01. 2015年3月18日 06:10:09
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アリババは夢のデパートかそれとも地獄のデパートかその快進撃、そして問題点 2015年3月18日(水) 坂口 孝則 著者が初めて中国に行ってから20年も経ってはいない。大学を卒業して製造業に就職した私の初の海外出張先だった。光デバイスを求めて上海に降り立ち、そして深センに向かった。 初の海外出張を甘く見ていた私が、地場の商店街で買ったパジャマを着ると、翌朝はすべてボタンが取れていた。スーパーマーケットで瓶ビールを4本買ってホテルに持ち帰って並べてみると、4本とも微妙に量が異なった。気を取り直して屋台で食事をすると、何か腐った臭いがした。お土産にとCDショップで中国バンドのCDを購入すると、裏面は傷つき、さらにひどい録音状況だった。 しかし、そこから中国の品質は目に見えて上がっていった。私は自動車メーカーに勤務していたが、製品輸入は当たり前となり、いつしかそれを前提に考えるようになった。ずっと日本人が指導したり張り付いたり、無数のトラブルはあるものの、私の書いた思い出は笑い話となった――。 ……のだろうか。 かつては粗悪品ばかりといわれた中国でも状況は変わっており、今では日本と同じく安心した買い物ができる――。 ……のだろうか。 中国から誕生したアリババの快進撃 現在、中国のIT(情報技術)企業であり、インターネット通販大手のアリババ集団が存在感を増している。創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は1964年に生まれ、苦学の中、独学で学んだ英語を生かすため、英語教師となった。馬氏の転機は、1995年に通訳として訪れた米国でのことだった。当時まだ登場してまもないインターネットに触れ衝撃を受けた馬氏は、帰国後そのままインターネット企業を立ち上げる。紆余曲折を経て1999年に杭州でアリババを創業し、チャイナドリームを体現していく。 アリババは2007年11月に香港証券取引所に上場した。公募には無数の申し込みが殺到し、結果132億香港ドルが集まり、狂喜乱舞となった。この金額は2004年に米国ジャスダックに上場した米グーグルをも上回る金額だった。 そして昨年。アリババは9月19日にニューヨーク証券取引所に上場した。馬氏は250億ドルの資本調達に成功したことになる。投資先を求めて米国でさまよっていたお金がアリババに集中した瞬間だった。 馬氏はかつてアリババの上場を否定も肯定もせず、「アリババを世界で尊敬される企業にしたい」と述べ、同時に「上場するとしたら目的は資金を得ることではありません。世界中のユーザーが当社の株を買えるようにして、自分の会社だと思えるようにしたい」とも述べた(『日経ビジネス』2007年7月2日号)。しかし、そのコメントとは対照的に、アリババは巨額の資金を得た。 中国で圧倒的強さを誇るアリババとその世界展開 約3億人もの中国人がアリババを使い、その流通総額は3000億ドルにも達する。決済機能である「アリペイ(支付宝)」も有し、国内では小売のモンスターとして独走する。アリババと米アマゾン・ドット・コムを比較する向きもあるが、アマゾンは自社で商品を販売している。それに対して、アリババは多くの企業に販売機会を提供する、いわば場所貸しビジネスだ。参加店舗や商品の多様さ、決算手法の容易さ、また外資企業よりも中国政府から保護されていることもあって、シェアを拡大してきた。実際にアリババの売り上げの大半は中国国内に依存している。中国国内のみで85%にも占めている。 アリババは2015年2月にはスマートフォンメーカーである魅族科技(メイズ)に約6億ドルもの出資を行うと発表した。ショッピングの入り口であるスマホも囲い込み、新たなユーザーを得たいとする意向だ。中国でもこれから競争が激しくなると予想される。中国での地位も死守しようとしている。アマゾンと同じくドローン(無人飛行機)配送のテストも報じられたが、これも国内同業他社との差別化を狙っていると見られている。 またアリババはアメリカで人気を誇っているSNS(交流サイト)のスナップチャットに2億ドルの出資を決めた。このスナップチャットは女性をメーンターゲットとするアプリで、10秒限定で写真を表示できる。一度だけ友人に見てほしい写真をシェアするものだ。アリババはこれらアプリをテコに海外マーケットも拡大しようとしている。 また成長を加速させようとする動きは、全世界で意欲的に行っている。例えばインドのオンラインマーケットプレイスやオンライン決済業者への出資を次々と打ち出している。 中国は2018年まで電子商取引の市場が年率25%成長すると見られている。かつては物流網も整備されていなかった中国だが、現在では外資をはじめとする進出が相次いでいる。アリババが運営するショッピングサイト「タオバオ(淘宝)」は中国郵政と提携し、利便性を高めている。 特にこれまで全くの手付かずだった中国農村部での拡大は大きい。全くインターネットと無縁だった農村部の特売品を販売したり、逆に農村部に衣料や家電などを販売したりしようとしている。 ところで、好調に見えるアリババにも、いくつか解決せねばならない問題点が浮上している。大きく2つ挙げておく。1つ目は、粗悪品問題、模倣品問題。2つ目は、倫理問題だ。 問題1:粗悪品問題、模倣品問題 2015年2月に中国の国家工商総局が発表した事実は衝撃的だった。タオバオで販売されている商品のうち、正規品があまりに少ないと発表したのだ。その正規品比率はなんと、37.25%としかないとされた。しかも誰をも驚かせたのは、当局が正直に「アリババがIPO(株式公開)前だったから、そのIPOが中断しないように」配慮したと述べたことだった。アリババは、新規株式公開の前に、一般投資家に不利な情報を開示しなかったとして非難された。アリババは、その調査手法について疑義を発表し、かつその指摘は正しくないと反論した。 この問題については、様々なメディアが報じたが、米誌フォーブスの記事がうまくまとまっている。この記事によると、馬氏は「アリババにインチキ品ばかりあふれているとしたら、毎日67億元もの売り上げを達成できるはずがないじゃないか(Do you think we could achieve 6.7 billion yuan in sales daily if the Internet were full of counterfeit products?)」と述べたという。なお、この記事では「私は高品質の模倣品を売っているから、アリババのタオバオで購入するのよ!(I only shop on Taobao because they have high quality counterfeit products!)」という冗談か本気かも不明な意見を紹介している(!)。私は模倣品であってもブランド品を買う習慣がないので分からないものの、確かにその理由でタオバオから購入する人もいるかもしれない。ただ、あくまで模倣品は模倣品にすぎない。 アリババは、当局と協議し、粗悪品や模倣品の撤廃を約束したという。なんとかアリババと当局は争いを収めた格好だが、ニュースサイトをはじめとしてアリババに対する批判はまだ多い。 問題2:倫理問題 アリババは米国内で危険な玩具を販売しないよう努めると発表した。米国が輸入する玩具の実に90%は中国から入ってくるようで、米国内の基準に合わせるように米国消費者製品安全委員会(the U.S. Consumer Product Safety Commission)が申し入れた格好だ。米小売各社は、中国からの商品のいくつかに警告を鳴らしてきた。いわゆる、米国人がグレーマーケットと呼ぶ商品を取り除き、クリーンな企業こそが求められる。 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2014年9月にセンセーショナルな報告書を公開した。タイトルは「中国における拷問器具取引と弾圧」。文字通り、中国での拷問デバイスの実態についてのレポートだった。同組織はこれまで米国などを調査していたが、中国は初めてだった。結果、中国はその拷問機器分野で“独走"していた。 もちろん催眠スプレーやスタンガンは、もっぱら自己防衛用の意味もある。とはいえ、中国では大小130社もの企業が同器具に携わり、実に2000年代に入ってからも各国に輸出していた。政局が不安定な国の警察に輸出され、例えばアフリカのウガンダでは反政府運動に活用された。マダガスカルでは平和運動弾圧に使用された。 私はアムネスティ・インターナショナルの活動にすべて賛同するものではない。正直に言えば、さほど感心しない場合も多い。ただ、虐待のみを目的とする器具の撤廃は望ましい。その意味で、同団体の活動を評価したい。 問題は、これら拷問器具がアリババで販売されていることだ。もちろん、同社は上場まで行った公的な器だ。よって、正式には、問題がある商品をすぐさま排除するとしている。だから、基本的にはネットにアップされたとしても、すぐさま消えるはずだ。 しかし、アリババもその量ゆえにか、すべてを消し去ることができてはいない。私はアリババができるだけ早期にこれら商品を抹消しようと努力していると思う。ただ、私が調べる限りでも、すぐに拷問機器を見つけられた。実際に「torture devices」「alibaba」と画像検索をかけてみればいい。いくつもの「怪しげ」な画像を見つけることができる。ただし、気が弱い人はやめた方が賢明だ。 あるサイトは「アリババは拷問機器のスーパーマーケットか?(Alibaba.com: Supermarket for torture devices?)」と断じた。スタンガン、手錠、警棒に首輪、私が使用法を想像もつかない拘束具。 誤解なきよう付け加えておくと、この拷問器具の存在そのものがアリババの責任と言いたいわけでは、もちろんない。これはアリババというより、中国全体の問題だ。私が述べているのは、そういった倫理を逸脱した器具がアリババというサイトで販売されていることであり、この取り締まりと審査の厳格さがアリババには求められるだろう、という当たり前にすぎないことだ。 アリババは真の世界的プレーヤーになるのか 著者はかつてノイズミュージックを愛聴していた。中学生のころ傾倒していたサックス奏者のジョン・ゾーンは、ネイキッド・シティを結成しアルバム「LENG TCH’E(レンツェ)」で世界を魅了した。タイトル「LENG TCH’E」は、中国でかつて行われていた処刑方法で、対象の肉を徐々に切り裂いていくものだった。同アルバムで表現された音楽は、狂った音と痛々しいノイズが絡み合い、聴くものを嘔吐に誘う(なおこれは最大級の賛辞である)。ボーカルは天才の山塚アイ氏で、処刑の痛みを感じる、まさに拷問のようなアルバムだった(なお、繰り返すが、これは最大級の賛辞である)。 しかし、「LENG TCH’E」も過去の異物にすぎない。私は拷問国家としての中国は、もはや姿を潜めたと思っていた。アリババも、粗悪品や模倣品はもとより、拷問スーパーマーケットのイメージがついて望ましいはずはない。 私はアリババの優位性を「参加店舗や商品の多様さ、決算手法の容易さ」などと説明した。しかし、真のグローバルプレーヤーになるためには、これだけの条件ではなく、透明性や倫理性などが求められるだろう。 馬氏は「何をするにしても、功利を焦る気持ちがあってはならない」と述べた(張燕・編著、「ジャック・マー アリババの経営哲学」、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。アリババもじっくりと消費者が納得のいくサービス環境を作ってほしいと期待せずにはいられない。 このコラムについて 目覚めよサプライチェーン 自動車業界では、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車。電機メーカーでは、ソニー、パナソニック、シャープ、東芝、三菱電機、日立製作所。これら企業が「The 日系企業」であり、「The ものづくり」の代表だった。それが、現在では、アップルやサムスン、フォックスコンなどが、ネオ製造業として台頭している。また、P&G、ウォルマート、ジョンソン・アンド・ジョンソンが製造業以上にすぐれたサプライチェーンを構築したり、IBM、ヒューレット・パッカードがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を開始したりと、これまでのパラダイムを外れた事象が次々と出てきている。海外での先端の、「ものづくり」、「サプライチェーン」、そして製造業の将来はどう報じられているのか。本コラムでは、海外のニュースを紹介する。そして、著者が主領域とする調達・購買・サプライチェーン領域の知識も織り込みながら、日本メーカーへのヒントをお渡しする。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150317/278795/?ST=print
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