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ドイツ・バイエルン州グンドレミンゲンの原子力発電所は現在も稼働中(ウィキペディアより)
全く的外れな日本の「ドイツの脱原発を見習え」論 多くの矛盾を孕む独の再生可能エネルギー政策、一方EUは原発に傾斜
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20140205-00039824-biz_jbp_j-nb
JBpress 2014/2/5 11:34 川口マーン 惠美
今、都知事選が沸騰している。大きな争点の1つが“原発”。
日本での反原発は、「ドイツを見習え」論がいまだに大手を振るっていて、「ドイツにできることは、日本にもできる」みたいな勇ましい話だが、もう一度考えてみてほしい。ドイツは、まだ何もしていない。原発は、16基のうち9基が動いている。原発を止めているのは日本である。
■電気が余っても消費者の電気代が上がるという理不尽
ドイツは福島第一原発の事故のあと、脱原発を高らかに掲げ、将来、原発を止めた暁には、その分の電力を再生可能エネルギーで賄うという決意を示した。以来、頑張っているものの、しかし、現実は難しい問題が山積みという状態だ。
確かに、再生可能エネルギーで発電できる電気の容量は抜群に増加している。ドイツに来れば分かるが、あちこちに風車が立ち並び、そして、多くの一般住宅の屋根にソーラーパネルが載っている。アウトバーンを走っていると、巨大なソーラーパークも目に飛び込んでくる。
何故、こういうものが雨後の竹の子のように増えたかといえば、再生可能エネルギーで発電した電気が、20年にわたって全量、固定価格で買い取ってもらえるという素晴らしい法律があるからだ。
土地と投資力を持っている事業者は、広大な土地にソーラーパネルを並べ、絶対に損をしない商売にニコニコ顔だ。
そうするうちに、再生可能エネルギーでの発電容量は6万メガワットと膨らみ、ドイツの発電総量は17万メガワットを超え、ピーク需要時8万メガワットの2倍以上と、過剰施設になってしまった。
ドイツの法律では、再生可能エネルギーの電気は、どれだけ余っていようが、すべて買い上げられることになっている。その買い取り値段は20年にわたって決められているので、生産過剰でも発電は止まらない。
というわけで、風もあり、日照にも恵まれた日には、全発電量の70%分もの電気を、再生可能エネルギーが占めている。と言うと、聞こえがよいが、しかし、それが効率的に利用されているわけではない。
なぜかというと、例えば北で生産された電気を、南の産業地域に運ぶ送電線が、ほとんど出来上がっていない。採算の合う蓄電技術もない。つまり、必要なところに、必要な電気が供給されているわけではないのだ。
しかし、使用が可能か、可能でないかにかかわらず、送電会社は、再生可能エネルギーの電気を買い取らなくてはいけない。市場の電力の値段は、供給が過剰になると、もちろん下がる。
だから、電力が過剰な時期、ドイツの電力会社は、買った電気を捨て値で市場に出す、あるいは、酷い時には、送電線がパンクしないよう、お金を出して外国に引き取ってもらったりしている。
オーストリアやオランダとしては、もちろん大歓迎。朝日新聞が言うように、「自然エネが火力などを上回る日も出てきた」などと喜んでいる場合ではない。
しかも、さらにまずいことには、再生可能エネルギーの電気買い取りのための補助金は、すべて消費者の電気代に乗せられている。電気がたくさんできればできるほど、市場での電気の値は下がるので、買い取り値段と売り値との差が広がり、補助金、つまり、ドイツ国民負担は多くなる。
だからドイツでは、電気が余り、電気の値段が下がれば下がるほど、消費者の電気代が高くなるという、絶望的な現象が起こっている。この救いようのないシステムを、日本は見習おうとしている。
■“再生可能エネルギー至上主義”で身動きがとれなくなったドイツ
前述の送電線の不足だが、送電線の設置がどれぐらい滞っているかというと、必要と言われている4000kmのうち、出来上がっているのは1割ほど。今はまだ原発が動いているのでどうにかなっているが、来年から、1つ、1つと原発を止めていかなければならないので、深刻な問題になるのは必至だ。
そうなったらどうするのか? 南ドイツは、今のところ、再生可能エネルギーだけではその電力需要はとうてい賄えない。そうなると、火力に頼るほかはない。実は、ドイツは現在、火力発電所をたくさん建てている。
火力発電の燃料は、ガスと石炭だけではない。ドイツでは褐炭の採掘も、また始まるもようだ。ドイツには、褐炭は捨てるほどある。それも、地表に露わになっていて、坑道を掘る必要さえない格安の炭田がたくさんあるのだ。
最近になって、北ライン・ウェストファレン州で、2045年までの採掘が許可された。褐炭は、石炭よりもさらに空気を汚すが、背に腹は代えられない。すでに12年のドイツのCO2
の排出量は、前年より1.6%増えた。 再生可能エネルギーの問題は、いくら発電量が増えても、火力発電を減らせないことだ。
風力と太陽光のエネルギーはお天気任せ。しかし、ドイツのような高度な産業国では、今日は風が吹かないので、電車も走りません、工場は休業ですということなど絶対にできない。停電は産業界が最も恐れる事態だ。一度でも起これば、ハイテク産業は雪崩を打ってドイツを後にするだろう。
例えば11月の、太陽も照らない、風も吹かない日の太陽と風による発電量は、総容量6万メガワットのうち、2500メガワットにも満たないという。足りない分は、現在は原発と火力で賄っているが、原発が廃止された暁には、火力しかない。
つまり、再生可能エネルギーがお天気任せである以上、それがいくら増えても、バックアップの火力発電所は、絶対に停止できない。
本来なら、火力発電所は、消費の動向を見ながら、細かに発電量を調整していく。バックアップの電源は普通3種類あって、季節間の大きな電力消費量の変動や一日の間の変動に応じて、計画的、合理的に発電する。
さらに、雲が出るとか、風が止むという事情で絶えず変化する自然エネルギー由来の発電量の増減にも、機敏に対応し、バックアップする。
しかし、現在、火力発電所は、計画的、合理的に発電をすることができない。現在のドイツの電力供給は、需要と何の関係もない。どれだけ発電するかは、太陽と風が決めている。
太陽が照り、風が吹けば、電気は際限なく作られる。そして、送電会社がすべてを買い取る。その分は消費者が負担する。信じられない仕組みだ。元来は、補助的立場にあるはずだった再生可能エネルギーが、いつの間にか独裁的立場に納まってしまった。
ただ、電力会社は、このような、いつ必要になるかも分からない火力発電所を維持していくほど酔狂ではない。投資どころか、徐々に撤退していきたいところだが、撤退されては停電が起こる。そこで、国が補助を出して、撤退しないよう、なだめなければならない。
つまり、ドイツは、再生可能エネルギーにものすごい補助金を費やし(これは、前述のように国民負担)、しかし同時に、火力発電にも膨大な補助金を費やさなければいけない。
そのうえ、北海とバルト海の海上の風力発電の開発経費、送電線設置の経費、これらも、消費者の電気代の上に、どんどん乗せられている。ドイツの電気代は、すでにEUの中で、デンマークに次いで高い。
■夢物語でない脱原発への仕切り直しが急務
この矛盾に気づいたドイツ人は、今、世界中で物笑いになるのではないかと心配し始めている。勇ましいことを言っている人は、緑の党以外には、もう、あまりいない。
実は、CDU(キリスト教民主同盟)は、前政権のころから、この矛盾を修正しようと必死になっていたが、野党の言いがかりで、何もできなかった。ところが、去年12月、CDUとSPD(ドイツ社民党)の大連立が成立して以来、SPDが今まで反対していた様々な案を、あたかも自分たちのアイデアのように玉手箱から取り出し、実行するもようだ。
目標は、電気代の値上げにブレーキをかけること。元凶の全量固定価格買取制度の見直しは必至だ。ただ、すでに決まってしまっている分の負担が大きいので、一般の電気料金の値下げや据え置きは想定外で、良くてもブレーキというところだ。そして、ドイツの産業を圧迫しないということ。
そのために、今政権から、エネルギー政策は環境省の手から、エネルギー・経済省に移った。今までは、CDUがどんな提案をしても、環境省が緑の党や自然保護団体と共に、妨害したが、これからは、彼らの夢物語に耳を傾ける人たちは、おそらくだんだん減っていくだろうと思われる。
ドイツが脱原発の方針を捨てることは今のところ絶対にないと思われる。目標は、速やかな脱原発のための仕切り直し、つまり、実行可能な計画を立てるということだ。時間はあまり残されていない。
なお、付け加えれば、EU全体は、脱原発の方向には全然進んでいない。これからは、自然エネルギーよりも、原発に補助金を出していくという。ポーランドやチェコは、すでにそれぞれ6基、4基の原発建設の計画が決まっている。どちらもドイツの隣国である。
再生可能エネルギーでの発電技術を開発するのは良いことだ。しかし、日本がドイツを見習うのは、次期尚早。日本は冷静に、独自の脱原発の方法や、新しいエネルギーの開発、そして、再生可能エネルギーの利用を考えるべきだ。
今の段階では、「ドイツを見習え」よりも、「ドイツの轍を踏むな」と言う方が当たっているように思えてならない。
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