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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150422/280287/
コピー横行が生んだ中国人の「思考停止」と「責任転嫁」今もさまよう「阿Q」の亡霊
2015年4月23日(木) 山田 泰司
上海市内の海賊版DVDを売る店。ネット台頭のあおりを受け風前のともしびだ
日経ビジネスオンラインの読者で、韓国LG電子の家電製品が自宅にある、という人はどのぐらいいるだろう。薄型テレビのシェアでは同じ韓国のサムスン電子とトップを争い、部品メーカーとしてもiPhoneやiPadなどアップル製品に液晶パネルを供給するなど世界有数の家電、電子部品メーカーであることは知っている。ただし、実際に製品を使ったことはなく、知名度が低いとは言えないが、日本での認知度は今一つ、と認識している人がほとんどではないだろうか。
一方、中国では、私が上海に拠点を置き始めた2001年あたりから、オフィスビルのエレベーターホールに設置される広告放映用のパブリックモニターに「LG」のロゴを付けたものが急速に増殖し始めた。当時、中国でも知名度は低かったことから、中国の新興メーカーだと思っている中国人も大勢いた。いま思い返してみると、エレベーターホール用モニターの提供は、知名度を上げるための宣伝戦略だったのだろう。
駐在員の報告無視が招いたツケ
中国や香港にいた日本の家電メーカーの駐在員の中には、中国でのLGの台頭を警戒し、日本の本社にレポートを送った人たちもいたようだが、本社で気に留められることはなかったようだ。その後、日本勢を追いやってサムスン、LGの韓国勢が世界の薄型テレビ市場を席巻しているのは周知の通り。2014年には首位のサムスンが22.8%、LGが14.9%と韓国2社のみで世界シェアの4割近くを占めている(WitsView調べ)。日本勢でトップ10に入ったのは3位のソニー(6.8%)、10位のシャープ(3.4%)の2社のみである。さらに携帯電話のシェアでも、LGは昨年、7600万台あまりを売り上げ世界5位に入った(Gartner調べ)。ここでも首位はサムスン(約3億900万台)で、日本勢で上位10社に入ったのはソニー(10位・約3700万台)だけだ。
「現地市場の異変や変化に気付き日本の本社に報告を送るも、日本にいて実感が伴わない本社にスルーされてしまい、数年後に抜かれてようやくあたふたし始めたがもう後の祭りだった」という嘆きを日本企業の中国や香港の駐在員の口からこれまでずいぶん聞いた。家電メーカーに限らず、日本の大手企業には、社員の格付けとして日本の本社が一番で、次が米国か欧州、中国やアジアはその下という認識があるのだそうで、下に見られる中国や香港の駐在員の言うことを本社が軽視するという傾向があるという話を聞かされたのも一度や二度ではない。日本の製造業が地盤沈下した理由はここにもあるのだろう。
「DVDプレイヤーはLG最強」説とは
LGに話を戻す。2005年頃だろうか、中国では「DVDプレーヤーではLGが最強」という説があった。中国で当時、DVDプレーヤーに求められていた機能は何か。それは「質の悪い映画やテレビドラマの海賊版DVDを確実に再生できる機能」である。LG製はその性能において、競合他社を寄せつけない性能を持つと高く評価されていたのだ。
中国政府によるメディア統制で、中国では映画館やテレビで放映される作品は極めて限られたものになっている。近年、ハリウッドの映画はずいぶん見ることができるようになったが、中国の子供にも大人気の日本のアニメは今だに公式には放映されない。
こうした事情もあって、中国にはこれまで、国内外の作品を違法にコピーした大量の海賊版DVDが流通してきた。町にはコンビニの数より多くの海賊版DVDを売る店や屋台があった。値段は2005年頃が8元(160円)、今では20元(400円)とずいぶん高くなったが、それでも正規版に比べればタダみたいな値段だ。
中国で生活する日本人が、海賊版はケシカラン、と憤慨してこれらのDVDに手を出さないかというと、私を含めてそんなことはないのが実情。中国国内では買えない正規版が圧倒的に多いという事情もあるが、仮に正規版を買える作品でも、安い海賊版があればそちらを選んでしまう。日本未公開のフランス映画など、日本で買えなかったり見ることができなかったりする作品を大量に揃えている店もある。中国人、外国人にかかわらず、中国の生活における手軽な娯楽として海賊版DVDの購入と観賞に手を染めてきたということを、中国の生活者としてここに懺悔しておきたい。
さて、海賊版DVDと一口に言っても品質にはバラつきがあって、買ったはいいが帰宅してプレーヤーにかけてみると映らなかったり、映像が乱れて見られなかったりするものもある。ディスクトレイの中でキュンキュンと音を立ててしばらく回転した結果、読み取れずに吐き出されるものも少なくない。その点、LGのDVDプレーヤーは、どんな粗悪品でもたいていは読み取ってしまうと評判で人気が高かったのだ。
その海賊版DVDだが、近年、かつての勢いを失っている。ネットやスマートテレビの台頭だ。ネットによる放映も当初は無許可のコピーだらけだった。この1〜2年、中国の動画配信サイトでもきちんと版権をとり正規に放映するところも増えているし、日本で高視聴率を稼いだドラマ「深夜食堂」が中国でもネットの放映で人気を博したことを受け、日本の深夜食堂のスタッフと中国が昨年、共同製作した中国版深夜食堂とも言える「午夜計程車」(真夜中のタクシー)が、1話あたり500万回の再生回数を叩き出すという現象もあった。
ただ、コピーをそのまま流しているところもまだまだある。視聴者にしてみればネット利用料は払うわけなので厳密に言えば無料ではないものの、海賊版DVDの購入に出していたお金がかからなくなったわけで、支出を減らして海賊版を享受することができるようになったとも言えるわけだ。
「海賊版で息子を大学出した」と胸張る店主
ともあれ、ネット台頭のあおりを受けたのは、海賊版DVDの販売店だ。屋台はなおよく見かけるものの、家賃を払っていてはとても割に合わないのだろう。店を構えての商いは、急速に町から姿を消しつつある。
私の自宅から一番近いところにあった店も、去年とうとう潰れた。その店の女店主とのおしゃべりの中で、強く印象に残っていることがある。「ウチはもう20年以上、この商売をやってる。息子もこれで大学を出したんだ」というものだ。
20年前といえば、DVDはまだ存在せず、VCD(主に中国で流行ったCDに映像と音声を記録するための規格)だった頃から彼女は海賊版の商いをしていたということ。なりふり構わず海賊版を売ってでも子供を育て上げ大学まで出したというバイタリティには一目を置くものの、半面、中国のコピー文化の長さと根深さを改めて認識し、ため息が出た。
海賊版DVDが横行した背景の1つに、中国当局による統制があると書いた。中国が締め出しているのは映画やドラマだけではない。ユーチューブ、グーグル、ツイッター、フェイスブックも中国では遮断され利用することができない。そして、これらのコピーと締め出しが、中国に大量の怪物を生み出しているのではないかと感じている。それは、「思考停止」と「責任転嫁の助長」という怪物だ。責任転嫁は「言いわけ」と言い換えてもいい。
コピー氾濫が招いた「思考停止」
つい先日も、こんなことがあった。
中国の地方都市に住む30代のある中国人と組んで仕事をすることになった。そのために中国の某経済誌を定期購読する必要が出た。パソコンやスマートフォンでの電子購読料は年間150元(約3000円)で、これはこちらが経費で出すからと彼に伝えた。すると彼は、「150元? 僕は18元(約360円)で契約できましたよ」という。わずか8分の1で? そんなバカなことがあるわけがないと、彼に教えられたURLを開いてみると、その経済誌だけでなく、内外のあらゆる雑誌を、料金を一度支払うだけで一生涯読めるとうたったアプリケーションだった。媒体により価格設定は変えてあるが、どれも格安。海賊版のサイトであり、公式アプリでないことは一目瞭然だった。
ところが、彼はこれがその雑誌の公式アプリだと信じて疑わないのである。「えー、だって無料じゃなくお金を払うんですよ。公式サイトです」と彼。だったら、なぜこんなに価格差があるのか説明できる? と尋ねても、「お金を出すんだから正式なものです」の一点張りだ。安いには理由があるんだよ、支払いもネット上の電子決済なんだし個人情報を盗まれる恐れもあるよ、雑誌社のサイトから正規版を買おうと話したが、ついに彼を納得させることはできなかった。
こうした反応を示すのは、彼1人だけのことではなく、中国の社会ではむしろこれが多数派だ。「お金を払うんだから安心だ」と信じきってしまい、そこで思考が停止する。なぜそんなに安いのか、という理由を考えてみようという発想が摩耗してしまったのではないだろうか。オリジナルがなく、タダか格安の海賊版が当たり前という環境が生み出した産物だと言えるだろう。
「オレのせいじゃない・運が悪い私」の増殖を生み出したモノ
さらに、規制が生み出した弊害だと私が思うのは、責任転嫁の助長である。
中国では、ユーチューブの規制と同時に、中国版ユーチューブの「優酷(ヨウクー)」が生まれた。そのほか、中国版グーグルの「百度(バイドゥ)」、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」とどれにも代替品がある。中国に駐在する海外メディアや企業はこれらの規制を、事業に支障が出ると抗議する。では中国人は代替品で事足りているのかというと、もちろんそんなことはない。
日本でもトマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」で格差と不公平が注目を集めているが、ピケティ氏は昨年11月に中国を訪れ講演したほか、「21世紀の資本」も、これは正規の中国語版が日本より早く昨年9月に出版され話題になった。
そこで先日、ある大学院の博士課程で学ぶある学生に、ピケティ氏の著作で格差や不公平の問題が改めて話題になっているけれども、あなた自身が最も不公平だと思うことは何か? と尋ねた。私は、中国内陸部の農村出身の彼が、北京や上海の有名大学に進学するのに都会出身の学生は点数のゲタを履かせもらえるという制度や、反腐敗キャンペーンが激しさを増す中、既得権益を持つ役人と庶民との差などを持ち出すのではないかと想定していた。
ところが、しばらく考えた彼が口にしたのは、「ネットが規制されていることで、外国の論文に自由にアクセスできないこと」だった。彼が通う大学院は中国有数のエリート校で、将来の国のエリート予備軍を育成するところ。だからネットの規制もある程度は緩いのだろうと想像していたのだがそうではないらしい。「アクセスできないサイトがたくさんある。最新の論文が読めないから、海外のライバルとの競争に負ける」と口惜しそうに話す。
ただ、この彼のように、純粋に口惜しがる人物は、私が会った中では珍しい部類だ。たいていは、「仕事ができない」「期日や約束が守れない」など、すると言ったことを実行しないことの言いわけに、当局による規制を持ち出すケースが圧倒的に多いのである。例えば会社の訪問記など、たいして調べる必要がないレポートの執筆を依頼し、不十分なモノができ上がってきたときなど、「約束の時間に間に合わなかったのはなぜかって? 規制だらけで必要な情報が探せないからですよ。頼んだ内容が盛り込まれてない? 必要な情報にアクセスできないからですよ」といった具合。「私はやる気がないわけじゃないんです。実力だってある。ただ、こんな規制だらけの環境に生まれて運が悪いだけ。やる気を出せないのは、私のせいじゃなく環境のせいです」といったような言いわけを聞かされたことも多々ある。
近代中国文学を代表する文豪・魯迅は、辛亥革命(1911〜12年)を舞台にした代表作「阿Q正伝」で、現実を心の中で己の都合のいいように解釈することで自らを慰める主人公・阿Qの思考を「精神的勝利法」と名付け、これを当時の中国人の欠点だとして描いた。「できないし、やる気が出ないのは、私のせいじゃなく規制のせいで、運が悪いだけなのだ」という論法はまるで、阿Qの言う精神的勝利法の現代版のように思える。長期にわたった海賊版の横行や様々な規制は、現代の阿Qを増やしてしまったのだろうか。
「新常態」で、習近平氏は格差の是正を目差す一方、様々な締めつけの強化は「現代の阿Q」をさらに増殖するかもしれない
中国生活「モノ」がたり〜速写中国制造
「世界の工場」と言われてきた製造大国・中国。しかし近年は、人件費を始めとする様々なコストの高騰などを背景に、「チャイナ・プラス・ワン」を求めて中国以外の国・地域に製造拠点を移す企業の動きも目立ち始めているほか、成長優先の弊害として環境問題も表面化してきた。20年にわたって経験を蓄積し技術力を向上させた中国が今後も引き続き、製造業にとって不可欠の拠点であることは間違いないが、一方で、この国が世界の「つくる」の主役から、「つかう」の主役にもなりつつあるのも事実だ。こうした中、1988年の留学から足かけ25年あまり上海、北京、香港で生活し、ここ数年は、アップル社のスマートフォン「iPhone」を受託製造することで知られるEMS(電子機器受託製造サービス)業界を取材する筆者が、中国の街角や、中国人の普段の生活から、彼らが日常で使用している電化製品や機械製品、衣類などをピックアップ。製造業が手がけたこれら「モノ」を切り口に、中国人の思想、思考、環境の相違が生み出す嗜好を描く。さらに、これらモノ作りの最前線で働く労働者達の横顔も紹介していきたい。本連載のサブタイトルに入れた「速写」とは、中国語でスケッチのこと。「読み解く」「分析する」と大上段に構えることなく、ミクロの視点で活写していきたい。
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