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【北京】健康上のアドバイスを提供する体重計を作ることを夢見る人もいれば、大リーグ(MLB)の選手向けにバットのスイングを記録・分析する機器を販売したいと考える人もいる。行方不明の子供を追跡するためのブレスレットを作ろうと思っている人もいる。
中国各地の研究所や新興企業で、大きな夢を抱く機械いじり好きの人たちが動き出しており、これが中国にイノベーションの波を起こす可能性があると考える業界関係者が増えている。彼らはスマートガジェット(インターネットに接続したり、ユーザーと交流したりするウエアラブル機器などのデバイス)が、中国企業がデザインした製品を世界に広げるチャンスを作るとみている。
夢の実現のため、発明家たちは中国にある電子機器業界の巨大なサプライチェーンを活用する。そこではアップルの「iPad(アイパッド)」からマイクロソフトの「Xbox(エックスボックス)」に至るまで高機能な製品が生産されている。サプライチェーンから近いため、彼らは実際に工場に行って長年温めてきた計画を微調整できるほか、完成品をより自由にコントロールできる。
独メディア大手ベルテルスマン・グループのベンチャー投資部門の責任者アナベル・ロング氏は「中国は世界の工場であるだけに、ハードウエアとソフトウエアの新たなコンバージェンス(収れん)という点で最先端の研究開発拠点の1つになるだろう」とみている。
ロング氏はゼップ・ラブス社(Zepp Labs)という企業に投資している。この企業は野球のバットの先に取り付けられるモーションセンサーを製造する。
創業者のロビン・ハン氏は、マイクロソフトが提供する中国の工学博士プログラムの学生だ。ビデオゲームに使うセンサーの開発に取り組んでいたが、実際のスポーツにも使えるのではないかと考えた。センサーはゴムの取り付け具を使ってバットの先に取り付けることができ、スイングの速さや形などのデータを記録してコーチや選手のフォームの微調整に役立てる。センサーはテニスやゴルフにも使うことができる。
中国とシリコンバレーにオフィスを持つ同社には、約15万人のアクティブユーザーがおり、米国でのブランド構築を目指している。同社は2013年に2000万ドル(約20億8000万円)を調達したことを明らかにしており、現在は米中両国でそれぞれ20人以上の従業員を抱えている。
同社の最高経営責任者(CEO)で、アップルの元商品開発マネジャーのジェーソン・ファス氏によると、同社は中国に「現場で製品の開発と製造ができるチーム」を擁しており、「それがあることで大いに助かっている」という。
中国は長年、経済の質を向上させる方法の一つとして、イノベーションを押し進めようとしてきた。コピーすることで成功しただけだという悪評を拭い去る狙いもある。しかし、新興のガジェットメーカーは国内のみならず、海外の投資家をも引き付けつつある。彼らは多数のモバイルアプリメーカーやスマートフォンメーカーなどの中国の新興企業の成功に引き寄せられているのだ。
中国は従来の製造業、輸出、政府の公共事業への依存から脱却した経済発展を目指そうとイノベーションに力を入れている。政府の経済計画当局幹部は3月、最先端技術を重視する幅広い取り組みの一環として、新世代の小型ガジェットの開発を訴えた。この分野への投資にも積極的だ。例えば、1200億元(約2兆0800億円)を費やし、半導体産業を築く目標を今年打ち出した。
既に一部の中国企業は、スマホなど比較的新しい分野で競争力を示し始めている。レノボ・グループや小米(シャオミ)は競争できる機能と価格を持つ携帯電話を製造して、海外市場に参入している。アナリストの中には、アップルやサムスン電子といった大手スマホメーカーが小米やレノボなどの中国企業に世界シェアを奪われ始めると予測する向きもある。
これとは対照的なのがパソコン市場だ。レノボは1990年に最初のパソコンを売り出したものの、15年後に米IBMのパソコン事業を買収するまでは、この分野で国際的に競争力ある企業になれなかった。
ベンチャーキャピタルのDCMの投資家で、スリング・メディアの共同創業者であるジェーソン・クリコリアン氏は、中国が持つ生産の専門知識と製造設備の質の向上がイノベーションをけん引していると話す。
昨年ストラタシス社が4億0300万ドルで買収した3Dプリンターメーカーの共同創設者であるザック・スミス氏は、2012年に中国南部の深センに移った。アップルの生産を請け負う富士康科技集団(フォックスコン)などの主要メーカーに近いところに行きたかったからだ。同氏は「深センは自分のような機械おたくにとって天国に近い」と話す。
しかし、必ずしも成功が約束されているわけではない。中国には依然として知的所有権の侵害がはびこっており、アイデアの盗用を心配する新興企業にとって大きな問題になり得る。
起業家のWallen Mphepö氏は、長年温めてきた計画に着手する場所として当初北京を選び、スマホの画面にタッチすると、洋服や靴の色が変わるというアプリの開発に取り組んだ。しかし同氏は今年、研究開発の作業拠点をリトアニアに移した。減税が受けられるほか、アイデアの盗用に対する懸念があったからだ。
中国では起業家が事業を育てていくのが難しい。大手銀行は巨大な国営企業への融資を優遇する。一方、企業文化も新しいアイデアに開かれているとはいえない。
そうした傾向を変えようとする動きもある。アップルやソニーの製品を中国工場で製造している台湾のフォックスコンは「Kick2real(キックトゥーリアル)」と呼ぶプログラムをオンラインで立ち上げた。ウエアラブルなデバイスや携帯電話の付属部品を手がける起業家を支援するためだ。このサイトでは、プロジェクトを選り分けて支援するだけでなく、専門家の意見を提供している。
北京北西部の中関村はスタートアップ企業が集まる場所として知られている。ここで地元自治体は「北京メーカースペース」という小型電子機器の開発を行う研究所に資金を提供している。そこには3Dプリンターやレーザー・カッターが置かれ、電子基板が山のように積まれて、多くの人々が靴にはめ込まれる画面やバーやクラブといった場所での人の動きを追いかけるセンサーなどさまざまな機器の開発に取り組んでいる。
メーカースペースを創設したジャスティン・ワン氏によると、自治体幹部らが起業家の支援を熱心に考え始めたのは、米マサチューセッツ工科大学のMITメディアラボを視察し、専門の枠を越えた草の根的イノベーションが誕生するさまを目の当たりにしたのがきっかけだという。
幾つかの会社は既に大きな成功を収めている。トムーン・テクノロジーという新興企業は、韓国のサムスン電子がギャラクシー・ギアのスマートウオッチを発表したあと、アルミのベルト付きでバッテリーを長持ちさせるため電子ペーパーを使用したウオッチを発売した。発表と同時に中国国内のソーシャル・メディアはこの製品の話題で持ちきりとなり、24時間以内に2万8000個の予約が入った。価格は499人民元(約8400円)で、サムスンの2499元よりも大幅に安かった。同社のワン・ウェイCEOによると、予約は最終的に7万個に膨らみ、同社の従業員約30人では注文に応じきれなくなってしまった。結局、多くがキャンセルされ実際に代金が支払われたのは10分の1だが、まだ1000個の受注が残っている。
ワンCEOは、これに懲りた様子はない。同社は次のスマートウオッチの開発に取りかかっており、9月に発売予定であるという。これは着用する人の健康を管理することができ、長時間座りっぱなしだと立ち上がるようにといったアドバイスをする。
同CEOは、「イノベーションでは大きな国際企業にも絶対負けない」と話した。
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