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焦点:安倍政権は早期原発再稼働にカジ切る可能性、民意とかい離するリスクも
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA1902O20140210
2014年 02月 10日 13:00 JST
[東京 10日 ロイター] -東京都知事選で舛添要一氏が当選し、反原発を訴えた候補が敗退したことで、安倍晋三政権は、早期の原発再稼働にカジを切る可能性が高まった。
ただ、各種の世論調査では、原発からの撤退や縮小を求める声が多く、こうした民意とエネルギー政策のかい離が大きくなっていった場合、国内の政治情勢に影響を与えかねない「磁場」が形成される可能性もありそうだ。
各種の論調査では、原発の再稼動反対が多数を占めることが多いが、今回の都知事選では細川護煕元首相ら脱原発を掲げた候補者が複数立ったことで、票が分散。細川陣営が原発問題を最優先に掲げたことを「ワン・イシュー化(争点の単一化)」と捉え、批判的な世論が醸成されたことも影響したようだ。
東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原発事故から間もなく3年が経過する中、一昨年末の衆院選以来、主要な選挙で原発の撤退や縮小を求める政党や候補が、敗退する現象が続いている。
<舛添氏、安倍政権と歩調合せる>
「原発を再稼働させない」との方針を掲げた細川元首相らの主張に対し、舛添氏は、再生可能エネルギーの拡大など原発依存は減らすとしながらも、再稼動は事実上、容認する姿勢だ。
安倍晋三首相は10日午前の衆院予算委で、原発政策を含んで策定中のエネルギー基本計画に関し「現実を見据え責任を持って実現可能かつバランスの取れたものを取りまとめていく」と述べた。
東京都知事選で脱原発を主張した候補が敗れたのを受け、原発再稼働に前向きな姿勢をにじませた発言とみられる。
<政権、脱原発はあくまで拒否>
2012年末に発足した第2次安倍政権は、民主党前政権が同年9月に「2030年代に原発稼働ゼロが可能となるよう、あらゆる政策手段を総動員する」と掲げた方針を撤回。安倍政権は「将来的には原発依存度を減らす」としながらも、福島第1原発の事故前に約3割だった国内の原発依存度を、今後、どの程度減らすのかなど、具体的な工程表を示していない。
経済産業省の有識者会議が2013年にまとめた「エネルギー基本計画」の原案では、「必要とされる規模を十分を見極めて、その規模を確保する」と記載している。有識者会議に参加した橘川武郎・一橋大学大学院教授は、必要な規模を確保、とした点について「将来もゼロにはしないという政府の意思表示だ」と指摘する。
<夏にも西日本で再稼動の公算>
原子力規制委員会は、福島での事故を踏まえ、津波対策や重大事故対策などを盛り込んだ新規制基準を昨年7月に施行。これまでに、関西電力(9503.T: 株価, ニュース, レポート)など電力7社の計9原発16基が、同基準への適合性を確認する審査を申請済みだ。
このうち関電高浜3、4号と大飯3、4号(いずれも福井県)、九州電力(9508.T: 株価, ニュース, レポート)川内1、2号(鹿児島県)と玄海3、4号(佐賀県)、四国電力(9507.T: 株価, ニュース, レポート)伊方3号(愛媛県)、北海道電力(9509.T: 株価, ニュース, レポート)泊3号の各審査は、多いところでは40回(現地調査含む)を超える会合を重ね、ヤマ場は越えつつある。
今年1月上旬、高浜と大飯を現地調査した規制委の更田豊志委員は「(高浜原発は)夏ごろの稼動は不可能な目標ではない」「夏になってもまだ、大飯原発の審査をやっているとは想像していない」などと記者団に語っている。
規制委が新基準への適合性にお墨付きを与えた場合、次は地元の了解が必要になるが、審査が先行した6原発につては、立地道県の首長による強い反対もない。泊3号は追加工事の必要性を規制委から指摘され、他の原子炉に比べ再稼動は遅れそうな見込みだが、西日本ではこの夏ごろにはいくつかの原発が再稼動する可能性が高まっている。
<増すか新潟県知事への圧力>
橘川氏は、原発から出る「核のゴミ」の最終処分場の確保にめどをつけることはできないとみており、「いずれ原発は畳まざるをえない」と、段階的な脱原発は不可避との立場だ。
だが、一方で「再稼働は必要だと思う。そうしないと経済がもたない」とも説く。「そうした文脈で邪魔なのが、東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)の存在だ」と指摘する。
東電は昨年9月下旬、柏崎刈羽原発6、7号機の適合性審査を規制委に申請したが、原子炉建屋直下に複数ある断層が活断層であるかどうかを調べるための掘削調査が必要となるなど、審査が長期化する公算だ。
仮に審査をパスしても、地元・新潟県の泉田裕彦知事が「福島事故の検証・総括が不十分」と繰り返し強調するなど、再稼働に反対する姿勢を崩していない。
橘川教授は「泉田知事の言っていることは至極当然のこと。東電は、去年の汚染水問題で、再稼動への"追試"に落第したと思う。東電には再稼動させるべきではない」と話す。
今回の都知事選で、脱原発方針を掲げた細川氏か宇都宮健児氏が当選すれば、最大の電力消費地から泉田知事への援護射撃となったとみられるが、そのシナリオは消えた格好だ。
2020年の東京オリンピック開催に向け、国内最大の柏崎刈羽を再稼動させるべきという、各方面からの泉田氏に対するプレッシャーが強まる可能性も否定できなくなった。
<原発めぐる民意>
共同通信社が1月下旬に実施した全国世論調査によると、原発再稼働に反対と答えが60.2%に上り、賛成の31.6%のほぼ2倍になるなど、原発に対する世論の拒否感は根強い。
しかし、その声が政党間の政策段階では反映されず、なし崩し的な原発維持・推進という国策が既成事実化されている。
一昨年の衆院選、昨年の参院選で、程度の差こそあれ、脱原発を掲げた政党の比例代表における得票率(全国)を合計すると、自民党を上回る。今回の都知事選は原発が争点となった3度目の大型選挙だったが、前2回と同様に、脱原発票が分散し、国政に反映できない状況が続いている。
今回の都知事選で、宇都宮候補の支持層には、細川氏支援で前面に立った小泉純一郎元首相に色濃い新自由主義路線に対する拒否感が強かった。
一方、細川・小泉両氏の支持層には、宇都宮候補を支援した共産党など左翼陣営に対するアレルギーが残るなど、もともとの政治的な立ち位置の違いからくる脱原発を主張する勢力内の対立構造も根深い。
また、脱原発の中身についても、再稼働を認めない「即時ゼロ」か、段階的に脱原発を進めるべきか、その場合の時間軸をどう考えるのかといった面でコンセンサスが取れていない。
細川氏に政策を助言した元経済産業官僚の古賀茂明氏は「第4象限(安保ハト派、経済改革派)」の政治勢力が必要だと説く。縦軸を上から安全保障面のタカ派からハト派へ、横軸の左側に経済政策の守旧派、右端に改革派を置き、4つの象限に分けると、今の日本には右下に位置する第4象限が不在だと、古賀氏は指摘する。
「欧米企業は、再生可能エネルギーにシフトしているが、既得権としがらみによって日本は出遅れた。新しい産業が出現せず、成長戦略も描けない中で、代わりにやっているのが原発輸出や武器輸出だ」と同氏は指摘し、安倍政権は世界の潮流に背を向けていると批判する。
そのうえで脱原発の機運を持続させるには「単なるイデオロギーや運動ではだめ。安心して政策を選択できるための理解につながる国民運動が必要だ」と強調する。
<原発推進は変わるのか>
政策議論の場を作ることはメディアの主要な役割だが、今回の都知事選では、少なからぬ主要マスコミが原発問題で沈黙した。あるラジオ番組で、経済学者の1人が原発の問題点を取り上げようとしたころ、放送局の担当者が発言しないよう要請したケースがあったという。
原発推進という国是をなぜ変えられないのか──。若手の政治思想学者、白井聡氏(文化学園大助教)は「福島事故は、もっと悲惨なことになっていた可能性もある。東京で普通の市民生活を取り戻せたのは、たまたまのこと。一番きついことを有権者は見たくないし、権力側は見せたくない、考えさせたくないという術に、多くの人がはまっている」と話している。
(浜田健太郎 編集:田巻一彦)
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