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中国の大学曲がり角 若者減り一部定員割れ
劉文君 東洋大学准教授
東洋大学の劉文君・准教授は、急拡大してきた中国の高等教育が大きな曲がり角に来ていると指摘する。日本とも一部共通する課題を抱える中国の高等教育事情について寄稿してもらった。
1980年代からの改革開放体制の下で現代化の道を歩み始めた中国の高等教育は、98年のアジア通貨危機を契機に大胆な拡大政策へと大きく舵(かじ)を切った。
90年には61万人、粗就学率(18歳人口に対する入学者数の比率)3.4%だった高等教育機関の入学者は、90年代半ばに年間100万人規模となり、さらに99年以降の急拡大で、2005年までに500万人を超え、13年には700万人に達した。
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しかし、ほぼ15年間にわたる急拡大期を経て、中国の高等教育は3つの課題に直面し、大きな曲がり角を迎えている。
第1は、高等教育の需給構造の変化である。
「一人っ子政策」で中国の若年人口は減少し始めた。増加の一途だった入学志願者数も、08年にピークの1050万人を迎えて以降はむしろ微減の傾向にある。その結果、高等教育への入学者数はさほど増えていないのに粗就学率は11年の27%から13年の35%へと急上昇している。大学進学のハードルが低くなり、大学入試の合格率は11年に70%を超え、13年には77%に達した。
特に、北京、上海などの大都市の合格率は80%を超え、大学教育は大学の買い手市場から学生の売り手市場に急転換した。一部の民営(私立)大学と高等職業教育機関は定員割れに陥り、閉校の危機に直面している。90年代以降の日本と同様に、中国でも誰もが高等教育へ進学する「ユニバーサル化」が進んでいる。
同時に、高等教育発展における地域的格差が鮮明になってきた。政府は13年に35%だった高等教育粗就学率を20年までに40%に引き上げる政策目標を掲げ、地方、特に農村部で高等教育への進学機会を増やし、進学意欲を高める政策を進めているが、目標達成には課題が多い。
第2は高等教育修了者の雇用問題である。
99年は年間85万人程度だった高等教育修了者数は、05年に300万人を超え、14年には659万人に達した。驚異的な急成長を遂げた中国経済といえども、わずか15年間で8倍弱にまで膨れあがった大卒者を吸収するのは荷が重い。大卒者が従来のエリート意識から抜けきれず、大都市・沿海部での就職を希望することも、問題を深刻にしている。
最近の調査では、卒業時に就職先が決定している学生は4割前後。大学院進学や起業などを合わせても、進路決定率は約7割にすぎない。3割が何の進路も決まらないまま卒業しているのだ。
就職難の打開のために、地方大学を中心にした職業教育への転換、学生に対する起業の奨励、大卒者の中小都市・農村への就職推進などの策が講じられている。だが、いずれも弥縫(びほう)策の側面を否定できず、効果が疑問視されている。
第3はグローバル化への対応である。
中国の改革開放政策は、先進国の知識・技術の積極的な導入を重要な基盤としていた。その軸となったのが主要国への留学生派遣である。現在、中国は世界で最大の留学生供給源であり、13年の海外留学者数は41万人に上る。留学先は米国が最も多く30%、これに英国が21%で続き、以下、オーストラリア13%、カナダ10%、香港7%、日本5%の順である。
留学からの帰国者が、中国の近代化、科学技術の発展の中心となってきたことは疑いない。しかし留学の拡大で、00年に年間9千人程度だった帰国者は14年には37万人に達した。かつては国内大学の卒業生より就職で優位だった留学帰国者の価値は急落している。その結果、13年までの5年間、2桁成長が続いていた海外留学生の増加率が、14年には3.6%増にとどまった。
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一方、近年の中国政府は、他国からの留学生の受け入れを推進している。10年に発表された「中国留学計画」は、20年までに留学生を50万人受け入れる目標を掲げた。14年度に中国で学んでいる海外留学生数は38万人。地域別にみると、アジア60%、ヨーロッパ18%、アフリカ11%などである。韓国からの留学生は6万3千人に達するが、日本からは1万5千人にすぎない。
中国の高等教育は、規模も教育研究も世界有数のレベルに成長した。学術論文総数は日本を凌駕(りょうが)している。しかし、急成長がもたらした課題も少なくなく、一部は日本が直面している課題とも共通する。最後に、両国の高等教育の今後の関わりについて2点を指摘したい。
第1に、日中の高等教育機関は、相互理解・連携強化を通じて補完的なパートナーシップ関係を構築し、世界におけるアジアの高等教育のプレゼンスを共に高める戦略を推進する必要がある。グローバルの視野から見れば、アジアは高等教育の成長、留学生の拡大の最もダイナミックな地域だからである。
第2に、日中の高等教育機関は、片務的な「協力」ではなく、互いに理解し交流を深めることでそれぞれの課題の解決に役立てる双務的な関係に転換すべきである。
特に、日中の若い世代が相互理解を進めることは、彼らの成長のためにも、東アジアの発展のためにも極めて大きな意味をもつ。日中の大学間で、1年程度の学生の相互受け入れを飛躍的に拡大させることが焦眉の課題であろう。
[日経新聞5月4日朝刊P.18]
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