01. 2014年12月22日 07:40:00
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「媚びる」分子が組織を亡ぼす、 批判を許さない中国共産党の自縄自縛 2014年12月22日(Mon) 柯 隆 日本の大企業では、よくこういう現象が見受けられる。部下が上司に本当のことを報告せず、上司が聞きたいグッドニュースだけを報告する。こういう媚びる社員は往々にして上司に気に入られ、出世する。それに対して、耳に痛い話を上司に報告する部下は嫌われ、子会社などに左遷させられてしまう。 「良薬は口に苦し」と言われるが、誰もが口に苦い薬を飲みたいわけではない。実はこれこそが、企業を凋落させる一番の理由である。 こういった病気は日本の大企業だけでなく、中国の社会と政治においても蔓延している。ここ十数年来、政府を批判し民主化の政治改革を求めて建設的な意見を述べる知識人が多数拘束されている。 今年、習近平国家主席は一部の文化人を集め、文学芸能のあり方について談話を発表した。その席上、水墨画家の範曾氏は習近平国家主席を「皇帝」と称える詩を発表した。招集された文化人たちは、政府が芸術創作に介入する問題点について誰も指摘しなかった。これでは中国の芸術創作はいつまで経っても政府共産党宣伝の道具のままである。 数年前に中国で大規模な反日デモが起きたとき、若者は「愛国無罪」のプラカードを掲げた。それは自分たちは愛国者であると標榜するプラカードだった。 しかし、「愛国無罪」のプラカードを掲げる若者は本当に愛国者なのだろうか。自分を愛国者と標榜する者たちは、自国民をたくさん雇用する日本企業を攻撃し、破壊した。その結果、失業した人も少なくなかった。どう見ても彼らは愛国者ではなく単なる暴徒であった。 目にあまる共産党幹部の横暴ぶり ニューヨーク在住のある中国人画家がイタリアを訪れたときの話だ。バスの中で若い中国人カップルに出会った。白人の年寄りの乗客が乗り込んでくると、そのカップルはさっと立ち上がって席を譲った。画家はそれを見て「彼らこそ国を愛する者だ」と感銘したという。 一方、以前、中国共産党幹部の一団がパリを訪れたとき、大量の買い物をして、帰りの飛行機は席上のキャビネットが閉まらないほどだった。共産党幹部は荷物の収納をめぐって客室乗務員と大ゲンカとなり、フランス航空機から降ろされてしまった。中国人のイメージを地に落とした共産党幹部は、果たして愛国者と言えるのだろうか。 また、だいぶ前、筆者が飛行機で南京から北京に行ったときのことである。飛行機が北京の手前で天津の空港に緊急着陸した。機長のアナウンスによれば、北京の上空は雷雨なので、しばらく天津空港で待機するという。そのとき、ファーストクラスに乗り合わせた数人の中国人乗客が機長を呼び出し、「飛行機を飛ばせ」と怒鳴った。機長は「航空管制からの指示で飛べません」と説明したが、彼らは怒りが収まらない。「だったら、ドアを開けろ。俺は降りる」と続けた。 30分後、10台ほどの軍用車がやって来て、飛行機のそばに横付けした。そしてこの数人の乗客は飛行機を降りた。彼らが降りてから客室乗務員に聞いたところ、「南京軍区の司令官だ」という。筆者は「なるほど」と思ったものである。彼らが降りてから20分も経たないうちに飛行機が離陸したのは幸いだった。 批判を受け入れない「愛国者」たち ポスト胡錦濤国家主席の座をめぐり習近平氏と競った薄煕来氏は、権力闘争に敗北し、収賄と横領の罪に問われ、無期懲役の刑が宣告された。 彼は重慶市共産党書記の時代、自分こそが愛国者であるかのように振る舞っていた。しかし、実際の行いはどうだったか。自分に協力的でない批判的な共産党幹部や企業経営者を、正規の法的手続きを経ずに次から次へと投獄した。そして、自分の息子をイギリスや米国へ留学させた。その息子はドイツの高級スポーツカーに乗り回し、贅沢三昧の生活を送っていた。留学の費用はすべて自分の息のかかった企業の経営者に出させた。こういう共産党幹部は本当に愛国者なのだろうか。 同じように、つい最近、共産党の党籍がはく奪され逮捕された元共産党中央委員会常務委員、いわゆる「チャイナセブン」の1人だった周永康氏も、巨額の賄賂を受け取り、多数の愛人がいたと報じられている。同氏は共産党の中央政治司法委員会書記であった。しかし、その歪んだ倫理観と乱れた生活はとても「法の番人」のものとは思えない。 これらの共産党幹部は愛国者の仮面をかぶり、権力を利用して私腹を肥やしていた。専門家の見方によれば、周氏は最低でも猶予付の死刑が宣告されるだろうと言われている。 もともと決して豊かでない農民の出身だった周氏は、共産党の厳格な愛国教育によって育った。それなのに、なぜここまで腐敗してしまったのだろうか。それは、周氏自身だけではなく共産党も反省しなければならない問題である。ケ小平の言葉によれば、良い制度は悪い人を良くすることができるが、悪い制度は良い人を悪くし、悪い人を悪魔にしてしまう。まったくその通りである。 中国共産党が抱える深刻な問題の1つは、外部の知識人などの批判をいっさい受け入れず、多くの場合は、批判した人が政府転覆罪に問われて投獄されてしまうことである。逆に、政府に迎合し媚びる人間が重用されている。 しかし、政府を転覆させるのは批判者ではない。迎合的で媚びる分子によって転覆させられてしまうのだ。 ある中国人の哲学者は「知識人の責務は批判すること」だと述べた。日本でも有名な魯迅先生(1988〜1936年)は政治に対する批判を生涯続けていた。 むろん、批判には「分寸」(加減)を考える必要がある。北京大学の賀衛方教授(法律)は、政府のメンツを意識して批判しないといけないという。その一線を越えると、自らが危なくなるからだ。知識人は自己防衛することが重要である。歴史に「もしも」はないが、それでも仮に魯迅先生が毛沢東時代まで生き延びた場合、おそらく毛沢東と対立し、迫害を受けていたに違いない。 媚びる分子を排除しなければ悲劇が待っている 日本の評論家の多くは、日中関係の悪化が中国の愛国教育のせいだと指摘する。しかしそれは中国政府が進める愛国教育の効果を過大評価している。 少し前に、共産党の地方機関紙「嘉興日報」の若い記者、王尭峰氏は中国のSNSで毛沢東を批判する書き込みをした。さらに、「もし中国が日本と戦争したら、私は民主主義の日本を支持する」とも書き込んだという。どう見ても共産党機関紙の記者が書く内容ではない。当然、王氏は解雇された。どうなるかは最初から分かっていたはずだ。にもかかわらず、王氏は自分の本音をSNSで吐き出した。共産党機関紙の記者であっても全員が愛国教育によって洗脳されているわけではないということだ。 もう1つの例を挙げよう。中国社会科学院の研究者、王占陽氏は保守派との論争で、「日本が軍国主義の道を歩むことはもうない」と述べた。その理由として、(1)軍国主義が戦争で敗北したから、(2)平和主義がすでに日本人の心に入り込んでいるから、(3)平和憲法が日本の平和の基礎を築き上げているから、と整理している。中国の知識人のなかにはこうした良識を持つ者もいる。 現在は共産党のなかで頭の転換ができない幹部が実権を握っている。だから彼らに迎合する「識者」が優勢のように見える。しかし、何が真理かは時間が経つにつれて明らかになるだろう。 どんな会社や組織でも権力者に媚びる分子が存在する。それを排除できるかは、指導者や経営者の眼力にかかっている。自分に迎合する発言を好んで聞き入れる指導者であれば、その先に待っているのは悲劇しかない。 【あわせてお読みください】 ・「“強欲”が顔に出ている中国共産党の幹部たち」 ( 2014.09.22、柯 隆 ) ・「中国を支える共産党の伝統的「愚民思想」」 ( 2014.08.11、筆坂 秀世 )
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42494
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