01. 2014年12月16日 08:00:01
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安全運転か、レールのない暴走機関車か、 中国が牽引する「アジア発展列車」 「一帯一路」構想がもたらす波紋と各国の思惑 2014年12月16日(Tue) 姫田 小夏 前回の本コラムで、中国が11月にAPECでぶち上げた「一帯一路」構想を伝えた(「アジアの中心で中国が『この指とまれ』、日本はどうする?」)。インフラ整備で陸と海の両方のシルクロードと経済圏を構築するという大がかりな構想である。 これに対するアジア諸国の反応は興味深い。習近平国家主席の「この指とまれ」に飛びつこうという積極派と、消極派あるいは心中複雑派に分けられた。 「一帯一路」構想には通商貿易の枠組みも絡み、関係国の思惑は複雑だ。アメリカ主導のTPPに対し、自ら主導するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)をぶつける中国。その一方で、米韓同盟で米国と固い絆を築く韓国が、APEC期間中に中国との間で自由貿易協定(FTA)を妥結した。 台湾では中国との経済協力や統一について国内で意見が分かれる。2013年に台湾と中国はサービス貿易の自由化協定を結んだ。医療や金融、建設などの市場を相互に開放するこの協定に対して、台湾の学生らが立法院の議場を占拠し反発した。 だが、「一帯一路」構想を知った台湾は青くなった。台湾の「聯合報」は次のように伝える。「台湾が『一帯一路』と『FTAAP』の枠組みに入るのを拒絶したところで、もしもそれ以外の道筋を見いだせないとすれば、台湾は海の上の孤島になるだろう」 中韓FTAは、さらに台湾を追い込んだ。中国の8兆8000億ドル、韓国の1兆1000億ドルのGDPが形成する巨大市場に勝てるのかという焦りだ。産業の7割が重複すると言われる台湾と韓国だが、中国からの発注が韓国に流れるのは目に見えている。 「独立すれば少子高齢化に伴って台湾経済は衰退する」と台湾独立派へ揺さぶりをかける論陣も目立った。今回のAPECで台湾には激震が走ったと言ってよい。 日本が成し遂げられなかった「クラ運河」建設 習近平が突き出した指に飛びついた国の1つがシンガポールである。シンガポールの対中直接投資は2013年に日本を抜いて最大となった。過去十数年にわたって両国は蘇州工業園区や天津エコタウンなどの大型プロジェクトを共同で進め、成功させてきた。不動産、科学技術、通信を得意分野とするシンガポールは、中国と経済協力を進める余地はまだまだあると認識している。 シンガポールは従来、アジアにおける物流や航空のハブとして機能してきた。よって、「海上のシルクロード」構想ではシンガポールが大きな役割を果たせると目論む。シンガポール政府は中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)も支持している。 現在、中国は「一帯一路」の核心プロジェクトでもある運河建設を進めようとしている。それは「クラ運河」の建設だ。マレー半島のもっとも狭い部分であるクラ地峡に人工運河を通そうという計画である。 計画が実現すれば、東のタイランド湾と西のアンダマン海を貫く全長100キロの運河が出来上がる。この運河によって、マラッカ海峡からシンガポール沖を通過する従来の航路を、距離にして1100キロメートル、日数にして2〜5日短縮することができると言われる。 2013年、中国は米国を抜いて世界最大の貿易大国になり、また米国を抜いて世界最大の石油純輸入国となった。中国は石油輸入の6割を中東に依存しているが、その8割がマラッカ海峡を通過している。しかし、その航路は「米国によるマラッカ海峡の封鎖」というリスクと常に背中合わせにある。そのため、中国にとって「海上のシルクロード」を進めるための核心的プロジェクトとして、クラ運河建設計画が急浮上したのである。現在、中国の三一集団をはじめとする中国企業が動き出している。 実はクラ運河建設の必要性はかなり前から唱えられていた。日本も戦前から何度となくクラ運河の建設を進めようとしてきた。1970年代に日本の商社が中心になって計画を進めていたときは、シンガポールの反対で暗礁に乗り上げた。しかし今や、そのシンガポールが中国の「海のシルクロード」構想に便乗し、クラ運河の建設に協力しようとしている。 中国にノーとは言えないミャンマー 「一帯一路」構想はAPECの非メンバー国にとっても無関係ではいられない。なにしろ中国は20を超える国と地域を巻き込もうと目論んでいるのだ。 ミャンマーはすでに、中国が提唱する、中国、インド、ミャンマーを結ぶ「BCIM経済回廊」(BCIM EC)」に組み込まれている。「BCIM EC」計画は「海のシルクロード」の一部を形成する。 中国はインド洋への出口を確保するためにミャンマーを重要視し、ミャンマー西部に港をつくったり、中国内陸部とインド洋を結ぶ鉄道や道路を建設したりすることを目論んでいる。「BCIM EC」計画は、すでに4カ国の代表を交えた第1回の会議を終え、第2回目の会議が12月16〜17日の日程で行われようとしている。 米国はこうした動きが繰り広げられることに気が気ではない。APEC直後、オバマ大統領は、首都ネピドーで開催される東アジアサミットに出席するため、ミャンマーに飛んだ。オバマ氏はミャンマーに3日間も滞在した。それは「強い警戒感の現れ」と見ることもできる。 ちなみに、ミャンマーではすでに中国の主導でインフラ開発が進んでいる。もともと日本はミャンマーに対し、1954年から政府開発援助(ODA)を行っていた。しかし1988年に軍事クーデターが発生。社会主義政権の崩壊を機に、援助はその後20年近く中断した。中国はこの間隙を縫って、ミャンマーのインフラ開発に乗り出した。 在日ミャンマー人によると、中国とミャンマーはすでに「切っても切れない関係」にまで発展しているという。 中国とパキスタンが進める「中パ経済回廊」計画 南アジア諸国は今回のAPECをどのように評価したのだろうか。インドのメディアは次のように伝えた。 「習近平は明らかに主役を食った形となったが、アジア太平洋のリーダーたちは、中国主導の貿易の枠組みにシフトすることに同意した」(“The times of India”) 一方、バングラデシュのメディアはこう伝えている。 「これまでアジア太平洋の枠組みのなかで南アジアは落伍者だったが、今後は『BCIM EC』という枠組みのもとに、発展のチャンスにあやかることができる」(“The Daily Star”) APECには、オブザーバーとして、バングラデシュ、インド、パキスタンが中国から招待を受けた。バングラデシュとパキスタンは参加したものの、インドは不参加だった。 パキスタンはAPECの期間中に、中国との間で450億ドルにおよぶ20の覚書に調印することができた。パキスタンと国は共にインドを共通の仮想敵とし、目下「中パ経済回廊(CPEC)」の構築を加速させている。 「CPEC」は、新疆ウイグル自治区のカシュガルから、パキスタンの首都カラチを経てアラビア海に面するグワダール港までを結ぶ計画だ。グワダール港は、原油輸出の要衝であるホルムズ海峡にも近い。そのグワダール港もすでに中国による開発が進んでいる。近い将来、「中国海軍の圧力のもとで、中国側に有利なエネルギーの輸送環境が整う」(“Reuters Islamabad”)と見られている。 バングラデシュも国内の経済発展をさらに加速させるため、また宿敵パキスタンに先を越されないように、中国が牽引する発展の列車に乗り込む構えだ。 中国はバングラデシュ、パキスタンのみならず、ブータンやネパールの協力を得て「ヒマラヤ横断経済地域」(Trans-Himalaya Economic Zone)も開発しようとしている。チベット鉄道を拡張し、ラサからインド国境までを結ぶ計画もある。 当然、インドは面白くない。もともと中国による「包囲網」を警戒しているし、ましてやインドの裏庭とも言われるバングラデシュやパキスタンに手を出す中国の計画など喜べたものではない。中国との間に領土問題を抱えるインドは、中国の呼びかけに簡単にイエスとは答えられない立場にある。ベトナムやフィリピンも同じことだろう。 安全運転とは言えない「アジア発展列車」 以上のような最近の中国の動きは、かつての「帝国主義」「大東亜共栄圏」すら想起させる。国内経済の成長鈍化を乗り切るため、輸出や海外市場の確保、資源の獲得に猛進し、他国の領土を脅かし、自国の利益拡大を図る。こうした“膨張政策”は、19世紀の英仏や20世紀前半の大日本帝国に重なる。 「中国の台頭はあくまで平和的」と強調する中国だが、中国が牽引する「アジア発展列車」が安全運転だとは決して言い切れない。 だが、台湾が危惧するように、中国の呼びかけを拒絶すれば“孤児”になる。日本はこの先、アジアの一員として中国にどう向き合うかが問われている。 【あわせてお読みください】 ・「アジアの中心で中国が「この指とまれ」、日本はどうする?」 ( 2014.12.02、姫田 小夏 ) ・「中国が初めて世界に問う世界戦略「一帯一路」」 ( 2014.12.01、阿部 純一 )
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42433 |