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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41893
ダマされたほうが悪い/謝ったら負け/誠意はいっさい通じない
自分は決して反中ではない。だがこれが真実なのです―。中国のビジネス界で戦ってきた、自動車業界の雄・スズキ元現地法人社長が明かす、驚くべき中国ビジネスマンのマインド。その実態とは。
平気でウソをつく
日本を代表する自動車メーカーの一つ、スズキ。松原邦久氏(71歳)は、'95年から、その中国部部長などを歴任し、'01年からは現地法人である重慶長安鈴木汽車の社長を務めるなど、30年以上にわたって中国ビジネスの世界に携わってきた。近著『チャイナハラスメント』(新潮新書)でその実態を明かした松原氏に、いまだから語れる中国ビジネスの裏側と、中国と向き合う日本人ビジネスマンへのアドバイスを聞いた。
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どこのメーカーも、自分たちが儲かっていない、などという話を声高にはしません。しかし、中国で責任者を務める日本人ビジネスマンとゴルフなどの場で話をすると、芳しい結果を出していないところがほとんどだとわかります。
儲からない理由は様々です。中国でのビジネスノウハウが不足していることもあれば、人件費が安いから儲かるに違いないと安易な気持ちでやってきたけれども、現実は厳しかったという場合もあります。
けれども、中国に進出した日本企業が苦戦を強いられる最大の要因は、日本企業に対する不当な虐め、いわゆる「チャイナハラスメント」なのです。これが続く限り、日本の企業はむしり取られるばかりで、何のメリットも得られません。
私は決して反中ではなく、中国で長年ビジネスに携わり、友人もたくさんいます。充実したビジネスマン人生を送れて感謝さえしている。
それでも、そうした個人的な思いとビジネスは別問題です。日本人はとかく忘れがちですが、ビジネスではまず自分の利益を確保しなければならない。これから日本が生き残るためには中国ビジネスの現実を知っておく必要があるのです。
■ダマされたほうが悪い
現地に進出した日本企業のビジネスマンがまず戸惑うのは、日本人と中国人では価値観や意識があまりにも違うということです。
例えば、中国人の多くが共通して持っている、
「人をダマしても、自分の利益になればかまわない」
という発想。これなどは我々日本人には到底理解できないでしょう。
私が出会った中国人ビジネスマンの代表的な例を挙げてみましょう。
'93年に、スズキは軍需産業から自動車産業に進出したC集団公司(仮名)と合弁契約を結びました。
私が中国部長を務めていた'98年、C集団公司の「総経理」(社長)となった人物がいました。かりにその名を「王」とします。
王はその後、'05年にはC集団公司の董事長(会長)まで昇り詰め、名誉ある「中国優秀経営者」の候補者となります。そして中国のエリートが集まる清華大学で学生たちを前に、自分の業績について講演しました。そこで彼は、得々とこんな話をしたのです。
「我々のような防衛産業には、海外企業はなかなか技術を売らない。学ぼうとしても学べない。盗もうとしても盗めない。だから自分で研鑽するしかない」
「スズキの会長は我々が日本に勉強に来ること、交流することを希望していた。だが我々は自分で発展したいので、『一つの企業に頼っていてはいけない』と思っていた。それで私は米国のフォードと接触したのだ」
「スズキがC集団公司の株式を買うとき、我々は『新たに自動車関連の事業を始めるときには、事前にスズキの承認を得る』という約束をした。だが私はフォードと接触した際、同意を得なかった。この問題の交渉は紛糾し、初日は20時半、翌日も14時まで交渉したが、日本側は我々に食事も出さなかった。『日本人はみんなケチだ。食事も出してくれない』と私は言った」
約束違反を自慢するのにも驚きますが、王はこの出来事の解決交渉には直接参加もしておらず、夜まで交渉したとか食事も出されなかったというのは完全な作り話です。'02年、スズキは損のない金額でC集団公司の株式を手放しました。
すべて自分のもの
私は当初、こうしたメンタリティは中国でも一部のことではないかと思い、現地で働く中国人スタッフに「ダマす人とダマされる人どちらが悪いと思うか」と質問してみました。すると、なんとほぼ全員がダマされるほうが悪いと言うのです。
■技術は盗んで当たり前
中国人の特許などに対する意識が極端に低いことは知られていますが、人が苦労して開発した技術を盗むことに対して罪の意識がないことにも驚かされます。
私が長安鈴木の総経理をしていたとき、こんなことがありました。
製品に技術的な問題があることがわかり、日本の本社に問い合わせましたが、週末になっても回答が届きません。すると技術担当の中国人の課長が、「自分が休日出勤して解決する」と言う。週明け、彼は自分で解決法を見つけたので本社の支援はいらないと言ってきました。しかし私は本社に、なぜ回答を寄越さないのかと文句の電話を入れたのです。すると本社は、
「1週間前に図面と資料を技術課長宛てに送った」
と言う。私は資料がどこかに紛れてしまったのかと再送を依頼しました。ところが手元に届いた資料を見ると、解決法は技術課長が自分で見つけたという方法とまったく同じ。本人を呼び出して問いただすと、彼は悪びれることなく、「『○○課長宛て』と書いてあったのだから、私のものです」。
さらに、中国ではある企業が海外から入手した技術が、別の企業に平気で横流しされてしまうこともあるのです。それも合法的に。
中国では、ビジネス上入手した情報や技術は〈共産党および政府が必要と判断すれば守秘義務は存在しない〉と契約書に入れるよう求められます。要するに国家として必要な技術は好きなだけもらいますよと言っているのと変わりません。
■「誠意」は通じない
日本はいま、PM2・5で苦しむ中国に環境技術を提供することを検討していますが、私は反対です。日本側にとっては誠意でも、中国側はプライドを傷つけられて、「偉そうな日本人め、余計なお世話だ」と逆ギレするのがオチだからです。
何しろ、彼らは自分たちが世界一だという意識が極めて強い。日本のように中国文化に影響された小国に技術で抜かれていることが腹立たしくて仕方ない。生産技術の提供料、いわゆるロイヤリティは、彼らがもっとも嫌うものの一つです。
悪いのは自分じゃない
ある時、航空機産業から自動車開発に進出する中国企業と、我々が開発した車の生産についてのロイヤリティ交渉をしました。するとその席で、彼らは突然こんなことを言い出しました。
「そんなものは払えない。日本人は我々が作った漢字や箸を使って暮らしているがロイヤリティを払っていないではないか」
向こうは押しの弱い日本人なら、これで引き下がると思ったのでしょう。しかし私は反論しました。
「いいえ、払いましたよ。遣隋使や遣唐使が中国に渡ったとき、たくさんの貢ぎ物を持って行きました。あれがロイヤリティです」
彼らは意表を突かれたのか表情を凍りつかせ、こうまくし立ててきました。
「いや、あれでは足りない」
しかし、私は、
「それはその時に言わないとダメです。ですから、我々もロイヤリティが多いか少ないかは今、決めましょう」
結局、我々の要求が受け入れられる形で契約を結ぶことができました。あの時の彼らの憎々しげな表情は今でも忘れられません。
もう一つ、日本流の誠意が通じない例を挙げましょう。先にお話しした王という人物は講演の中でこうも言っていました。
「スズキの会長は初め、『上から目線』で私を見ていた。だが今年('05年)、私が日本のスズキに行くと会長は私を自ら誘って中国国旗の下で記念撮影をした。なぜこのような接待を受けるか。私の後ろに発展するC集団公司があり、気骨ある中国人が立っているからだ」
スズキの鈴木修会長は外国の客人をもてなすときはいつも相手の国の国旗を掲げ、記念撮影をします。日本流の心遣いは、彼らには理解されないのです。
■謝ったら負け
中国の地方都市で工場を訪問したときです。応接で話をしていると、中国人女性が運んできたお盆のお茶が滑って、日本側の一人のズボンをびしょ濡れにしてしまった。日本人なら慌てて「すみません」と一言謝り、タオルを取りに走るでしょう。ところがその女性は咄嗟にこう言ったのです。
「私が悪いのではない。絨毯がずれているのに引っかかった。悪いのは掃除の係で私ではない」
彼女にしてみれば、大切な交渉相手に粗相をした以上、上司に叱られ、下手をするとクビを切られるかもしれない。それを阻止するために、どんなに理屈に合わなくても自分には責任がないと主張したわけです。
撤退もままならない
長安鈴木の社長時代、私が直接面識のあるお客さんの車に不具合が出たという報告がありました。私は自ら駆けつけて不具合の状況を聞き、調査のため部品を預かろうとしたのですが、「広東省の消費者品質管理部門に持ち込む」と言ってなかなか渡してくれません。
結論から言うと、部品はこの家の奥さんが前輪を道路の縁石に引っかけたまま強引に後進したため破損したのですが、相手はいきなり社長の私が出てきたので、重大な欠陥に違いない、高額な損害賠償金が取れると踏んだのでした。誠意や謝意は弱みと取られ、つけいられるスキになるのです。
■日本企業を狙いうち
こうしたマインド、中国人の気質の問題だけでも日本のビジネスマンは苦労するのですが、本当の意味で日本企業を苦しめているのが、日本を標的にしているとしか思えない規制の数々。これこそ「チャイナハラスメント」の中核と言えます。
例えば、日系の自動車メーカーが合弁会社を設立する場合、「車体とエンジンを別の会社で生産すること」という条件を課せられます。欧米メーカーには、この条件はつけられていません。
別の会社で別々に作れば価格交渉から生産管理までさまざまな面で手間とコストがアップし、当然、利幅は小さくなります。
さらに、規制が前触れもなく変わることもあります。日本メーカーは小型車が得意ですが、'01年に上海市が突然、市街地への1000t以下の車の進入を禁止し、ラッシュ時の高架道路の利用も禁じました。とくにスズキは1000t以下に特化し、年間1500台以上を売り上げていたので、打撃は尋常ではありませんでした。
中国では儲けられないと気づき、撤退を考えても、すんなりいかないことが珍しくありません。中国で合弁企業を作った場合、「二免三減」と言って2年間は法人税が免除、さらに3年は半額という優遇が受けられるのですが、契約期間中に打ち切る場合は優遇分をすべて払わなければいけない。
あえて中国に進出したいと考える日本企業経営者やビジネスマンに心してもらいたいことが三つあります。
第一は、お人好しの日本人精神は捨てること。二番目に人格を磨くこと。欧米のビジネスマンの中には中国人以上に中国の歴史・文化の教養を身につけ、幅広い知識で相手よりも有利な立場に立つ人もいます。三番目は、利益を何より大事にするビジネスマン精神に徹することです。
現在の習近平体制は、以前よりさらに反日的な傾向が強いと見る向きもあります。それは彼個人の好き嫌いの問題というより、情報化社会になり、国民生活も向上してきた今、このままでは共産党中国が崩壊すると心配しているのでしょう。共産党内部で贈収賄などに厳しく対処しているのはそのためです。内部に厳しくする以上、外部にも強硬に接しなければバランスは取れない。すると、どうしても標的になってしまうのが日本です。
おそらく、これから先も中国の日本企業へのハラスメントは続きます。だとすれば、ここで無理に中国に出て行っても、いいことは何もない。ここ暫くの間は静観するのが正解だというのが私なりの結論です。
それでも、隣の大国を無視できないとあえて飛び込んでいくならば、日本のビジネスマンはせめて、こうした中国ビジネスの実態を知っておくべきでしょう。
「週刊現代」2015年2月7日号より
★知り合いのビジネスマンが中国との取引もしているが、
だまされることはあるが、いい人もまれにいる、とのこと。
知り合いがいい人だから、そういう中国人に巡り会うんだろうなぁ。
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