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新金融秩序 攻める中国:
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投稿者 あっしら 日時 2015 年 1 月 26 日 03:24:38: Mo7ApAlflbQ6s
 

新金融秩序 攻める中国


(上)踏み絵迫るインフラ銀 先進国も参加 日本は警戒

 「なぜ理事会を常設しないのか」。日本の財務省高官は昨年11月、北京市内で中国高官とひそかに会い、問いただした。流ちょうな英語を操る相手の男性は、金立群氏。中国が主導して2015年中に設立する新国際機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備チームを率いる。

 財政次官や中国人初のアジア開発銀行(ADB)副総裁を歴任し、AIIBの初代総裁との呼び声も高い金氏は「日本も協力してほしい」と口説く半面、日本側の疑問に直接答えず、議論はすれ違った。


アドレス準備

 ADBや世界銀行などの既存の機関では、出資国が派遣した理事が組織運営を監視する。国際機関の名を借りた「大国の暴走」を抑える知恵だ。日本と米国が「ADBと役割が重なる」と距離を置くAIIBでは、1千億ドル(約11兆8千億円)の資本金の大半を出す中国が唯一の「超大国」となる。

 「中国は結局、新銀行を自由に使える道具にしたいだけだ」。日本政府は警戒を強める。こうした懸念は根強いものの、新たな枠組みに関与する動きも目立ってきた。

 今年に入ってニュージーランドやサウジアラビアなど一部の先進国や中東の富裕国が参加を決めた。昨年10月に第1陣として参加を表明したのは21カ国だったが、約3カ月で26カ国に拡大した。同盟国・米国に配慮して態度の表明を見合わせているオーストラリアと韓国でも経済界を中心に参加論がくすぶる。

 中国の当局者は「人件費などの初期費用は中国がすべて面倒をみる」と明言する。北京中心部の金融街に本部の建設用地を用意し、約30億ドルとされる総工費も負担する。設立準備チームの職員は「@aiibank」と銀行名の入ったメールアドレスを使い、本格的な業務をいつでも始められるように身構える。

 「中国版マーシャル・プラン」。ユーラシア大陸に海と陸の二本線を通してインフラ整備を進める「シルクロード」構想を中国メディアはこう呼ぶ。米国は第2次大戦後、西欧の復興を助け、米ドルと米国産品を世界に広めた。中国がそれを再現するとの認識だ。

 巨大事業は目白押しだ。アラビア海沿岸にあるパキスタンの港から中国新疆ウイグル自治区まで3千キロを結ぶ経済回廊、タイからラオスを抜けて中国国内に至る鉄道、セルビアなど中東欧の交通網など、「全ての道は北京に通じる」計画が次々と動き始めた。


高格付けは困難

 必要なお金はAIIBが出す見通しだ。20年までに8兆ドルとされるアジアのインフラ需要に既存の国際金融機関だけで応じきれない現実に加え、資金不足に悩む途上国に中国がつけ込む隙が生まれている。
 日の出の勢いのAIIBに死角はある。今のところ参加国の大半は東南アジア諸国やネパール、バングラデシュなど資金の借り手だ。融資する資金を債券の発行で調達しようにも、高い格付けを得るのは難しい。中国が本気で日本などの先進国をAIIBに誘うのは不安の裏返しだ。それでも習近平国家主席は「中国という獅子は目覚めた」と大国意識を示す。
 政治的な条件を問わない中国の援助はスーダンなど独裁的な政権を支えたと批判を浴びてきた。AIIBを秩序を乱す異端とみなすのか。それとも国際金融の枠組みに組み込むのか。中国が世界に踏み絵を迫っている。

[日経新聞1月18日朝刊P.1]


(下)欧州・アジアに決済銀拡大 「非ドル経済圏」にらむ

 「イランやスーダンなど米国の制裁対象国との金融取引は違法だ」。米司法省がフランスの銀行最大手のBNPパリバに巨額の罰金を科すとの情報が走った2014年6月、欧州各国に広がった「ルールを無理強いする米国への反感」を中国は見逃さなかった。


10カ所に新設

 中国当局は英国、ドイツで通貨・人民元の決済銀行を指名したのに続いてフランス、ルクセンブルクにも置く方針を打ち出した。ほかの通貨と自由に交換できない人民元を国境をまたぐ取引に使うには、中国に決済銀の設置を認めてもらうしかない。決済銀があると、取引の拡大で人民元が足りなくなりそうな時に、中国本国の市場からいつでも調達できる。

 今年1月5日、マレーシア、6日、タイ……。中国側は13年まで香港、マカオ、台湾、シンガポールの「中華圏」だけだった決済銀を、この1年で欧州、アジア、中東などに10カ所も新設した。国有大手銀の現地支店を使い、人民元の利用を世界に広げる戦略だ。

 「5年前とは様変わりだ」。久しぶりに上海に赴任した外資系銀行の幹部は、中国の輸入原油の7割を調達する中国石油化工集団(シノペックグループ)の資料を見てうなった。かつて米ドルで決済していた海外取引の大半が人民元建てに切り替わっていたからだ。
 中国は08年秋に起きた米国発の金融危機(リーマン・ショック)の後にドルの信認が一時揺らいだのをみて、人民元を国際的な貿易や投資に徐々に使えるようにする道を探り始めた。この時点では人民元の価値や国内企業の業績が為替相場に振り回されるドル依存から抜け出すことが主眼で、いわば守りの策だった。

 「人民元の国際化」を重要政策と明示する習近平指導部は攻めに転じようとしている。世界2位の経済大国には4兆ドル近い世界最大の外貨準備がある。将来像と見据えるのは、人民元が国際通貨として流通する「非ドル経済圏」の構築だ。


人民元2%未満

 「20%に引き上げる」。韓国は対中貿易の決済で占める人民元の比率を20倍に高める目標を掲げる。英国はチベットへの対応など中国が嫌がる政治問題に深入りするのをやめ、「ロンドンを人民元取引の世界的な中心地にする」(オズボーン財務相)と秋波を送る。中国人民銀行(中央銀行)の胡暁煉副総裁は欧州、アジア、アフリカを中心に「30を超える国が人民元を外貨準備として保有している」と語る。
 ドルやユーロ、円などと異なり、まだ人民元は自由な取引ができない通貨だ。中国の人民元外交のミソは不便な通貨を逆手にとり、相手を選別して投資や決済などの規制緩和の恩恵を認める手法にある。明や清の時代に海外との貿易を原則禁じる一方、朝貢国には特権を授けた体制に似る。
 ただ、いびつな戦略には限界も浮かぶ。世界全体の決済の4割強を占めるドルに対し、人民元はまだ2%未満だ。米国はロシアに金融制裁を仕掛け、基軸通貨国の強さを見せつけた。中国は成長力が陰り、14年の人民元相場は対ドルで5年ぶりに下落した。
 いくら中国が希望しても、世界を自由に行き交うマネーを意のままに制御できない。為替の急変やバブルの崩壊など日米欧の先進国は金融の負の連鎖を何度も経験した。中国が難しさをかみしめるのはこれからだ。

 大越匡洋が担当しました。

[日経新聞1月19日朝刊P.1]

 

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