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【第46回】 2015年3月3日 加藤嘉一 [国際コラムニスト]
米国が中国に“外圧”をかけられないという不都合な真実
加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ
ニューヨーク・タイムズ紙のサイトは
かくして中国当局にブロックされた
「私たちのウェブサイトが中国国内でアクセス不能となってからしばらく経ちました。もうすぐ行われる米中非公式会談の場で、オバマ大統領から習近平国家主席に直接働きかけてもらえるよう、我が社としてもホワイトハウスにロビイングをかけました。どこまで効果が出るかは、ふたを開けてみないとわかりません」
2013年6月、米ニューヨーク・タイムズの関係者が私にこう証言した。同年同月、米国のバラク・オバマ大統領は就任して間もない中国の習近平国家主席をカリフォルニア州にあるサニーランドへと招待し、非公式に会談を行った。その後、私自身サニーランドを訪れてみたが、当時の約8時間にわたって行われたオバマ・習会談の模様が施設の随所で紹介されていた。同施設の関係者によれば、「中国からの観光客が日増しに増えている。ツアーも組まれている」とのことであった。
冒頭の証言は、2012年10月、すなわち習近平が総書記に就任することが決まった共産党第十八回大会が北京で開催される直前、米ニューヨーク・タイムズのウェブサイト(英語版・中国語版含む)が中国国内でアクセス不能に陥った事件を指す。
政治的立場を異にする中国当局が、ブロックしたのだ。
中国当局を憤慨させたのが、温家宝首相(当時)家族の腐敗を暴いた記事だ(By DAVID BARBOZA : Billions in Hidden Riches for Family of Chinese Leader, October 26, 2012)。同関係者はこう指摘する。
「もちろん、以前から中国当局は我が社の報道スタイルに不満を持っていた。いつでも我々のサイトをブロックアウトする用意はできていたと思う。デーヴィッドのスクープは引き金に過ぎない。そもそも、こうなるのは時間の問題だったのかもしれない。それに、我が社には中国外交部から報道ビザを発行してもらえない記者もいる」
奇しくも、米ニューヨーク・タイムズの中国支局は、同社の中国報道を監視し、ビザ発行を堰き止めている中国外交部の隣に位置する(北京市朝陽門)。同社の支局長が中国外交部報道局に対してアクセス不可を解除してもらうようロビイングをかけても、ほとんど効果がなかったというが、それでもオバマ大統領が直接習主席に働きかければ、状況は一変するかもしれない。
私が知る限り、ニューヨーク・タイムズは自社の中国市場における命運を一定程度オバマ・習サニーランド会談に託していた。
サニーランド会談から21ヵ月が経った。会談直後から現在に至るまで、ニューヨーク・タイムズのウェブサイトはブロックされたままだ。世界随一の超大国・米国の首長による説得、あるいは懇願でさえも、習主席、あるいは中国共産党という体制は聞き入れない、あるいは聞く耳を持たないということなのであろうか。
米国記者に対するビザ発行拒否は
「自分たち」に原因がある?
2014年11月、サニーランドに続く米中首脳会談が、今度は北京で行われた。1日目の夜、習主席はオバマ大統領を自らの“事務所”がある中南海に招き、寒空の下散歩をしながら、インフォーマルに雑談を交わした。
2日目は、場所を人民大会堂に移して正式な会談が行われた。会談後の共同記者会見にて、ニューヨーク・タイムズのマーク・ランドラー記者が質問する。
「ニューヨーク・タイムズを含め、米国のメディアで働く記者たちが中国当局からビザ発行を拒否されている。今回合意した米中ビザ緩和によって、中国で働く記者たちの処遇も改善されるのか?」
「中国は市民の言論の自由と基本的権利、及び法律に基づいた外国メディアの権益を重んじている。メディアは中国の法律と規定に従わなければならない。道路で車が壊れた場合、我々は下車し、何処に問題があったのかを見なければならないだろう。問題の発生には必ず原因が伴うものだ。中国にはこのような俗語がある:“問題は、起こした人間によって解決されるべきだ”」
私がこの習近平発言を解読するに、要は「原因はあなた方にあるのだ。ビザを発給してほしければ、やり方を考えなおして、姿勢を正して、出直して来なさい」という意味である。同紙への報道規制を止めるつもりはないことを示唆する習主席を横目に、オバマ大統領は「米中にはビザ発給をめぐって違いがあるのだろう」とだけ言及。明らかに習主席に遠慮をしていた(第39回コラム参照:習近平とオバマは中南海で何を語っていたのか 3つのシーンから検証する中国民主化の行方)。
ニューヨーク・タイムズは米国の企業である。いくら権力を監視する立場にある新聞社であり、政府とは競争・緊張関係にあるとはいえ、同紙が米国の合法な企業である限りにおいて、米国政府には自国企業の海外における合法な権益を守るべく積極的にコミットメントする必要がある。自国企業の正当な権益や欲求が脅かされるのであれば、相手国に対して働きかけ、問題解決に向けて動く責務がある。
しかも、ニューヨーク・タイムズはどちらかと言えば(ワシントン・ポストなどと比べて)、オバマ大統領率いる民主党の政策を支持する立場にある。加えて、同紙が中国で脅かされている権益は、まぎれもなく“報道の自由”というアメリカ合衆国がその建国以来育んできた核心的理念・価値観であり、ボトムラインでもある。
(1)米国企業であり、(2)民主党派であり、(3)民主主義の根幹をなす“報道の自由”を後ろ盾とするニューヨーク・タイムズが窮地に陥っているにもかかklわらず、オバマ大統領は、サニーランド会談から中南海会談を通じて、同紙を救出しなかった。
あえて救出しなかったのか、何がなんでも救出できなかったのかに関しては、現段階では判断がつかない。ワシントンDCにおいて往々にして中国に軟弱だと揶揄されるオバマ政権であるが、(1)中国を必要以上に刺激するのは得策ではないという立場から、経済貿易や地域協力など他の問題との兼ね合いも考慮した上で、“ニューヨーク・タイムズ問題”を戦略的に放置した可能性は十分ある。
報道の自由を救出しなかったオバマ大統領
米国の対中戦略から感じる「深刻な問題」
もちろん、(2)オバマ政権として最大限のポリティカルキャピタルを投じたにもかかわらず、習近平国家主席率いる中国共産党には通じなかった、という可能性も十分ある。あるいは、(3)オバマ陣営の対中対策の軸がこの2つの中間点に位置していた可能性も十分ある。
私から見て(1)〜(3)は、米国の対中戦略・政策という観点から、いずれも深刻な問題をはらんでいる。(1)は(1)〜(3)という重要なファクターを含んでいたにもかかわらず、その問題を放置したことを意味する。超大国・米国の“怠惰”を示している。(2)は、米中の国力が相対的に接近する過程で生じている現象であり、チカラで中国を説得できない状況は超大国・米国の“衰退”を示している。(3)は、“こうしたい”という意思と“こうできる”というチカラの関係が不均衡、すなわち、保持してきた国力を何に対してどのように行使するかという政策決定につなげられない状態にあることを意味しており、超大国・米国の“当惑”を示している。
怠惰・衰退・当惑。
“この構造”は、2014年中国共産党を震撼させた香港情勢にも如実に露呈されている。
昨年9月末、香港では、中央政府に対して公平な普通選挙を要求する抗議デモが大々的に行われた。デモ集会を率先して引っ張ったのは大学生たちである。1989年、北京で勃発した天安門事件を彷彿させた。
一方で2014年、香港で勃発した“占中”(Occupy Central)デモと天安門事件は根本的に異なる性質を内包していた。2014年は1989年ではなく、香港は北京ではなかった。
時間軸から見れば、中国の国力や国際影響力が相対的に向上し、内政や外交などあらゆる問題でより強気な姿勢で挑む傾向が顕著になってきた一方、空間軸から見れば、香港の制度は中国大陸とは異なり、少なくとも制度的には報道・言論の自由や司法の独立が保障されている。前出の報道ビザを発行してもらえないニューヨーク・タイムズの記者のなかには、“香港発”で記事を書いている人もいるくらいだ。
不透明に台頭する異質な中国と向き合い、付き合っていく上で、香港という場所は戦略的に重要な意味を持つ。特に、いまだ随一の超大国として君臨する米国にとっては、言うまでもなく、北京よりも香港に対してのほうが影響力を行使しやすい。そして、香港に影響力を浸透させることができれば、北京にその重い腰を上げさせるきっかけを見出すことが可能になるかもしれない。本連載の核心的テーマである中国民主化研究という視角からすれば、香港を通じて中国本土における民主化を含めた政治改革を促す、少なくとも香港をその第一歩とする、という意味である。
香港デモの黒幕は米国という言論
もはや“民主的外圧”は中国に効かない
舞台をもう一度昨年11月、北京で行われた米中首脳会談後の共同記者会見の現場に戻そう。
ニューヨーク・タイムズのマーク・ランドラー記者は、“ビザ問題”以外に、もう1つの問題提起をした。香港で起こっていることに関してであった。
「中国には“香港で起こっている抗議デモの黒幕は米国である”といった反米的な言論があるがどう思うか?」
オバマ大統領は、習主席との会談で香港問題が話題になった事実に言及した上で、以下のように回答した。
「米国は香港で起こっているデモに関与していない旨をはっきりと伝えた。これらの問題は香港、そして中国の人たちが決めるべきことだ。一方で、米国が重んじる外交、そして価値観という観点から、人々の言論の自由、そして香港で透明性のある、公正で、現地の人々の意見を反映できる選挙が実施されるべきだということはこれからも主張していくという立場も習主席に伝えた」
対する習主席は、毅然とした態度で応戦した。
「オバマ大統領にも伝えたが、香港で起こっている“占中”は違法行為である。我々は香港特別行政区政府が法律に従って事態に対処し、香港社会の安定と香港市民の生活と権利を維持することを支持する。香港問題は中国の内政であり、いかなる国家も干渉すべきではない」とこれまでの立場を繰り返した。
米中首脳会談を扱った前出の参照コラムの文末にて、私は「オバマ大統領率いる米国政府が中国に“民主的外圧”をかけるのは困難である」と結論づけた。この見解はいまも変わらない。
香港問題が内政であるのは事実である。一方、そこで問題になっているのは“普通選挙”という民主主義の根幹に関わるテーマであり、しかも香港はオバマ大統領も“回帰”を主張するアジア太平洋地域の国際金融センターであり、経済のハブでもある。加えて、2017年に実施予定の香港“普通選挙”は、中国共産党が政治改革や民主主義をどう捉えているかを判断し、仮にその判断が米国のそれと根底から異なる場合は、何らかの形で影響力を行使していく絶好の素材でもある。
結果的に、米国は香港の民主化を促すべく本腰を入れて動かなかった(水面下ではデモへの資金提供などあったのかもしれないが)。香港を通じて北京の政治改革を促そうとしなかった。しなかったのか、できなかったのかは現段階では判断がつかない。
怠惰・衰退・当惑な対中戦略
横たわる米国の「不都合な真実」
ただ1つ言えることは、前出の“ニューヨーク・タイムズ問題”同様、香港問題においても、怠惰・衰退・当惑という、対中戦略・政策を通じて浮き彫りにされる“米国の不都合な真実”が横たわっているということだ。
最近、この真実を痛感させられる場面が再来した。
2月5日、米国の宗教関係者が1年に1度集まる会合がワシントンDCで開かれた。チベットのダライ・ラマ14世が出席していた。スピーチの中でオバマ大統領は“友人”ダライ・ラマ14世の活動と貢献を称賛した。
焦点はオバマ大統領とダライ・ラマ14世がどのように対面するかに集まっていた。結果的に、両氏が面と向かって言葉を交わすことはなかった。オバマ―ダライ・ラマ会談に頑なに反対する中国政府に対し、米国側が遠慮した現実を明示していた。
http://diamond.jp/articles/-/67703
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