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習近平専制体制は中国を破綻に導くのか
権力の集中が進むほど中国の危機は深まる
2015.3.31(火) 阿部 純一
盤石の体制を築きつつある習近平政権の死角とは?北京の天安門広場(資料写真)
最近、朝日新聞記者・峯村健司氏の著書『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)を読む機会があった。筆者はまだ峯村氏と面識はないが、北京特派員として数多くのスクープをものにしてきた敏腕記者だという評判は聞いていたから、興味深くページを繰った。
執念深い取材ぶりに感心するとともに、あくまで自分自身による取材によって裏付けられた事実へのこだわりが随所に見られ、筆者も知らなかった様々な事実が数多く出てきたが、もちろん一般読者向けの「読み物」であり情報源は明示されていない。だから、記述されている事柄の真偽については、著者本人に「問い詰める」しかないが、新聞記者は情報源を明かさないのが本分だから、聞いてもまともには答えてくれないだろう。
とはいえ、峯村記者と筆者の問題意識は同書の結論部分で同調していた。
「(習近平という)この異形の指導者は、腐敗し切った党の病理を取り除くことに歴史的使命を得るだろう。ただし、その先に待ち受けているのは何か─」(括弧内は筆者の補足)。そして、「私が想定する最大のリスクは『強大になりすぎる習近平』だ」という言い方で、習近平主席への権力の集中がもたらす危険性を指摘している。
要するに、腐敗し切った党を何とかしなければ、中国革命の成果としての中国共産党の統治が維持できない、という危機感が、習近平をして「反腐敗キャンペーン」に駆り立て、自らに権力を集中させることで政権の安定を目指そうとしている。ただし、それがどのような結果をもたらすのかはまだ分からない、ということだ。
峯村記者も筆者も、権力集中を強引に進める習近平主席の政治手法に「危うさ」を感じている。
つまり、習近平主席の過酷な反腐敗キャンペーンが、中国の共産党統治のシステムを温存させるためのものであることは確かであろうが、そのための手段としてあらゆる権限を習近平主席個人に集中させようとしている現状は、習近平主席の権威を高めるものであるにしても、かえって統治システムの硬直化を招き、脆弱性を高めてしまうことになりかねないのである。
共産党の統治破綻を示す5つの予兆
そうしたところ、まさに同じような問題意識で書かれた論説に接した。米国のジョージワシントン大学教授で中国政治の専門家であるデーヴィッド・シャンボー氏が「ウォール・ストリート・ジャーナル」(3月6日)に刺激的な論説を寄せていたのである。
「来るべき中国の崩壊―中国共産党の統治は終盤に差しかかり、習近平の過酷なやり方は中国を破綻に近づけるだけだ」という刺激的な表題(和文訳は筆者)の論説は、まさに習近平の中国の今後をどう見るかについて悲観的に眺めたものであった。
この論説は中国国内でも大きな反響を呼んだ。もとよりシャンボー教授は中国研究のベテランであり、その研究実績は確固たるものがあって、意図的にセンセーショナルな言説を発する人物ではない。だからこそ、この論説が注目されたのであろう。
シャンボー教授の論説の骨子を、私見をまじえて紹介すると、共産党による中国統治の破綻を示す5つの予兆があると指摘している。
・第1の予兆
党幹部や富裕層の資金その他の国外逃避である。腐敗で得た賄賂等の資金を海外逃避させたり、マネーロンダリングで「きれいなカネ」にして還流させる話は以前からあった。また、子女を海外留学させ、あるいは愛人に海外で子を産ませ、現地の国籍を取らせていざという場合の逃げ場を作るという話も同様であり、資産や家族を海外に移し、本人だけが国内に残るという「裸官」という現象も指摘されてきた。そうした現象に通底するのは、共産党統治の将来に信用を置けないからだ。
もちろん、資金の逃避や腐敗幹部の国外脱出は、基本的には「摘発逃れ」が目的であろう。しかし、腐敗に走ること自体、「今のうちに蓄財しておこう」ということであり、中国の政治体制がこのまま続くと思っていないゆえの所作なのだろう。
また、まともな市民を含めた中国の「留学熱」は、単に就職に有利というだけでなく、いざとなれば海外でも生活できる術を身につける意思も働いているだろう。
・第2の予兆
政治的抑圧の強化である。出版やメディアの規制から知識人への締め付けまで広範囲での言論統制の強化がそれであり、その極めつけが2013年4月に中国共産党中央弁公庁から発出された「現在のイデオロギー領域の状況に関する通報」(いわゆる「9号文件」)による西側の「普遍的価値」の否定である。
具体的に言えば、「憲政民主主義」「市民社会」「報道の自由」「新自由主義経済」などを論じるべきではないとしており、1989年6月の天安門事件の後、盛んに中国が指弾した西側勢力による「和平演変」(平和的手段による社会主義体制の切り崩し)への依然として続く警戒感がある。
・第3の予兆
中国共産党の「宣伝工作」(プロパガンダ)が効果を失っていることである。習近平主席の語る「中国の夢」を無条件で受け入れ、信奉する人々はもはや存在しない。党に対する追従からそれを宣伝する人はいても、本気で宣伝しているわけではなく、聞く人もしらけている。そうした状況をシャンボー教授は「裸の王様」と揶揄している。
また、シャンボー教授が会議のため2014年12月に訪れた中央党校で校内の書店を覗き、習近平主席の「大衆路線」を論じた冊子が入口近くのテーブルにうず高く平積みされているのを見て、店員に「売れ行きはどうですか」と聞いたところ、「いいえ、それは販売用ではなく、無料の冊子です」という答えが返ってきたが、どう見てもその冊子はごく最近置かれたもののようには見えなかった、という自身の経験も紹介している。幹部党員でさえ「宣伝工作」に冷淡になっている現状が今の中国なのである。
・第4の予兆
党(政府)、軍、さらに中国社会全体に蔓延している腐敗の問題である。習近平主席の反腐敗の取り組みは、これまでのものと比べ持続的であり過酷なものだが、これまで反腐敗のいかなる取り組みも成功した試しがない。なぜかと言えば、一党独裁体制、保護者と被保護者のネットワークの存在が障害となっているからであり、同時に、まったく透明性を欠いた経済や、政府が統制するメディアや、法治の欠如の結果である。
さらに言えば、反腐敗キャンペーンが江沢民元主席に連なる人々を選択的に追及していることも問題である。中国政治におけるゴッドファーザー的な存在である江沢民元主席が88歳とはいえ、いまだ健在であるのに、まだ陣営を固めきっていない習近平主席が挑むのは非常に危険であるとしている。
・第5の予兆
最後は中国経済である。2013年の党三中全会で包括的な改革深化のプランが提示されたが、その後の進展ははかばかしくない。その進展を阻んでいるのは手強い利益集団、すなわち国有企業や地方の党幹部などである。
改革が「既得権益」グループの抵抗に直面
これらの5つの予兆が複合的に作用し、いずれ共産党の支配体制を終焉に導くことになるというのがシャンボー教授の論説である。共産党の統治に対して中国の民心がすでに離れつつあることを考えれば、中国共産党の支配がすでにその終盤を迎えようとしていることが分かる。それを避けるために必要とされているのは政治改革であり、現在の共産党による厳格な政治体制をゆるめることこそが求められるが、実際は、逆に厳格さをさらに強めている。シャンボー教授はこのように分析している。
成長の減速が明らかになった中国経済については、昨年来、習近平主席はそうした現実を受け止め、それを「新常態」という言葉で表現し、そのもとで今後の中国経済のあるべき姿を主張している。
つまり、これまでの投資主導の成長ではなく、国民消費が主導する成長への転換、量的拡大(GDP至上主義)から生産の効率化を進め、かつ環境への配慮や格差是正を目指す成長の質を高める方向への転換など、従来の経済成長モデルの大きな転換を目指している。
しかし、こうした成長路線の変更、すなわち「改革の深化」は従来の成長路線で利益を得てきた「既得権益」グループの抵抗に直面せざるを得ないという現実がある。
また、シャンボー教授が指摘している習近平主席の反腐敗キャンペーンでの江沢民派叩きの危険性について言えば、峯村記者は著書の中ですでに習近平主席側の勝利が確定したと論じている。ただし、正確を期して言えば、中央規律検査委の捜査が江沢民元主席周辺や曽慶紅元国家副主席にも及ぶ気配は伝えられても、立件されるかどうかは判然としない。その意味で、まだ両者の決着はついていないと言うべきかもしれない。
権力固めは順調そのものに見えるが・・・
しかし、その一方で、習近平主席の権力固めは着々と進行しているようだ。3月5〜15日の全国人民代表大会開催期間中、中国語のニュースサイトを騒がせたのは、党中枢指導者の警護を担当する中央警衛局の局長交代人事だった。2007年から局長を務めてきた曹清中将が北京軍区副司令員(副政治委員説もある)に転出し、副局長だった王少軍少将が局長に昇格した。すでに2014年12月、習近平主席が南京軍区を視察した時点で曹清局長ではなく王少軍副局長が随行し警護にあたっていたことが確認されていることから、予定された人事だったようだ。
最高指導者の側近を務めるポストとして、党中央弁公庁主任、中央軍事委員会弁公庁主任、そして中央警衛局局長の3つがある中で、習近平主席はすでに旧知の栗戦書を党中央弁公庁主任に、軍総政治部組織部副部長だった秦生祥を中央軍事委弁公庁主任に任命しており、残されていたのが中央警衛局局長のポストだった。今回、その人事に手を付けたわけであり、政権発足から2年半を経て自前の側近を揃えたことになる。胡錦濤前主席が自前の側近を揃えるのに5年を要したことを考えれば、その権力固めは順調そのものに見える。
ただし、繰り返しになるが、習近平主席個人への権力の集中が進めば進むほど、中国の危機は深まるのかもしれない。
シャンボー教授は、「中国の強力なリーダーである習近平は、反体制派や腐敗を取り締まることによって共産党の支配を支えられると期待している。彼は、ソ連の崩壊を招いたゴルバチョフのようにはならないと心に決めている。しかし、ゴルバチョフの正反対であろうとしているのに、習近平の統治体制はゴルバチョフと同様な効果を中国にもたらすかもしれない。彼の専制政治は中国の政治システムと社会に対し過酷な重圧となり、中国をより限界点に近いところに導くことになろう」と述べているが、こうした箴言(しんげん)が果たして習近平主席に届くことはあるのだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43335
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