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西岡昌紀「ここが変だよホルミシス論争」(月刊ウィル・2012年11月号増刊228〜252ページ)その4
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(続きです)
また、「放射線ホルミシス」派の論者たちは非常にしばしば、一九二七年にマラーが行った「マラーの実験」に言及します。「マラーの実験」とは、ショウジョウバエのオスにX線を放射し、その照射したX線の線量と照射されたショウジョウバエの突然変異の頻度を調べたところ、そのX線線量とショウジョウバエの突然変異率の間に比例関係があったとする実験です。
この実験に使われたショウジョウバエは、その精子にDNA修復酵素を持たないハエでした。DNA修復酵素はマラーの時代には発見されていなかったので、マラーはこのことに気がつかなかったのですが、「放射線ホルミシス」派は、このショウジョウバエがその精子にDNA修復酵素を持たない生物であったことを強調して、照射される放射線線量と突然変異率の間に比例関係が存在するとする考え方は間違っている、と指摘します。
なるほど。マラーが実験に使ったショウジョウバエがその精子にDNA修復酵素を持たない昆虫であったため、この実験による知見は一般化されるべきものではないとする「放射線ホルミシス」派の批判は妥当です(そこまでは)。
しかし、「放射線ホルミシス」派の人々は、そうしたマラーの実験の問題点を拡大解釈しています。
「放射線ホルミシス」派の人々は、だから放射線の生物学的効果に閾値(しきいち)がないとする考え方は間違っている、といいます。彼らは後述する原爆被爆者の疫学調査などをも論拠に加え、放射線の生物学的効果には閾値があると協調するなかで、マラーのこの実験を強く批判します。そして、その閾値以下の放射線量は安全であり、それどころか、体にいいとすら主張します。
しかし、彼らのこの論理には落とし穴があります。それはまず、突然変異と発癌の頻度は、実は単純な平行関係にはないという近年の知見を彼らが無視していることです。すなわち、近年の研究によると、これまで信じられていたのとは違って、細胞の突然変異発生率と細胞の癌化率は、必ずしも平行しないことが指摘されているのです。
過去には細胞の癌化は細胞の突然変異の一種であると考えられていたのですが、近年、細胞に突然変異が起こらない少量の放射線によっても細胞の発癌が起こることが明らかになっているのです。ところが、「放射線ホルミシス」派の論者たちは、こうした近年の研究に全く言及していません。知らないからなのか無視しているのかはしりませんが、彼らは突然変異が起きなければ細胞は癌化しないと考えているように思われます。
しかし、いま述べたように、細胞が突然変異を起こさない低線量の放射線照射においても、細胞の癌化が起きることが報告されているのです。
つまり、仮に彼らが主張するように、細胞の突然変異には閾値があったとしても、その閾値以下の線量で正常な細胞が癌化する可能性があることが報告されているのです(M.Watanabe他、Carcinogenesis.5,1293,1984)。
「閾値以下の放射線で細胞は突然変異を起こさない。だが、発癌は起きるかもしれない」というわけです。一体、そんな閾値にどんな意味があるのでしょうか?
ですから、マラーの実験をいくら批判しても、彼らのその批判には、突然変異に閾値があるという以上の意味はないのであって、細胞の癌化に関しては放射線の閾値の存在は証明できないのです。
このように、「ホルミシス理論」の信奉者たちは、マラーの実験の間違いを指摘して鬼の首を取ったようにはしゃいでいますが、マラーの実験の間違いを指摘しても、放射線による発癌の閾値の存在を証明したことにはならないのです。
近年、正常な細胞がどのようにして癌細胞に変わるか? という問いに関して、革命的とも呼べる再検討が進行しています。一例ですが、つい最近まで、正常な細胞が癌細胞に変化するに当たっては、放射線によって生じたフリーラジカルがDNAを損傷し、その結果、DNAに突然変異を生じることがそうした細胞の癌化(発癌)のメカニズムである、と考えられてきました。
ところが、このドグマまでが現在、根本から再検討されつつあります。あまりにも専門的な話なので深入りはしませんが、論者のなかには、細胞の発癌と突然変異は全く別の現象だと考える論者すらいるのです(参考図書:永田親義著『がんはなぜ生じるか』講談社ブルーバックス・二〇〇七年、二百三十一〜二百三十五ページ参照)。
発癌のメカニズムが何であるか?についての議論はそこまで革命的に見直しが加えられているのですが、「放射線ホルミシス」派の本には、こうした最近の発癌メカニズムへの再検討の流れが全く反映されていません。彼らが学界のこうした動きを知らないからなのか? それとも都合の悪い話なので言及を避けているのか? 定かではありません。
(続く)
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(この記事の続きはここで読めます。)
(西岡昌紀「ここが変だよホルミシス論争」(月刊ウィル・2012年11月号増刊228〜252ページ)237〜239ページ)
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