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コラム:中国が突き進む景気減速下の「株高」シナリオ=村田雅志氏
2015年 05月 13日 19:03 JST
村田雅志 ブラウン・ブラザーズ・ハリマン 通貨ストラテジスト
[東京 13日] - 中国人民銀行(中央銀行)は10日、金融機関の預金・貸し出しの基準金利を25ベーシスポイント(bp)引き下げると発表した。利下げは、昨年11月、今年3月に続き3回目。これにより貸出基準金利(1年物)は5.10%に、預金基準金利(同)は2.25%にそれぞれ引き下げられる。
中国人民銀行はウェブサイト上で公表した声明で、今回の利下げにより「資金調達コストを一段と下げ、実体経済の健全な発展を支援する」と説明。景気の現状については、「現在、国内の経済改革ペースが加速し、外需は変動が比較的大きくなっている。中国経済は依然として比較的大きな下向き圧力に直面している」との認識を示した。
確かに、声明で指摘されたように、中国景気は企業部門を中心に悪化方向で推移している。4月のHSBC中国製造業購買担当者景気指数(PMI)確報値は48.9と速報値から下方修正され、1年ぶりの低水準。同月の中国輸出は前年比6.4%減と市場予想に反し2カ月連続の前年割れとなった。
4月の鉱工業生産は前年比5.9%増と2009年以降で最も低い伸びとなった前月から小幅加速したものの、依然として弱い伸びにとどまった。また、1―4月の固定資産投資は12.0%増と2001年以降、最低の伸びを記録。製造業の悪化を背景に中国の設備投資の減速感が強まっている。
<利下げの真の狙いは中小企業の資金繰り改善>
こうしたなか、市場関係者の一部からは、今回の利下げは設備投資の増加を企図したものだとの見方が示されている。利下げは、中国景気の悪化を受けたものであり、個人消費に比べ変化の早い設備投資を刺激することは、景気の早期回復に資する、との考えは合理的のように見える。利下げ発表時の声明で「資金調達コストを一段と下げ」の文言が入っていることも、中国当局が設備投資の増加に前向きとの見方をもっともらしくさせている。
しかし筆者は、今回の利下げの狙いが設備投資の増加にあるという見方に否定的だ。中国はリーマンショック後の世界的な経済危機に対し、大規模な投資拡大策を実施。これにより景気後退を回避することができたが、2012年以降、過剰生産設備に苦しんでいる。習近平政権に移行した中国政府は、中央経済工作会議や政府活動報告などで生産設備の過剰問題を指摘。鉄鋼、アルミ、セメントなど19業種を対象に生産能力の淘汰(とうた)目標量を地方政府に示すなど、過剰生産設備の解消を経済政策の柱の1つとしている。
中国政府が、鉄道などのインフラ投資や省エネ・環境保護、そして産業構造の高度化を促す(とされる)七大戦略的新興産業の設備投資の増加を望んでいるとの見方もあるようだが、その見方と今回の利下げを結び付けることには無理があるように思える。金融政策の効果を特定産業に集中させることは難しい。仮に七大戦略的新興産業など特定の業種に限定して設備投資を増やしたいのであれば、利下げではなく業種を特定したうえで設備投資の優遇措置を講ずるのが合理的だ。
そもそも今回の25bpの利下げで設備投資が大きく増えるとは考えにくい。中国の実質金利はディスインフレ(物価上昇の鈍化)によって高止まりしているからだ。2011年7―9月期に1%を下回っていた中国の実質金利(1年物貸出金利から消費者物価の前年比を差し引いたもの)は、昨年9月には4%を突破。その後、利下げがあったものの、同時にディスインフレ傾向が強まったため、今年4月時点でも3.85%と高水準のままである。
消費者物価に先行するとされる生産者物価が4月に前年比マイナス4.6%と4カ月連続で4%を超える落ち込みとなったことを考慮すると、中国の消費者物価が早期に伸びを加速させるとは考えにくい。今回の25bpの利下げで実質金利が大きく低下することはないだろう。
今回の利下げの狙いは、設備投資の拡大ではなく、ひっ迫していると言われる中小企業の資金繰りの改善にあるように思われる。中国人民銀行は昨年11月の利下げの理由について、中小企業の資金繰り支援にあると言明。今年1月には、金融調節手段である中期貸出制度を使い、一部の中小・地方銀行を対象とした2695億元の貸し出しの借り換えに応じたうえ、500億元の追加融資を決定した。しかし、中国人民銀行の調査によると、1―3月期の平均実質借り入れ金利は6.78%と、前期から0.15%低下しただけ。中国の中小企業の資金調達コストは低下していない。
製造業PMIからも中小企業の資金繰りの厳しさが推察される。4月の製造業PMIを企業規模別に見ると、全体で50.1、大企業が50.6であるのに対し、中小企業は48.4と景気の分岐点とされる50を9カ月連続で下回ったまま。当局が発表する製造業PMIが2カ月連続で50を上回るなか、製造業PMIに比べ調査対象に占める中小企業の割合が高いとされるHSBC製造業PMIが2カ月連続で50を割り込み、水準も低下していることも考慮すると、中小企業の資金繰りが大きく改善したとは考えにくい。
中国の市中銀行が中小企業に対し貸し渋りを続けているとの報道も依然としてあり、今回の利下げで中小企業の資金繰りが大きく改善するとは期待しにくい。おそらく中国当局は、雇用市場に大きな影響を与える中小企業の資金繰りを今後も支援すべく、利下げだけでなく貸出優遇策などの各種金融緩和策を実施するだろう。
ただ、中国当局が利下げをはじめとした金融緩和策を続けたとしても、一方で過剰生産設備の解消の動きも続くことから、中国の設備投資が急速に拡大に向かうとは考えにくい。為替市場では人民元が対ドル中心に底堅い動きを続けていることから輸出の急増も期待できない。結局、利下げが今後も続いたとしても、中国景気の減速感が早期に解消に向かうことはないだろう。
利下げが発表された翌日(11日)の為替市場では、中国景気との連動性が強いとされる豪ドルが買われることなく上値の重い動きを続けた。為替市場でも今回の利下げによる中国景気の回復は期待されていないと言える。
<格差解消よりも株高で消費拡大を優先か>
一方で中国株は、当面、堅調な推移が続くだろう。中国株は中国当局の金融緩和期待で今年3月から上昇基調で推移。上海総合指数は4月末に4500台と2008年2月以来の高値に達した。同指数は5月に入り調整色が強まり、4100台まで下落したが、今回の利下げを受けて反転。原稿執筆時点(5月13日)には4400近辺まで回復した。
中国株の上昇は中国当局にとっても都合がよい。株価上昇は資産効果を通じ、個人消費を刺激する。株価上昇はいわゆる経済格差の拡大につながりやすいが、習近平政権は、政権開始当初から中国経済を投資・外需主導型から消費主導型に変革する姿勢を維持している。
建前はともかく、足元で景気の減速感が強まっていることもあって、多少、格差が拡大したとしても、経済の構造変革につながると期待される個人消費の拡大は歓迎されるだろう。金融緩和の継続と中国当局の株高容認姿勢は、中国株買いの動きをサポートすると思われる。
*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0NY0R920150513
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