とした。本取引の関係者は、特に金融費用の削減が効いている、と指摘している。
一般に、金融機関は、リスク評価や減税などの政策支援をインテグレートした金融商品を仕立て上げる。ソーラー事業のデータ蓄積が進むと、リスク評価が容易になり、規模が大きいと審査コストも下がる。再エネ事業のコストが低下するためには、金融コスト削減が効く。超長期契約では金融コストの占める割合は大きくなるからだ。
なお、オースチン市は、他地域との調達競争で不利にならないとの視点から、調達条件については電源毎に幅をもって公表している(資料2)。
風力2.8〜5.5セント、太陽光4.5〜5.5セント、木質バイオマス9〜16セント、天然ガス7セント、石炭10セント、原子力13セントとなっている。再エネは長期契約価格であるが、火力・原子力に関しては電力取引市場からの調達価格が織り込まれているものと考えられる。夏季の市場価格は急騰するので平均すると高くなる。夏季ピーク対策を打つ誘引が高くなる。ピーク用に適する太陽光や消費のピークシフトが効果を発揮する。なお オースチン市は、30年間の平均コストで判断するとしている。その場合は、燃料費ゼロの再エネは、20年以降は償却が済んでいるために優位性が更に高くなる。テキサス州の電力系統は独立しているので、同州のエネルギ−環境が影響している。風力、太陽光とも米国内でも好条件であるが、電力自由化先進州で卸市場が発達して一方で、余剰電力は多くない。要するに市場原理が働いている。
テキサス州全体をみると、伸び続ける需要に供給の拡大は追いついておらず、潤沢に存在する太陽光は、ピーク用だけではなく、その発電量にも期待をかけられている。同州では、今後太陽光が増えていくことは間違いない。日照時間に恵まれ、広大な適地を抱えるテキサスならではの優位性もある。テキサスは、前述のように風力では全米の2割を占めるなど断トツの設置量を誇るが、太陽光はそのポテンシャルの割には目立たなかった(2013年度の累計ランキングは8位)。
同州の太陽光事業の嚆矢は、2013年12月にサンアントニオ市内にて開発された4万kWである。同じ立地で40万kWまで建設が進むとされている。今回のオースチンの破格とも言える契約は、テキサス州における電力調達の考え方に大きな影響を及ぼすことになる。
2年間で半減したファーストソーラーの契約価格
オースチン市の案件が出てくるまでの間の最安値契約は、ファーストソーラーがニューメキシコ州のエルパソ電力と結んだ契約であろう。5万kWの出力で、25年間5.79セント/kWhである。2013年の1月に表に出たこの条件は、6セントを切る信じられない水準として話題になった。対象となる発電所は、ファーストソーラーが2011年から開発していたマッチョ・スプリングス事業であるが、それ以前に運開した2事業の1/2以下の水準である(2事業は12セントを上回ることになる)。
但し、そのコストには連邦政府のITCに加えて地方府が提供するPTCも含まれている。オースチンの5セントには地方政府のPTCは含まれていないが、同事業は採択要件を充たしているとみられており、その場合は更に下がることになる。
、太陽光は2009年の水準の1/3程度になっている。
2013年1月はチュー前エネルギー省長官が退任した時期である。チュー氏は、ファイナルレターにて在任期間中を振り返ったが、その筆頭に太陽エネルギーの成果を挙げた。
チュー前エネルギー省長官が誇る成果
2011年に開始されたソーラーイニシャチブでは、発電所規模の事業で2020年に設置費用1ドル/wを切る、ライフサイクルのエネルギ−コスト(LCOE:Levelized Cost of Energy)でkWh当たり6セントを切るとの目標を掲げた。この水準は、石炭・ガスより低くシェールガスと同等である。産業は、当時半信半疑だったが、最近は実現を信じるものが増えた、と記している。
ファーストソーラーは、低コスト高効率の化合物半導体カドテルを利用した薄膜モジュールを製作しているが、長年にわたりコスト削減、効率アップなどの計画を着実に実行してきた会社として定評がある。中国メーカーの量産戦略により、需給バランスが崩れ、大幅に価格が低下した影響を受け、同社の株価は急落した。そのなかで、川下へ特に発電所建設・運営まで事業スパンを広げ、収益機会を広げるとともに全体的なコスト削減を進める事業モデルをいち早く導入した。その効果が出てきている。システムコストが着実に下がるなかで同社の収益も回復してきており、落ち込んだ株価も回復してきている(資料3)。
前述のオースチンの事例は、ファーストソーラーのニューメキシコ事業を下回るものとして、更なる一歩を示すものとなった。他にも低コスト契約の事例がある。昨年末に、コロラド州の有力電力会社であるエクセルエナジーは、6セントを下回る契約を結んだと報道した。また、太陽光発電の設置が遅れていた東海岸でも普及しつつある。ノースカロライナ州では、最近7セントを切るPPAが発表されており、低コストのソーラー発電所建設が全国的に広がってきていることを示している。
今回は、再エネ発電の低コスト化が急激に進み、主用電源としての地位を固めつつある米国事情を紹介した。やはり急増するルーフソーラーとともに、今後も急速に増え続けると予想されている。米国に限ったことではないが、少なくとも最近の事業では、再エネはコストが高いという前提では語られなくなってきている。
しかし、天候によって変動する再エネ発電はどの程度普及できるのであろうか。これまでの常識だと、系統制約により一定規模以上の普及は難しく、コストも高くつくというものであった。最近、IEAや欧米にて真剣な議論が行われており、さほどコストが上がらなくとも、高水準の再エネ普及は可能であるとの議論も登場している。次回は、それを紹介したい。
▲上へ ★阿修羅♪ > 原発・フッ素37掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。