02. 2014年10月28日 12:04:36
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日本の再軍備が進もうが進むまいが、いずれにせよ日米は主要仮想敵国 中国の軍事費増大にとって重要ではある http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42054 核実験から50年、中国の核戦力の実力は?日米の弾道ミサイル防衛は突破できないが・・・ 2014年10月28日(Tue) 阿部 純一 1964年10月16日、中国は最初の核実験に成功した。今月はそれからちょうど50年目に当たる。半世紀を経過した中国の核戦力は、どこまで実力を蓄えたのだろうか。 米ソ冷戦の終結から四半世紀が過ぎ、世界が「恐怖の均衡」から解放されて以来、世界的トレンドを単純化して言えば、インド、パキスタン、北朝鮮など緊張を抱える国々が核兵器開発に踏み切る一方、米露英仏の核戦力は近代化をスローダウンさせ、戦力をスケールダウンさせてきた。 1970年発効の「NPT」(核不拡散条約)で核保有を公認されたのは米露英仏中の5カ国であるが、核戦力の近代化ならびに強化を積極的に進めているのは現在のところ中国だけと言ってもいいだろう。なぜ中国だけがそのような姿勢を採っているのか。その動機付けについて分析してみたい。 1950年代に核兵器の保有を決断 中国が核兵器の保有を決断したのは、米国の核兵器に対抗するためである。もちろん、米国と核戦争を戦って勝つというわけではなく、1950〜53年の朝鮮戦争時期に中国が直面した米国の「核の威嚇」に対抗する「抑止力」としての核保有を目指したのである。 核保有の目的がこのように限定的であったことから、中国は最初の核実験に成功した時点で、「核兵器の先制不使用」「非核保有国への核不使用」を一方的に宣言し、この政策は現在でも堅持されている。 こうしたことから、中国の核戦略は、先制核攻撃を受けた後に、敵に受容できないほどの核報復攻撃を行う能力(第2撃能力)を保持することによって、敵に先制核攻撃を思いとどまらせるという「最小限抑止戦略」を採用しているものと考えられている。 「液体燃料/地下サイロ発射型」から「固体燃料/車載発射型」へ ただし、中国が対米抑止力として北米大陸を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)「東風5」を南太平洋に向けフルレンジ試射に成功したのは1980年であり、米中国交樹立(1979年)後のことであった。 「東風5」は81年から実戦配備が開始されたが、時代はすでに「東風5」のような液体燃料を使用し地下サイロから発射するミサイルを「旧世代」としていた。そこで中国は即応性のある固体燃料を用い、移動式の車載発射ミサイルの開発を進めることになる。 中国は旧式の「東風5」の配備数を低く抑える一方、「東風5」をベースに液体燃料ロケットの大きなペイロードを生かし、「長征」2号、3号、4号といった衛星運搬ロケットとしてこれを活用した。 地上固定式の弾道ミサイルを旧式化させたのは、それを先制攻撃するミサイルの命中精度の向上によって、攻撃に対する脆弱性が高まったことによる。さらに米国では「トマホーク」巡航ミサイルなど、いわゆるPGM(精密誘導兵器)の開発が進み、核を用いない通常弾頭のミサイルでも核ミサイルを収めた地下サイロの破壊が可能になった。 こうしたミサイルの技術革新を受け、米国やソ連は、安定した核報復戦力を、隠密性の確保されたミサイル原潜搭載のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)に依存するようになる。 中国も同様に1980年代、ミサイル原潜(タイプ092「夏」級)を建造し、固体燃料の「巨浪1」SLBMを配備した。しかし「巨浪1」は、ミサイルの射程が1000キロメートル程度と短いこともあって抑止力としての有効性に乏しいものであった。実際、「夏」級原潜がパトロール配備に就いた実績は確認されておらず、抑止のための戦力として機能することはなかった。 中国は、SLBMとしては失敗作となった「巨浪1」をもとに、地上発射型の派生モデルとして移動式の車載発射型で射程を2150キロメートルに伸延した「東風21」MRBM(準中距離ミサイル)を開発するとともに、さらに射程を伸ばした射程7000キロメートルの「東風31」ICBMの開発を進めた(これは99年の建国50周年軍事パレードに登場して注目を集めた)。中国はこの「東風31」と、さらに射程を伸ばし(11000キロメートル)、北米大陸を射程に収めた「東風31A」の開発を同時に進め、前者は2006年、後者は2007年に実戦配備についた。 とくに移動式の車載発射型である「東風31A」が対米抑止力の戦力として加わったことによって、「東風5」に依存していた脆弱な対米抑止力が強化されたことは、中国の核抑止力の信憑性を高めることとなった。 米国、ロシアより核弾頭保有数はまだまだ少ない ここまでの中国の核ミサイル近代化のプロセスを見て理解できることは、米国に対する核抑止を確実なものにするという、必要に迫られたミサイル近代化であったということである。 中国の弾道ミサイル近代化は、1970年代に開発された第1世代の液体燃料ミサイルから、80年代以後の第2世代に当たる固体燃料ミサイルへとゆっくりしたスピードで進められてきたが、それによって中国が核戦略を変更することはなかった。そのことは、現在においても保有する核弾頭の数量が200前後という限定的な規模にとどまっていることから判断できる。ちなみに、ロシアが現在保有する核弾頭数は約8000、米国は約7300であり、中国の核弾頭保有数がいかに少ないかが分かる。 ミサイルの多弾頭化は未達成 そうした一方で、中国は対米抑止力を維持する上で新たな課題を抱えている。すなわち、米国や同盟国である日本が米国に協力する形で進めてきた「弾道ミサイル防衛」(MD)への対応である。中国の限定的なICBM(大陸間弾道ミサイル)戦力、すなわち「東風5」「東風31A」それぞれ20基、計40基程度の戦力では、米国や日本のミサイル防衛網が対応しきれない多数のミサイルの一斉発射による「飽和攻撃」は難しく、いかにミサイル防衛網をかいくぐるかがポイントとなる。 そのため中国が目指しているのがミサイルの多弾頭化(MIRV)であり、長距離SLBMの開発配備である。また最近では、ミサイル弾頭を軌道途中で切り離し、超高速でミサイル本体とは別軌道を取って目標を攻撃する「極超音速滑空ミサイル」の実験を進めている(ただし、これまで行われた実験は失敗している)。 そのうちで最も実現可能性が高いはずなのはミサイルの多弾頭化であるが、中国がこれまで配備してきた弾道ミサイルはすべて単弾頭である。その事実が示しているように、中国にとっては敷居が高いように見える。 ミサイルの多弾頭化の技術は1960年代のものであり、決して新しいものではない。99年に公表された米議会報告書、いわゆるコックス・レポートでは、中国は米国のトライデントSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)に搭載されているMIRV弾頭であるW-88の技術情報を「盗んだ」とされている。それが事実ならば、中国はMIRV弾頭がどのような構造なのかを知っていることになる。しかし、それでもなお中国の弾道ミサイルが多弾頭化されていないのは、超えられない技術上の壁があることを示唆している。 その技術上の壁は、筆者が想像するに「核弾頭の小型化」ではないかと思われる。 中国は96年秋の国連総会で「包括的核実験禁止条約」(CTBT)への署名を予定していたことから、直前の同年夏に核実験の停止を宣言した。1964年からの核実験総数はわずか45回に過ぎない。最後の数回は「駆け込み」的に弾頭の小型化を目指した小規模爆発の核実験とされているが、おそらくそれでは十分ではなかったのかもしれない。 中国のミサイル開発が突き当たっている壁 核実験を行う目的は、「一定の年限を過ぎた核弾頭が所期の性能を維持しているかどうかを確認するため」とされている。だが、もっと重要なのは新型核弾頭の開発であり、設計通りの性能を発揮しているかどうかを確認することである。 米国も92年を最後に、核実験を停止しているが、核爆発を伴わない「臨界前核実験」の技術を有しており、核実験を行わなくとも新型核弾頭の開発が可能とされている。これは、米国が数多くの核実験のデータを蓄積していることに加え、スーパーコンピュータを用いたシミュレーション技術の応用などノウハウを持っているからである。しかし、中国にはそうした技術的背景がない。ちなみに、米国の核実験実施回数は1000回を超え、ソ連も700回以上実施した実績がある。 そうであるとすれば、中国にとって核弾頭の多弾頭化は越えようにも越えられない高いハードルなのかもしれない。 とはいえ、米国の専門家は、中国が新型の弾道ミサイル実験をするたびに弾頭の多弾頭化の可能性を指摘している。最近では2014年9月に中国が行った「東風31B」ICBM(大陸間弾道ミサイル)の実験についてもそうした指摘があるが、それを裏付ける証拠は何もない。専門家たちは、中国が米国のミサイル防衛に対抗しようとするならば、まず弾頭の多弾頭化を目指すだろうという想定を優先し、その技術を中国が持っているかどうかにまで思考が及んでいないのであろう。 もう1つの中国のオプションである長距離SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)について言えば、中国は2014年の年内にも射程7000キロメートルの「巨浪2」SLBMが初期作戦能力(Initial Operational Capability)を取得すると米国は見ている。中国はこのミサイルを新型のミサイル原潜(タイプ094「晋」級)に搭載し、南シナ海で戦略パトロールの任務に就かせると思われる。 ただし問題はその「巨浪2」の射程距離では米国本土(アラスカを除く)に届かないことである。もし北米大陸の西海岸を射程に収めようとすれば、日米の海上・航空戦力が目を光らせている西太平洋に進出しなければならない。だが戦略ミサイル原潜がそうした冒険的行動に出るリスクを冒すとは思えない。結局、中国は南シナ海から米国本土を射程に収める射程を伸延したSLBMを開発せざるを得ないことになろう。 中国が開発する「空母キラー」「グアムキラー」 このように、中国は現在のところ米国や日本の「弾道ミサイル防衛」を突破する戦力を確立していない。しかしながら、中国が継続してきた弾道ミサイルの近代化努力は別の意味で米国や日本の脅威となりつつある。それは、中国のいわゆる「A2AD(接近阻止・領域拒否)」戦略に関わっている。 端的なケースが中国の「東風21D」対艦弾道ミサイルである。「東風21D」は通常弾頭を搭載し、弾頭の突入段階で衛星からの情報に従い姿勢を制御することによって海上を移動する大型艦艇を攻撃する。射程は1500キロメートルとされる。いわゆる「空母キラー」であり、米海軍がこのミサイルの脅威を「本物」であると信じれば、中国本土から1500キロメートル以内に進入することがはばかられることになる。 「東風21」には、他の派生型として通常弾頭搭載型の「東風21C」が存在している。2007年に中国が実施した「衛星破壊実験」に用いたのも「東風21」の派生型ミサイルとされている。 また中国はさらに長射程(3500キロメートル)の通常弾頭ミサイル「東風26C」を開発中であると伝えられている。その射程に西太平洋における米軍の一大拠点であるグアム島が含まれることから「グアムキラー」とも喧伝されている。 中国が70年代から開始した宇宙開発は、現在では有人衛星の打ち上げにとどまらず、「北斗」衛星測位システムの構築や多数の軍事衛星を活用するレベルにまで達している。それがミサイルの誘導に用いられることで命中精度を高めるとともに、それによってミサイルの運用をより柔軟なものにしている。 「副産物」のミサイル戦力が米国を悩ませる 核兵器は現代の戦争において、たとえ小型化したにせよ、その威力の大きさから「使いづらい」兵器という性格をむしろ強めている。しかし、その運搬手段としての弾道ミサイルは、逆に応用の幅を広げている現実がある。 中国の核戦力は対米抑止力の確保を至上命題として、必要に迫られ近代化を進めてきた。だが、その目的の副産物として活用されるようになった中国のミサイル戦力が、今や米国を悩ませるまでになっている。 中国が米国に対して、対等な大国としての対応を求め、「新型大国関係」を構築し、領土・主権に関わる「核心的利益」への米国の容喙を排除するためには、米国との「戦略的対等性」を確立しなければならない。安定した対米核抑止のハードルは高いが、「A2AD」能力の向上は米国との「戦略的対等性」に寄与するものと言えるだろう。中国の核戦力・ミサイル近代化は、そうした観点から理解する必要がある。 最後に、念のため申し添えるが、中国は公式には保有する核戦力の実態を明らかにしたことはない。本文中における中国のミサイルのデータについては、Robert S. Norris and Hans M. Kristensen, Chinese Nuclear Forces 2013, Bulletin of the Atomic Scientists, Nov.1,2013. を参照している。 【もっと知りたい! あわせてお読みください】 ・「中国が開発する超音速ミサイルの脅威」 ( 2014.09.19、福田 潤一 ) ・「中国軍ミサイルの「第一波飽和攻撃」で日本は壊滅」 ( 2013.01.08、北村 淳 ) ・「米軍の宇宙システムを標的にする中国」 ( 2013.06.05、古森 義久 )
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