02. 2014年12月19日 06:16:37
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China Report 中国は今 【第168回】 2014年12月19日 姫田小夏 [ジャーナリスト] 中国主導で大丈夫か? 不信感はあれど「NO」と言えない、アジア各国のインフラ整備 ?中国がアジアのインフラ整備に乗り出す。11月、北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、中国は自ら主導権を握るインフラ整備「一帯一路」構想をぶち上げた。この構想が持つ影響力は計り知れない。 「一帯一路」は、インフラ整備で陸と海の両方のシルクロードと経済圏を構築するという構想だが、すでにアジアの各国各地で動き出している。その点と点を結び合わせれば、中国から西に延びる「陸と海の新シルクロード」が完成する。 ?中国は今、道路、鉄道、そして港湾の整備を急いでいる。20を超える国と地域をこの計画に巻き込もうとしており、中国はすでに個別に交渉を進めている。 ?パキスタンとの間では「中パ経済回廊(CPEC)」の構築が加速している。この「CPEC」は新疆ウイグル自治区のカシュガルから、パキスタンの首都カラチを経てアラビア海に面するグワダル港を結ぶもので、道路、鉄道、パイプライン、港湾などのインフラ整備が着々と進んでいる。 “独自のやり方”で動く中国 「富裕国になりたければ中国と手を組め」 ?従来、途上国のインフラに対しては、政府開発援助(ODA)などを中心とした国際機関による援助がその需要に応えてきた。日本も世界の経済大国の責任という認識のもと、アジアを重視した援助を行ってきた。こうした援助により、道路は舗装され、橋がかかり、村に電気が灯るようになった。ところが、こうした途上国のインフラ整備にも中国の影が延び、“独自のやり方”で案件を受注するようになった。 ?国際援助は従来、先進国ドナーの間でルールを共有しながら行われてきた。それを決めるのが経済協力開発機構(OECD)の中の3委員会の1つである開発援助委員会(DAC:Development Assistance Committee)であり、現在、日本を含む西側29ヵ国が加盟している。他方、貧困削減や不平等の解消などを根底に、質重視の思想を持つDACの縛りを受け、逆に加盟国は途上国の現実やニーズに即した援助ができないなどの弊害も存在した。 ?一方、中国はこの国際協調の枠組みには参加していない。援助における国際的な共通認識を共有していないことから、例えばプロジェクトの選択や立案の際に、環境調査を入念に行わずとも、それが許されてしまうのだ。 ?DAC加盟国の日本が中国を競争相手とする場合、日本は案件の立案においてすら膨大な時間を費やさねばならないが、中国はそこをカットすることができる。中国主導のインフラ整備がスピーディなのは、こうした事情にも由来する。 ?また、DAC加盟国が援助を提供する場合、相手国は人権問題や民主化問題などを問われ、そこへの政策条件を要求される。一方の中国は「内政不干渉」を貫き、相手国にあれこれと条件を付けない。中国が相手国から歓迎されるのは、こうした理由もある。 ?しかも、たった30年あまりで貧困国から世界第2位の経済体となった中国は、途上国にとって「憧れの大先輩」でもある。その中国が途上国に向かって説くのは「民主はいらない、富裕を目指せ」、「富裕になりたいなら中国を模範とせよ」である。 ?習近平国家主席は11月のAPECで参加国に向け「一帯一路」をPRすると同時に、「中国という発展の列車に乗ることを歓迎する」と呼びかけたが、それはまさしく「富裕になりたければ中国と手を組め」というメッセージでもあった。 パキスタンに450億ドル 援助でも借款でもなく「投資」 ?その「中国の発展列車」に飛び乗った国の1つが、前述したパキスタンである。もともと中国とは友好関係にあり、今回のAPECにもオブザーバーとして参加した。オブザーバー国としての参加を拒否したインドを尻目に、パキスタンはこの間、「中パ経済回廊(CPEC)」の枠組みの中で、450億ドルにおよぶインフラ関連の覚書に調印した。 ?注目すべきは、この「450億ドル」である。中国紙は次のように説明する。 「中国政府と国家開発銀行、中国工商銀行が中国企業に相当額を融資する、そのためこれは中国企業の『走出去』(海外進出)の機会となる。これは援助でも借款でもなく、投資なのだ」 ?他方、ロイター(イスラマバード)はこう報道した。 「450億ドルは利益を生み出す商業的事業として中国企業に融資され、パキスタン政府は一切負債を負わない」 ?記事は、従来の開発援助――対象国の政府がドナーから借款してインフラ開発を進めるというモデル――とは異なる点を強調した。 ?中国企業もビジネスチャンスの到来とばかりに大喜びだ。中国メディアも「これからはパキスタンだ」と書き立て、進出ラッシュを盛り上げる。 必ずしも歓迎されない日本のODA 「中国にできて、なぜ日本はできないのか」 ?残念ながら、西側先進国主導の開発援助は、必ずしも地元社会から歓迎されているわけではない。 ?バングラデシュなどは、西側先進国主導の援助が集中する国のひとつだが、それがもたらす負の遺産も多い。国際機関からの多額の融資は、結果として現地政府の不正や汚職の温床ともなった。地元民からも「借款の7割は官僚が着服するのが実態」などという不満も大きい。「援助ではなく投資を」と訴える声さえある。 ?日本のODA批判も聞かれる。「スピードが遅い」というのである。発展を急ぐ途上国は、「一刻も早く着手、一刻も早く完工してほしい」と訴えているにもかかわらず、日本にはそれができない。理由の1つは「日本人の几帳面さ」である。 ?日本人は高い完成度を追求するあまり、調査はじめその後の工程に相当な時間をかけるというのが慣行となってしまっているのだ。開発援助の専門家によれば、「『万が一、工期がずれ込んだら』、『万が一、動かなかったら』とバッファーをかけてしまうため、その分の時間が上乗せされてしまう」のだそうだ。 ?近年は「中国ができるのに、なぜ日本はできないのか」と比較すらされる。その中国はもともとが「走りながら考える」タイプである。日本とは真逆の性質だ。 ?できるかどうかは未知だが、「やれる」と言って仕事を取る。多少のリスクは顧みずに即決即断、価格も安ければ、スピードも速い。人権や民主を条件にしないこともあり、途上国政府からは歓迎される。しかも、中国は援助か投資かの線引きも明らかにせず、またDACにも加盟していないため、先進国が形成した概念にはとらわれず、経済メカニズムの中でよりスピーディな発展を追求することができる。 ?それに比べ、日本の「援助」はDACルールに加えて、環境団体や日本の政治家からの突き上げもあり、「スピードアップ」したくとも手足を縛られた状態だ。結果として、日本のODAによる土木中心の経済インフラ整備について言えば、中国の台頭により今後「出番」を失うことさえ考えられるのだ。 「国全体が中国のものになってしまう」 バングラデシュでは拒絶の声も ?さて、中パ経済回廊で見逃せないのが港の開発だ。アラビア海に面するパキスタンのグワダル港は、原油輸出の要衝であるホルムズ海峡にも近い重要拠点だが、この港も中国主導で開発を進めている。 ?しかも、パキスタン政府はこの港の運営権と管理件を中国企業に与えた。港湾は主権国家としての対外窓口であり、また国の重要な基幹インフラでありながら、中国がこれをコントロール下に置いたことは看過できない。その要衝となるグワダル港は近い将来、「中国海軍の派遣のもとで、中国側に有利なエネルギーの輸送環境が整う」(ロイター)と伝えられている。 ?陸に囲まれた中国南西部からベンガル湾やインド洋へと南進する中国は、その通過点となる国々で道路や橋、港湾を整備しながら、「海のシルクロード」構想とともに、その先の海洋通商の拡大を見据える。今後、BRICS銀行やアジアインフラ銀行(AIIB)が本格的に稼働すれば、さらに中国主導のインフラ整備は弾みをつけるだろう。 ?同じ南アジアのバングラデシュでも道路、港湾、橋梁などのインフラ整備に中国がどんどん食い込んでいる。バングラデシュのODA専門家も「バングラデシュの開発案件まで中国の手に落ちれば、バングラデシュ全体が中国のものになってしまう」と危惧するほどだ。 ?その中国が目をつけているのが、ミャンマーとの国境にも近いソナディア深水港の開発だ。中国にとっては「海のシルクロード」の核心となる案件だが、目下そのソナディア深水港をめぐっては、中国以外にもいくつかの事業体が事業化可能性調査を行っている。 ?ちなみに、ソナディア深水港の開発については、日本側も手を挙げていた。建設予定地はチッタゴン港に近いソナディア島だが、日本は「保護すべきマングローブの密林があることを理由に建設への参加を断念」(外交筋)した。DACに加盟する日本としては、環境への配慮も求められるのだ。 ?仮にこれを中国が受注したらどうなるか。バングラデシュの有識者は次のように警戒する。 「深水港の開発には40〜50億ドルの巨額の資金を必要としており、中国がこれを引き受ければ、バングラデシュ政府は膨大な借りを中国に作ってしまうだろう。さらにオペレーションをめぐっては、技術の導入やメンテナンスの必要性が出てくるため、ひとたび中国が港を開発すれば、その先何十年も中国と付き合わなければならなくなる。その結果、中国軍艦の停泊もノーとは言えなくなる。こうしたことはバングラデシュへの投資にも、あるいは国際貿易にも深刻な影響をもたらすだろう」 募る中国への不信感 問われる日本のアジア援助戦略 ?バングラデシュのインフラ案件に中国が姿を現したのが2000年代後半だ。驚きの安さで片っ端から受注をものにしたまではよかったが、完工できない、途中で投げ出すなどの契約不履行が相次いだ。当初は「安かろう悪かろう」でも飛びついたバングラデシュだったが、最近では、「中国は約束を守らない」と態度を硬化させるようになった。案件によっては「中国企業は一切介入させない」と防御策を講じるコンソーシアムも出てくるほどだ。 ?また、中国とは切っても切れない関係にあるミャンマーも、警戒心は解いていない。中国のやり方に対して複雑な感情を抱くミャンマー人は次のように語っている。 「ミャンマーは中国に対してNOとは言えない立場にある。だが、過去には、中国が強引に行った2つの大規模プロジェクトが中止に追い込まれた。住民が反対運動を起こしたためだ。2011年に中国・温州で起きた高速鉄道の事故は、ミャンマー人も忘れることはできない。確かに中国は強大な国になったが、中国への不信感は簡単に払拭できるものではない」 “21世紀のスーパーカントリー”として国際的な勢力を拡大しようとする中国。その中国流のインフラ整備は我田引水の感が強く、アジア諸国には不信感もある。にもかかわらず、NOと言えないのは、相手国のニーズに合致しているためでもある。 ?その中国が今後、アジアのインフラ整備を主導するとなれば、日本の立場にも大きく影響をもたらす。しかも中国が主導するインフラ整備は、「旧モデル」「旧秩序」の淘汰さえも意図するものだ。 ?安倍首相は今年9月、バングラデシュを訪問し6000億円の経済支援を表明したが、中国が台頭する今、このODAバラまきの有難味も減った。日本にとって「アジアのリーダー」の座も従来のように盤石とは言えなくなった。アジア諸国における「頼れる先進国」の認識も薄らぐ。日本は今後、アジアの安定的な発展に向けた戦略をどう描くのだろうか。 http://diamond.jp/articles/-/63992 |