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習近平VS胡錦濤 加熱する権力闘争の行方
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141230-00010001-wedge-cn
Wedge 12月30日(火)12時20分配信
2014年12月22日、中国の新華通信社は中央政界を震撼させるような重大ニュースを発表した。胡錦濤前国家主席の側近である令計画・人民政治協商会議副主席(党統一戦線部長兼任)について、「重大な規律違反の疑いがある」として調査を開始したとのことである。習近平国家主席の肝いりの「腐敗撲滅運動」が進む中、この「重大な規律違反」は当然、「汚職」を指していると思われる。
■胡錦濤派に牙をむき始めた習近平
問題は、取り調べを受けた令氏という人物の立場である。彼は共産党内の主要派閥である共産主義青年団(共青団)派の中心人物として知られ、胡錦濤政権時代には政権の大番頭とよばれる党中央弁公庁主任を5年間も務めた大物だ。今まで、習近平指導部が進めた腐敗摘発は主に江沢民派に連なる引退幹部をターゲットにしていたが、胡錦濤派の現役幹部に摘発のメスを入れるのは初めてのことである。
令計画氏の場合、2012年3月に大学院生だった息子が北京市内で高級外車を運転中に事故死した際、これを隠蔽しようとした疑惑が浮上していた。それ以来、収賄などの疑惑が取り沙汰され、党の規律部門が内偵していたと言われる。しかしそれでも、彼は胡錦濤派の強いバックアップがあり、摘発から逃れつつ、取り調べが発表された現在でも、共産党統一戦線部長の要職にとどまっている。そして前述の「取り調べ開始発表」直前の12月中旬発売の共産党機関誌には彼の寄稿が掲載されていることもあり、彼の地位は安泰であるように見えた。
したがって、22日に発表された「令計画取り調べ開始」は、習近平国家主席の胡錦濤派に対する奇襲攻撃とも捉えられるが、問題は、習主席がどうしてこのタイミングで胡錦濤派に牙をむき始めたのか、である。
それに関して、一つ注目すべきなのは、胡錦濤派のもう一人の重要幹部で現役の政治局委員・副首相の汪洋氏が12月18日に米国で行った興味深い発言である。16日から米シカゴで開催される第25回中米合同商業貿易委員会(JCCT)に汪洋氏が中国側の代表として出席したが、彼は会議の演説において次のような発言を行った。
「米中はグローバルなビジネスパートナーではあるが、世界を導いているのはアメリカである。アメリカは既に秩序とルールを主導している。中国はこの秩序に参加したい、規則を尊重したい」と。その上で汪洋氏はさらに、「中国には、アメリカの指導的地位に挑戦する考えもなければそのような能力もない」と断言して、米中の協力関係の増進を訴えた。
■政権の対米戦略と相容れない発言内容
汪洋氏のこの発言は中国国内でほとんど報道されることなく、「上海春秋戦略研究院」という民間研究機関の開設する「観察者網」というサイトで一部紹介されただけだった。しかし中国現在の政治状況を熟知している者であれば、それは実に大胆不敵な衝撃発言であることがすぐに分かる。
というのも、習近平主席が就任以来一貫して唱えている対外戦略及び対米外交戦略の基本は、決して「アメリカの指導的地位とアメリカ主導の秩序を尊重する」ようなものではなく、むしろアメリカの指導的地位に対する「挑戦」を強く意識したものだからだ。習主席の提唱する「米中新型大国関係」は、要するに中国が大国としてアメリカと対等に渡り合うことを前提にしたものであり、習主席の唱える「アジアの新安全観」はさらに露骨に、アジアの安全保障への関与からアメリカを排除しようとするものである。
つまり前述の汪洋氏発言は明らかに、習主席の対米戦略方針から大きく逸脱しており、むしろ正反対の立場となっている。一副首相の彼が公の場で国家主席の基本方針と正反対の見解を示したことは、中国の政治文化においては国家主席の権威に対する反乱であり、いわば「謀反」に近いものである。つまり胡錦濤派の重要幹部の汪洋氏は公然と、習主席に反旗を翻して挑戦状を叩き付けたのである。
この文脈からすれば、汪洋発言が行われたわずか4日後の22日、習近平が突如令計画に対する取り調べ開始を発表したことは、まさに胡錦濤派の売った喧嘩に対する習主席の反撃だと理解すべきであろう。これによって、習近平国家主席と、胡錦濤前主席及び胡氏の率いる共青団派との権力闘争の幕が切って落とされたのである。
2014年7月30日に掲載した私の論考『習近平の腐敗撲滅運動は「権力闘争」 、裏で糸引く胡錦濤の「復讐」と「野望」』では、腐敗摘発運動で習主席と胡錦濤派が連携して共通の敵である江沢民派の一掃を図った経緯を記した後、今後の行方については以下のように予測している。「運動の目的が一旦達成されて江沢民派の残党が葬り去られて現役の江沢民派幹部も無力化されてしまう、つまり共通の敵が消えてしまうと、次なる権力闘争はむしろ胡錦濤前主席と習主席との間で、すなわち共青団派と太子党との間で展開されていくはずである」と。
今となってみれば、事態の展開はまさに私の予測する通りのものとなった。江沢民派大幹部の周永康氏の党籍剥奪からわずか数カ月たらずで、習主席はその「腐敗摘発」の矛先を胡錦濤前主席の率いる共青団派に向けてきたのである。
■習主席VS共青団派の「最後の戦い」の行方
それでは、習主席VS共青団派の戦いは今後どのような展開となるのか。それを占うためにはまず、そもそも共青団派とは一体どういうものであるかを、ここで一度概観しておく必要がある。
共青団派というのは、共産党元総書記の胡錦濤氏がその在任中に、自らの出身母体である共産主義青年団から幹部を大量に抜擢して作り上げた派閥である。胡氏が退任した今でも、この派閥は党と政府の中で大きな勢力を擁している。
政治局常務委員で現役の国務院総理(首相)の李克強氏は胡錦濤氏に次ぐ共青団派の大幹部で、胡氏引退後の派閥の大番頭の立場にある。彼と並んで政府の中枢にいるのは国家副主席の李源潮氏、この人もまた、共青団派の中心人物の一人である。
そして現在の共産党政治局には、前述の汪洋氏(国務院副総理)、孫政才氏(天津市党委員会書記)、胡春華氏(広東省党委員会書記)などの50代そこそこの共青団派若手幹部が控えている。そして2017年開催予定の次期党大会で今の政治局常務委員の大半が年齢制限によって一斉に退陣した後、彼ら共青団派の若手が一挙に政治局常務委員会入りを果たして最高指導部を掌握する構えである。
その一方、前述の拙稿で指摘しているように、胡錦濤前主席は、共産党第18回党大会において共産党総書記の立場から退く直前の2012年10月から11月初旬にかけて、自らの腹心軍人の房峰輝氏を軍の最重要ポストの参謀総長に任命し、さらに范長龍と許其亮の両名を党の中央軍事委員会副主席に任命した。つまり胡氏は自らの退陣を前にして、軍の中枢部を自分の子をもって固めることによって軍を掌握したのである。その結果、習近平主席が政権を握った時には、軍は既に胡錦濤派の軍となっていたわけである。
このようにして、胡錦濤氏の率いる共青団派は政治局に若手幹部を多数送り込むことに成功し、軍を押さえることもできた。このような状況下では、共青団派の次なる政権戦略は明々白々である。要するに、2017年秋に開催予定の次回党大会において、現在政治局常務委員の大半を占める江沢民派の幹部たちが確実に退陣するのを受け、共青団派は軍の支持をバックに現在の政治局にいる自派の若手幹部たちを一斉に政治局常務委員を昇進させ、党の中枢部を一気に掌握してしまう、ということである。その際、政治局常務委員となって政権の要となることを特に期待されている共青団派の次世代ホープの筆頭は、すなわち前述の汪洋氏である。
もちろん、共青団派の描くこのような政権戦略は、現在の最高指導者の習近平主席にとっては悪夢以外の何ものでもない。次回党大会において共青団派がその思惑通りに物事を進めることを許してしまえば、党大会以後の政権はもはや習近平政権ではなくなり、完全に共青団派政権となってしまうからである。
習主席としてはこの事態を何としても阻止しなければならない。したがって、腐敗摘発運動で江沢民派の力を削いだ後、次のターゲットは共青団派の幹部となる。まさにそのために、習主席は早くから疑惑の多い共青団派幹部の令計画氏に目をつけていたが、前述のように汪洋氏が公然と習主席に反旗を翻すような言動をとると、習主席側はさっそくその反撃として令計画に対する取り調べの公表に踏み切った、ということである。
以上が令計画の一件の背後にある権力闘争の一部始終であるが、戦端が開かれたら、この戦いはどのような結末を迎えるのか。おそらく習主席が破れる確率の方が高いと思われる。軍をほぼ完全に掌握して政治局にも大きな勢力を占める共青団派の実力は侮れるものではない。共青団派若手ホープの汪洋氏が公然と習主席に盾突くような行動に出るのには当然、それなりの覚悟と勝算があるはずであろう。
しかも就任以来、あまりにも苛烈な腐敗摘発運動を推進した習主席に対して、党内の一般幹部の間でも反発の気運が高まっているから、党内の多くは共青団派支持に傾く可能性も十分にある。したがって、共青団派に対する「最後の戦い」で習主席が敗北してしまう公算が大であろう。ひょっとしたら、令計画の摘発というルビコン川を渡った習主席はすでに、墓穴を掘り始めたのかも知れない。2015年からは、共産党中枢部で展開されている熾烈な権力闘争はいよいよ「佳境」を迎えるであろう。
■権力闘争が加速させる中国経済の崩壊
習近平政権にとっての「墓穴」は実は政治だけでなく、経済でも同様である。2014年10月1日に掲載した私のコラムでは、中国で不動産経営者の夜逃げラッシュが起きている実態をレポートしたが、実はその後、夜逃げラッシュは不動産業界に限らずすべての経済領域に広がってきているのである。
たとえば10月から11月にかけて全国で起きた夜逃げ事件の数々を拾ってみれば以下のようになっている。
10月22日と24日、広東省中山市にある照明器具企業の華亮灯飾公司と喜林灯飾公司の両方の経営者が相次いで夜逃げした。華亮灯飾公司の場合、踏み倒された借金は7000万元に上る。
23日、陝西省大茘県にある金紫陽公司経営者の呉江鵬氏は数億元の借金を踏み倒して夜逃げした。
25日、山東省即墨市の某アパレル企業の経営者は従業員の未支払い給料45万元を踏み倒して夜逃げした。
11月5日、雲南省羅平県では、東方不動産開発公司の経営者が夜逃げしたが、彼が手がけた「金桐花苑」という県の「重点開発プロジェクト」は工事の途中である。
13日、中国中古車市場の第一ブランドと称される「易車匯」の経営者が夜逃げし、全国に点在する数多くの店舗が一斉に閉鎖された。
同13日、河南省鄭州市物流大手・東捷物流の経営者が夜逃げ、公司に商品を供給している数百軒の企業は売掛金の回収が出来なくなった。
そして14日、大連市では前代未聞の「夜逃げ事件」が起きた。中之傑物流と邁田スーパーという2つの会社の経営者が同時に夜逃げしたが、この2人は実は夫婦なのである。
このように、製造業から物流業まで多岐にわたる業界で、経営者たちによる夜逃げ事件が多発していることが分かるが、経済環境全体の悪化以外に、「高利貸」とよばれる闇金融の氾濫も、大きな原因の一つである。
金融不安が高まる中で、保身に走る国有銀行が民間中小企業への融資を渋った結果、多くの中小企業は生き延びるために闇金融に手を出すことになったが、借りた金の法外な高金利に耐えられなくなると、経営者たちの選んだ道は結局、元本を踏み倒しての夜逃げである。
このような現象が広がると、窮地に立たされるのは高利貸しの民間金融業者である。貸金が踏み倒された結果、今度は彼ら民間金融業者の夜逃げも始まったのである。
たとえば四川省の大都会の成都市では、民間金融業者の創基財富会長の段家兵氏の失踪が発覚したのは10月20日であるが、それに先立って、9月4日には聯成シンという民間金融の経営者が姿を晦まし、同12日には、内江聚シン融資理財公司の経営者が飛び降り自殺した。そして10月初旬、それこそ地元民間金融大手の四川財富聯合が破綻して、経営者の袁清和氏は夜逃げ先で拘束された。9月からの一連の「破綻・夜逃げ事件」で焦げつきとなった融資総額は百億元にも上ったという。
かくして今の中国では、多業界にわたる夜逃げラッシュが各地で広がり、そのドミノ効果を以って民間金融の破綻を誘発するという悪循環が始まっていることが分かる。そして、民間金融から大量の資金を調達しているのは不動産開発業者だから、現在進行中の不動産バブル崩壊はまた、この悪循環に拍車をかけることとなろう。バブル崩壊後にやってくるのはすなわち金融の崩壊であるから、中国経済の末日が確実に近付いてきていると言える。
■経済運営における「支障」
しかしその一方、中国共産党政権の中枢部で起きている熾烈な権力闘争は今後、その展開によっては、経済の崩壊をより一層加速させる危険性も孕んでいる。
現在、国務院総理(首相)の任に当たっているのは共青団派の大番頭の李克強氏であることは前述の通りだが、中国の場合、普段なら国務院総理は経済運営の司令塔となってその全責任を負う存在である。たとえば以前の胡錦濤政権の場合、やはり国務院総理の温家宝氏が最高責任者として経済運営全般を仕切っていた。しかし習近平政権になってから様相が変わった。国務院総理は共青団派の李克強氏が就任しているが、その一方、2014年6月から、習近平主席は「中央財経領導小組(領導チーム)」の組長となったことが確認された。
「小組」とは、共産党中枢部において各領域別の仕事を指導するための非公式な意思決定機関、というものであるが、中央財経領導小組というのは当然、党内において国の経済政策を決定するための指導チームであり、経済運営の事実上の司令塔なのである。
この中央財経領導小組はもちろん以前から存在しているものであるが、江沢民政権時代の1992年以来、国務院総理がその組長を務めるのが慣例となっていた。たとえば李克強総理の前任の温家宝前総理、そしてその前任の朱鎔基元総理は総理在任中にずっと中央財経領導小組の組長を兼任していた。
習近平政権になってから、中央財経領導小組の組長に誰が就任していたかは不明であったが、2014年6月以降、党の総書記であり国家主席の習近平氏が総理の李克強氏に取って代わって就任したことが初めて知らされた。今まで20年以上も続いた慣例を破った異例の出来事である。
習主席自ら中央財経領導小組の組長に就任したことは、共青団派の李克強氏に対する不信感の表れであろうが、肝心の経済運営にとって大きな支障となる可能性が大である。
習氏は普段、政治・軍事・外交の全般を仕切る立場であるから、経済運営に多くの時間と心労をかけることはまず不可能だ。実際の経済運営に携わるのは結局総理の李克強氏となるが、経済運営に関する最終決定権を習主席に取り上げられた以上、李氏はきちんとした意思決定も出来なければ、経済運営に対する全責任を負う必要もない。このような二重権力構造は結果的に、意思決定の遅れと責任の不在をもたらすことになるであろう。
習主席VS共青団派の権力闘争が熾烈化していく中で、習主席と李克強総理との関係は「犬猿の仲」というよりもむしろ「不倶戴天の敵」となるであろう。この2人の敵対と暗闘によって、より一層の経済状況の悪化を招くことになるに違いない。
あるいは、経済運営の最高責任者となった習主席が経済破綻の責任を負わなければならないから、総理の李克強はむしろ経済の破綻を心の中では待ち望んでいるかもしれない。少なくとも、李克強氏には、何としても経済の破綻を回避しなければならないという強い動機が生じにくい。このような状況下で中国経済は確実に、地獄へと陥る道を歩むこととなろう。
2014年に入ってからの一連の政治的行動によって、習主席は自らの墓穴を掘り始めた。彼の政権は一体どのような結末を迎えるのか、まさにこれからが見物である。
石 平 (中国問題・日中問題評論家)
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