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西岡昌紀「ここが変だよホルミシス論争」(月刊ウィル・2012年11月号増刊)その5
(転載自由:コピペによる拡散を歓迎します)
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(続きです)
第二の問題は、低線量放射線を照射された場合に、これに相反する現象は起きないのか? すなわち、低線量放射線照射が生体に害を与えることは決してないのか? という問題です。
どちらが正しいかは別として、低線量放射線の危険を指摘する報告は多数、存在します。それに対して、「放射線ホルミシス効果」を信奉する論者たちは、当然というべきか、論敵であるそうした低線量放射線の危険を指摘する論者たちの報告や見解をほとんど一蹴しています。
『低量放射線は怖くない』(遊タイム出版・二〇一一年)を書かれた中村仁信氏などは、そうした論敵の論文や見解に比較的良く言及し、批判しておられます。しかしこの本も、そうした反対意見への言及が十分ではありませんし、あとで述べるように、言及を避けているのではないか?と思われる重要な報告もあるのです。
低線量放射線の危険を指摘する論者たちの見解を批判するのは、もちろん自由です。しかし、こうした複雑な問題を論じる一般読者向けの本において、自分たちと反対の立場の見解があることを十分に語らず、自分たちの見解だけを一方的に「多数派」ででもあるかのように紹介するという手法は、科学者が普通の人々に語り掛ける姿勢として適切なものでしょうか?
「放射線ホルミシス」支持派の人々の見解に反して、低線量放射線が、やはり人体に対して危険を孕むものだとする研究は、とにかくたくさんあります。ほんの一例ですが、たとえばこんな見解も存在します。
「環境放射線からの線量と同じ程度の非常に低い線量では、健康に対する影響などないに違いない、という期待さえ持たれていた。環境放射線の年間線量の五百〜千倍である〇・五〜一シーベルトという安全閾値が存在していると思われた。(中略)その後、英国のオックスフォード大学の医師アリス・スチュワート(Alice Stewart)の調査によって、非常に低線量の放射線にも問題があるということが最初に指摘された。
第二次世界大戦以来、英国では小児白血病の異常な増加が起こっていた。彼女は英国政府の保健当局の援助を得て、こどもを白血病で亡くした母親のグループとその対照グループに数百枚のアンケート用紙を送った。
スチュワートが驚いたことには、2つのグループとも家族歴にベンゼンその他の化学物質への接触の機会への差異はなかったが、妊娠中に二〜三回診断用X線の照射を受けた女性は、対照グループの女性に比べて10歳未満の子供を白血病で失った数が2倍もあったことが、一九五八年の『イギリス医師会雑誌』(BritishMedical Joural)に掲載された(中略)」
「一九七〇年までに、スチュワート医師は彼女の研究を大きく発展させていた。『ランセット(Lancet)誌』に発表されたその研究結果は、安全なしきい値に関する証拠はなく、撮影されたX線の回数に従って、直接リスクが増加することを示した。それはまた、死の灰有害説と原発からの秘密裏の放射能放出への憂慮を後押しするものだった。
さらに、女性の数%が妊娠の最初の三カ月にX線を受けていたことから、スチュワート医師は、そのような妊娠初期の被曝は、出産直後前の被曝より十倍から十五倍もリスクが高いことを発見していた。
このことは、おおよそ環境放射線の年間線量と同等か、あるいは〇・五〜一ミリグレイの少線量でも、小児ガンと白血病のリスクを倍加するのに十分で、この線量は広島・長崎の被爆者の調査から考えられた倍加線量の千倍も少なかった」(ラルフ・クロイブ、アーネスト・スターングラス著。肥田舜太郎、竹野内真理訳『人間と環境への低レベル放射能への脅威』あけび書房・二〇一一年、三十一〜三十三ページ:アーネスト・スターングラス[ピッツバーグ大学医学部放射線科名誉教授]による序章より引用)
これはもちろん、そうした低線量放射線の危険性を指摘する見解の一つに過ぎません。こうした見解を批判するのは、もちろん自由です。しかし、とにもかくにも、このように低線量放射線の危険性を指摘する論者はいるのです。
ですから、正しいか正しくないかは別として、スチュワート医師のような報告者やスターングラス教授のような論者に対して、「放射線ホルミシス」派の論者はとにかく言及し、反論してみせるべきです。しかし私が読んだ限り、「放射線ホルミシス」派の本は、こうした自分たちの見解と異なる見解への反論を十分していません。
現に福島第一原発の事故のあと、書店に並んだ「放射線ホルミシス」派の本のなかに、スチュワート医師がランセット誌上で発表したこの研究やスターングラス教授のこうした見解に言及、反論した本は見当たりません。これでは論争ではなく、自分たちに都合の良い研究だけをとりあげて低線量放射線の医学的効果を論じていると言われても、仕方がないのではないでしょうか。
参考までに私自身の立場を述べると、私は低線量放射線は、仮に線量が同じであっても、有益な作用と有害な作用がともに起こし得るのではないか? と思っています。もっと言えば、私は冒頭でも述べたとおり、そもそも「線量」という視点からだけでは、少量の放射線が生物に与える影響は論じ切れないのではないか? と思っています。
そして私は、外部被曝と内部被曝は非常に異なる現象であり、特に内部被曝においては水和という現象が影響することなどから、少量の放射性物質が与える生物学的効果は、線量だけでは決まらない多様なパターンを取るのではないか? と考えていますが、こうした議論には立ち入らないことにします。
(続く)
(西岡昌紀「ここが変だよホルミシス論争」(月刊ウィル・2012年11月号増刊228〜252ページ)239〜242ページ)
http://www.amazon.co.jp/WiLL-%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB-%E5%8E%9F%E7%99%BA%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B-2012%E5%B9%B4-11%E6%9C%88%E5%8F%B7/dp/B009ISQ6FI/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1356954666&sr=8-1
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