01. 2014年12月10日 07:20:44
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「中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス」 サンゴ密漁は軍と関係あるか 密漁船の拠点で聞いてみた 2014年12月10日(水) 福島 香織 ちょっと、旬を過ぎた話題だが、中国漁船による小笠原の珊瑚密漁問題について考えたい。というのも先月半ば、福建省寧徳市霞浦県三沙鎮という、密漁漁船の拠点にふらりと訪れたからだ。 霞浦県三沙というのは中国で一番美しい干潟として、ナショナルジオグラフィックにも紹介された景勝地で、実は国内外の観光客はそれなりに多い。霞浦というだけあって、普段は霞がかかって見通しの悪い海だが、晴れあがると、きらめく海にノリ養殖のいかだが並ぶ複雑な海岸線は確かに絶景だ。 ちょうどAPEC首脳会議の場で開かれた短い日中首脳会談で、小笠原の珊瑚密漁問題に触れたこともあって、地元では、反珊瑚密漁摘発大キャンペーンが開かれ、あちこちに、珊瑚密漁に関するタレこみ奨励の張り紙や、珊瑚違法密漁を批判する垂れ幕を見かけることができた。三沙鎮出身のタクシー運転手が、私を日本人と知ってか知らずか、「先日、珊瑚密漁の船長が、釣魚島(尖閣諸島)の近くで、日本に逮捕されたそうだ」と耳打ちした。 それで、私も以前から気になっていた疑問を、実家が漁師だというタクシー運転手にぶつけてみた。「珊瑚密漁は『海上民兵』も関わっているって本当?」 「海上民兵」ではないのか? 小笠原諸島付近の珊瑚密漁問題は、すでに繰り返し報道されているので、あまり説明する必要もないだろう。秋ごろからこの海域に急激に密漁船が増え、10月30日には200隻をこえる大漁船集団となった。それがAPECの日中首脳会談当日以降、急激に減少した。 なので、日本の少なからぬ識者が、この密漁漁船は普通の漁船ではなく「海上民兵」であり、軍の総参謀部の指示で動いているのではないか、と指摘していた。密漁というのは建前で、本当は来るべきときに、尖閣諸島を奪うべく、海上民兵を動員した訓練、あるいは、APEC前の陽動作戦とみるべきではないか、というのだ。 ちなみに、タクシー運転手の先の質問に対する答えは「海上民兵だって普通の漁師だ。そりゃ密漁くらいするさ」というものだった。タクシー運転手によれば、「三沙だけで、珊瑚密漁船は200隻以上ある。そこに民兵が混じっていても不思議じゃないだろう」という。 「でも、海上民兵って密漁を取り締まる任務もあるよね。三沙の民兵偵察部隊の建物の前に、赤サンゴの違法漁を厳しく取り締まる、と電光掲示板で告知がながれていたもの」と問い返すと、「海上民兵も解放軍の部隊も、そりゃ建前で密漁はいけない、と取り締まる立場だが、正直みんな顔見知りだからなあ、見逃すのが普通だろう」とうそぶくのだった。 漁をしながら領海主張、敵を探る 「珊瑚密漁漁船は海上民兵」説には、確かにいくつかの腑に落ちるところがある。小笠原諸島周辺で密漁している漁船は、霞浦県三沙鎮や浙江省象山県石浦鎮などの港から来ているが、いずれも比較的大きな海上民兵基地がある。 「民兵」は簡単にいえば、国家の予備武装兵力。普段は一般市民として生活しながら、省軍区、県(市)軍区の人民武装部の指揮下に入り、軍備軍務、防衛作戦や社会治安維持に協力する。基幹民兵と普通民兵に分けられており、基幹民兵は28歳以下で兵役を経験し軍事訓練を受けた経験がある男性、普通民兵は18歳から35歳までの公民男性。女性民兵もある。年に一回訓練があり、訓練時や軍務に従事するときは、旅費、給与なども支給される。基幹民兵は30年前まで3000万人もいたが、今は800万人に減らされた。 海上民兵に関しては、中国の海洋権益を守る尖兵としての役割があり、その任務の中には、「漁をしながらの海上偵察」や「海に漂う主権碑」といったものがある。普通に漁を行いながら領海を主張し、敵の軍事能力を探る、ということだ。 三沙には、尖閣(釣魚島)周辺に漁にでかける船も多いのだが、この場合、魚の豊かな尖閣周辺の海に出かけて漁をするという漁師としての実入りと、領海の主権を守るという軍務も兼ねており、軍部から旅費(燃料費)や給与補てんまで出ることになる。 海上民兵が全体でどのくらいの規模になるのかは不明だが、南シナ海方面に繰り出している海上民兵組織の拠点である海南省では約2300人と報道されている。福建省寧徳市では海上民兵偵察部隊が256人、海上民兵輸送部隊が1436人、海上民兵救援部隊が354人。船の数にすれば58隻という。(寧徳市政府のオフィシャルサイト)。 建前もなく、中国の法律にも違反 尖閣界隈の漁が、自国の海を主張する任務を兼ねて、軍部より燃料費などの支援を受けているというのはまだわかるのだが、では、小笠原の海は中国にも文句の言い様のない日本の海であり、「領海の主権を守る」という任務には合致しないではないか。そこに入って貴重な珊瑚を密漁し、世界自然遺産に指定されている小笠原の自然を破壊しているとなると、それは何の建前もない海賊行為だ。 しかも中国では赤サンゴは国家一級重要保護動物として漁を禁止している。尖閣周辺海域でサンゴ密漁をしているという話も聞いたが、それならば、中国の法律にも違反している、という話になる。誇りある海上民兵がそんなことをしていいのか。 この質問にからんで、先のタクシー運転手はこんな面白いことを言っていた。 サンゴ密漁は10年前からポツポツあった。だが、200隻もの船が先を争って密漁するようになったのはここ2、3年のこと。当然、密漁サンゴ長者の噂が昨年暮れくらいから流れたからだ。霞浦のある船主は2億元分の密猟サンゴを売り抜けたとか、石浦のある船主は5000万元分を売り抜けたとか。それで、三沙の漁師たちはみな、自分もサンゴ密漁をしてサンゴ長者になりたいと考えた。 ただ、漁船の建造は国家の補助が出るが、船籍がすべて登録されるので、密漁しにくい。密漁には新しく無籍の船を造って、漁政局の監視を逃れねばならない。そのための造船資金は最低でも200万元。漁師は親戚、友達に頼み込んで出資者をかき集める。では、どういうやつらが、サンゴ密漁でひと山当てる博打話に出資する余裕資金をもっているか。役人か軍人かマフィアじゃないか、という。 「出資」できるのは役人か軍人かマフィア 霞浦に来る前に、霞浦県城に住む会社員に、霞浦はどんな町なのか?と聞いたとき、こう説明した。鎮の書記までマフィア出身の汚職の町。しかも、三沙は解放軍の部隊が駐屯。海上民兵基地もあるという複雑な土地柄で、県民の人柄も、外部の人間にかならずしも善良友好的というわけではない。… タクシー運転手にその話をすると、「霞浦県の県書記をやると3年で1億の金がたまる」と冗談にも聞こえないことを言っていた。要するに、汚職役人、汚職軍人、マフィアがみなつながっている、という印象である。 「役人も軍人も地元の漁師も顔見知りさ。今は中央からサンゴ密漁を取り締まれ、という命令があるから急に厳しくなったが、漁師が日本にサンゴを採りに行っていることは誰もが知っている」 またネット上に、こんな話も流れていた。 サンゴ密漁は船主や船長にとっては一攫千金を狙えるものだが、一方で雇われ漁師の労働条件は良くない。50日の航海で賃金1万元前後だが、密漁なので保険が掛けらず、事故のときの保障がない。 「サンゴ密漁船の安全設備はお粗末なものだ。しょっちゅう漁師が死んでいる。数日前にまた一人死んだ。だが保障はなにもない」 「漁業企業が違法なサンゴ密漁を行っているのに、役人は咎めもしない。雇われの出稼ぎ漁師が賃金を踏み倒されて、漁政局に調停を頼んでも、密漁をやめさせようともせず、自業自得だと言い放つ。汚職役人が多すぎる」… 三沙には3日ほど滞在していたのだが、ある時、密漁サンゴの売人に出合った。彼らは、自分が経営する工場で、漁師から買い取った密漁サンゴを研磨し、指輪やペンダントにして北京から来た宝飾店経営者や観光客などに売りさばいていた。店舗を持っておらず、好奇心から教えてもらった電話番号にかけると、待ち合わせの場所が県城郊外の建設工事現場だった。 なんか、マフィア映画にある麻薬密売の取引き現場みたいだなあ、と思っていたら、本当にやってきたのが、スキンヘッドの子分を2、3人従えた、スジモノみたいな雰囲気の男たちで驚いた。彼自身も指に大きな赤サンゴの指輪をしていた。聞けば、建設工事現場の作業員を監督するのが本業で、副業としてサンゴの研磨工場をやっているという。 「ほら、見事なアカだろう」 「ほら、見事なアカだろう」と、指輪とペンダントトップを見せた。アカと言うのは日本語の赤と同じ発音。サンゴの色は、アカ、モモと日本語を使うのはサンゴ漁そのものが、日本発祥だから、という。 表面はつややかな血の赤。裏をみると、白いフが若干はいっている。私が見る限りホンモノで、日本の宝飾店ではプラチナの台にいれて、ダイヤで飾って50〜100万円くらいの商品になるのではないかと思われる。安物のダイヤのついた18金のあまりセンスの良くない台に収められて、ペンダントと指輪で2万元(約40万円)と、言われた。おそらく本気で値切れば1万元くらいまでにはいくかもしれない。北京で購入する3分の1位の安さだ。 彼らは、漁師が採ってきた赤サンゴのうち、特にいいものだけを買い取っている、すべて日本産だと言っていた。「北京人は赤サンゴを欲しがる。北京で売られているサンゴはほとんどモモだろう。牛血(血赤サンゴ)はめったにお目にかからないだろう」と胸を張って見せたが、私が、珊瑚を彼に売っている船長の居所などについて、いろいろ質問しはじめると、警戒したように、俺は忙しいから、買わないんなら、いいよ、と行ってしまった。 「最近は、警察がサンゴの密売にうるさくなっているからな」とも言っていた。 サンゴ密漁、サンゴ密売買の町を歩いて、なんとなくわかったのは、少なくとも三沙、霞浦という場所では、役人も警察も軍も海上民兵もマフィアも漁師もみんなつながっている。堅気の世界とスジモノの世界は、緩やかに混ざっている、というのが、中国の地方の漁師町の状況だろう。 「三沙の漁師のほとんどは台湾に出稼ぎにいったことがある。その際、サンゴ漁のやり方なども覚えてくるし、海上貿易で密輸入などにも関わる。それが違法かどうかなんて、関係ないさ。海の上では法律など関係ないのさ」 霞浦で出会った別の運転手から、そんな話も聞いた。 上から下までアウトロー そういえば、福建といえば、アモイ遠華事件と呼ばれる中国史にのこる解放軍海軍が密接にかかわった大密輸汚職事件もあった。権力があれば、その権力に頼って法を犯すし、権力をもたない庶民であれば、法をすり抜ける知恵を絞る。結局、上から下まで誰もが法を守らないアウトローの世界なのである。 そう考えると、サンゴ密漁にたとえ海上民兵が混じっていたとしても、それが中央の政府や解放軍のトップから指令が下りた戦略的なものかというと、そうではないかもしれない。中国に蔓延する汚職体質が産んだ、官民グルの犯罪、というものにすぎないかもしれない。 だが、彼らが中央の政治の風向きを見て、日中関係が悪化すれば、多少日本に無法を働いても、さほど取締が厳しくない、と舐めてかかるという傾向はあるだろう。 正直、上からの指令で統率をもって動く組織とは全く違う、こういう政治的空気に左右される利権と犯罪の癒着との方が、日本にとって、厄介な状況と言えるかもしれない。日本は、自国の主権が及ぶ海域で起きた犯罪は、自国の警察力と司法でもって断固対応するしかないということなのだ。 このコラムについて 中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス 新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。 |