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ISIL人質事件で蘇る中国の悪夢 テロリスト供給国でもある中国のジレンマ
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150206-00010000-wedge-cn
Wedge 2月6日(金)12時10分配信
後藤健二さんと湯川遥菜さんという二人の日本人がISIL(「イスラム国」とも呼称)メンバーに殺害されたとされる映像が公開されて日本社会に大きな衝撃を与えた。中東でのテロに日本が「巻き込まれる」可能性が高まったと捉えられたためだ。しかし、日本人が「巻き込まれ」、人質になったのはもちろん初めてでもなければ、最後でもない。むしろ過激派の跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)は私たちの周辺のアジア諸国で顕著になっているように見える。
国内に多くのイスラム教徒を抱え、少数民族による騒擾事件や分離独立への動きに常に晒されてきた中国では長年にわたり日本と比較にならないぐらいの緊張を強いられてきた。そんな中国においてさえもここ数年でテロを巡る治安維持の問題ではこれまでと異なる様相を呈している。
もともと少数民族が多い新疆ウイグル自治区やチベット自治区、そして中国各地に点在する民族自治州では度々、少数民族による騒擾事件が発生していた。しかし、常に分離独立やテロのような暴力事件と隣り合わせの中国でも最近は海外の過激な集団に触発される形で変化が起きている。これまで少数民族地域に限定されていた暴力を伴う騒擾事件が、ここ数年は中国全土に飛び火し、通り魔や爆弾テロが立て続けに起きている。東南アジアのイスラム教へ抜ける国境地域では集団での秘密裏に出国を試みる一団と国境警備隊の間で銃撃戦も頻発している。天安門での車両突入・炎上や山西省庁舎へのテロ未遂、昆明駅での集団通り魔と、暴力事件は場所を選ばず起きるようになっている。
そこで今回、中国国内の少数民族問題が「イスラム過激派」とどのように繋がり、それが中国社会の治安にもたらしている影響を紹介したい。これまで中国当局が懸念を示してきた「外部勢力」と少数民族の繋がりが、中国国内での全体的な治安維持に影響を与え始めているのだ。
■ISILに行った中国人は300人超
こうした一連の変化は中国の公安次官とマレーシアの内相との会談内容が明かされたことからも窺える。『環球時報』(2015年1月23日付)はマレーシア内相が中国の公安次官の話として300人を超える中国人が既にISILに入ったと伝えた。1月21日にマレーシアを訪問した中国公安部の孟宏偉次官が同国のザシード内務相との会談で明らかにした。この数字にマレーシアは驚いたが、それ以上にマレーシアが既に中国人がISILへ入る中継点としてひとつの重要な拠点になっていることを示したのである。中国からタイやベトナムを抜け、マレーシアやインドネシアからトルコに渡り、そこからシリアに入るというルートが確立されているというわけだ。
マレーシアの警察当局は昨年、ISILへの加入を試みたマレーシア人46人を拘束したとしており、現在、3月の国会でテロ対策の法案を可決に向け準備が進められているという。中国当局は中国人がマレーシアに密入国している状況をある程度は把握しているだろうが、公の場では明らかにしていない。それは中国自身が過激派による被害者でありながら同時にテロ活動に参加する人材の供給国になっているという現実に対するジレンマを示す。中国外交部の報道官は具体的事案については関係部門に聞けと直接回答を避ける。関係部門とは警察としての公安部や秘密警察としての国家安全部だが、こうした外事警察部門が具体状況を公表することはなかろう。
■多発する中国南部での騒擾事件
中国から国境を接するタイやベトナムに行くため、「過激派」たちは新疆ウイグル自治区といった中国の西部から雲南省や広東省、広西チワン族自治区といった南部に移動し、そこから東南アジアに抜ける。この際に密出国を手伝うのは「蛇頭」と呼ばれる地下組織である。「蛇頭」のガイドにより、陸路、水路を伝わってベトナムやミャンマーに赴き、そこからタイやマレーシアを経由してトルコに向かう。
昨年3月に起きた通り魔事件は中国のみならず、日本でも大きな注目を浴びた。3月1日、雲南省昆明駅で十数人の黒服をまとった男女が行きずりの人々に刃物で襲い掛かり、29人が死亡し、130人あまりが重軽傷を負った。犯人は黒い旗(ISILの旗に似た)のようなものを持っていたとも伝えられた。
こうした事件を受け、国境近辺では近年警戒が強化されており、簡単に越境ができなくなりつつあり、取り締まりの警察や治安部隊と銃撃戦が発生する事態も起きている。1月18日夜、ベトナムとの国境の町、広西チワン族自治区の凭祥市では密かに出国しようとしていた新疆ウイグル自治区出身者が警官隊と衝突し、2人が射殺されるという事件が起きたばかりだ。
広西チワン族自治区公安庁には反テロ総隊が設けられているが、この総隊が主催する反テロ宣伝活動において14年に同自治区で宗教絡みの原理主義者の検挙数は全国の半数を占め、凭祥市での検挙者は広西での3分の1を占めたと明らかにされた。実に同市での検挙者数は全国の6分の1を占めることになる。中国公安部が明らかにしたところでは、ベトナムやミャンマーとの国境での密出入国事件が急増しており、昨年1年で132件、関係人数は866人に上ったという。このほとんどが新疆出身者だった。
■東南アジア各国で数百人規模の密入国者を検挙
カンボジアやマレーシア、タイでは2009年以降、新疆ウイグル自治区出身者が拘束される事件が相次いでいる。マレーシア警察は昨年10月、クアラルンプール郊外のマンション2部屋で新疆ウイグル自治区からの密入国者155人を拘束した。女性37人と子供76人を含んでいる。当局はこの密入国者たちがISILに参加しようとしていたか否かは明かしていない。
タイでは南部のソンクラー県で昨年3月、身元不明の人々220人以上(うち男性78人、女性60人、児童82人)が拘束された。彼らは当初トルコ人を名乗ったが、後に新疆ウイグルからの密入国者と判明した。彼らの中に婦女、幼児がいたこともあり、米NGOは彼らが帰国すると迫害に遭う可能性が高いとして帰国させないよう求めた。
こうした報道からみると中国からの密入国者がイスラム過激派に属し、テロ活動と関わりがあるとは断言できない。しかし、ISILに同調して渡航するものも少なくなく、東南アジア諸国では既に帰国してISIL支援グループを国内に組織する動きがあるのも事実だ。『亜洲週刊』2月号はISILがアジアに焦点を定めたと特集を組んでいる。東南アジアのイスラム諸国は単にアジア各国からISILへの人員供給源となっているだけでなく、分派組織を国内に組織する動きもあるのだ。
これに対して中国や東南アジア諸国は対策を怠ってきたわけではない。中央アジア諸国とは中国はテロ対策の共同演習を頻繁に実施しており、二国間関係での演習に限らず、上海協力機構(SCO)の枠組みでも協力が進められている。東南アジアでは中国はメコン川流域のラオス、ミャンマー、タイと共同で国境警備隊による巡視を強化しており、2011年から共同巡視を定期的に行ってきた。共同巡視は1月末までに既に30回を数える。
■2005年のヨルダンでのテロでは 中国軍人3人が犠牲に
国内の治安維持とテロが密接に関わるという複雑な国内情勢に加え、中国人が海外でテロに遭うことも多くなっている。今回、後藤健二さんの解放条件としてISIL側はヨルダンで収監されているサジダ・リシャウィ死刑囚の釈放要求を出した。リシャウィ容疑者は2月4日にヨルダン政府によって死刑が執行されたが、このリシャウィ死刑囚が逮捕されるきっかけになった夫とともに企てたアンマンのラディソン・ホテルでの自爆テロ事件(2005年11月)では56人の死者と300人以上が重軽傷者を出した。そしてそれには中国の軍人3人も含まれていたのだ。
この軍人とは国防大学から研修目的でヨルダンに派遣されていた総後勤部傘下の衛生部所属某局の副局長である潘偉大佐(44歳)、総政治部所属の張康平大佐(42歳)、中央軍事委員会弁公庁所属の孫靖波大佐(41歳)であり、姚立強大佐(42歳)も大腿骨骨折という大けがを負った。当時の胡錦濤国家主席はテロを激しく非難する声明を出し、中国政府は3人の遺体送還に際して帰国歓迎式典を行い、国防大学では追悼式が大々的に行われた。
リシャウィ死刑囚の釈放要求によっておぞましい過去の記憶が再び呼び起され、ISILによるテロの脅威を再認識させる事になったが、中国は米国国務省が発表した対ISILの「有志連合」60カ国のリストには入っていない。
■中国の「暴力テロ分子」対策とは?
中国はISILに対してどのような態度をとっているのか。中国現代国際関係研究院の安全・軍備コントロール研究所の李偉所長は、中国籍の過激派が渡航して、「ジハード」に参加しようとするのは最終的には帰国して国内での活動に役立てたいからだ、と危機感を示している。そのため中国当局としては渡航者の身元を明らかにして東南アジア各国との協力関係を進めている。新疆から東南アジアへ渡り、最終的にISILに参加しようという者がいる一方で、中国当局が懸念するのはそうした若者が帰国して新疆で「独立運動」に関たり、テロを行うことだ。
中国の治安当局は各地の警察力を総動員して「分裂主義者」への取り締まりを更に強める構えである。チベットの公安庁はテロや暴力にかかわる情報提供に対して30万元(500万円超)の報奨金を出すことを通達しており、これには「暴力テロ分子」の「越境」に関する情報も含まれているという。
中国のネットにはISILに対して派兵して打ち負かすべきだという勇ましい意見が多く出ている一方、「愚かな考え」といさめるような意見も少なくない。昨年の9月に中国国防部の耿雁生報道官は、解放軍が出兵してISILを叩くことはありえるか、という質問に対して「中国の軍隊はテロリズムを撲滅する責任を負っており、関係国と関連作業は進めている」と明言は避けたが、テロ撲滅の姿勢は示している。
■中国が「出兵」しないのはなぜ?
中国国内でISILへの反発は強く、軍派遣への世論が高まっているにもかかわらず、なぜ中国政府は抑制的スタンスを貫いているのだろうか。軍を初めとする政府のスタンスは耿報道官のコメントを超えるものではないが、ネットで指摘されるISILへの出撃をいさめる理由は中国の本音を表している。
それは(1)現時点でまだ中国本土に脅威が達するには距離があること(2)ISILの北アフリカ、中東、中央アフリカへの拡張計画は警戒が必要だが中世の遊牧民とは異なり、たやすく拡張できない(3)ISIL周辺にはクルド、イラン、シリア等、彼らに対抗する勢力や国があること(4)米国がメインで対処しているから中国が表立って出る必要はない(5)中国は「3つの勢力(三股勢力:宗教的強硬主義者、民族分裂主義者、テロリスト)」の取り締まりを行っているが、イスラム教徒一般とは共存共栄を図っており、出兵で当該地域のイスラム教徒に反感を持たれたくない(6)ISIL拡張で打倒された国はまだなく、中国とISILとの間にある国の体制が崩壊して初めて中国に危機が迫る、という理由だ。特に(5)が重要ではなかろうか。
中国が国内に抱える少数民族による「分離独立」への動きの問題から、過激派によるテロ取り締まりの問題は複雑な様相を呈していることが窺えよう。これまで地域に限定されていた暴力事件が、過激派の移動で中国全土に大きな治安上の懸念を生じさせている事は興味深い。更に考えてみれば、そのように出国した過激派が再入国して再び国内への治安を脅かすという次のステージへの移行はあるのか、あるとすればいつかという点も気になるところである。テロの脅威は対岸の火事ではないのだ。
弓野正宏 (早稲田大学現代中国研究所招聘研究員)
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