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「贈賄日記」「贈賄メモ」中国に汚職の種は尽きまじ「反腐敗」に立ちはだかる「役人の伝統芸」
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投稿者 rei 日時 2015 年 5 月 15 日 08:02:32: tW6yLih8JvEfw
 

「贈賄日記」「贈賄メモ」中国に汚職の種は尽きまじ

「反腐敗」に立ちはだかる「役人の伝統芸」

2015年5月15日(金)  北村 豊

 2012年11月の中国共産党第18期中央委員会第1回全体会議で中央委員会総書記に選出された習近平は、就任後間もない2013年1月に「“老虎(トラ)”退治と“蒼蠅(ハエ)”駆除を同時に行う」と述べて“反腐敗(汚職撲滅)”運動を積極的に展開する決意を表明した。

 トラとは庶民の上に君臨して大きな腐敗を行う指導幹部を指し、ハエとは庶民の周囲で小さな腐敗を行う官僚たちを意味する。それから2年が経過し、汚職撲滅運動は一定の成果を上げており、庶民は習近平が主導する汚職撲滅運動に喝采を送る一方、役人たちは身をすくめて嵐の通り過ぎるのをひたすら待ち望んでいる。

贈賄の詳細な日記が汚職逮捕の決め手に

 そんな中、中国メディアは、トラが「贈賄日記」によって退治された事件とハエが「贈賄メモ」によって駆除された事件を個別に報じた。いずれの事件も、役人に賄賂を贈ることを迫られた被害者の贈賄を克明に記録した「日記」と「メモ」が汚職役人逮捕の証拠となったのだった。中国で巧みに生きて行くためには権力を握る役人と上手に付き合うことが必要だが、そのためには賄賂が不可欠である。その実態が見て取れる2つの事件の詳細は以下の通り。

1.「贈賄日記」によるトラ退治:
 山東省“徳州市”は省の西北部に位置する560万人の常住人口を擁する地方都市であり、同市に属する“平原県”は人口45万人規模の小都市である。2015年4月2日、“徳州市紀律検査委員会”と“平原県紀律検査委員会”は“照東方紙業集団”を経営する“趙傳水”から提起された贈賄事件の告発を受けて、賄賂を受け取ったとして29人の党員幹部の処分を発表した。さらに翌3日には“徳州市中級人民法院(地方裁判所)”が“平原県政治協商委員会”の元副主席で、同県財政局の元局長であった“宋振興”に対し汚職と収賄の罪により懲役14年、30万元(約580万円)の財産没収の判決を下した。

 それでは、事の発端となった趙傳水が告発した贈賄事件とはどういうものだったのか。中国メディアが報じた事件の概要を取りまとめると以下の通り。

ネットで暴露、子会社糾弾が発端

【1】2014年の初春、ネットの掲示板に「徳州商人の“行賄日記(贈賄日記)”」という書き込みがなされた。それは徳州市の商人が地元の役人に対して行った贈賄を記録した日記を暴露したもので、世間の注目を集めて大きな話題となった。ネットに書き込みを行ったのは照東方紙業集団を率いる趙傳水であった。暴露された「贈賄日記」は“福洋生物科技有限公司”の法人代表である“張雷達”が書いたもので、その20冊近い日記には張雷達が多数の役人たちに賄賂を贈った詳細が記録されていたのだった。福洋生物科技有限公司は照東方紙業集団傘下の企業であり、どうやら告発者の趙傳水と被告発者の張雷達の間には経済的なもめごとがあり、告発は親会社の経営者が子会社の法人代表の不正を糾弾するという個人的な目的のためになされたものであった。

【2】「贈賄日記」の暴露が個人的な目的のものであったとはいえ、習近平総書記が主導する“反腐敗(汚職撲滅)”運動の推進を旗印に掲げる徳州市と平原県の紀律検査委員会および検察機関にとって、告発内容は格好の的であり、彼らは速やかに「贈賄日記」に基づきその内容の裏付け調査に着手した。その結果、以下の事実が判明したのだった。

(1)「贈賄日記」が暴露される以前、宋振興は平原県財政局の局長として平原県の財政を牛耳り、“財政爺(財政の旦那)”と呼ばれて権力を振るっていた。財政面で恩恵を受けようと思ったら、宋振興の特別配慮が不可欠だった。2008年から2012年の間に、宋振興はその県財政局長の地位を利用して、福洋生物科技有限公司の法人代表である張雷達が平原県財政局に「つなぎ資金」などの資金援助を申請した際に便宜を図り、張雷達から現金および商品券など、総額67万元(約1293万円)を受け取った。また、2009年から2012年の間に、“山東大蔡牧業有限公司”の法人代表である“蔡福涛”がつなぎ資金などの資金援助を申請した際に特別扱いし、返礼として現金や商品券など、総額17万5000元(約338万円)を受領した。

(2)これ以外に宋振興は財政局長の地位を利用して、各県政府の関連部門、郷・鎮政府、県直営企業などの機関が財政配分や経費支払いを受ける際に良いように取り計らい、その見返りとして謝礼を受け取った。2007年の“中秋節(旧暦8月15日)”から2014年の“春節(旧正月)”までの間に、祝祭日の祝儀という名目で、多くの政府機関や事業組織、国有企業などが宋振興に贈った現金や商品券などの総額は315万1000元(約6081万円)に上った。

(3)収賄だけでなく、宋振興は各種の名目を立てて偽の領収書を発行し、国家資金を横領した。2009年9月、宋振興は平原県“水利局”副局長の“宋慶波”および徳州市“徳城区”にある“華建鋼結構”サービス部の業務課長“代斌”と結託して、架空の工事をでっち上げて財政資金から50万元(約965万円)を横領した。さらに、2006年から2009年の間に、宋振興は担当していた平原県農業開発弁公室主任と平原県財政局長の地位を利用して単独あるいは他人と共謀して、公金130万元(約2509万円)を横領し、他人から現金および商品券を受領したが、その総額は401万5100元(約7750万円)に上った。

発覚で返金も後の祭り

【3】宋振興は2007年12月の検察機関による会計監査と2014年3月の紀律検査部門による取調べの時点で前後2回にわたって、平原県財政局に全ての“賍款(汚職で得た金銭)”を返却していたが、こうしたあがきは後の祭りであった。2014年10月16日、“徳州市人民検察院”は宋振興を汚職罪と収賄罪で、宋慶波と代斌を汚職罪で、それぞれ起訴した。2015年4月3日、徳州市中級人民法院は各被告に対する一審判決を下した。判決は被告人宋振興を汚職罪により懲役7年、収賄罪により懲役12年および30万元の財産没収とし、最終的に懲役14年と30万元の財産没収とする宣告を下した。また、被告人宋慶波は汚職罪により懲役5年、被告人代斌は汚職罪により懲役3年に処せられた。なお、被告人の宋振興、宋慶波、代斌が汚職で得た金額は押収した機関から元の組織に返還されるし、被告人宋振興が収賄で受け取った金額は押収機関から国庫へ納入されることになっている。

2.「贈賄メモ」によるハエ退治:
雲南省の省都“昆明市”で建築請負業を営む“李存要”は、“80后(1980年代生まれ)”というから年の頃30歳前後であろうか。李存要は貧困の故に故郷の中学校を中途退学してから昆明市へ出稼ぎに来た。昆明市では、建築現場の臨時雇いとして10年間ほど働いた。その経験を活かして独立した李存要は2010年の下半期から昆明市“北市区”にある“瓦窑村”で民家の建設を請け負うようになった。これらの民家はどれも違法建築で、建物が順調に建ちさえすれば、建築主は工事代金を気持ちよく支払ってくれるのが常だった。こうして徐々に資金を蓄積した李存要は、その後、昆明市郊外の農村4カ所で建設工事を請負ったし、2011年になると昆明市の西南部に位置する“西山区”の“団結街道”周辺でも請負工事を受注した。それは民家の建設にとどまらず、室内装飾にまで及んでいた。

“城管”が、ゆすり、たかり

 李存要が建設工事を請負った民家の工事費は、材料費込みの平均で1平方メートル当たり800元(約1万5500円)前後のレベルで、当時の業界価格に照らせば順調に建設が進みさえすれば十分に利益が望める水準だった。しかし、それは通常は“城管局”と略称される“城市管理綜合執法局(都市管理綜合執法局)”の役人に目をつけられなければという前提での話であり、一度城管局の役人に言いがかりをつけられて、厄介な要求をされたら、それに伴う損失の全ては“包工頭(請負業者の親方)”が負担しなければならないのだった。

 “城管局”とは都市の環境衛生、違法建築、違法駐車、無許営業などの取締りを行う法律の執行機関であり、昆明市の場合は、昆明市城管局の傘下に上述した“北市区”や“西山区”などの各区の城管局がある。一般的に“市城管局”の役人は“区城管局”の役人を統括する立場にあり、どちらかと言えばまともな役人が多いといえるが、区城管局の役人は現場に出て直接取締りを行うことから、役人風を吹かせて威張り散らし、違法行為を見付けては黙認するとして「ゆすり」や「たかり」に精を出す者が多い。もっとも、区城管局には役人だけでなく、ならず者や失業者が数多く臨時に雇われて取締り官として街を巡回しており、彼らが庶民を脅して小遣い稼ぎをすることは常態化している。従い、“城管局”の取締り官は庶民から忌み嫌われる存在であり、庶民は彼らを総称して「“城管”」と呼び捨てにしている。

 さて、上述の通り、李存要が建築を請負う民家はそのほとんどが違法建築であり、城管にとっては格好の獲物と言えた。当時、李存要は西山区の“和平村”、“小廠村”および“花紅園”区域で請負った住宅を建築していたが、この地域を管轄していた城管は“西山区綜合執法大隊団結中隊”の隊員たちであった。彼らは李存要が手掛けている民家の建築現場に顔を出しては、仕事の邪魔をしたり、車を差し押さえたり、施工工具を没収したりして嫌がらせを繰り返した。これは予定通りに建築工事を進めたい李存要にとって頭の痛い問題だった。このままでは建築主に約束した期日に建物の引渡しが出来なくなるし、利益も出なくなる。城管の嫌がらせを止めさせるには、彼らに“好処費(リベート)”を支払うしかない。

「さもなければ、建屋をぶち壊す」

 こうして李存要は団結中隊の中隊長である“何先亮”に3万元(約58万円)を賄賂として贈った。賄賂を贈った後、李存要は何先亮にあそこで民家を建築中だとだけ告げ、他の隊員に対しては、「あんたらの中隊長が了解済みだから、俺が建てる家にあんまり難癖をつけないでくれ」と頼んだ。これに対して、他の隊員たちは「あの親方は俺たちにはリベートのカネを払ってないし、どのみちあの建物は違法建築なのだから、皆で適当に難癖を付ければいいさ」と話していた。

 それからは、隊員たちは李存要をつかまえては、「タバコを買うカネがないから、1万元(約19万3000円)ほど用立ててくれないか。兄弟たちで分けてタバコを買うから」とか、「もうすぐ祝日だが、こんなに長い間あんたを守ってやったんだから、そろそろ俺たち兄弟を慰問しても良いんじゃねえか」とか、「俺の携帯電話が壊れたから、新しいのを買うのに5000元(約9万7000円)ほど都合してくれ」などと言ってはカネをせびり取った。

 中隊長の何先亮に比べて、管轄地域を巡回するのが“執法組長(取締りチーム長)”の“林春”は公然と賄賂を強要した。2011年10月に李存要が民家3軒の建築を請負ったのを知ると、林春は李存要に面を向かって「3万5000元(約67万6000円)出した方が良いぞ。さもなければ、建屋をぶち壊す」と脅した。仕方ないので、李存要が一席設けて2万5000元(約48万3000円)を支払うと、林春はその後一切何も言わなくなった。

 こうした城管の狂気じみた賄賂要求に直面して、不満を禁じ得なかった李存要は城管に賄賂を贈るたびに、その記録を『“行賄筆記(贈賄メモ)”』に書き記した。それは普通のメモ帳にびっしりと書かれた支出の記録で、各種建材の購入代金や職人の給与といった支出のみならず、城管に贈った賄賂の明細が相手の氏名、金額、品目などを含めて克明に書かれていた。もっとも、李存要が当該メモを書き始めた当初の目的は、請負工事の損益を計算することであったが、それは後に接待費の金額を確認して建築工事の採算を見極めるためのものに変わっていたのだった。

 2014年に“西山区検察院”の“反貪汚賄賂局(汚職取締局、略称:“反貪局”)”によって国家公務員への贈賄容疑で逮捕された李存要の裁判は、2014年12月11日に“西山区人民法院(簡易裁判所)”で結審した。被告人の李存要は国家の法律を無視し、不当な利益を得ようと3人以上の国家公務員に財物を供与したが、その行為は贈賄罪を構成し、極めて重大であるとして、李存要に対して懲役5年の一審判決が言い渡された。

 当局の告発によれば、2011年から2012年の間に、被告人の李存要は団結街道で違法な民家の建築を請負い、約束の期日に建屋を引き渡そうと、西山区綜合執法大隊団結中隊の中隊長である何先亮に2万9000元(約56万円)の賄賂を贈ったのを皮切りに、同中隊の隊員である林春に5万7000元(約110万円)、同じく隊員の“楊東”に1万4000元(約27万円)、同じく隊員の“李彪”に3万9500元(約76万円)、同じく隊員の“李戸”に5000元(約9万7000円)、同じく隊員の“楊鎖柱”に6000元(約11万6000円)の賄賂をそれぞれ贈った。調査によれば、そのうち3回の合計2万9900元(約57万7000円)は李彪が自ら強要したもので、不当な利益を得ることを目的としたものではなかった。上記の事実から贈賄総額は11万6000元(約224万円)と認定された。

浜の真砂は尽きるとも、中国に汚職の種は…

 これらの事実は反貪局による取り調べの中で李存要が供述したものであり、その供述を裏付けた重要な証拠が、李存要が克明に書き記していた『贈賄メモ』であった。なお、李存要は1審判決を不服として“昆明市中級人民法院(地方裁判所)”へ上告した。その結果、2015年4月8日に下された2審判決は、1審の懲役5年は重すぎるとしてくつがえし、改めて李存要に対して懲役2年が言い渡された。これで李存要の量刑は懲役2年で確定したのだった。なお、何先亮以下6人の団結中隊の隊員たちは収賄罪により別途処罰された。

 上記の内容から分かることは、トラもハエも、それぞれが持つ権力を活かして利益を得ることに何ら疑問も持たず、当然と考えていることである。その権力の大小は別として、一度権力を握れば、その権力を大いに活用して稼ぐ、それが中国の長い歴史を通じて培われた伝統なのだ。従い、習近平がどんなに厳しく汚職撲滅運動を展開しようとも、一朝一夕に汚職が無くなることはない。石川五右衛門のせりふを借りれば、「浜の真砂は尽きるとも、世に汚職の種は尽きまじ」となるが、汚職撲滅運動が一段落すれば、物影に身を潜めていた汚職役人がまたぞろ息を吹き返すに違いない。中国ではそれが自然の摂理なのだ。

このコラムについて
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20150513/281088/?ST=top
 

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