04. 2014年11月11日 07:54:58
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日中首脳会談、緊張緩和なるか? 習近平国家主席と安倍晋三首相のそれぞれの立場 2014年11月10日(Mon) Financial Times (2014年11月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)日中路線のキャンセル1万1000人超える、日中関係悪化が影響か 習近平国家主席と安倍晋三首相の初の首脳会談で、日中関係は改善に向かうのか?〔AFPBB News〕 習近平氏が2009年に中国国家副主席として来日した際、直前になって天皇陛下との会見を求めた。1カ月前までに会見を申請するよう求める宮内庁の規則にもかかわらず、日本政府は慣例を破り、拝謁を認めた。 中国の次期指導者としての習氏の重要性と、修復に向かっている関係を生かしたいという望みを反映した異例の措置だった。 あれから5年。両国関係があまりに悪いため、日本の外交官たちは、中国政府が11月10〜11日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主催する際に安倍晋三首相と習氏との初の首脳会談を実現させようと、土壇場になってもなお懸命に努力していた。 強く、国家主義的な指導者が両国を治めているため、アジアの2大大国は多くの問題を巡って角を突き合わせている。最も危険な対立の争点は、東シナ海に浮かぶ尖閣諸島だ。 初会談への期待と不安 中国で反日的なレトリックが最近トーンダウンしていることも含め、会談が実現しそうな兆しは現れていた。一部の専門家は、習氏は、安倍氏と会うのを拒むことで、APEC首脳会議――中国で今年最大の目玉となる国際的イベント――に味噌をつけたくはないと言う。 悲観的な向きは、会談は儀礼的な握手と大差ないものに終わるかもしれないと警告する。 日中首脳会談、APECにあわせ開催へ 中国・北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の会場前で警備に当たる警察官)〔AFPBB News〕 だが、一方では、両者は2年間の緊張状態の後で、相互の根深い相違の先を見ることができると期待する向きもある。この2年間で、日本は防衛費を増やし、中国の台頭に対抗するためにインドやオーストラリアと連携を強化してきた。 「中国は自らを孤立させることで戦略的なミスを犯している」。安倍氏をよく知る日本の元外交官、宮家邦彦氏はこう話す。「我々は変貌しつつある。以前より集団的、多角的な同盟ネットワークを築く方向に傾いている。日米同盟では十分でないと思っている」 中国は安倍氏のことを、日本の軍事的過去を否定したいと願う修正主義者として描くキャンペーンを繰り広げてきた。一方、安倍氏は東南アジア諸国を訪問し、やはり中国との海洋紛争に対処する各国に支援の手を差し伸べてきた。米国は、中国との対立に自国が巻き込まれかねない紛争の可能性を懸念している。 朝日新聞の元主筆、船橋洋一氏は、アジアは今、日本が1894〜95年の日清戦争で中国を破った時と性質がよく似た「地殻変動」を目の当たりにしていると話す。 日清戦争での勝利とその10年後のロシアに対する勝利は、日本を1世紀にわたるアジア支配に導いた。だが、30年に及ぶ比類なき成長によって力をつけた中国は立ち直り、この地域でかつて占めていた地位を取り戻しつつある。 アジア・ナンバーワンの地位 「日本がこの新しいパワーシフトに適応するのは、心理的、政治的に非常に難しい」と船橋氏は言う。「日本は『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を一度も信じなかったが、『アジアにおけるジャパン・アズ・ナンバーワン』は信じてきた。これは日本にとって不快な目覚めだ」 約2年の間、日中両政府間の意思疎通は極端に少なく、両国が安全保障から貿易に至るまで多くの重要問題に取り組むのを妨げてきた。2012年に中国で起きた反日デモは日本の対中投資を大幅に減らし、投資額は今年33%減少している。 物議を醸す靖国神社を頻繁に参拝することで中国を激怒させた小泉純一郎元首相の外交顧問を務めた外交評論家、岡本行夫氏は、日中関係は「1972年の国交正常化以降で最悪」だと話している。 習近平国家主席 国内の圧力から、態度を変える余地は小さい 「中韓は軍国日本の被害共有」、訪韓中の中国主席が講演 習近平国家主席〔AFPBB News〕 中国の習近平国家主席は今年9月、第2次世界大戦終結の69周年を記念する演説で、戦時中の残虐行為を否定し、「侵略と植民地主義を美化する軍国主義の」日本人を激しく非難した。 「中国の人民は海や空よりも広い心を持っているが、我々は決して目に砂が入るのを許すわけにはいかない」と習氏は述べた。 それから数週間後、このメッセージを見落とした人がいた場合に備え、習氏は中国軍に「地域戦争を戦い、勝つ」準備をするよう奨励した。 2012年暮れに最高指導者の地位を引き継いで以来、習氏は臆面もない国家主義と日本に対する敵意を自身の外交政策の中核的な教義に据えてきた。中国の温家宝前首相は日本の首相と野球をして写真撮影のためにポーズを取ったが、習氏は全力を尽くし、安倍氏と同じ部屋にいるのを人に見られないようにしてきた。 中国の指導者は部分的にはスローガンを通して国を統治するものだし、習氏は自身の「中国の夢」理論を「中華民族の偉大な復興」として明確に定義している。これは、日本のような帝国主義の元侵略国に与えられた屈辱を消し去ることを意図したものだ。 日本に対する敵意、個人的なものか、国内向けのパフォーマンスか? 「中国は、習氏の指揮下で、日本との付き合いに関してずっと厳しくなった。海洋(領有権)問題にかけては、特にそうだ」。上海の復旦大学で歴史学を教える馮瑋教授はこう言う。 一見すると、この敵意は個人的なものに見える。習氏は「太子党」で、父親は「日本の侵略に抵抗する中国人民の戦争」(中国では、第2次世界大戦は抗日戦争として知られている)の有力な共産党司令官だった。 習氏は戦いで鍛えられた共産党エリートと、1930年代、1940年代に中国の大部分を征服した侵略者「小さな海賊(海乱鬼、倭寇)」への憎悪を教え込まれたその子供たちに囲まれて育った。 中国の政策立案者や外交官は、日本に対する態度を含めた外交問題について、習氏がめったに他の指導者や共産党の年長者に相談しないと不満をこぼす。 だが、習氏の個人的な態度に関するさまざまな証拠は相矛盾している。最高指導者に上り詰める前、習氏は日本の外交関係者の間で、日本に対する深い理解があることで知られていた。同氏は公務で少なくとも4回日本を訪問している。直近の来日が2009年だ。 「当初、日本の多くの政府高官と外交官は、習氏が最高指導者になることを非常に喜んでいた。多くの人は、習氏と仕事をして非常に好感を持った」。ある日本人外交官はこう話す。「多くの人は、習氏の今の敵意は、国内の中国人に向けた国家主義的なパフォーマンスだと考えている」 反日感情を自身の権力基盤を固める手段として利用 中国各地で反日デモ、一部暴徒化 2012年9月、中国各地で、日本政府による尖閣諸島の国有化に抗議する反日デモが行われた〔AFPBB News〕 習氏が最高指導者の座に就いたのは、東シナ海での領有権紛争を巡る政府公認の大規模反日デモの真っただ中のことだった。 中国の政治アナリストらは、習氏はこの問題を、自身の権力基盤を固める政治的手段として利用したと言う。 過去2年間で、中国は数十に上る戦争記念館・記念碑を建て、抗日戦争での重要な戦いを記念する新たな祝日を制定し、映画館やテレビを暴力的な反日戦争ドラマであふれかえらせた。 特に危険な動きとしては、東シナ海の無人島周辺の係争海域に正規海軍と準軍事組織の警備艇を送り込み、同地域の上空に一方的に防空識別圏の設定を宣言した。 習氏は前任者よりもはるかに強硬な外交政策を打ち出した。一部のアナリストはこれを、東シナ海から米国を追い出し、日本を弱小国の地位に追い落とす試みとして解釈した。 「中国は他国を服従させる具体的な政策を考え出したわけではないが、指導部は間違いなく、中国はアジアのナンバーワン国家として認識されるべきだと考えている」。中国人民大学米国研究所の時殷弘所長はこう話す。 「実際問題としては、これは中国が日本より力があることを示さなければならないこと、そして米国政府にアジア地域における自国の優位性を認めてもらう必要があることを意味している」 習政権は国家主義を強める手段として反日感情を煽ったが、そこには宥和の要素もあった。 1989年の天安門事件の後、中国は「愛国教育」課程を導入した。特に日本に重点を置き、外国の侵略者の手によって中国が受けた「100年の屈辱」を強調したカリキュラムだ。 日本に甘い態度を見せれば、政権が不安定になる恐れ 現在、アジアの大半の国が中国の強硬路線と執拗な領有権の主張を不安げに見つめる中で、中国国内のプロパガンダは、軍国主義の過去を甦らせている日本に対し、中国政府が他のアジア諸国と連帯して対応しているという構図を描いている。 その結果、特に若い中国人の間では、親日感情を口にすることは往々にして、西側諸国で敵意に満ちた人種差別や反ユダヤ主義の見解が受け止められるのと同じように受け止められる。その意味で、日本政府高官でさえ、習氏が関係を改善させる余地が極めて小さいことを認めている。 「習氏の政権はかなり安定していて、彼は一種の皇帝のような地位を築いたが、なんでも好きなことができるわけではなく、身動きの余地がない分野がいくつかある」。前出の日本人外交官はこう語る。「日本は、そうした分野の1つだ。習氏が日本に甘い態度を取れば、政権が不安定になりかねない」 安倍晋三首相 重要問題に関する柔軟性のなさが関係改善努力の障害に 集団的自衛権の行使容認、閣議決定 安倍晋三首相〔AFPBB News〕 アジアで最も重要な日中両国の関係リセットに向けた日本の努力が勢いを増す中、安倍晋三首相は6日、国家安全保障担当の顧問を中国に派遣した。 ベテラン外交官で、2006年に安倍氏が首相に就任した後の画期的な訪中実現に貢献した谷内正太郎氏の派遣は、APEC首脳会議の場で中国の習近平国家主席との会談実現を目指す努力の一環だった。 専門家らは、公の場で握手するだけでも日中関係を改善させ、両国の政府高官に対し、両首脳は外交から貿易に至るまで、重要な問題に関する議論を再開できるというメッセージを送ることになると話している。 日本では、事態は一刻を争うと言う人もいる。「ベクトルは来年悪化する方向を指しているため、習近平氏と安倍氏が会談することが非常に重要だ」。元外交官の岡本行夫氏はこう言う。「中国は日本の帝国主義に勝った抗日戦争勝利の70周年記念に焦点を合わせたキャンペーンを開始しようとしている」 尖閣諸島を巡る緊張 安倍氏が2012年に首相の座に返り咲いた時、専門家は論争の的になっている尖閣諸島(中国名:釣魚島)を巡り、日中両国が衝突する可能性を危惧した。 安倍氏の首相就任の数カ月前、尖閣諸島の一部を民間の所有者から買い上げることにした日本政府の決断に対し、中国で暴力的な反日抗議デモが勃発した。この論争の結果、外交関係は冷え込み、中国の指導者との会談の可能性が絶たれた。 2006年と比べると、ムードはこれ以上ないほど大きく異なる。あの当時、安倍氏は国家主義の新首相として中国との関係改善に大きな努力を払い、批判的な勢力を感心させた。 安倍氏に近しい関係者の話によると、中国との関係について、安倍氏は自分が前回やめたところから再び始めたかったが、尖閣諸島を巡る中国の態度がそれを不可能にしたという。 中国在住日本人、13年は前年比10%減 海上保安庁が撮影した尖閣諸島付近を航行する中国海警局の船舶〔AFPBB News〕 日本政府は尖閣諸島の国有化を擁護し、その狙いは、右派で反中の石原慎太郎東京都知事(当時)が島を買い上げ建物を建てることで現状を変えるのを防ぐためだったと述べた。 だが、中国政府は日本を激しく非難し、尖閣諸島に向けて船を送り込み始めた。尖閣諸島周辺では、中国船がどんどん日本の領海に侵入し始めた。 安倍氏は今年5月、シンガポールで、アジアと米国の防衛担当者に向けた大して婉曲とは言えない演説で、国家は領有権の主張を通すために「力や威圧を用い」てはならないと述べ、中国を批判した。また、東南アジア諸国に対し、脅してくる勢力に立ち向かう助けになると示唆した。 首相としての靖国参拝への願望 だが、北京の政府高官は安倍氏のことを、2013年12月に靖国神社を参拝することで中国を激怒させた修正主義の指導者と見ている。240万人の日本の戦没者を祀る靖国神社は、そこにA級戦犯14人の「魂」も含まれているために、依然物議を醸す存在になっている。 2006年当時、安倍氏は「戦略的曖昧さ」という方針を維持した。戦略的曖昧さとは、あえて問題に言及しないことで、日中両国が意見の相違――特に靖国に関する相違――を取り繕えるようにするものだ。 2013年12月の靖国参拝に先駆けて、対中関係は好転し始め、中国政府高官は日本の政府高官との協議を再開していた。だが、安倍氏の靖国参拝によって、関係改善への道が一切閉ざされた。 大部分において強い日本の指導者の存在を歓迎するオバマ政権は激怒した。というのも、米国と日本が――韓国の助けを得ながら――中国に対抗できるようにするための努力を安倍氏が台無しにしていると感じたからだ。 安倍氏の側近らによると、同氏は2006年に首相として靖国神社を参拝する願望を犠牲にしたと感じており、中国自身が尖閣諸島で緊張を高めているために、再び自分の望みを犠牲にする気になれなかったのだという。 安倍首相が靖国神社を参拝、中国は批判 2013年12月、安倍晋三氏は首相として靖国参拝に踏み切った〔AFPBB News〕 靖国参拝は日本の国家主義者たちに称賛されたが、批判的な向きは、安倍氏は今度も日本の国益のために自分の願望を脇に置いておくべきだったと考えている。 岡本氏は、靖国神社は戦争神社ではないが、安倍氏は「戦術的な理由」で参拝を見送るべきだったと話している。 だが、靖国参拝は関係を悪化させた唯一の出来事ではなかった。同じ2013年に、安倍氏は機体に「731」という数字がペンキで書かれた戦闘機のコックピットでポーズを取った。 中国はこれを戦争の傷跡に塩を塗り込む行為だと考えた。この数字は、中国人に生物・化学実験を行った悪名高い日本軍の部隊の名前だったからだ。 日本の専門家らは、あれはただの写真撮影の不手際だったと言うが、歴史修正主義者に安倍氏が共感しているという不安を高めることになった。 中国は首脳会談に2つの条件をつけた。1つは、日本が尖閣諸島について領土問題が存在することを認めること。もう1つは、安倍氏が中国政府に対し、今年は靖国神社を参拝しないことを確約することだ。ただ、日本政府側は、この条件は行き過ぎだとの考えを示唆している。 日本が模索する「奇妙な均衡」 安倍氏の考えをよく知るある人物は、日本は両国が尖閣諸島に関する立場を保てるような状況を生み出そうとしていると言う。中国は船を周辺海域へ送り込むことで現状を変えたが、日本は領土問題が存在することを認めるのを拒み、そのため尖閣諸島の未来について交渉しない。 「中国側はこれで自分たちの任務は完了したと言えるし、日本側は相手に何も譲らなかったと言える」。この人物は、そのような取り決めについてこう語る。「双方とも好きなことを言える・・・これは奇妙な均衡だ」 By Demetri Sevastopulo and Jamil Anderlini © The Financial Times Limited 2014. All Rights Reserved. Please do not cut and paste FT articles and redistribute by email or post to the web. 【あわせてお読みください】 ・「外交文章から読み解く歴史的一歩の日中合意」 ( 2014.11.09、宮家 邦彦 ) ・「日中首脳会談は『前提条件なし』で開催されるのか?」 ( 2014.09.17、古森 義久 ) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42168
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