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キーワードは「新常態」!? 習近平が主導する日系企業叩きの本質とは
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40222
2014年08月25日(月) 北京のランダム・ウォーカー 近藤 大介 現代ビジネス
■「正義を振りかざす官庁」が辿り着いた一手
7月28日の本コラムで、私は次のように書いた。
〈 予言めいたことを言うと、次に「危ない」のは、中国の日系企業ではないか。折りしも、7月25日の「日清戦争120周年記念日」を皮切りに、習近平主席の意向に沿って、中国メディアで「反日キャンペーン」が始まった。「日清戦争敗北の屈辱をいまこそ晴らそう」というのが、習主席のご意向である。
となれば、象徴的な「悪の日系企業」が作られることは、容易に想像がつくのである。中国に進出している3万3000社の日系企業は、この時期、心して工場の点検などを怠らないことが必要だろう。 〉
あれから1ヵ月を待たずして、「予言」が的中してしまった。
ファーガイウェイ(発改委)こと、中華人民共和国国家発展和改革委員会の政策研究室が8月20日、この官庁のホームページに、「日本十二家企業実施汽車零部件和軸承価格壟断被国家発展改革委罰款12.35億元」(日本の12社の自動車部品メーカーに独禁法違反で12.35億元の罰金を科した)という見出しの「最新ニュース」を載せたのだ。
発改委は、1992年まで中国が計画経済をやっていた時代に、国家計画委員会と言って、中国経済の司令塔だった。日本で言えば、財務省+経産省+国土交通省+総務省+金融庁くらいの強大な権限を有していた。それが紆余曲折を経て、2008年にいまの発改委になったが、それでも依然として「官庁の中の官庁」として君臨した。
私も2012年までの北京駐在員時代、多くの中国の官僚たちと付き合ったが、発改委の官僚だけは別格で、会食していても常に「見下されている感」があった。これはおそらく彼らの習慣で、「相手と対等に接する」という機会がないためだろうと、私は推察していた。
ところが習近平主席は昨年8月、発改委のナンバー2で、北京オリンピックの責任者だった劉鉄男副主任を、「汚職幹部」として引っ捕らえてしまった。この「一罰」で、発改委のエリート官僚たちは、「去勢した宦官」(中国の某官僚の表現)のように、習近平皇帝様にひれ伏してしまったのだ。
その後は、「何が習近平皇帝様の意にかなうかを物色し、外資企業叩きに辿り着いた」(同官僚)というわけだ。「発改委は盲腸のような官庁になってきたため、習近平主席によってお取り潰しに遭う」との噂まで出ていた。だが、外資叩きを始めて以降、息を吹き返したかのように連日、中国の官製メディアに、「正義を振りかざす官庁」として登場するようになった。
■多くの日系企業が泣き寝入りする現状
今回標的にされた日系企業12社中、実際に罰金を科せられたのは10社で、その内訳は、住友電気工業48億円、矢崎総業40億円、日本精工29億円、デンソー25億円、NTN19億円、ジェイテクト18億円、三菱電機7億5,000万円、ミツバ6億8,000万円、古河電機工業5億7,000万円、愛三工業4億9,000万円である。お気の毒にとは思うが、発改委に睨まれたら中国では仕事ができないので、全社が平身低頭して、耳を揃えて支払うことだろう。
日本の大手自動車メーカーの中国現地法人幹部に聞くと、次のようにホンネを漏らした。
「今回の措置では、罰金を科せられた10社の他にも、少なからぬ日系自動車関連メーカーに対して、8月8日付で価格修正勧告が来ました。どの社の幹部と話しても、『中国当局は高圧的で、とりつくしまもなかった』と言います。そして部品メーカーを叩くということは、いずれ"本丸"のトヨタ、日産、ホンダが狙い撃ちされるということで、われわれの意見は一致しています。
中国は政治は社会主義だけれども、経済は市場経済を標榜しています。ということは、商品の価格は市場が決めるわけです。昨年の中国車における日本からの部品輸入額は95億ドルに達していて、これは全体の輸入額の27%にあたります。なぜこれほど多いかと言えば、中国人が自分たちでまともな車を作れないのに無理に作ろうとするから、換骨奪胎で日本の部品メーカーに頼るわけです。
そもそも独占禁止法と言うけれども、中国は国有企業が市場を独占しているではないですか。それを習近平は、車を買えないような中国の庶民を煽動する形で、日本叩きをやって支持率を上げようとしている。
トップからしてこんなメチャクチャな論理をかざす国からは、サッサと撤退すればよいのですが、昨年の自動車販売台数2198万台という世界最大の市場であるため、多くの日系企業が泣き寝入りしているのが現状なのです」
この自動車メーカー幹部の苦悩は、中国に進出しているすべての日本企業の苦悩と言ってもよいだろう。まさに中国ビジネスは「前門の虎、後門の狼」で、苦労が絶えない。
2010年にアリババ集団の馬雲総裁に話を聞く機会があったが、「わが社の社則はたった1行だけ。『いるなら従え、いやなら辞めろ』だ」と嘯いていた。まさにこれと同じ論理を、習近平の中国は日本企業に突きつけてきているのである。ちなみに、馬雲総裁は当時、温家宝首相を手厳しく批判していたが、いまや「習近平の先兵」とも言うべき「模範経営者」である。
■経済改革の新たなキーワードは「新常態」
さて、そのような習近平主席の「経済観」を読む格好の「肉声」が入った。習近平主席が8月上旬の「北戴河会議」で述べたという経済に関する重要講話の内容だという。
北戴河会議は、毎年8月に、中国共産党中央政治局常務委員(トップ7)と常務委員OBたちを中心に、河北省秦皇島市北戴河にある高級幹部の別荘地で開く重要会議だ。北戴河会議の決定が、10月の「4中全会」(第18期中国共産党中央委員会第4回全体会議)の決定となり、4中全会の決定が来年3月の全国人民代表大会を経て政府の決定となる。その意味では、中国の指針を決める最重要会議と言っても過言ではない。
今年は、江沢民、李鵬、胡錦濤、温家宝といった大物OBは不参加だったと聞く。加えて、現職ナンバー2の李克強首相も、習近平主席の命令で、大地震に見舞われた雲南省に慰問に行った。
ということで、今年の北戴河会議は、習近平主席の独断場と化した。そんな中で、習主席が経済改革のキーワードとして出してきたのが、「新常態」だったのである。この新語は、習近平主席が今年5月上旬に河南省を視察した際に、初めて登場したものだ。
「わが国の発展はやはり、重要な戦略に基づいてなされるべきだ。われわれが強く信じるべきなのは、中国経済発展の段階的な特性から見ていくことで、『新常態』に適応させて、戦略上、平常心を保持することだ」
続いて、7月29日に、共産党以外の人士との座談会で述べた「最近の経済情勢と下半期の経済政策」というタイトルの講演で、2度目に「新常態」が登場した。
「わが国の経済発展の段階的特性を、正確に認識すべきだ。信心を強め、『新常態』に適応し、経済の持続的かつ健康的な発展を推し進めるのだ」
そして8月上旬の「北戴河会議」が3度目である。習近平主席は「北戴河会議」で、「新常態」について、次のように述べたという。少し長くなるが、その要旨は次のようなものだ。
■「新たな創造を調整しコントロールする」
「新常態の状況下においては、経済成長の速度は緩慢になるが、発展の質は、一段階アップする。資本や土地などの供給は下降するが、資源の環境は強化される。効率のよいサービス業が活発化し、産業構造が不断に良くなっていく。物価の上昇に伴い、貯蓄率が下降し、輸出と投資の伸びが緩慢になり、消費が飛躍的に伸びていく。需給構造が不断に改善されるのだ。都市化が進むことによって産業が転移し、都市と農村の結びつきが活発化していく。労働力供給の減少に伴い、人的資源は貴重になっていく。収入の分配構造も不断に改善されていく。
こうしたことが、『新常態』の特徴なのだ。この新たな趨勢は、上半期に全面的に表れてきている。いまや経済の運行は、『穏』の字が筆頭で、『穏やかな中に進歩が有る』のだ。上半期の7.4%の成長は緩慢ではあるが、世界的に見ると頭一つ出ている。今後は、構造調整を進めていく。第3次産業の比重と消費の貢献度を引き続き上げて、中西部の発展をうまく調節し、住民の収入を継続して引き上げる。『穏やかな中に進歩が有る』---これこそが、巨大な中国経済の車輪の新たな姿なのだ。
新たな創造を調整し、コントロールしていく。新常態のもとで、経済成長は、高速成長から中高速成長へと変化していく。これはわが国がマクロ経済を調整しコントロールする上で堅持する思惟である。注意を怠らず、戦略と思惟を堅持しつつ、徹底して「成長率第一」「変化への焦慮」から脱却し、平常心を保持するのだ。
一方、新常態のもとで、過去の伝統的な大ざっぱな経済発展から、効率のよいコストの安い、持続可能な経済発展へと変わっていく。これこそはマクロ経済を調整しコントロールしていく中で突出した位置を占める要求である。
今年上半期、中国共産党中央と国務院は、マクロ経済の調整とコントロールの思惟と方式を刷新した。強い刺激を与えず、大まかに調整していく。それでいて個々の調整とコントロールを堅持し、質はさらに高め、『大水で適当に灌漑する』ようなことはせず、経済構造の核となる領域を把握し、細大漏らさず、発信力はさらに均衡の取れたものとする。頭が痛ければ頭を診て、脚が痛ければ脚を診るのではなく、全体的な調整とコントロールを堅持するのだ。
穏やかな成長をコントロールし、改革を促し、構造を調整し、民生を施し、経済成長が鈍化していく圧力を考慮し、経済の質と効率を高めていく。『新たな創造を調整しコントロールする』---これこそが中国経済という大車輪の新たな枠組みである。
改革は利益をもたらす。新常態のもとで、方式を転換し、構造を調整するという要求は差し迫ったものだ。これこそが全面的な改革の深化を通して、政府の役割転換の不十分さ、市場体系の不完全さ、企業改革の不徹底といった体制機構の欠点を補うものだ。
今年上半期、改革は惑うことなく先手を打った。『政治を簡素化し権限を放出する』という改革の大ナタを振るった。税制改革、価格改革、国有企業改革など、重点的な領域で改革は連鎖反応を起こし、利益を生み、経済発展は骨太なものになっている。『全面的な改革』こそが、中国経済の大車輪の新たな動力なのである。
経済成長は緩慢にはなるが、実際の増量は目に見えるものだ。経済の下降圧力が増していく背景下で、今年上半期の経済成長は7.4%だった。これは容易ならざることだ。30数年間の高速発展を経て、中国経済は一個の巨人となった。総量の基数は膨大で、毎年1%の成長分だけでも決して小さなものではない。今年の経済成長の目標は、約5兆元だ。これは1994年の経済規模に匹敵する。
それでも幸いなことに、物価水準は平穏に保たれ、就職状況も比較的良好で、民生は引き続き改善され、機構調整も新たに進展している。高速成長から中高速成長に転換し、経済の運行は長く合理的に収まっている。このような経済成長は、必ずや就業と収入を増加させ、質と効率を上げ、エネルギー節約と環境保全にも役立つものだ。
調整は困難を伴うが、すでに成果をあげている。今年上半期、ついに経済成長に占める消費の割合が、投資の割合を超えた。サービス業の伸びが第二次産業の伸びを引き続き上回った。先端技術産業と機械製造業は明らかに全国の工業の平均の伸びを上回った。国民の収入配分のうち、一般市民の収入の比重が増し、単位GDPあたりのエネルギー消費量は下降した。
このような変化は、近年来の構造調整の積極的な潮流を継続させ、経済構造に深刻な変化をもたらしている。新常態に入って、転換し上昇していく核となる時期に入ったと言える。バージョンアップされた中国経済を作り、過去の殻を打ち破り、粗放型から集約型へ、低レベルから高レベルへと、構造調整の任務は甚大だ。
構造調整は順風満帆にはいかず、陣痛を伴うだろう。だがわれわれは進む道を堅持し、青山をしっかり掴み、穏やかな成長の中で改革を促進し、構造を調整し、民生を施し、政策を調整し、なるべく陣痛を減らして、最大限の効果をもたらすようにするのだ。
調整とコントロールは平穏に行い、経済活力を増強させるのだ。今年上半期、穏やかな成長の任務は十分果たされた。強力な刺激策は取っていないにもかかわらず、マクロ経済政策は連続性と安定性を保持し、個々の調整とコントロールも堅持し、改革の深化に特別の注意を払い、簡素な政権と権限放出に大ナタを振るい、減税によって利益をもたらし、企業活力を増強させ、経済の内的動力を増強させた。
今年上半期、全国に新たに登記した市場主体(民間企業)は593万9500戸にのぼり、これは前年同期比で16.71%も増加している。その伸びも前年よりも8.41%も高い。
経済の新常態では、マクロ経済の調整とコントロールの思考と方式を刷新し、経済発展の持久力を育成する必要がある。根本的な問題として、改革は動力を必要とし、構造調整に向かって助力を必要とし、民生の改善に向かって潜在能力を必要とする。いわゆる『激しい活力』を隅々まで放ち、市場の主体の手足を開放するのだ。一部の足りないところは補ってやり、うまく進むようにしてやり、公共財を有効に供給する。いわゆる『強い実体』が必要なわけで、こうした政策で満たし、発展のミクロ的な基礎を築くのだ。
科学は新常態を認識している。経済が新常態に入ることは、30数年の高速発展の必然的結果であり、客観経済の規律作用の体現である。30数年の高度経済成長の成果は巨大で、貴重な奇跡だ。
今後もこのような高速度成長を維持していけるのか? その答えは、無理だというものだろう。いや、その必要はないのだ。経済的な潜在成長率は下降し、制約上、高度成長は立ち行かない。資源環境の圧力は高まり、これも高速成長を阻害している。第18回共産党大会では、2020年までに全面的に、比較的ゆとりのある社会(小康社会)を実現すると謳った。そしてGDPを2010年の2倍にするとした。こうした目標を達成するには、毎年7.5%程度の成長があれば十分だ。
人口構造の変化に伴い、基本的なコストが増大し、経済構造の良性な高度化と新たな駆動の転換を圧迫している。まさに客観的条件の変化によって、中国経済は必然的に高速成長から中高速成長に転換し、構造の不合理さから構造の良質な方向へと転換し、新たな創造の方向に駆動していき、リスクを孕んだものから様々なチャレンジへと転換していく。中高速、構造の良化、新動力、多くの挑戦をもって、新常態の特徴とし、われわれの身辺に迫り来る、大きく転換していく中国経済の面貌とする。
新常態を弁証していみよう。新常態は進歩であり、『富める状態』であり、中国経済がさらに高い次元に上がっていった状態である。30数年間の高速発展を経て、わが国の経済は大きな高台に上った。容量は大きく、底は厚く、庶民の生活は改善された。そのようなわれわれは、さらに大きな力量でもって、過去にやりたかったが成し得なかったことを行い、中国経済のレベルを引き上げ、質と効率を上げてさらに大きな高台に上るのだ。
新常態は、多種多様な挑戦に直面している。それは多種多様な機会に遭遇しているとも言えるのだ。この一年半で、矛盾は交錯し、不動産リスク、地方債のリスク、金融リスクなど、いたる所に患部が表れている。しかしわれわれは、新型工業化、情報化、農業の現代化、都市化という『新たな4つの変化』(新四化)に目をむけ、これを不断に推進していかねばならない。巨大な潜在能力と転換させる空間を提供し、中国経済は完全に良い条件で、比較的長期間の中高速成長を保持できる能力を持っているのだ。われわれは完全に、『成長の煩悩』を溶解する実力を持っていると信じてよいのだ。
積極的に新常態に適応していくのだ。新常態は長期的なもので、われわれに平常心の保持を要求する。まず第一に、冷静な理性、急がず慌てず、順次事を為す。潜在的な成長率が下降し、経済成長は緩慢なものとなり、人の意志でもって転移するものではなくなり、戦略の保持を必要とする。個々の調整を堅持し、方向性を定め、やたらと刺激策を打つのでなく、大油田を発掘しようとしないことだ。
同時に、ボトムラインの思惟を堅持し、各種の不確定要素がもたらす衝撃に対応し、経済の合理的な成長速度の保持に努める。速すぎず、また失速せずに進めるのだ。
第二に、積極的に主動し、新たな創造を開拓することに尽力する。新常態は新たな探索であり、マクロ経済を調整しコントロールする方式であり、穏やかに成長し改革を促し民生を施しリスクを抑えるようコントロールするものである。改革の道を開き、市場の決定作用を十分に発揮し、企業と社会の活力を刺激し、経済発展の内的動力を育成し、経済の転換型昇級と構造の良化を加速させ、さらに民生を改善させるものなのである」
***
以上である。なかなか難解な用語が並んでいるが、要は高度経済成長ができなくなったことへの「言い訳」である。「高度成長の時代は終わったが、これからも中国は順調に発展していくので心配はいらない」と、国民に悟らせようとしているのである。そのキーワードが「新常態」なのである。
習近平主席も述べているように、「新常態」には、痛みが伴う。そのため、少しでも中国国民の痛みを和らげるため、もしくは目を逸らすため、まずは外資企業に痛みを与えようというのが、今回の日系企業叩きと見られる。
もちろん、習主席はそんなことはおくびにも出さない。でもこれが、日系企業叩きの本質に思えてならない。
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