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西岡昌紀「ここが変だよホルミシス論争」(月刊ウィル・2012年11月号増刊)その2
(転載自由:コピペによる拡散を歓迎します)
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(続きです)
まず、「放射線ホルミシス効果」の中心的科学者の一人である服部禎男氏の「『放射線は怖い』のウソ」(ランダムハウスジャパン)を読んでみましょう。
この本を読むと、低線量放射線の照射が生体に良い影響を及ぼす仕組みとして、⑴低線量放射線を浴びるとDNA修復が活性化される⑵低線量放射線の照射によって、活性酸素を除去するSOD、GPX等の酵素が増加する⑶低線量放射線の照射は、癌抑制遺伝子であるp53遺伝子が活性化する、といった実験結果などが、「放射線ホルミシス効果」が起きる理由として挙げられています。
少々専門的な話なので、分かり易く説明しましょう。まず、細胞の性質は、その細胞が作る蛋白質によって決まります。そして、細胞が作る蛋白質は、その細胞が持つ遺伝子によって決められています。その遺伝子は、DNAと呼ばれる巨大な分子に他なりません。
ところが、そのDNAはしばしば損傷を受けて、蛋白質の設計図であるにもかかわらず、その設計図である遺伝情報が失われたり変化する危険に絶えず、曝されています。そこで、遺伝子であるDNAをそうした様々な損傷から守るために細胞が持っているのが、DNA修復酵素と呼ばれる一群の酵素なのです。
DNA修復酵素は、遺伝子であるDNAが損傷されると、損傷された箇所を修復し、DNAを元の状態に戻そうとします。「放射線ホルミシス効果」を信奉する論者たちは、細胞に低線量放射線を照射するとこのDNA修復が活発になることを挙げ、これが「放射線ホルミシス効果」のメカニズム(仕組み)の一つであると主張します。服部禎男氏がまさにその一人で、服部氏の上書においてもこのことが強調されています。
次に、低線量放射線を浴びると有害な活性酸素を除去する酵素SOD、GPXが増加、あるいは活性化することを挙げて、服部氏らは「放射線ホルミシス効果」が起きる別の理由に挙げています。
活性酸素というのは、不対電子と呼ばれる電子を持った酸素と、不対電子は持っていませんが、化学的活性の強い過酸化水素を総称した概念です。普通の酸素原子、酸素分子とはちょっと違う酸素だと思って下さい。酸素は多くの生物にとって必須の元素ですが、この不対電子と呼ばれる電子を持った酸素は、逆に生命にとって有害である場合があることが知られています。
これらの活性酸素は動脈硬化を進行させるなどの有害な作用を持っているため、注目されているのです。
さらに服部氏らは、癌抑制遺伝子として注目されているp53遺伝子という遺伝子が低線量放射線照射によって活性化されることを挙げ、これも「放射線ホルミシス効果」が起きる理由に挙げています。
服部氏以外の論者も、これらの実験事実を「放射線ホルミシス効果」が起きる理由(メカニズム)として挙げています。しかし、服部氏らが展開するこうした論理は、実は一面的な物の見方なのです。
それは、こういうことです。上の(1)(2)(3)に共通することは、DNA損傷であれ活性酸素の増加であれ、あるいは発癌の可能性であれ、生体にとって有害な現象が起こると、それらの現象から生体を守る働きが存在することに他なりません。
そして、そうした防衛的な働きが低線量放射線の照射によって高まる、と服部氏をはじめとする「放射線ホルミシス効果」の信奉者たちは主張します。だから、低線量放射線の照射は体にいいのだ、と論じるのです。
しかし、ちょっと待って下さい。
それでは、これらの防衛反応(DNA修復、活性酸素除去酵素の増加、p53遺伝子の活性化)はなぜ、起きるのでしょうか? それは、そのDNAの損傷をはじめとする有害な事象が起きたからではないのでしょうか?
例え話をしましょう。DNA損傷も活性酸素増加も細胞の癌化も、たしかに有害な現象です。これらの現象は譬えて言えば、細胞という地球を襲う怪獣のようなものです。それに対して、いまお話ししたDNA修復やSOD、GPX、p53遺伝子などは、それらの怪獣たちに立ち向かうウルトラマンのようなものです。
ですから、「放射線ホルミシス理論」を信奉する方たちの論理は、体に低線量放射線を照射するとウルトラマンのような防衛反応が活発化するから低放射線照射は体にいいのだ、と言っているのに似ています。なるほど! しかしいま論じたように、こうした防衛的な反応は有害な現象の結果、誘発された反応である可能性が高いのです。
ウルトラマンは常に、地球に怪獣が現れたあとに現れます。怪獣が先なのです。そして怪獣は、ウルトラマンが現れる前に大暴れをします。それと同じように、DNA修復も、SODやGPXといった活性酸素除去酵素の増加も、p53遺伝子の活性化も、生体にとって有害な変化が起きたあとで起きるものなのです。
そう考えると、低線量放射線の照射は、総体としては本当に有益な現象なのだろうか? と疑問を抱かずにはいられません。ウルトラマン(SODなど)が来る前に、必ず怪獣(活性酸素など)が暴れているからです。
いくらウルトラマンが来るといっても、それに先立って怪獣が暴れるのでは地球はたまりません。怪獣が暴れたあとでウルトラマン(SOD)が来ても、怪獣(活性酸素)による被害自体は不可避であることを服部氏は無視しているのです。木を見て森を見ないとは、このことではないでしょうか?
また、非常に専門的になりますが、SODの働きには、過酸化水素を生成させて生体にとって有害な作用を生む面もあります。ですから、SODは一方的に生体に良いことばかりをしているわけではありません。あまりにも専門的な話ではありますが、服部氏も他の「ホルミシス理論」支持派の論者もこのことに触れずに、SODを一方的にウルトラマンのように見なしています。この点でも、服部氏のSODについての論述は一面的です。
(続く)
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(この記事の続きはここで読めます)
(西岡昌紀「ここが変だよホルミシス論争」(月刊ウィル・2012年11月号増刊228〜252ページ)231〜234ページ)
http://www.amazon.co.jp/WiLL-%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB-%E5%8E%9F%E7%99%BA%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B-2012%E5%B9%B4-11%E6%9C%88%E5%8F%B7/dp/B009ISQ6FI/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1356954666&sr=8-1
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