01. 2014年9月08日 10:44:48
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あらゆる方面から日本を叩くということだなhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41630 ゆっくり真綿で首を絞めるように攻めてくる中国 海洋進出のためのサラミスライス戦略とは 2014年09月08日(Mon) 鈴木 通彦 1 はじめに 西太平洋では、中国が主に海空軍やミサイル軍で接近阻止・地域拒否能力を向上させ、米国もエアシーバトル構想を進めつつある。 ともに大規模通常戦を想定した軍事力の造成だが、2012年頃から、中国はその一方で、国境や海洋での対立を軍事的・政治的に有利に進めるため、「サラミスライス戦略」、つまり「その一つずつは戦争原因にならないが、時間をかけることで大きな戦略的変化になる小さな行動のゆっくりした積み重ね」を繰り返しているとの論調が出始めた。 2012年8月、軍事ジャーナリストのロバート・ハディック氏がフォーリン・ポリシー(Foreign Policy)に中国の「南シナ海におけるサラミスライス戦略」を発表したのが発端である。 2013年8月、ブラマー・チェラニー氏がワシントン・タイムス(The Washington Times)で中印国境における「中国のサラミスライス戦略」を発表し、2014年2月、ハディック氏が再びナショナル・インタレスト(The National Interest)に「米国は中国のサラミスライスに答えを持っていない」と警鐘を鳴らした。 そして、2014年7月10日付の英フィナンシャル・タイムズが「米国防省は南シナ海で中国を阻止するための新戦術を計画」の記事を掲載し、米戦略・戦術の見直しを暗示するに至った。 当初、南シナ海が主であったが、今では、領土問題全体にみせる中国の戦略として注目され、周辺諸国は、その「小さな一歩」を阻止しなければ「果てしない拡張」が続くと恐れるようになった。全体像の見えない恐怖からだ。 2 サラミスライス戦略 サラミスライスという言葉は、1940年代後半、ハンガリー共産党が他の政党を「サラミスライスのように分断、消滅させた」ことで、比喩的に使われ始めた。明確な定義があるわけでなく、「サラミスライス戦略」「サラミスライス戦術」あるいは単に「サラミスライス」と使い方も整合しない。 一つひとつが戦術的に行われ、その繰り返しで戦略的な大目標を達成するからである。ここでは、主に、中国の一連の海洋進出活動を論じる意味で「サラミスライス戦略」を使う。
米MIT(マサチューセッツ工科大学)のフラベル准教授は、中国の領土問題解決には次の特徴があると述べる。 第1に、国境問題でたびたび軍事力を行使した。陸では4〜5分の1だが、海洋では50%に及ぶ。第2に、無人島や支配の度合いが弱ければ軍事力行使を躊躇しない。第3に、軍事力のある国(日本、ロシア、インド、台湾、ベトナム)であっても躊躇しない。第4に、国内に問題を抱えているとき外部から何かされると、その行動は強硬になりやすい。つまり、小さな軍事力で、全面戦争に至らせない配慮をしつつも、軍事の敷居は低いのである。 中国の目標は、「中国の夢」、つまり、 (1)共産党創設100周年の2021年までに13億国民の中流生活水準を実現すること (2)中華人民共和国創設100周年となる2049年までに世界の強国となること (3)アヘン戦争が勃発した1840年以前の中国の国際的地位復活のために、2049年までに全力を尽くすこと に表れている。いずれも、共産党の正当性を意識した国内向けプロパガンダに見えなくもないが、少なくも(2)と(3)は、世界にとって大きな挑戦になる。 これらは、劉華清の海軍建設構想(図表1)に具体的で、習近平国家主席が米中首脳会談で語った「太平洋は米中を受け入れる十分な広さがある」あるいは俗に言われる「米中二分論」にも表れている。 中国にとっての東シナ海や南シナ海におけるサラミスライス戦略は、周辺国を犠牲にしつつも、世界の多くの国との貿易や西太平洋での安全保障地域拡大を確実に推進できる、身の丈にあった現実的な戦略ということだろう。 3 南シナ海におけるサラミスライス戦略 南シナ海には、南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)、中沙(マルクスフィールド)、東沙(プラタス)など250に及ぶ島や岩礁があり、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有を主張し、中国とベトナム、中国とフィリピンはすでに軍事対立に至っている。 豊富な石油やガス、豊かな漁場、マラッカ海峡に至る重要航路ゆえだが、水深があり潜水艦の活動に適することや海南島に巨大な軍事基地が存在するため、米中の軍事的な小競り合いもしばしば生起する。 中国は、国連海洋法の解釈と相いれない「九段線」を根拠に南シナ海全域の領有を主張しているが、複数の中小国が絡み、多くの島嶼・岩礁で個別に既成事実を積み重ねられるので、サラミスライス戦略を巧妙に駆使する。 中国は、図表2のように、ベトナム戦争後の1977年に西沙の永興島、1988年に南沙の赤瓜礁でベトナムから実効支配を奪い、1992年2月の領海・接続水域法制定後、活動を本格化させた。2007年には三沙市を設立、国内態勢を整備し、さらに活動を強めた。 フィリピン正面で中国は、1995年南沙ミスチーフ礁(美済礁)に構造物を建設、2012年に中沙のスカボロー礁(黄岩島)を実効支配、2013年南沙の第2トーマス礁でフィリピン海兵隊を駆逐、2014年南沙でジョンソン南礁を埋め立てた。
やり方は、一歩進んでは状況を膠着させ、次は別の場所に焦点を移す方法である。米比軍事協力が実効性を帯び始めた最近は、この正面の実効支配を終えたのち、砂州の埋め立てや軍事施設の建設を進めている。 2014年に入り、米軍支援のないベトナムに対し、西沙でオイルリグを設置するなど攻勢をかけ始めた。8月のASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議直前にリグを撤収したが、カンボジアとラオスを味方につけ、これを有利に決着させると、インドネシアと係争中の5つの島や環礁に灯台を建設し始めた。 一連の動きは、できるかぎり2国同時対立を避けつつ、無人島や実効支配の及ばない地域に構造物を建造、既成事実化し、一方、対象国が実効支配する場所には、漁船、漁政船、海監船あるいは軍の艦艇でキャベツのように層状に取り囲み相手の逃げ出すのを待つ方法をとる。 国際的な場での協議を拒否し、2国間問題の立場を崩さない。今は、ベトナムとフィリピン2国が相手だが、九段線に含まれるマレーシア、ブルネイ、インドネシアもいずれ視野に入るだろう。 問題は、これらの行動が南シナ海にとどまるか否かである。その先に、重要航路であるマラッカ海峡支配やインド洋進出の目論見が考えられ、バシー海峡を経て西太平洋への軍事進出も予期されるからである。 「平和的」の言葉の陰で、如何なる地域や世界を作ろうとするのか、周囲を説得できる言葉はない。その意味で、サラミスライス戦略の最初の一歩は重い。 4 東シナ海におけるサラミスライス戦略 尖閣は、日本、中国、台湾が領有権を主張する小さな島嶼である。ゆえに、日台の漁業問題が決着したいま、尖閣を日中に限定された問題であるかのように考えがちである。 しかし、図表3のように尖閣は、中国から延びる大陸棚の先端に位置する。国連海洋法条約は、最大350海里までの広大な大陸棚を申請・認可により、沿岸国の権利として認めるとしているが、尖閣の日本の領有は、中国にとり大陸棚領有の最大の障害になる。 ゆえに、「尖閣に領有権問題が存在する」ことを認めるよう迫る中国の主張は、まずは、島そのもの、次いで大陸棚を支配する重要な一歩になる。これらの動きを、図表4に示した。
中国は、東シナ海で、領空に準じた防空識別区ADIZを設定した。これは、在沖米軍の撤退、宮古海峡支配、沖縄の中立化など、最終目標である西太平洋進出のための一連のサラミスライス戦略である。やがて、米国を含む周辺国の安全保障問題、あるいは「航法の自由」に波及する国際問題になる可能性もある。
5 米国の対応 米国は、中国のサラミスライス戦略を認識しているが、領土問題ではいずれにも肩入れしない建前である。さらなる中国の行動を、 (1)尖閣上空の中国無人偵察機による哨戒 (2)尖閣への民間人抗議者による上陸 (3)中国戦闘機による東シナ海のADIZを通過する日本の航空機の阻止および目に見える監視 (4)南シナ海のある部分への中国のADIZ宣言 (5)中国の漁業政策に従わないベトナムまたはフィリピン漁船への乗船または拿捕 (6)中国船や航空機による米国および日本の艦艇および哨戒機へのさらなるいやがらせ などと予想しているが、やっと対応戦略を検討し始めた段階である。 米軍は、中国のこれら海域におけるサラミスライス戦略に対し、部隊のローテーション配備、新装備の配備、あるいは演習を通じ、軍事プレゼンスを高めつつある。また、日本およびベトナムやフィリピンにも対処能力を高めるよう期待している。 そして、最近懸念を表明し始めたインドネシアや安全保障に協力的な豪州を含め、その輪を広げ、ASEANや国際司法裁判所などの国際的な場で扱う方向に進むだろう。 6 おわりに 習近平が指導する中国の外交・安全保障政策の根底には、「被害者意識」「大国の自負」、さらに「失地回復ナショナリズム」などの潜在意識がある。そして、共産党の正当性に結びつく壮大な目標の達成を最上位におき、それらの潜在意識を巧みに絡ませる。 サラミスライスは、状況に応じ、その意図をあいまいにし、あるいは見せつけながら、時間をかけて目標を達成する戦略である。 日本は中国と協力関係を築かなければならないが、日中に負の遺産が存在するので、顕在化の恐れは常に存在する。ゆえに、過去の妥協や共同開発などの約束も、状況の変化に伴い反故されないか、きめ細かく注視しつつ対応する必要があるのである。 |