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日本にとって、日本民族にとって平成の危機は幕末の危機より大きな国難ではなかろうか。度胸の据わった男、度胸の据わった女が必要な時代である。
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吉田松陰ーー留魂録 (古川薫)
高杉晋作、久坂玄瑞ら、幕末の英雄たちを数多く排出したことで有名な私塾が、松下村塾である。松下村塾といえば吉田松陰の名前が有名だが、実際に塾を作ったのは松蔭の叔父の玉木文之進である。松下村塾は身分に関係なく様々な人々を受け入れて教育し、後の明治維新の立役者を次々と排出した。
だが、それほどの英雄たちを生み出した松下村塾は、一体何を教えていたのだろうか?
日大教育学会の論文によれば、松下村塾は教科書として「武教全書」を用いている。武教全書は儒学者の山鹿素行によって著された兵学書である。
それは軍隊の統制法、主戦、客戦、攻城、守城などの戦法、築城や兵具などの軍事技術を取り扱っている山鹿流兵学の百科全書というべきものである。
だが、そういったテクニカルな内容だけではなく、「武士としての振る舞い」などにも触れられており、道徳観なども織り込まれていたようだ。
吉田松陰がこの武教全書を講義した際の記録が「武教講録」として残されており、デジタルライブラリーで見ることができる。また、他の科目を見ると、倫理学、地理学、歴史、経済、そして芸術を教えている。特に歴史に関しては力が入っており、世界史に多くの時間を咲いていたようである。また、特定の学派を好むといったこともなく、あらゆる学派の資料を使い、様々な角度から物事を見る訓練をしていた。
また、本をじっくり読ませることに拘っていたようで、注釈を与えず、原文をじっくり、筆記をしながら読書をすることを勧めていた。他にも草取りや餅つきをしながら本の読み方や歴史についての講義をしたりと、「座学」ばかりでも無いようだ。一緒に飯炊きなどをすることで、「日常の些事」も大事にしていたようである。
だが、この教科書が如何に優れたものだったにしろ、これだけで優れた人物がつぎつぎと育つものだろうか?
おそらく答えはNoである。
松下村塾の優れた点は、「教科書」にあるのではなく、おそらくその教育の目的にあると感じる。
松下村塾の教育の目的は「士規七則」である。
•およそ人として生まれたのならば、人の禽獣と異なる所以を知るべきである。そもそも人には五倫があり、その中でも特に父子の親と君臣の義を最も大なりと為す。故に人の人たる所以は忠と孝を本と為す。
•およそ日本に生まれたのならば、日本の偉大なる所を知るべきである。日本は万世一統にして、地位ある者たちは世々に禄位を世襲し、人君は民を養いて祖宗の功業を継ぎ、臣民は君に忠義を尽くして祖先の志を継ぐ。君臣一体、忠孝一致たるは、ただ吾が国においてのみ自ずから然りと為す。
•士の道は義より大なるは無し。義は勇によりて行われ、勇は義によりて長ず。
•士の道は質朴実直にして欺かざるを以て要と為し、偽り飾るを以て恥と為す。公明正大なること、皆これより始む。
•古今に通ぜず、聖賢を師としなければ、くだらぬ人物となってしまう。故に読書して古人を友とするは君子の事である。
•盛徳達材は、師の教導と友との切磋琢磨をどれだけ経験するかである。故に君子は交遊を慎む。
•死して後已やむの四字は簡単な言葉だが言うところは遠大である。堅忍果決、何事にも動ぜざる者は、この言葉を置いては成る術は無い。
(出典:http://www.kokin.rr-livelife.net/classic/classic_oriental/classic_oriental_760.html)
また、吉田松陰はこの7つを要約して「3つのことを大事にせよ」と言う。
”志を以て万事の源と為し、選友せんこうを以て仁義の行を輔たすけ、読書を以て聖人の訓を稽かんがえる。”
現代文にすれば、「志をもて、良き友とそのために行動せよ、本を読め」ということだろう。
松下村塾の雰囲気は堅苦しくなく、自由闊達であったらしい。吉田松陰が「礼儀を重んじすぎること」を避けていたようだが、こういった校風も、偉人たちを育てることに一役買ったのだろう。
また、上下の身分制度についてはこれを忌避していた。そういった雰囲気を感じ取ってか、塾生も「立身出世」のために入学してくるものはおらず、「国のため」という高い志を持った人が次々と門を叩いた。
また、特に優れていると思われるのは「人の育て方」である。基本的には短所を改善しようとせず、長所を活かすことのみを考えた。
さらに、「自分(吉田松陰)と同じような人間を作らない」ことに特に注意した。これは結果的に多様性を生み出すことにつながり、様々なタイプの英雄を輩出することになる。
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