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「避難計画が必要な発電システムって、おかしくない?:鈴木 耕」
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2014/3/23 晴耕雨読
「マガジン9:http://www.magazine9.jp/」
時々お散歩日記173 避難計画が必要な発電システムって、おかしくない?から転載します。
ある日、ツイッターを見ていたら、こんなことを書いている方がいた。
発電の為に避難計画しなきゃいけない原発。ばか丸出し。
その通りだと思った。で、返信した。
ほんとうに、逃げ道を作らなきゃ発電できないシステムって、根本から間違えていますよね。
避難計画がなければ電気を作ってはいけないのが原発というシステム。それだけ原発が“危険”だと、政府も電力会社も官僚たちも自治体も認めている、ということだ。
原発では、いつ、避難しなければならないような過酷事故が起きるか分からない。しかし、多分、いつかは起きるだろう。だから、住民の避難路を確保し、移動手段をきちんと確認しておかなければならない…。
アメリカでは、建設が完成していながら、避難計画がズサンだったために結局、廃炉に追い込まれた原発さえある。
ところが日本では、避難計画がきちんと策定されていないにもかかわらず、再稼働のための安全審査を申請する原発があとを絶たない。しかも、厳しい安全審査をしなければならない立場の原子力規制委員会の田中俊一委員長の発言は、まことにあやふやなのだ。
3月10日の参院予算委員会で、社民党福島瑞穂議員の質問に、田中委員長の答弁は揺れ続けた。こんな具合だ。
「規制基準と防災は車の両輪です」。しかし「新規制基準への適合審査は規制委の所管ですが、防災・避難計画の所管は内閣府原子力災害対策室、策定・実行は自治体の仕事です」と、逃げを打つ。
また「住民が安心できなければ、再稼働には結びつかない」と言いながら「(規制委は)避難計画の実効性があるかどうかを言う立場にはありません」と、答えをはぐらかす。(社民党HPより)
考えてみれば、これは恐ろしい発言だ。
結局、「住民避難など知ったことか、それは規制委には関係ない。各自治体で勝手にやりなさい」という態度である。それではいったい何のために、規制委は存在するのか。
では、原発立地自治体や周辺自治体の住民避難計画はどうなっているのだろうか? 朝日新聞デジタル(3月11日配信)が、そのひどい実態の一端を明らかにしている。
避難計画、4割が未整備
原発30キロ圏首長アンケート
原発事故を想定した自治体の避難計画づくりが遅れている。朝日新聞は原発から30キロ圏内の21道府県と134市町村の首長にアンケートを実施。それによると、4割の市町村で計画ができていない。つくった市町村でも実効性に不安を抱える。安倍晋三首相は「安全が確保された原発は再稼働する」としているが、地元の備えは整っていない。
アンケートでは、市町村に求められている避難計画を、51市町村が策定できていないと答えた。全国16原発でみると、東通(青森)、女川(宮城)、福島第二、東海第二(茨城)、柏崎刈羽(新潟)、浜岡(静岡)、敦賀(福井)、美浜(同)、大飯(同)、高浜(同)の計10原発(計32基)で30キロ圏の市町村の計画がそろっていない。(略)
避難計画を「策定した」「年度内に策定見通し」と答えたのは計81市町村。泊原発(北海道泊村)の30キロ圏内にある北海道積丹町は昨年、計画をまとめた。だが松井秀紀町長は「この計画で本当に住民の命を守れるのか」と不安を隠さない。
切り立った半島の海沿いに集落が分散する町では、1本の国道が唯一の避難路だが、落石でしばしば交通止めになる。昨年10月、住民が孤立したとの想定で実施した防災訓練では、海上保安庁の巡視艇で避難する予定だったが、波が高く、中止になった。(略)
これが実態なのだ。机上で作った計画など、実際にうまくゆくのかどうか誰にも分からない。この記事では、ほかの例も多く挙げている。
壱岐島では、玄海原発から30キロ圏の境界線が島を分断する。避難計画では圏内の島民は車で島の北部へ逃げる手はずだが、実際には「対象島民を線引きするのは難しい」として、全島避難も考えているという。しかし、島内には使える大型船は6隻のみ。これでは全島避難は難しい。
さらに、93万人が30キロ圏内に住む東海第二原発では、2009年に茨城県が自家用車避難の地域防災訓練を実施。ところが原発周辺が大渋滞。県が昨年発表した試算では、5キロ圏の9割の住民が県外に出るのに15時間かかるという。しかも30キロ圏内の14市町村のうち、13の自治体がいまも避難計画を策定できていない。
これが、住民避難の実態なのだ。
国も各自治体も電力会社も電事連も経産省も国交省も原子力規制委員会も、ましてや安倍首相も、こんな避難計画のズサンな実態を知りながら、それでも再稼働へ邁進しようとしている。
東京新聞(3月2日付)の記事を見てみよう。
再稼働容認 2割
原発30キロ圏内 同意不要に不満
全国の原発の半径30キロ圏にある百五十六自治体のうち、原子力規制委員会が審査を終えれば原発の再稼働を「容認する」と答えたのは、条件付きを含めても約二割の三十七自治体にとどまることが一日、共同通信社のアンケートで分かった。「判断できない」との回答も約四割の六十六自治体に上っており、再稼働に向けた手続きは難航しそうだ。(略)
事故時の住民避難を尋ねたところ「どちらかといえば難しい」を含めて、半数近い七十二自治体が困難とし、避難への準備が整わない実態も明らかになった。(略)
「容認」は十三自治体、「条件付き容認」は二十四自治体に対し、「容認しない」は三十二自治体だった。(略)
これらのアンケートをみる限り、住民の逃げ道はまだ確保されていないというしかない。
地震や津波のほかに、悪天候下で大きな事故が起きた場合、過疎地の半島の突端などにある原発周辺から、住民はどうやって避難すればいいのか。海が荒れていれば、船も使えない。
この冬は、記録的な大雪だった。もし、あのような大雪の中で重大な原発事故が起きたら、住民はどうしようもないだろう。
現役官僚が書いたとして話題になったベストセラー小説『原発ホワイトアウト』(若杉冽、講談社)にも、大雪の中で原子炉がメルトダウンする様子が描かれている。新崎原発(柏崎刈羽原発がモデル?)が、雪の中で陸の孤島と化し、除雪車も動かせず、ついに最悪の事態を迎える……。
原子力ムラの人々は「悪天候のもとでは原発事故は起きない」とでも言うつもりなのだろうか。
小説には、新潟県の泉田裕彦知事をモデルにしたらしい新崎県の伊豆田知事という人物も登場するが、実際の泉田知事は、住民無視の再稼働には強く反対している。
こんな状況の中で、規制委は川内原発(鹿児島)の安全審査を最優先で行うことを決めた。
想定する最大級の揺れを示す「基準地震動」を、九州電力がこれまでの想定の540ガル(ガルは揺れの勢いを表す加速度の単位)を620ガルに引き上げたからだという。また、最大津波の「基準津波」も、取水口付近での3.5メートルを5メートルに引き上げたことも評価したという。
どうにも合点がいかない。数字上の操作だけで、なぜ安全審査を優先できるのだろうか。
どうも、この規制委の態度軟化の裏には自民党筋からの強い圧力があるらしい。少し古いが、朝日新聞(2月28日付)の記事が、その圧力のすごさを垣間見せている。
町村氏「規制委、常識外れ」
原発安全審査、長すぎると批判
自民党の町村信孝元官房長官は27日の派閥会合で、原子力規制委員会について「ちょっと常識から外れているのではないか」と述べ、原発の安全審査に時間がかかりすぎだと批判した。茂木敏充経済産業相も18日の閣議会見で規制委に苦言を呈しており、独立性が重んじられる規制委への圧力となりかねない。
町村氏は「いつ原発が再稼働できるのかはっきりしないので(電力)会社の存立が危なくなっている」と述べた。安全審査中の原発の再稼働時期が見通せないことが不満のようだ。(略)
同記事は「圧力となりかねない」と書いているが、これはまさに圧力以外の何物でもない。しかも町村氏は「会社の存立が危ない」とまで言っている。安全性よりも電力会社の存立のほうが、町村氏にとっては重要なのだ。こんな露骨な電力会社擁護を平気で口走る。政治家というよりは、電力会社の使い走りというほうが相応しいだろう。
安倍を筆頭に、財界の“パシリ”のような政治家たちばかりが跋扈するのが、悲しいかな、現在の政界の有り様だろう。
繰り返すけれど、「住民避難を考えなければならない発電システム」というのは、やはりおかしい。平気でそれを再稼働させようとしている人々も、やはりどこかおかしい。
おかしいと思わない人がたくさん存在するこの世の中も、おかしい。
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