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退役軍人の突き上げに頭抱える中国政府
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140813-00010002-wedge-cn
Wedge 8月13日(水)12時20分配信
中国による石油掘削作業の突然の中止で拍子抜けの感がある南シナ海情勢だが、これが中国の妥協によるものと結論付けるのは時期尚早だ。ただ中国にとっては国内状況が紛争どころではない状況にあることから、引き際を模索していたのかもしれない。
■中国軍をめぐる昨今の「3つの問題」
中国企業による南シナ海での石油掘削強行で中国とベトナムとの緊張が高まる中、海外華僑サイトには中越国境付近で中国軍部隊が移動する様子の写真も掲載されるまでになっている。こうした情報を裏付けるかのように常万全国防部長が国境付近に展開する部隊を視察して喝を入れた。中国メディアはベトナムとの係争をセンセーショナルに報じ始め、中越戦争(1979年)の再来かと懸念が高まった。しかし現在、喫緊の課題を冷静に考えれば戦争どころではない。その理由は大きく分け3つある。
それは(1)徐才厚の党籍剥奪処分公表からも窺えるが、軍汚職は深刻で、取締りとそれに伴う権力闘争で人事異動が頻発し、指揮命令が不安定になっている事。治安維持部門を牛耳った周永康立件の影響もある。(2)現在、軍の機構改革が模索されており、多くの部門の整理統合や人員削減を含む改革は、兵士にとって今後の将来にも関わる深刻な関心事で気持ち的にも戦争どころではない事。(3)今回紹介したい点だが、退役軍人の不平不満が高まり、デモ頻発し、地方政府や軍の対策部門にとってこれ以上もめ事を抱えたくないだろうという事である。35年前にベトナムとの間で勃発した中越戦争に参戦した老兵士たちが待遇改善を求めるデモを行っており、その対処に中央、地方共に頭を痛めている。兵士からすれば今日の退役軍人の境遇は明日の自分たちを意味するから不安を拭いきれない。
そこで退役軍人を巡る記事を2本紹介したい。一つは退役軍人の境遇を紹介するものとして『鳳凰週刊』誌6月号「大陸の軍に関わる権利権益擁護が困難に直面」という記事。もう一つは軍民の協力強化を訴える『光明日報』紙「軍民が手を携えて中国の夢、強軍の夢を築こう」という記事だ。二本目は典型的宣伝だが、一本目のような退役軍人の現状を見ると宣伝がいかに空虚か示す興味深い記事だ。
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記事(1)【2014年6月 『鳳凰週刊』ネット版(抄訳)】
5月の午後、王敏さんは大急ぎで四川省ヒ(=左に「卑」、右に「おおざと」)県ヒ筒鎮の派出所に向かっていた。自分の家の取り壊しを事件として捜査することを求めたが受け入れてもらえなかったため、もう一度行ってみることにしたのだ。王さんはQQ(中国のチャット)、ウェイボー(中国版ツイッター)を開設し、ハンドルネームを「頑固な軍人の奥さん」と名付け、軍人の妻として自分の家が立ち退きに遭った窮状をネットで訴え、権利擁護を求めている。
今年4月中旬に、党中央政法委員会と軍総政治部は共同で意見書を通達し、全国各省・市・県という三つのレベルの党委員会で軍に関わる権利保障についての事務機構を設立させて軍人家族の合法的な権益を守るよう求めた。県以上の自治体での軍に関わる権益を守る機関を設立させたが、これは給料引上げに止まらない、軍人に広く配慮する措置だ。こうした文書がたびたび出されるのは社会が大きく変わる中で軍人軍属の合法的利益が損なわれることが増えていることを示唆する。
王さんの父親は対越戦争に参戦した38集団軍に属した古参兵であり、1980年代に退役、復員してヒ県の国営企業に職を斡旋された。1998年に50歳でこの会社を退職した後、ミツバチ養育やバス運転手もやったが2006年に高齢で病気持ちの彼は職を見つけられなくなった。そこで農村に戻って養豚を始め、親戚が住む石炭採掘会社の宿舎を仮住まいとした。ところが2011年に県商務局が都市計画実施のため立ち退くよう通知してきた。それまでの慣例では、先にマンションを作ってからそこに移住するはずだが、石炭会社と県商務局が同意せず、配給された家が奪われることになったのである。
こうして王さんは上層部に訴えの手紙を送り、立ち退きを求める同意書へのサインを拒否し続けた。2014年3月に王さんは成都市の弁護士事務所を訪ねようとしたが、その途中で同僚から「王敏、あんたの家がやられたぞ」と言われたためあわてて家に戻るとそこにあったはずの家が跡形もなくなり、家具など調度品も全て破壊されていた。
王さんが110番して捜査を求めると警官がやって来たが、ぐるりと一周して帰ってしまった。そこで家が取り壊しにあった翌日、王さんはネットで助けを求めたのである。彼女のツイッターは短期間で大人気となり、多くの賞賛と励ましを得た。それまで県商務局からは何の音沙汰はなかったのに4月中旬になって2通の返信があり、彼女の件が重視され解決することが約束された。
■毎年10%のペースで増え続ける係争
かつて軍所属弁護士だった北京栄徳法律事務所の李軍氏によると、かつて政府の軍関連の権利を守る事は地方「双擁」事務局(軍を擁護し、軍属を優遇し、政治を擁して民を愛するという政治的な政策を「擁軍優属・擁政愛民」と呼び、この略称が「双擁(そうよう)」)の任務の一つで、単なる政治的スローガンに過ぎなかった。しかしその後、制度化が本格化し、山東省では2000年に省傘下の17の市、140の県(日本では町に相当)で軍人の権利を守る作業タスクフォース(領導小組)が設立され、法テラスや法律援助工作ステーション、相談窓口も設けられた。
軍人や軍属が陳情を行った事が広まると軍人たちの士気に直接影響を与える。自身も退役軍人である劉昌松弁護士によると、農村出身の多くが一人っ子で、貴重な労働力だが、息子が従軍してから、父母が騙されるような事件が増え、部隊や戦力構築に影を落としているという。このため中央政府は県レベル以上の都市に軍関連の指導グループや事務機構を設置したのだ。しかし、軍事機密の売買、軍事施設の破壊、軍人結婚の破綻といった比較的解決容易な問題と異なり、業者による立ち退き、土地収用のような地方政府と開発業者間に存在する利益に絡む問題を解決するのは困難だ。
軍関連の権利保障政策は1990年代に始まり、軍や地方で部門が設立された。90年代後期の軍人の生活待遇は普遍的に低く、軍属の権利は侵害されていた。そのためこうした問題が軍政治工作の重要課題になっていた。そして今日、軍人の権利保障機運が高まり、兵士たちの期待を集めている。当局は軍人軍属の合法権利と権益は国家安全保障と国防建設の重要部分として軍人軍属が関わる侵害案件の解決を喫緊課題と表明している。2000年には最高人民法院と軍総政治部がわざわざ軍関連係争を各地の自治体が真剣に処理することを求める「意見」文書を通達したほどである。しかし、利害が絡み合った係争に対し、軍上層部では無力感が漂っている。係争は依然毎年10%のペースで増え続けているのだ。
■「軍政軍民の団結を」
記事(2)【2014年8月2日『光明日報』(抄訳)】
習近平国家主席は「“擁軍優属・擁政愛民”は我が党、我が軍特有の政治的な優良な伝統だ。堅固な軍政軍民関係は、一切の艱難な阻害要因に打勝ち、勝ち続ける重要な宝である」と繰り返し述べている。各地では党中央や国務院、習主席の指示をしっかり貫徹して「双擁」任務を歴史的な転換点において力いっぱい推進して偉大な中国の夢、強軍の夢の新たなチャプターを築こうではないか。
戦えて勝てる戦争を戦うために積極的に国防と軍隊の近代化建設を進めることが注目点になっている。2013年2月に我が国初の空母遼寧号は初めて母港に寄港した。この軍港建設のプロセスで青島市の6つの村、1429戸の家庭、26社の企業は期限内に引っ越しを完了させた。
海上防衛戦、軍事闘争準備で最前線に位置するアモイ市(福建省)では港湾、空港、高速鉄道、高速道路を主体とする平時と戦時を一体化させた交通ネットワーク構築が進められ、戦時に部隊が機動的に動ける力強い助けとなっている。各地の各部門は党の「群集路線教育実践活動」を展開し、兵士や退役後の斡旋対象者が直面する実際的問題の解決を図ってきた。
政府は従軍家族の就業や職業、住居斡旋、傷痍軍人の住宅保証、軍人軍属の権益保障といった一連の規定を通達し、退役軍人の再就職先、住宅斡旋政策の修正を行ってきた。遼寧省、天津市、河南省、山西省、四川省、寧夏回族自治区、青海省など20余りの省(自治区、直轄市含む)で120あまりの規定措置を策定し、「擁軍優属」関連対象者法規体系が形成されてきた。中央政府は670億元以上をかけ、地方もこれに呼応して財政投入を増やして、傷痍軍人や烈士、革命に参加した軍人、復員軍人等の重点的な配慮対象への補助金基準を引き上げ、幹部たちの医療費等を増加させて1000万人に上る撫恤対象者の生活を保障してきた。
全国では60万超の散乱した烈士の墓、9500ヶ所の烈士記念施設を補修し、海外烈士記念施設の補修作業を行った。四川省芦山や甘粛ショウ(「さんずい」に「章」)県、岷県、東北地域での洪水対策、南部地域での台風被害に対する災害救助に軍や武装警察部隊はのべ13万4000人の兵士、29万8000人の民兵、予備役兵を動員して3万3000人に治療を施し、150万人を救出し、5万トンもの物資を輸送し、4800キロもの道路、ダムを補修した。
軍と民衆は心を一つに、「中国の夢」、「強軍の夢」を実現する途上にある。広大な軍民は共に大々的に「擁軍優属」の優良な伝統を掲げ、軍政軍民の団結を絶え間なく固め、発展させて中国の特色ある社会主義の勝利を勝ち取ろう。
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【解説】
習近平政権が盛んに謳い上げる「中国の夢」の大事な一部分に「強軍の夢」があるが、この文章を読むと如何に建前と実情の乖離が激しいかが分かるだろう。現実と理想の乖離にただただ失笑せずにはいられない。
中国軍が盛んに威嚇し、海洋、上空、そして宇宙に兵を進め、勇ましいスローガンを唱えているが、肝心の元軍人の社会保障という根本のところで制度が破綻していることが窺えるだろう。中国社会において退役軍人の問題はもはや治安維持という面に止まらない、深刻な社会問題になっているにも拘らず、国防という大きな大義のためにこうした問題に社会全体の関心は向かず、政府は問題に蓋をしようとしてそればかりか、威勢の良い宣伝文句ばかりを配信している。
また、記事からも窺えるが、政府が懸命に行う愛国主義や国防教育のプロパガンダの背後にはこうした軍民関係の齟齬があり、同時にここに多額の費用が投入されて利益集団化していることも想像できよう。国民的歌手として有名な習近平主席夫人の彭麗媛少将は、軍の歌劇団団長も歴任し、各地で軍部隊を慰労してきたが、双擁関連のコンサートで退役軍人、軍属を慰労するのも重要な仕事だ。
汚職容疑で捕まった谷俊山は地方で軍の名義で土地を転がして巨額の暴利を得てきたし、汚職の噂が絶えない郭伯雄元中央軍事委員会主席の息子郭正鋼大佐は浙江省軍区で退役軍人対策の責任者を勤めている。勇ましいスローガンの背後に深刻で複雑な内部事情があるのだ。
弓野正宏 (早稲田大学現代中国研究所招聘研究員)
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