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転機の紅いメジャー:習主席、石油閥を解体 国有3社が「爆食」転換:不正会計、氷山の一角 政府と癒着 なお懸念
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投稿者 あっしら 日時 2014 年 9 月 08 日 03:21:23: Mo7ApAlflbQ6s
 


転機の紅いメジャー

(上)習主席、石油閥を解体 国有3社が「爆食」転換

 中国「石油閥」のドン、周永康氏が失脚した。共産党・国家の庇護(ひご)のもとで海外の資源権益を買いあさり、巨利を追ってきた国有石油会社「紅いメジャー」は大きな転機を迎えた。

 6月下旬、北京空港。国際線から降り立った一人の男性客を目つきの鋭い集団が囲んだ。「一緒に来てもらう。理由は分かっているな」。以来、公の場で中国石油天然気集団(CNPC)のカナダ地区責任者、李智明氏を見た人はいない。
 CNPCカナダ法人の幹部が次々と「失踪」している。正式発表はないが、中国当局が拘束して取り調べているもようだ。容疑は「海外権益の買収に絡み、大規模な不正を繰り返していた」。李氏らとともに捜査線上に浮かんだのが賈暁霞氏、周永康夫人の実妹だ。
 賈氏はカナダ法人の総経理などを務め「北米や南米、アフリカの案件に影響力を持っていた」(関係者)。最近もカナダで新型油田「オイルサンド」の権益を12億ドル(1200億円)で買収すると決めたが、本社に資金を水増しして報告し、李氏らとともに横領した疑いを持たれている。
 賈氏は7月、突然の「退職メール」とともに姿をくらます。約10年間の在籍中に数十億ドルを不正蓄財したといわれる。当局は行方をつかめず、全容は不明だ。カナダ法人が手がけた多くの海外案件も宙に浮いている。
 紅いメジャーの拡大一辺倒の路線は世界で「爆食」とも呼ばれた。主導したのが周氏だ。
 「諸君の石油人としての貢献を感謝する。(中国有数の)大慶油田を切り開いた開拓精神をここでも発揮していこう」。党の最高指導部で権勢を振るっていた2009年にはスーダンに直接足を運び、総額200億ドルの油田開発案件をまとめた。
 リビア、シリア、イラク……。中国石油大手は欧米メジャーですら進出をためらう紛争・危険地帯に積極投資してきた。縁故や人脈でつながった石油閥が党・国有各社の要職を占め、周氏の大号令のもと「走出去(海外に打って出る)」を推し進めた。
 現在は逆回転しつつある。石油閥の不正も絡みリスク度外視で投資を急拡大した結果、開発停止に追い込まれる海外油田も多い。スーダンでは内戦で生産が滞り、開発主体のCNPCは巨額の含み損を抱えた状態だ。

 習近平国家主席が石油閥の「解体」に動いたのも、政敵の周氏を追い落とすとともに、石油閥の「暴走」に歯止めをかける狙いからだ。
 「もう規模もスピードも追求しない」。CNPCの周吉平董事長は強調する。1988年の設立以来、中国の海外資源開発をリードしてきたが、13年は海外権益の取得やパイプラインの建設に使う設備投資を初めて減らした。14年も前年比7%減らす計画だ。

 中国海洋石油総公司の王宜林董事長も「経営を見直し、健康的な発展につなげる」と語る。国有3社のトップは「爆食路線の転換」と口をそろえ、高成長を無理に求めない「新常態(ニューノーマル)」を提唱する習氏の方針に同調する。「石油各社は習氏への忠誠心を試されている」と業界関係者は語る。

 「新しいドン」を予感させる動きも広がる。「重慶シェールガス田の開発を最優先する」。中国石油化工集団の傅成玉董事長は大量の資金と関連業者を動員し、国内ガス田の開発に乗り出した。国内産業の振興を促す習氏の意向が働いているとされ、新たな閥族を生むリスクもはらむ。

[日経新聞9月3日朝刊P.7]


(下)不正会計、氷山の一角 政府と癒着 なお懸念

 1兆5千億円――。中国「石油閥」の重鎮、周永康氏が汚職でため込んだとされる額だ。巨額の不正を可能にしたのは、国有石油会社「紅いメジャー」のいびつな構造に原因があった。

 周氏が影響力と人脈を使って育ててきた中国石油業界の分岐点は1988年だ。石油工業省を解体して中国石油天然気集団(CNPC)を設立。中国石油化工集団、中国海洋石油総公司とあわせた国有3社体制で海外進出に踏み込んだ。

 米フォーチュン誌によると、2013年度の売上高の世界ランキングで中国石油化工の4572億ドル(48兆円)は、米ウォルマート・ストアーズ、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに次ぐ3位、CNPCは4320億ドルで4位だ。政府の規制で守られ国内市場を独占してきたことで、売上高は世界最大級に膨張した。

 利益率に目を転じると異常さが浮かぶ。中国石油化工の売上高純利益率は2%と、同業の欧米メジャーの4〜8%と比べ極端に低く「利益が流出しているとしか思えない非効率さだ」(業界関係者)。あるべき利益はどこに消えたのか。
 「7年間にわたって総額260億3500万元(約4450億円)の不正入札を繰り返した」。中国の審計署(会計検査院)は6月、CNPCが06年から13年まで巨額の不正を働いていたとする報告書を公表した。
 会計を集中検査すると、油田設備や石油化工など9社のグループ企業で入札に絡む不正が判明したという。12年だけで10社が管理費用を約6億元水増しして報告していた不正会計も発覚し、こう指弾した。「経営や内部管理に問題があるほか、一部の経営者が重大な違法行為・規律違反を働いていた疑いがある」
 こうした不正は氷山の一角だ。国有3社が持つ上場子会社は、総資産の6割を切り出しただけの「部分上場」にすぎない。全体の資産や業績を公開する義務はなく、子会社間で資産の付け替えも自由だ。外部からの監視が難しく、企業統治の仕組みも利きづらい。

 政府は石油製品の価格統制を続け、行政との癒着も指摘される。「規模は一流だが、国際企業としての経営にはほど遠い」(証券アナリスト)というのが現実だ。
 習近平指導部は石油各社の「民間開放」を改革の切り札に位置付ける。一方で、早くも失望の声が広がる。
 「販売子会社の株式の売却先は国内企業を優先する」。8月、中国石油化工の上場子会社が開いた決算説明会で、傅成玉董事長は宣言した。
 同社はガソリンスタンドを運営する子会社の株式の最大30%を外部に売る。民間資本を取り入れ、経営の効率化につなげるとの触れ込みで、海外大手も含め参入に意欲を示す企業が相次いだ。
 「国内優先」が鮮明になり「習氏は第2のプーチンになるつもりか」と疑う声も出る。ロシアでプーチン大統領が力を入れた取り組みは最大企業ガスプロムの利権の解体だった。結果は側近や友人に利権や資産を再分配し、新たな不正の温床になったとの見方も多い。
 中国石油各社の「民間開放」を巡って、かつて習氏がトップを務めた「浙江省人脈」が積極的に動いているともされる。ガスプロムと同様に「改革」が骨抜きになる懸念はぬぐえない。

阿部哲也が担当しました。

[日経新聞9月4日朝刊P.9]

 

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