01. 2014年11月20日 07:23:15
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中国のシルクロード構想に期待するカザフスタン 2014年11月20日(木) The Economist 中国の習近平国家主席が「シルクロード構想」を提唱し始めた。 ユーラシア大陸を横断する東西交易の道を現代に蘇らせようというものだ。 交易路の要となるのが中央アジアのカザフスタンだ。 中国と共同で国境に自由貿易地域を開発中だが、視界良好とは言い難い。 道の脇にある色褪せ崩れかかった壁画はかつて、帝国の果てに辿り着いたことをドライバーたちに気付かせたものだった。そこに描かれているのは、1人のいかつい体格の赤軍(ソ連軍)兵士だ。物見やぐらの下で双眼鏡を手に持ち、犬を連れている。彼の眼前にあるのは、中国との軍事境界線だけだった。 だが今やロシア人は去った。オイルマネーで潤うカザフスタンはこの地域で、その国土と同じくらい遠大な計画を立てている。アジアの新たな超大国が牽引する馬車に自国の未来を託すことにしたのだ。カザフスタンは、中国と国境を接する東端の砂漠の町ホルゴスに、ドライポート及び鉄道操車場を建設している。これは、中国が数十億ドルかけて進める「シルクロード構想」の実現に寄与するものだ。 重慶からドイツまでの輸送を10日間に 中国では、製造業が生産拠点を内陸部に移しているため、製品を欧州市場へ輸送する作業が一層複雑になっている。太平洋の沿岸部まで運び、海路で世界をほぼ半周して製品を運ぶと最大60日かかる――最新のiPadやファストファッション・ブランドの商品にとっては「永遠」に等しい期間だ。 カザフスタンはここに別のルートを提供する。中国南西部の重慶を出発する列車は、カザフスタンとロシア、ベラルーシ、ポーランドを経由して、1万800キロ離れた独デュースブルクに、わずか14日で到着するとされている。 カザフスタン国営鉄道(KTZ)は、今後5年間で440億ドル(約5兆1200億円)かけ、その日数を10日に短縮すると約束している。ホルゴス路線は2012年後半に開通した。1年目の13年にカザフスタン経由で中国から欧州に運ばれた40フィートコンテナ(長さ約12メートル)の数は80%増え、6600個に達した。この数は今年は1万個に届く予定だ。 これはまだささやかな数字にすぎない。しかし、国営輸送会社カズロジスティクスのトップ、イェルハット・イスカリエフ氏は、2020年までに年商35億ドル(約4000億円)を見込んでいる。 ほとんどのコンテナは今も海路で運ばれている。その方がはるかに安いからだ――陸路はコンテナ1個9000ドル(約100万円)かかるのに対して海路は約4000ドル(約46万円)ですむ。だが、その差は徐々に縮小している。中国に戻る空のコンテナに、欧州メーカーが高級車など高価な製品を積んで運び始めているからだ。米コンピューターメーカー大手ヒューレット・パッカードのアジアにおける物流を請け負っているロナルド・クレイヴェット氏は、東向けの積み荷の量が今年初めて著しく増えていると言う。 ロシアとは経済同盟を構築 この鉄道は、中国の習近平国家主席が提唱する構想にピッタリとはまる。現代版シルクロードを、米国が牛耳る海上交通路に代わるものとする考えだ。11月8日、習主席はアジアの「物流インフラが抱える障害を打ち壊す」ために、400億ドル(約5兆円)を拠出すると約束した 。 しかし、カザフスタンの経済成長は、中央アジアにおける影響力を中国と競い合っているロシア次第でもある。そもそも、ユーラシア大陸を横断する輸送路の整備は、ロシアが主導するプロジェクトが最初だった。また、カザフスタンは2011年、ロシア、ベラルーシと関税同盟を結成した。来年1月にはこれを基にユーラシア経済同盟 を発足させることになっている。 この経済同盟は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がソビエト帝国の復活を企てているものだと批判する意見もカザフスタンにはある。心配なのは、ウクライナに対するロシアの常軌を逸した行動と、経済同盟域内の今年の貿易量が5分の1減少したこととが、関係していることだ。今年8月、多くのカザフスタン国民はロシアに対して懸念を抱いた。プーチン大統領がカザフスタンについて「歴史がない」と発言するとともに、軍事演習のため国境近くに軍隊を集結させるなどして侮辱したからだ。 だが、この同盟には効用もある。中国から欧州に至る区間(カザフスタンとロシアの国境、及びロシアとベラルーシの国境)で暗躍している、賄賂に飢えた税官吏の数を減らすことに貢献しているのだ。クレイヴェット氏は、同盟がこれらの「障害」を取り除き、輸送日数を4〜6日短縮した点を称賛する。 一方で同氏は、ロシアと西側諸国との緊張関係が、このルートを脆弱なものにするとも指摘する。自分たちが対ロ輸出に頼っていることを知り、欧州の人々は居心地悪く感じるだろう。ロシアは10月、カザフスタン及びベラルーシを経由して運ばれる西側諸国産の食品を輸入禁止にすると脅した。クリミア半島の併合とウクライナへの侵攻を理由に西側諸国から受けている経済制裁に対抗するための措置だ。 カザフスタンはこの問題にどう関係するのか? ウクライナ危機がこの地域に及ぼすネガティブな効果と原油価格下落のために、カザフスタンは2014年の成長目標を3分の1ほど下方修正することになった。そして国家予算の見直しも行うはめに陥っている。 汚職の蔓延や、FTZの開発の遅れなど問題は多い 大掛かりなインフラ建設計画はしばしば、カザフスタンのエリート層に偏った利益をもたらす。政府基金を透明性をもって分配する仕組みがほとんど存在していないからだ。 英グラスゴー大学でカザフスタンの統治について研究しているルカ・アンチェスキ氏は、カザフスタン国境での汚職に関してよく聞かれる逸話は、「市場を開放し、貿易を振興したい国家のイメージとは離れている」と言う。汚職はこの国の上から下まで蔓延している。10月30日、カザフスタンの国境警備トップが組織犯罪と賄賂要求の罪で告発された。 ホルゴス――2011年に自由貿易地域(FTZ)となった――で進んでいるもう1つの数十億ドル規模のプロジェクトは、これから事態が悪化することを示す前兆かもしれない。中国側は来客用宿泊施設や銀行、ショッピングモールを建設している。ところがカザフスタンは、約束していたにもかかわらず、赤茶けた売店を何軒か整理しただけだ。そこにやって来る中国人観光客は戸惑い、アイスクリームを買って奇妙な写真を取ると、にやにや笑いつつ後退りしていく。 アンチェスキ氏は、「カザフスタンでは、多くのインフラ建設プロジェクトが虚栄心に基づいて行われている。紙の上での宣言からプロジェクトの実際の中身に目を移すと、見るべきものがあまりない」と語る。多くの点で、列車が脱線する可能性がある。 ©2014 The Economist Newspaper Limited. Nov 15th 2014 | KHORGOS | From the print edition , 2014 All rights reserved. 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 このコラムについて The Economist Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。 世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。 記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。 このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141118/273968/?ST=print
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