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福島第一原発敷地内 がれきヤード (2012年9月、林哲哉撮影)
ハッピーさん(@Happy11311)インタビュー 〜東京電力福島第一原発収束作業の現場から、作業員の訴え
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38322
2014年02月08日(土) 堀 潤
2011年3月の原発事故以来、過酷な収束作業の現場から作業の実態を一般に向け発信し続けてきた現役の原発作業員、ハッピーさん(@Happy11311)。事故発生から2年半でつぶやいた数は5000近くにのぼる。
収束作業は一体どの程度進んでいるのか? なぜ現場ではトラブルが絶えないのか?汚染水の実態はどうなのか? 作業員達はどのような心境で収束作業に臨んでいるのか?
Twitterに寄せられる一般からの疑問にも答え続けてきた。
そうしたTwitterの内容を元にあらたに再編集し書き下ろした著書『福島第一原発収束作業日記 3.11からの700日間』(河出書房新社)が反響を呼んでいる。東京都知事選挙でも、原発の是非は争点の一つだ。事故から間もなく3年。東電福島第一原発の収束作業員は今、何を思い作業を続けるのか---現場からの告発インタビューをお届けする。
■フラットな目線で、今起きていることを何の意図もなく書いた
---ハッピーさんは、原発事故以来、現場の作業員としてtwitterで発信を続けてきた訳ですが、なぜ今回本にまとめることにしたのでしょうか?
きっかけは去年、2013年の2月くらいにフォロワーの皆さんから「書籍化してほしい」というリプライが届く様になったんです。「書いてよ」「残してよ」という声が次第に多くの方から寄せられるようになりました。
『ルポ イチエフ――福島第一原発レベル7の現場』(岩波書店)の著者、布施祐仁さんに相談をしたんですね、「本の作り方を知らない」と打ち明けると、執筆作業から協力してくれました。
---執筆作業はどのように進められたのですか?
去年の3月くらいから本格的に原稿に向き合い始めました。まず自分の過去のツイートを読み返すところから始めたのですが、ちょうどその頃って、原発のニュースがほとんどなかった時期なんですよね。2月、3月、4月。さも何もなかったかのような状況。しかし、5月に地下貯水槽の漏洩問題があって、ようやく報道がまた始まったんですよ。
その後は、放射性核種を取り除く装置、アルプスが稼働できない状況が続いたり、タンクの貯水能力が追いついていなかったり、イチエフからの汚染水が海に流出していることもみつかり、次第に盛んに報道されるようになっていったのですが、僕がこの本を書きはじめたころは、ニュース番組でもほとんど報じられていなかったんですね。
このまま全然報道されなくていいのかなと。忘れらさられて、もう収束作業は終わっているようになっちゃってんじゃないかと。それに、住民帰還のための警戒区域はどんどん解除されるし、除染もどんどん進んでいって返されちゃうし、今の段階、今の僕の頭の中では脱原発とか推進とか、今の時点で議論するというところまでいかないんですよ。
僕はもう、目の前というか、今携わっているイチエフの収束作業と、今の地元の人たち、避難している人たち、今後汚染されている区域がどうなっていくのか、どうしなきゃいけないのか、自分に何ができるのか、というのが一番で、その問題をどうするのかという、それ以上のことは考えられない状態なんですよね。だからそこをまず何とかしたい、と。
汚染水の問題だって、今まで通常の原発でも低レベルの放射性物質は基準値を設けて流していたわけだし、今、トリチウムの処理が問題になっていますが、青森県六ヶ所村の再処理工場なんかでは、確か平成20年くらいだったと思うんですけど、当時、18兆ベクレルくらい流しているんですよね。
それは特別な措置としてやっているんですけど、そういう事実も知らされていない。今の僕らからすると、既に過去にそういうものが流されているんですよと、そういうことが国民になかなか知らされていない。国からすれば「公表していますよ」というスタンスなのかもしれませんが、大手メディアはそういう情報をなかなか流してこなかったので、大半が知る由もないですよね。
今、汚染水の問題で騒いではいるけれど、今までもそういうことがあったんですよ、というのを認識してもらいたいと。この40年程の間ずっと、原発が稼働してきたわけですが、小さなものから大きなものまでトラブルは過去にいくつもありました。原発業界というのは、常に「安全、安心」で来たわけではなくて、そういうトラブルも過去にあったんですよと。
これから再稼働するにしたって、原発を推進するにしたって、エネルギーの問題を議論するにあたってもね、もう一度きちんと情報を開示して、事象というかこれまでの事故やトラブルの情報を整理して、「これで本当に安全なんですか?」ということを進めていかなくえてはいけないんじゃないかなと思っています。
それと、本の最後の方に書いているんですが、今の流れでいくと、これから原発は再稼働してくだろうし、核燃料サイクルは止まらないと思うんですよ。それはやっぱり、日米原子力協定とか、プルトニウムの問題とかが背景にあって、そこにメスをいれる政治家がいないダメだと思います。
今のままだと、どうしても国内のエネルギーの問題とかCO2の問題とか、電気料金の値上げとか、庶民が注目するようなところにターゲットをあてて動いている、動かしているような流れなんだけど、本質はそこじゃなくて、日米原子力協定の問題、プルトニウムの問題、もんじゅの問題などにメスをいれなくては根本的な解決にはならないと思っています。そこにメスをいれる政治家が出てくるのか、ということを本の中でも書いています。
---今回の著書で何を一番訴えたかったのですか?
本を出すことについては、色々と言われましたが、フラットな目線で、今起きていることを何の意図もなく書いたつもりです。これを読んでくれた方々がどう思うのかは、それぞれの判断だと思いますが、今後も収束作業はまだまだ長く続くものですから、しっかりとやっていかないと、またいつどうなるかわからないというのもあるんです。
---というのは?
原子力技術の問題がまずあげられます。技術者がいなくなってしまうという懸念です。今、体制を見直さなくては間に合わなくなるという危機感です。
僕自身も年齢的に考えて、これから何十年もやれるわけではありません。いずれは次の人に引き継いでいかなければいけないと思っています。そのためには、この2年間の作業を振り返って、整理して、現状の課題を改善していかなくては引き継ぎ作業もままならない、という思いで本を書いたんです。
---ハッピーさんは常々、2年前と今の状況は変わっていないとおっしゃっていますよね。
この2年間で、延べ4000から5000程のツイートをしました。その全部を整理して振り返りながら、現状というのを2月から夏までの状況を見ながら色々なコメントを書き足していきました。本当は全てを残したかったのですが、ページには限りがあるので、残念だなと思いながら、そこから削っていきました。
僕が書き残したいと強く思ったのは、まず、「現場の作業員は頑張っているよ」ということ。そして「作業員たちを動かしている今の東京電力の体制じゃだめだよ」ということです。
体制的な課題を指摘して、作業員の作業環境を改善することをまず第一に考えました。編集を手助けしてくれたジャーナリストの布施さんは、僕のツイートのうち汚染水の問題を、編集者は作業員の生活や外からは見えない部分を、作業員さんがどんな気持ちで働いているのかを知りたいと言って、その部分をクローズアップして本に織り込んでいきました。
そして僕はまず、現場の作業員の奮闘を伝えたいなと。
■誰も想像だにしていなかった事態
---本の冒頭は、やはりあの日の水素爆発のシーンから始まるのですね。
つぶやき自体は2011年の3月20日からだったので、その前の部分というのはあまり話していませんでした。そこでプロローグとして、3月11日から3月14日まで、爆発のあったあの時までの様子を書きました。
---ハッピーさんは震災の時には、第一原発の構内で作業をしていたということですか?
はい。当日ももちろん作業をしていました。大きな揺れがあって、そのあとくるぶしまで、水がきました。
横8メートル、縦15メートルの燃料プールのふちから水があふれました。プールの水というのは、だいたいプールのふちから300ミリ下、30センチ下くらいなんですよ。だからあれくらいの揺れがくるとあふれてしまうんです。柏崎でも女川でもそうなんですが、大きな地震がくると水が溢れてしまうんです。
僕らも、慌てて水が階段室にいかないように新たにフェンスを設けたのですが、それも今回はあまり役に立たなくて・・・。1号機なんかは、そこからオペレーションルームに漏れちゃったりしてね。
それと、燃料プールのまわりにはもともと空調設備がプールの壁面についているんですよ。ダストが上にあがらないように吸い込んでいるんですけど、今回はそこに水が入って4階のダクトから漏れたっていうのが検証されているようです。プールの水はどの号機も漏れたと思います。
---その後、水素爆発も起きるわけですが、現場にいながらはどんな心境でしたか?
まさか爆発するとは夢にも思っていないんで・・・。今まで柏崎も女川もそうですが、けっこう大きな地震がきても、スクラムは、ドンといっちゃえば、止まると思っていました。ステーションブラックアウトというね、全電源が喪失されたらこうなっちゃうというのは知らなかったんです。
想定していたのは、非常用電源が稼働して冷却が再開されるというところまで。そこまでしか知識として持っていませんでしたから。認識もなかったんで、それがなくなったらどうするの? というところまでは考えていなかったんですね。東電の職員さんたちもそうだったと思いますが、誰も想像だにしていなかったですね。
---ハッピーさんは現場ではどのような立場なのですか?
その頃は、班長クラスでした。一班10〜15人くらいをまとめていました。作業経験は20年以上になります。ただ、僕らも上から指示される通りに動くしかありませんでした。「ホースをもってきてくれ」など、言われるがままです。
ライン構成もどれが使えるのか、再稼働にしたって、全電源喪失した時に、今では注水をいれるラインを組んだりしていますが、当時はそれが詳しくわかりませんでした。少なくとも2ライン必要だと思うんですよね、直接炉内に入れるとか。既存の古い設備、BWRが本当に対応できるのかどうか、いろいろと心配でした。
---水素爆発の時にも中に?
はい。爆風と音がもの凄かったです。ドーンといって上から瓦礫が落ちてきて、びっくりしたんだけど、とにかくものが落ちてくる状況が長かった。このままいったら天井がぶち抜けて、それに当たったら死ぬなと。
いったい何が爆発したのかわかりませんでした。3号機が爆発したなんて想像もできなかったのですが、このままだったら死ぬのかなと思いました。どこかが爆発したんだろうなというのは分かったので。「瞬間的に死ぬな」という実感です。
---線量計に変化はありましたか?
線量的には、そもそも点検中にも高い線量の中でやっているし、その線量がどれくらいのものかという認識はあったので、意外に冷静でした。ただ、致死量というがあるのですが、そこまでいっているのかどうかはわからない状況でした。
---つまり、オーバースケール、針が振り切れているということですか?
そうです。オーバースケールだったので、なるべく線量の低いところを探って逃げました。表にいた自衛隊や消防の方々はその場から逃げるだけでいっぱいいっぱいだったので、その時点で外の線量がどれくらいあったのか、というのはわからなかったのではないかなと思います。
知識のない方の方が怖かったと想像しますね。
■課題は人手の確保と技術の継承
---ハッピーさんが、本を通じてまず伝えたかったのは、現場の作業員を取り巻く環境についてということですが、具体的にはどういうことでしょう。
作業員を将来にわたって確保できるかという問題です。
安倍政権では原発の再稼働を進めたり、新たに海外での建設や、輸出が始まっていますが、そちらの方にも作業員が流れていくと思うんですよ。イチエフで作業員を技術的に育てるメリットがない、というのが現状です。あそこは、これからの作業というのは、被曝する作業なので、そこでじっくり技術者を育てるような現場ではないんですね。
建設やメンテナンスをやるほうが技術を伝承できるし、継承できる。でも、あの現場にいくと被曝が大半なので、悠長にやっている暇がないんです。今いる技術者が引退していくと、その下に技術が伝わっていかない。この先心配なのは班長さんや、機械屋さん、電気屋さんなど、ある程度の知識や経験のある人、まさに現場の技術者が育たないということです。
実は今は、そうした高い技術をもった作業員がいなくてもできる現場なんです。設備的には汎用品を使っていますから。コストの問題もあって難しい設備を使っているわけではないんです。これから新たに技術開発されて、高度な機械や設備が投入されるようになると思いますが、将来それを扱える人が果たしているのかどうか・・・。
汎用品を買ってきてポンと置くというのが現状ですので、今は素人でもできる作業をやっているんです。 今後、信頼性の向上を求めれば求める程、質の高い技術が必要になりますが、そうした作業ができる作業員が集まらなければ止めざるをえない状況が増えていくのではと思います。
---汎用品と専門部品とではそんなに違うのですか?
すこし具体的に説明しますね。
本来の流れであれば、原子炉を冷やすための冷却循環のループができました、一通りの急場凌ぎができました、となれば、次のステップではより信頼性のある設備をつくろうよとなりますよね。鋼管にしたり、きちんと溶接したり。つまり部品の耐用年数や品質も含めグレードをアップしたものを使っていくことになります。しかし、そうなるとコストがかさんでしまいます。だから今使っているのは、汎用品なんです。
例えば、今、焼却設備を作っているのですが、その設備にも、一般の汎用品を使っています。神戸製鋼で一般に使用しているものに、放射性物質除去のためのフィルター設備を追加しているだけです。
汚染水の循環ホースも、カナフレックスの汎用品。下水道で一般に使っているポリエチロンのものです。原子力用のものではない。耐用年数は10年くらいものですよ。ただし一般用途での10年であって、放射線の試験ではじき出された耐用年数ではありません。つまり最先端の技術ではないということです。
---そんなことが今も続いているのですか?
最初のうちは急がなくてはいけなかったので、仕方がなかったんです。ただ、方針転換するべき時期はそうだな、野田総理が出した収束宣言以降くらいでしょうか。応急処置が一段落した2011年12月以降の作業というのは、その時点でさらに品質レベルをアップできるはずでした。しかし、実際にはコストをかけずに収束作業を続ける道が選択されました。
東電からはメーカーに対して、「こういう物をこういう風にしたい」と仕様書がくるのですが、話し合いの中で、高いコストの物はどんどん削られていってしまいます。安全性を追求したグレードが高いものをつくるには、当然、付加価値がつくので、東電が示す予算内でやろうとすると外していかざるをえないんです。
高度な設備を作るにはある程度の額が必要になりますが、我々の方で「もっとこうしたい、ああしたい」というと「お金がない」ということになってしまうわけです。
---アレバなどの外国製の機械が早い段階で投入されましたよね。日本の技術レベルは実際にはどの程度のものなのでしょう。
世界に比べて劣っているとは思いません。アレバ社やアメリカの設備よりもずっと使えるものだと思います。アレバの機械はほとんど使いものになりません。というのも、聞くところによると、アレバ社の仕様を東電側もよくわかっていないのというのです。つまり、機能を使いこなせていないと。
買ったはいいけど使いこなせていないというのです。何かトラブルがあったら、いろいろと聞きたいですよね。ところが、アレバに問い合わせても企業秘密だから教えてもらえないといいます。結果的にアレバの装置は使えないという訳です。アレバ側が情報を囲っているというのが実態です。
■1号機、3号機のがれきの撤去が終わっただけ
---東京電力はどうして非常事態にもかかわらずコスト削減にこだわったのでしょう。
それは、やはり、どうしても黒字にしたかった、ということです。目標を打ち出していましたから。2013年には何が何でも黒字にすると。
僕自身はそれを聞いて「えっ?」と思ったけれど、銀行や株主との問題があって、経産省の中でも潰したらやばいねという官僚がいたのだと思います。
結局、黒字化を実現するためには、メンテナンスのコストを抑えていくしかありません。イチエフにかける予算というのは年間で決まっていると聞いています。メーカも、東電から「年間でここまでしか使えない」という言われ方をすることがあります。それは来年でよいですよと。
---不測の事態なのに予算に沿った運用なんですね。
本当に緊急でないとお金が出てこないんです。海側で汚染水を止めるための水ガラスの工事などは、どんどん発注していましたが、そちらに年間予算をとられてしまい、その他の行程にはお金が回らず延び延びになってしまう。
サブドレンピットのくみ上げの問題も、本来であれば6月くらいからですが、それも遅れていたし、建屋の中の作業も技術的な問題もあるにせよ、実際には進んでいない。1号のカバーリングもはじまっていますが、その後が続きません。2号も温度計までは入れたのですが、それ以降の作業が進んでいません。
---多少お金をかけても収束作業が進まないと、本末転倒ではないでしょうか。
リスクの考え方が違うんですよね。例えば配管とかタンクでいうと、メーカー側は「どうせ造るんだったら汚染水が漏れない、良いものを作ろう」と思います。今のうちに、耐用年数の長い、水が漏れないものを造って納めようと。しかし東電からしてみれば「漏れた時に対策すればいいだろう」と。そういう考え方の違いがあります。
汚染水が漏れたら大きな問題になるという認識があまりない。「今、側溝で14万ベクレル出てますよ、海に出ていますよ」という状況であっても、「環境に影響ないですよ」と言えば、当面のリスクは回避されるという考え方なんでしょうね。限界点の大、中、小というか、必要最低限のリスクを回避できればいいという姿勢です。
Jビジレッジ内のゴミの山 (2012年9月、林哲哉撮影)
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---では、今の第一原発の収束作業はどのような段階なのでしょう。
今やっていることというのは、3年近く経ちますけれども、野田さんが宣言した12月16日の冷温停止状態、「100度いかないんですよ」という、そこまでしかできていません。強いて言うなら、環境中の放射線量がすこしずつ下がっていて、汚染の度合いが少し改善されたぐらいです。
正門に管理所ができたり、中に休憩所ができたりはしましたが、収束作業自体はむしろ進んでいません。建屋の中の調査が全然進んでいません。1号機、3号機のがれきの撤去がおわっただけです。
内部の放射線量は毎時1シーベルト、1000ミリを越えています。無人重機とか、短い時間での作業なので、人の入れる環境にはなっていません。燃料デブリがあることが問題なのですが、そこに辿り着く入り口にすらまだ到達していません。今できているのは、何とか循環冷却して現状維持する装置だけはつくったと。
生命でいうと、維持装置だけつくったと。つまり、まだ治療には至っていません。
■すべて問題がおきてから対処するというスタンス
---昨年は汚染水の海への流出がクローズアップされました。安倍総理は「完全にブロックされた」と発言しましたが、現場の実態はどのようになっているのでしょうか。
敷地はもともとかなり汚れていたので、ホールアウトした汚染もあるし、土をはかればかなりの濃度で汚染も出てきます。そこに雨が降ればこれまでも側溝を通って海に出ていたわけです。この2年間。側溝を止めていた訳ではないので。今までも雨がふればずっと流れ出ていた。それがやっと測定し始めて表に出てきたわけです。
汚染された水は今までも海に出ていた。流れているのを完全にブロックしているというのではなくて、政府は「環境への影響は無いよ」と言っているわけですが、そこが僕にはよく分からないんですよね。海側への、環境への影響がないよというのも分からない。
ただ言えるのは、サンプリング数、測定場所が少ないんじゃないの? ということ。測定している場所もそこが妥当なの? ということですよね。把握するのに数ヵ所だけでいいの? と。
さらに、海の汚染実態の調査に関しても、東京電力がサンプリングしている水は海水の上水ですよね。海底の水を調査しているわけではないと思うのですが、底には相当たまっていると思います。そういう所を測定してしまうと公表しなければなりませんよね。
公表すると対策しなくてはいけない、だから計らない、というイメージです。これまでも、トラブルがあってやむを得ず対処するということが続いてきました。積極的に自ら投資して、安全性を上げていくという形ではないんですよね。今のイチエフの収束作業もそうで、積極的にいろんなところを調査しているわけではなくて、すべて問題がおきてから対処するというスタンスなんです。
---汚染水への対応がようやく始まりましたが、現場ではどのような課題を感じますか?
心配しているのはタンクの漏洩問題ですが、まずタンクのパトロール頻度を増やしています。今回のタンク漏れは、配管の継ぎ手から漏れている可能性が高いと。1万ヵ所以上あります。しかし、そこは線量を測っていません。まして、自分たちからわざわざ測るわけではありません。汚染水の問題は配管漏れの問題だけではないんです。
現場では装置をつくるときには、1年ぐらいもてばいい、という感覚です。応急処置が繰り返されています。放射性物質を除去するための装置でアルプスというものがあるのですが、本来であれば2012年に稼働すればといっていました。しかし、そのアルプスがコケてしまった。
---事故原因について伺いたいのですが、福島第一原発の1号機の宿食室にはホワイトボードがあり、そこには3月11日の出来事が時系列で作業員の手によって記録されています。
5時半前の記述で、「OS=オーバースケール、シューシュー音がする」というものがあります。実は、津波の前に地震の揺れによって既に放射能漏れが起きていたのではないかという指摘もありますが、そのあたりは現場の作業員としてはどう考えていますか?
事故原因については、ごった返す中にいて、わからないんです。東電さんが来て、上の人が来て、僕らは作業側として指示にしたがって行動するのみでしたから。ベント作業して。マスクをしていた。
3号機の爆発の日は、2号機の対応をしていました。ちょうど爆発前、2号機の圧力が上がっていたので、指示があり撤退したんです。その後、2号機が落ち着いたので作業を再開していたら、3号機が爆発しました。
そんな中でしたから全然、状況を把握できていないんです。
■健康の心配よりもまずは生活
---事故からまもなく3年が経過しますが、ハッピーさんは、どのような思いで現場の作業を続けているのでしょう。
説明するのが難しいですね、自分の気持ちについては。
現場はそれほど、悲壮感が漂って逼迫しているというわけではないんですよ。雇われた期間は生活を維持する事ができるので。被曝も生活も両方気になるといったらいいんでしょうか。自分の健康を心配するよりも、まずは生活を心配します。被曝の状況について具体的なイメージがないんです。僕自身にもそんなにはありません。
それよりもまず第一に、生活です。そこで働ける期間が決まれば、現場では冗談も言いますし、笑い声もある。多少は被曝したりして、緊張感もありますが、世間一般にあるような悲惨なイメージではありません。
健康の事を考えながら作業している人は少ないと思います。もちろん心配している人もいますが、本当に心配な人はそもそも来ていません。かといって、別にそういう教育をしているわけではありませんから、普通の工事として参加している人が大半です。
---作業員は地元の人が多いのですか?
徐々に減ってはきています。地元からの雇用率が以前は7割近くだったんですけど、今は5割近くに減ってきています。地元雇用率が減っているのは、再稼働にむけて各地で工事が始まっているからです。線量を考えて4年目、5年目を目指してイチエフを離れるわけです。
それに、賠償金があるうちは生活が成り立つので、声をかけてもなかなか来ない。賠償金で生活が成り立っていますから。
---福島県内で取材をしていると、土建業者の経営者たちが人手不足に悩んでいると良く耳にします。原発作業員の現場はどうですか?
作業員を集めるのはかなり難しいですね。東電管内ですと、再稼働にむけて新潟県の柏崎刈羽原発の工事が始まりますし、オリンピックにむけての工事も始まります。
安倍政権が掲げる公共投資が増えていけば今後さらに作業員はそっちにいってしまうし。除染作業も期限がなくなってきているので、随分人が流れていきました。
---除染作業の方が現場としては人気なのですか?
単価の問題ですね。除染の方が単価が高いんです。その辺の問題もあるので、なかなか人を集めるのに苦労しているというのはありますね。
---長期的に廃炉作業を進めていく上で、技術の継承や教育をどうしていくのかというのはこれからの深刻な課題ですね。
一般工事と違うのは、だんだん雇用条件を、法的な書類も含めて、厳しく管理してやらなければならなくなります。暴力団排除も厳しいので、身分の調査も結構厳しくなるし・・・。
原発業界は大手メーカーもありますけど、実際に人を集めているのはその下の下なので、そこは小さな会社です。平成28年からは、社会保障制度を導入しなければなりません。そうなると今まで以上に管理費がかかってきます。
ピンハネ、ピンハネといいますが、正当なものであればそれぞれの会社も利益をあげなくてはやっていけない。普通にやっている会社は一人当たり1000円とか2000円ぐらいしか抜けません。それではとてもやっていけない。5人、10人ではやっていけないんです。そういう問題も含めて、収束作業はちょっと上の組織もそうですが、人集めのシステムを変えていかなければいけません。
時限立法でもよいので、人材バンクセンターのようなシステムを設けて、そこに資格とか経歴とか職種とかを登録して直接雇うようにしなくてはいけないと思います。今の形のままでいくと「労働者を守る」という名目の政策は、そういう法律ができればできるほど、会社自体がなくなっていくので、一方で、どうやって人を集めるのかという問題が大きくなっていきます。
実際に、そういう潰れそうな会社の人たちが人集めをやっている。その人たちがいなくなると、人集めができなくなり、どんどん闇に潜ってしまうんですよ、建設業界というのは。元請けからの会社のマージンは裏でやると。
実は今、作業員を逼迫する環境になりつつあります。小さな会社も中小企業も守りながら、今の収束作業をやっていかないと難しいというのがジレンマです。
いつも言っているのですが、この本は今までの僕の目でみたものをフラットな気持ちで書いているので、それをどう判断するかは、読者の皆さんにお任せしています。何かを少しでも感じ取ってくれたらいいなと思います。
福島での大きな事故と収束と、未だに故郷に帰れない人が大勢いるということを、ひとりでも多くの人に、心の片隅に留めておいてもらいたい、という気持ちで一杯です。
〈了〉
ハッピー (@Happy11311)
20年近くのキャリアを持つ原発作業員。福島第一原発で作業中に東日本大震災に遭い、事故発生当初から現在まで断続的に収束作業に従事する。
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