04. 2014年12月02日 07:52:43
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アジアの中心で中国が「この指とまれ」、 日本はどうする? 2014年12月02日(Tue) 姫田 小夏 11月7〜12日、北京でアジア太平洋経済協力(APEC)会議が開催された。このとき中国が掲げたキーワードが「互聯互動」(「インタラクティブに影響し合う」という意味)。中国は自ら主導するインフラ支援構想を掲げ、インフラ開発で周辺国の経済を一体化させ、アジア太平洋地域を発展させようと提唱した。中国の主要メディアは、主要議題をさしおいて一斉にこの構想を報じた。 APECにおいて習近平国家主席は、「中国はアジア周辺国に公共インフラを提供、陸と海の両方のシルクロードと経済圏を構築する(「一帯一路」構想)。中国はこれを支援するため400億ドル(約4兆5800億円)を『シルクロード基金』として創設する」と発表した。 この計画の軸となるのが、陸と海の2つの“シルクロード”である。まずは陸のシルクロード経済圏を確立するため、中国と周辺国を鉄道と道路で結ぶのだという。 また、習氏はAPECの参加国に「中国という発展の列車に乗ることを歓迎する」とも呼びかけた。習氏が政権の座に就任して以降、一貫して説いてきた民族復興の「中国の夢」は、周辺国を巻き込んだ「アジアの夢」へと拡大したのである。 シルクロード建設を後押しする「アジアインフラ投資銀行」 習政権は、この「シルクロード」という言葉を、2012年末に政権の座について以来、盛んに唱えている。 2013年9月、習氏はカザフスタンの講演で、交通を結び、貿易を促し、貨幣を流通させるという「陸のシルクロード建設」の重要性を打ち出した。次いで10月には、インドネシアでASEAN諸国のネットワークづくりを提唱し、「海のシルクロード建設」を打ち出した。同時に、こうしたシルクロード建設を後押しする「アジアインフラ投資銀行」(AIIB、本部北京)の構想についても言及した。 習政権はこれらを重要な国家戦略と位置づけ、今年に入り、2つのシルクロード計画を実行に向けて加速させるようになった。このシルクロード計画とAIIBは「中国版マーシャルプラン」の戦略基盤だとも言われている。 APEC開催に先立ち、10月には北京でAIIB設立に向けた覚書の署名式が行われ、中国やインド、ASEAN諸国など21カ国が共同で署名を行った。AIIBは2015年末までの設立を見込んでいる。設立後に真っ先に着手するのは北京とバグダッドを結ぶ鉄道建設である。 西側体制への不満から自力で国際金融機関を創設 アジアにおけるインフラ建設を掲げる習政権。その背景にあるのは、西側諸国によって確立された旧秩序を打破し、中国を中心とする新秩序を築き上げたいという思惑だ。それは、欧米と日本を軸に形成された国際金融システムへの挑戦状でもある。 中国のこの構想に危機感を抱くのが「アジア開発銀行」(ADB、本部マニラ)である。ADBの最大の出資国はアメリカと日本だ(出資の割合はそれぞれ15.65%)。1966年の発足からすでに48年という長い歴史があり、歴代の9人の総裁はすべて日本人が就任している。 中国も1986年にADBに加盟している。だが、出資割合は6.46%と、アメリカ、日本の半分にも及ばない。今や世界第2位の経済大国である中国は、このアンバランスを不服としていた。またADB総裁の座を獲得できなかったことも根に持っていたようだ。 ADBの総裁は日本人が務め、IMFや世界銀行のトップは欧米人が就任する。その不文律に反旗を振りかざそうとしたのか、2013年7月、中国はBRICS銀行の設立を発表し、10月にはAIIBの発足計画を固めた。 一方、ADBからすれば胸中おだやかではない。ADBは交通や電力などのインフラプロジェクトに巨額の融資をしており、これはAIIBが狙う融資先とまったく重なるのである。日米は「AIIBは、ADBと役割が重複する」と受け止めている。 今年10月、折しも日本では「海外交通・都市開発事業支援機構」が発足した。鉄道や高速道路などのインフラ輸出に官民連携で取り組もうというものだ。発足の背景には、中国が鉄道大国として台頭し、世界の受注を独占することへの危機感がある。 鉄道を含む新興国を中心とした世界のインフラ需要は年間230兆円と言われており、アジアでは年間80兆円の需要がある。中国はその市場を虎視眈々と狙っている。 中国は世界最大の外貨準備高(現在3兆9500億ドル=約403兆円)と「低コスト競争力」を武器に市場を奪おうという戦略である。そして、この戦略を実現させるのがAIIBであり、その延長に描くのが人民元の国際化だと言われている。 さらには、中国の行き詰まった経済の突破口になることも期待される。輸出や不動産投資への依存度が大きい中国にとって、産業構造の転換をもたらしてくれるのが「アジアのインフラ開発構想」というわけだ。 簡単に「列車」には乗れない日本 APECでの「互聯互動パートナーシップ関係の対話」の席上、習氏はこうも述べた。「皆が中国という発展の列車に乗ることを歓迎する」――。 「中国がインフラ開発でアジアの経済発展をリードする。恩恵にあずかりたい国はこの指とまれ」というわけだ。 では、日本は習氏の差し出す「この指」にとまれるのだろうか。 今年初めに行われたAIIBの準備会合に、アメリカ、日本、インドの姿はなかった。また10月に北京で行われた覚え書きの署名式には、韓国、インドネシア、オーストラリア、日本の参加はなかった。 現在67カ国が加盟するADBに対し、AIIBは21カ国にとどまる。だが、署名式の後にインドネシアが参加を表明し、韓国も「条件次第で参加する」(中国メディア)と表明した。 日中首脳会談で両国の対話が再開したとはいえ、これだけ政治的関係がギクシャクしている中で、日本にとって簡単に乗れる「列車」ではない。日本は「中国を中心とする枠組みには参加しづらい。しかし完全に参加しないのも不利」という状況に立たされている。 これからのアジアは中国主導の枠組みで回るのか。中国から見て太平洋への進出路をふさぐ位置にある日本を、中国はどう組み伏せるつもりでいるのか。 APEC会期中、中国中央テレビの報道は「アジアの夢」一色に染まった。今回のAPECは北京五輪や上海万博に次ぐ国威発揚の場とも言われるが、これをいつもの「政治ショー」と一笑に付すのは危険である。なぜなら、そこにあるのは紛れもなく「歴史的転換点」であり、私たち日本人にとってはこれから直面することになる「厳しい現実」の始まりかもしれないからだ。 【あわせてお読みください】 ・「APEC首脳会議と環太平洋:明日に架ける橋」 ( 2014.11.17、The Economist ) ・「中国が初めて世界に問う世界戦略「一帯一路」 ( 2014.12.01、阿部 純一 ) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42328
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